• 株式会社ベイクルーズ
  • 上席取締役 EC統括 / 事業支援統括
  • 村田 昭彦

「ネット専業」と戦う。5年で自社EC売上が10倍に!ベイクルーズのオムニチャネル戦略

〜戦略的な投資が、自社ECを伸ばす!EC売上のみならずリアル店舗の売上増も実現した、ベイクルーズのオムニチャネル戦略とは〜

JOURNAL STANDARDやEDIFICEといった数多くのファッションブランドと、インテリアやフード領域のブランドを展開する、ベイクルーズグループ。

同社は業界の中でもいち早く、自社ECを起点としたオムニチャネル施策に取り組んできた。

結果的にそのEC売上高は増加の一途を辿り、2012年の58億円から、2017年には280億円を見込むまでに成長を遂げている。さらに自社ECのみの数字で言うと、同期間で売上高が10倍に成長しているという。

▼同グループの自社ECサイト

AmazonやZOZOTOWN等、いわゆる「ピュアプレーヤー」と呼ばれるネット企業が市場を席巻する中で、自社でインターネットビジネスを伸ばすことに成功した同社。

その背景には、店舗とECの役割を敢えて切り分けながら、「顧客体験の向上」と「顧客接点の拡大」を目指した、戦略的な投資があったという。

今回は株式会社ベイクルーズにてEC統括を務める村田 昭彦さんに、ベイクルーズグループのオムニチャネル施策について、詳しいお話を伺った。

ネットの「ピュアプレーヤー」と戦い、EC売上高を5年で5倍に

私は2007年に、ベイクルーズにジョインしました。現在はeコマース、情報システム、CRM、そしてロジスティクスといった、オムニチャネル周りのIT領域を統括しております。

ベイクルーズは、JOURNAL STANDARD(ジャーナルスタンダード)をはじめとするアパレルを中心に、「衣・食・住・美」の4つの領域でマルチブランド展開を行っています。

その中で弊社は過去5年、インターネットビジネスにおける売上拡大に注力してきました。結果として、年間のEC売上高は58億円から280億円に、5倍の成長を遂げました

そもそも前提として、我々のようなアパレル企業は、ネット領域では大きな課題を抱えていました。

アパレルのマーケット規模は、約10兆円でずっと横ばいなんですね。その中でネット市場が成長を続け、今やシェアが10%を超えてきています。

つまり、リアル店舗の利用者が減少を続けているということです。それは我々から見ると、顧客接点の減少を意味します

さらに、オンラインのチャネルにおいても、いわゆるネット専業の「ピュアプレーヤー」に圧倒されているという現実があります。

例えば、ファーストリテイリングを除く上場アパレル大手5社の時価総額を合計しても、ファッションEC「ZOZOTOWN」を運営する、スタートトゥデイの半分ほどなんです。(※2017年8月時点の概算)

さらに、SNS、チャット、動画、ニュース、ゲームといった領域のピュアプレーヤーによって、いわゆるスキマ時間、可処分時間を寡占化されているという現実もあります。

そうなってくると、我々としてはとにかくお客様との接点をもう一回再考して、作り直さないとだめですね、という話になってきます。

「クロスユース」がカギ。Webと店舗、それぞれの役割を明確化

そこでベイクルーズでは、オムニチャネルというワードが流行りだす以前から、「クロスユース」という呼び方で、Webとリアル店舗の双方における顧客接点の拡大と、顧客体験の向上に注力してきました。

と言うのも、弊社の場合、店舗だけで商品を買っている人と、Webと店舗の両チャネルで買っている人を比較すると、年間の購入金額は後者が前者の3倍なんです

ですので、やはりWebと店舗、両方で買ってもらえるように顧客体験を高めていくことが重要になります。

しかしその一方で、Webと店舗の役割は、切り分けて別のものとして考えています。

お客様との接点を作るということですと、やはりいちいち行かなくてもいいWebの方が優位です。一方で、「ブランド体験」ということで言うと、やはりECは店舗には劣ってきます

最近は、ECサイト上で、チャットなどを使って「Web接客」を行なうことは当たり前になりましたよね。あれはあれで一種の「接客」ではありますが、店頭でのface to faceの接客とはレベルが全然違うわけで。

ブランドの世界観が表現された空間の中で、ホスピタリティの高いサービスを受けることで得られるブランド体験と、いわゆるWeb接客ツールを通じた体験は、まったく違うものです。

ですので、あくまでもお客様の選択肢を増やすという視点に立って、それぞれの価値を追求することが大切だと思っています。

そうすると、ブランド体験的な要素は店舗に任せて、EC側はより利便性の高い体験を提供していきましょう、ということになります。その両方を伸ばしていこうというのが、弊社の考え方です

結果的に、この5年で、Webだけではなくリアル店舗の売上も伸ばすことに成功しています。

オムニチャネル戦略のひとつ目の柱は、「脱ECモール依存」

このような考え方のもと、これまでオムニチャネル化のための様々な施策を行ってきました。その大きな戦略の柱としては ①脱モール依存、②新ファンクション(組織体制)③プラットフォーム化 という3点があります。

まず1点目の脱モール依存ですが、これはWebからの売上を、他社のECモールではなく、自社のECサイトで伸ばすということです。

その理由は、他社のECモールでは、お客様のデータが取れないので、店舗との相乗効果を作りづらいからです。

我々はオフラインでは、大きく分けて路面店と、商業施設内のインショップという形態を持っています。この場合、自社のPOSシステムを置くか、会員登録の仕組みを作れば、どちらでもお客様のデータを取ることができます。

ただこれがオンラインになると、他社のECモールでは、購入者の情報が取れないんです。

これからデータ活用が企業において非常に重要になってくるにも関わらず、それでは「片手落ち」になってしまいます。

5年前は、EC全体に占める自社ECの比率は23%しかなかったんですよ。要は4分の3は、モールだったんです。この比率を逆転させましょうということで、今はやっと5割まで来た状態ですね。自社ECの売上高も、5年間で10倍になっています

インターネットビジネスを自社で展開するため、組織改革も実行

2点目の新ファンクションですが、これは組織体制の改革です。

そもそも、会社がマルチブランド展開を行っているため、ブランドごとに事業部が縦割りになっていたんですね。そして、その各ブランド内にEC担当者がいる状態でした。

そのような形ですと、会社としての目標を共有できなかったり、色々な調整で意思決定が遅れてしまったりで、PDCAサイクルを素早く回せません

そこで、ECをブランド横断型の組織にして、権限と責任を完全に委譲する形に変えました。

さらに、エンジニアやUIデザイナーといった技術者を直接採用して、自社で開発ができる体制を整えました。

インターネットビジネスを展開するにあたり、自社で機能として抱えるべきものを一度棚卸しした上で、外注するもの・内製化するものを分けました。

現在、社内には14、5名のエンジニアがおります。「コア機能」の部分を内製化することで、自分たちのコントロールで自社サイトを作っていける体制を整えました

会員情報、在庫、サービス…Webとリアルの「統合」が重要

3点目のプラットフォーム化ですが、これは簡単に言うと、Webとリアル店舗で様々な「統合」を行っていくということです。

具体的に言うと、会員情報の統合、在庫管理の統合、サービスの統合、そしてコミュニケーションの統合の4つがあると考えています

これまでの取り組みで、会員情報と在庫の統合はできていて、現在はサービスとコミュニケーションの部分を少しずつ進めている段階です。

特に自社ECの売上増に寄与したのは、この「在庫の統合」が大きかったと思います。と言うのも、お客様がeコマースの利用において一番不満に思っていることは、「買いたい商品が在庫切れで買えない」ということなんですよね。

以前は、自社EC、他社モール、店舗で在庫管理のシステムがバラバラだったので、それぞれで品切れが発生していて、その部分の利便性が低かったんです。

ですので、在庫を統合して、例えばEC用の在庫がなくなったら店舗の在庫を引き当てる、という仕組みを作って、お客様が「やっと見つかった欲しいものが買えない」という状態を減らしました。

現在は、ZOZOTOWNのみ一部在庫を置いていますが、その他の在庫はすべて一元管理し、データ連携で取引するようにしています。リアルタイムに、10秒単位で在庫の情報が更新されるようになっていますね。

オンラインとオフラインの垣根を取り除く、「サービスの統合」

また、「サービスの統合」に関して言うと、オンラインとオフラインの垣根を取り除くような施策を細かく実行しています

例えば、弊社のECサイトには「お店に取り置く」という機能があります。欲しい商品があったときに、店舗の在庫をリアルタイムで取り置きできるようになっているんですね。

▼ECサイト上から、店舗に商品を「取り置き」することが可能

この機能をつける前から、店舗への問い合わせで一番多かったのが「ECサイトで見たこの商品、そちらに在庫ありますか?」という内容だったんです。

その、店舗に在庫の有無を電話で確認する行為って、すごく面倒くさいですよね。そこで、いちいち電話しなくても、何クリックかですぐに店舗在庫が確認できる機能をつけました。

また、会員情報がWebとリアルで統合されているため、マイページ上から、自分のオフラインの購入履歴も追えるようになっています。更に商品のレビューに関しても、Web上の購入者だけではなく、店頭で買った人のものも見られるようになっています。

他にも、SNS的な機能として、店舗スタッフのスタイリングを「SNAP」という形で見られるようにしています。

▼店舗スタッフのスタイリングをチェックすることができる

これは店舗用の専用アプリを作っていて、スタッフがそのアプリを使って写真を撮ってコメントを打つと、自動で自社サイトに上がる仕組みになっているんです。

サイト会員の方は、気に入ったスタッフをフォローすることができます。まだSNAPを上げ始めて半年ほどなのに、5,000人以上のフォロワーがいるスタッフもいますね。

このように、1つひとつは細かいのですが、Webとリアルをつなぐための色々な機能を追加してきています。

結果として、Webと店舗の両方でお買いものをされた方の「クロスユース売上」を、直近1年で67億円増加させることに成功しました。

今後はWebとリアルの「コミュニケーションの統合」に注力する

今後、特に強化していきたいのは、「コミュニケーションの統合」ですね。

やはりネット企業と比べたときの我々の強みは、店舗というリアルの接点を持っていることです。Web上だけではなくリアルのログも取得できることで、よりお客様の欲しい情報を欲しいタイミングで渡すことが可能になるのでは、と考えています。

例えば弊社は飲食店も展開しているので、お昼時に店舗でお買い物をされたお客様に、アプリのプッシュ通知で近くのハンバーガーショップをオススメすることもできます。

このように、リアルタイムにパーソナライゼーションされたコミュニケーションができるような仕組みを、今後は作っていきたいと思っています。

それに向けて、今まさにスマートフォンアプリをリニューアルしているところです。今後も引き続き、様々な施策を行っていきたいと考えています。(了)

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