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変化に強いエンジニア組織を作る。開発のグローバル化を推し進めるアンドパッドの狙い

変化に強いエンジニア組織を作る。開発のグローバル化を推し進めるアンドパッドの狙い.001

スタートアップを取り巻く環境が目まぐるしく変化する中で、その変化に耐えられる強く柔軟な組織を構築することの重要性が増している。特に資金調達を経て組織を拡大させるフェーズでは、採用だけではなく持続可能な体制づくりへの投資を行うことも不可欠だ。

クラウド型建設プロジェクト管理サービス「ANDPAD」を2016年より展開する、株式会社アンドパッド。同社は2022年9月に総額約122億円の資金調達を発表し、こちらの記事ではその狙いや裏側について、取締役CFOを務める荻野 泰弘さんにお話を聞いた。

そして本記事では、このように急成長中のアンドパッドにおける開発組織づくりについて、執行役員VPoEを務める下司 宜治さんにお話を伺う。

まず下司さんは、「アンドパッドという会社とサービスが10年、20年と続いていく」ことを前提に、変化に柔軟な、進化していく組織を作っていきたいという思いを持っているという。

具体的には、今回の資金調達以前から、「CTO、CDO、VPoE、VPoTの四頭体制」による意思決定スピードの早い体制づくりや、技術的負債の解消への投資、そしてベトナム開発拠点の設立やインドからの新卒採用による開発体制のグローバル化、といった取り組みを行ってきた。

今後は、「資金調達をしたから何かを変える」のではなく、あくまでも事業拡大を主軸に考えながら変化に強い組織づくりを続けていき、その中でデータ活用などの新しい挑戦にも臨むという。

今回は下司さんに、アンドパッドの開発組織の「これまでとこれから」について、詳しいお話を伺った。

建築・建設業界のプラットフォームを目指すための開発組織づくり

僕はアンドパッド(当時は、その前身であるオクト)に、2019年8月に入社しました。

もともと、僕の曽祖父や年の離れた姉、義理の兄が、施工管理技士の仕事をしていまして。アンドパッドの代表である稲田さんと事業の話をしている時に施工管理技士の話題が出て、「そういえば子供の頃、姉が仕事で苦労していた時期があったな」と思い出し、急に親近感を感じたんです。

2005年に社会人になってからは、ずっとWeb系のエンジニアとしてtoCサービスに関わっていたのですが、toBの領域で業界の課題を解消するような仕事をしたいとも思っていて。加えて建築への親和性もあったことで、入社を決めました。

現在はVPoEとして、100名以上からなるエンジニアの組織づくりを担っていますが、入社したころはエンジニアの数も少なくて、会社全体をあわせても50名ほどでした。さらに当時は、「全員でプロダクト開発をするぞ」というフェーズだったので、マネジメントや評価といった考え方もまだまだでしたね。

株式会社アンドパッド 執行役員 VPoE 下司 宜治さん

変化に強いエンジニア組織を作る。開発のグローバル化を推し進めるアンドパッドの狙い.003現在は組織がどんどん拡大している最中で、その状況に合わせて組織の在り方や制度を常に変えながら動いています。例えば組織内の情報伝達にしても、規模が小さい時は僕一人が全員と1on1をすれば良かったわけですが、今は僕自身がエンジニアの一次情報に触れることも難しくなっています。

さらにリモートワークも取り入れている中で、上下と横の情報伝達をどうするか、エンジニアたちが本当に思っていることをどうキャッチアップして適切な意思決定を行うか、といったことは悩みながら試行錯誤しています。

アンドパッドが目指す世界観をエンジニア向けに紹介する時によく使うのが、「GitHubのような存在になりたい」という表現です。GitHubは開発者のためのプラットフォームですが、アンドパッドは建築・建設業界で働く方のためのプラットフォームを目指しているんですね。

そしてその中で、良い仕事をする人たちが、良い機会を得られる。そんな社会を作っていきたいと考えて、エンジニア組織を作っていこうとしています。

四頭体制で互いに背中を預ける+現場でできる意思決定は現場で行う

弊社のエンジニア組織の特徴として、CTO、CDO、VPoE、VPoTという形で、執行役員以上の役割を担っているメンバーが4名います。これだけ取り揃えている会社はなかなか少ないと思うのですが、我々の場合はこの4名が、お互いに背中を預け合いながら仕事をしています。

アンドパッドではバリューのひとつに「Technology First」という言葉を掲げており、それだけ技術から課題解決をしていくことにこだわりがあることを示している部分でもあります。

▼【参考】各役割の一般的な正式名称と役割 ※編集部注

  • CTO:Chief Technology Officer / 最高技術責任者
  • CDO:Chief Development Officer / 最高開発責任者
  • VPoE:Vice President of Engineering / 技術部門におけるマネジメント責任者
  • VPoT:Vice President of Technology / 技術部門におけるシステム責任者

僕がVPoEとして参画した2019年8月時点では、CTO、CDOの二頭体制で、開発組織もプロダクトも大きくグロースしている時期でした。規模が大きくなりつつあったエンジニア組織の環境を整えるため、開発組織のマネジメントの責任者として僕が加わり、CTO、CDO,VPoEの三頭体制が出来上がりました。

そして、VPoTを加えて現在の四頭体制に移行したのは2021年9月です。当時はエンジニアが100人を超えそうになっていて、我々3人で物事を推し進めていくことが限界を迎えていました。そこで、他にも意思決定できる人が必要ということで、新しく役割を設置しました。

普通は、CTOとVPoEを設置して終わり…ということが多いと思います。ですがアンドパッドの場合は、マルチプロダクトをどんどん展開していく方針で各プロダクトが競い合うように動いているので、ひとつのプロダクトでやっている会社と比べて意思決定の「量」がとても多いんです。

それがすべてCTOやVPoEに来てしまうと、意思決定の速度が問題になる可能性があると考えていて。そこで、「この領域はこの人にお任せするよ」という形で背中合わせで任せられる構造を作りました。

それぞれの具体的な役割としては、まずCTOは既存サービスを中心にモノづくりを自ら担っており、一方でCDOは新しいサービスの開発をリードしています。

そしてVPoTは、CTOよりも幅広くテクノロジーを見て、組織全体をまとめていく役割です。最後に私が務めるVPoEは、組織づくり全般ですね。

ただ、「CTOだからここの領域」という形で決めているわけではなく、実際にはプロダクトごとに分散している形になっています。加えて、この4名だけですべての意思決定をしているわけではありません。

4名で全部を決めきることも難しいですし、現場にかなりの権限移譲をしています。実際に動いているのは10名以下の少人数のチーム単位ですが、現場でできる意思決定はどんどん現場にやってもらう組織です。

開発者体験を向上させるために、技術的負債の解消も促進

そもそも僕はVPoEとして、組織における意思決定速度をなるべく早めていきたいと思っています。その結果、「ちょっと間違えちゃったね」ということもあると思いますが、それは仕方ないので、次に活かして変えていけば良い。失敗を恐れず、どんどんチャレンジしていってほしいなと思っています。

また、良い仕事ができたら、それもしっかりと褒め合うことも大事だと思っています。やっぱり人って、褒められると嬉しいじゃないですか。特にエンジニアは褒めるのは苦手だけど、褒められたい欲はとても強いと思うので、褒め合うことを推進していきたいんですよね。

そのための特徴的な取り組みとして、一般的には「進捗報告会」と呼ばれるような会議の場を、「自慢大会」と呼んでいます。月に1回実施しているのですが、各自が自分の成果を社内にアウトプット、自慢していこうという機会にしていて。自慢という単語をあえて使うことで、お互いに褒め合いやすくしています。

他にも、これまでの組織づくりの取り組みの中では技術投資にかなり力を入れてきました。例えば、何回も同じ作業するのは無駄だから自動化しよう、ということで、自動化ツールはかなり導入しています。

変化に強いエンジニア組織を作る。開発のグローバル化を推し進めるアンドパッドの狙い.002また、ANDPAD自体が2016年にリリースしたサービスなので、6年経って技術的負債も溜まってきています。それをどう解消するか? というところには、入社後かなり早い段階から取り組みました。

というのも、負債を抱えたままのモノづくりは、それ自体が開発者体験を著しく下げることだと思っていて。例えば、古いスマートフォンをずっと使い続けるのって辛いじゃないですか。やはりどんどん負債をなくして、新しいものを取り入れ、開発者が開発しやすい環境を整えることが重要だと思っています。

加えて、僕自身はこのアンドパッドという会社と展開しているサービスが、この先何十年も続いていくだろうと思っているんです。その上で、10年、30年、100年続くサービスを作るためにも、技術的負債の改善には非常に注力しています。

具体的な取り組みとして、よくやっているのはプロジェクト的に「この技術的負債を改善しよう」という専任チームを組成することです。弊社は課題解決をしたいエンジニアが多いこともあり、この方法でうまく回っています。

とはいえ、大きすぎる課題にずっと取り組み続けるとモチベーションの維持が難しくなるので、複数のプロジェクトを一緒に進めるようにしたり、進め方は工夫しています。

ベトナム拠点の設立+インド新卒採用、開発のグローバル化を促進

また、アンドパッドではグローバルな開発体制の構築にも力を入れています。

▼資金調達に伴って発表された「ANDPAD Second Act」でも開発体制への言及が

変化に強いエンジニア組織を作る。開発のグローバル化を推し進めるアンドパッドの狙い.004まず、2022年1月にはベトナムの開発拠点として、現地法人を立ち上げました。また、インドからの新卒採用メンバーの受け入れも2022年からスタートしています。

グローバルな開発体制を構築する背景には、開発本部全体として変化に柔軟な、進化していく組織を作っていきたいという思いがあります。その上で開発体制について考えると、日本に閉じる必要って特にないんですよね。日本におけるエンジニア採用が苛烈を極めていることもありますが、優秀な人材は日本に限らず全世界にいるので。

とはいえ、いきなり全世界に採用を開放することも受け入れ側のハードルが高いので、まずは日本と時差も少なく、日本企業も多く進出しているベトナムで開発拠点の立ち上げにチャレンジしました。

現状の開発で言うと、ベトナムと日本が混ざっているチームもあれば、それぞれで作っているところもあって、まだまだ試行錯誤中ではあります。ただ、こうした体制を作るだけでも、組織としてもどんどん多様性を受け入れるような気持ちになっていくと思っていますね。

インドからの新卒メンバーは現状10名ほどですが、皆さん日本に来ていただいて、一緒に働いています。アンドパッドの事業に共感して、一緒に事業作りをしたいという方々なので、日本の建築・建設業界の空気も併せて感じていただきたいと思っています。

受け入れやオンボーディングも試行錯誤中の部分が多いですが、エンジニアチームだけではなく、文化面や生活面のサポートを含めて、人事や労務とかなり密接に連携しながら実施しています。

インドからのメンバーは、わざわざ日本に来るくらいの気持ちを持っているので、熱量が非常に高くて。どんどん仕事を吸収していくので、僕が忘れていた気持ちを思い出させてくれるような感覚もあります。実際に日本で働くエンジニアメンバーたちにも、良い影響を及ぼしていると感じています。

資金調達を経て、これからも「変化に強い組織」を作っていく

2022年9月にシリーズDラウンドの資金調達を発表しましたが、エンジニア組織の話でいうと、資金調達をしたから何かを変えるというより、事業の拡大に合わせて組織を変えていくような形になると思います。CEOやCFOと一緒に、どんな事業拡大をしていくか、その上でエンジニア組織をどうしていくか、ということを、併せて考えています。

エンジニア組織だけ何かが変わっても、それでは資金調達の意味がなくなってしまうので、あくまでも事業拡大を主体に考えていきます。その上で、10年、20年続くシステムを作っていくということは、調達前からの永遠の課題として今後も向き合っていきます。

そもそも、「どれだけ階層を作るのか」といった組織自体の在るべき姿も、状況に応じて変わる部分が大いにあると思っていて。10年間固定の組織を作るというよりも、変化に強い組織を作る方が重要なんですよね。そのための打ち手が、技術的負債の解消であったり、グローバルな体制構築であったり、ということです。

また、弊社はソフトウェアの開発にフォーカスが当たりがちなんですけれども、機械学習やデータ活用の領域も大きく伸ばしていこうとしています。Second Actで公開した6つの戦略でも記載していましたが、エンジニア組織として、データをどう活用していくか、ということは課題のひとつになるかなと思います。

▼「ANDPAD Second Act」で公開された6つの戦略

変化に強いエンジニア組織を作る。開発のグローバル化を推し進めるアンドパッドの狙い.005そもそも建築・建設業界でSaaSをやりましょう、という会社はこれまで日本にほとんどなかったので、僕らもこれから先、どんなデータが貯まっていって、どんな面白いことができるか楽しみにしているんですよね。

未知のデータを扱って、業界を変えていくようなことが楽しめる方は、非常に楽しい事業がアンドパッドでできるのではないかなと思っています。(了)

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