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自由な組織には闇もある!?「より良い開発者体験を作るには」【イベントレポート】

SELECK LIVE!「より良い開発者体験とは」イベントレポート.001

「エンジニアが辞めずに長く働く組織をつくりたい」
「開発チームの生産性やパフォーマンスを高めたい」
「開発を通じた顧客への提供価値を最大化したい」

上記のような、エンジニア組織が抱える課題を解決するためのキーワードとして、いま注目されているのが【開発者体験(通称「DX:Developer eXperience」)】です。

開発者体験とは、開発者がシステム開発を行う中で経験する一連の体験のこと。「開発者にとって働きやすい環境や組織文化があり、気持ちよく開発や保守ができるかどうか」を問う言葉です。

2022年には、日本CTO協会が「エンジニアが選ぶ開発者体験が良いイメージのある企業」上位30社のランキングを発表したことでも話題となりました。成長スピードの速い企業では開発者体験や開発環境への投資も積極的に行なわれているとも言われており、今、多くの企業が今注目しているキーワードです。

こうした背景から、2023年3月29日に開催された「SELECK LIVE for Startup!」は、アンドパッド、Ubie、ゆめみの3社をゲストに迎え、「スタートアップにおける良い開発者体験とは?」をテーマに行われました。

SELECK LIVE! for Startup vol.3_2本記事では、その内容の一部をダイジェスト版でお届けします!ぜひご覧ください。

▼ゲスト
株式会社アンドパッド 執行役員 VPoE 下司 宜治さん
Ubie株式会社 ソフトウェアエンジニア 田口 信元さん
株式会社ゆめみ 執行役員 テクニカルエヴァンジェリスト 桑原 聖仁さん

▼司会・モデレーター
SELECK株式会社 編集長 / 舟迫 鈴
株式会社ゆめみ 取締役 / SELECK株式会社 取締役 工藤 元気

【各社発表】登壇各社の、開発者体験の向上に向けた取り組みを紹介

1.株式会社ゆめみ 執行役員 テクニカルエヴァンジェリスト 桑原 聖仁さん

ゆめみ桑原さん企業の「開発内製化」への支援を通じて、「アウトソーシングの時代を終わらせる」ことをミッションに掲げる株式会社ゆめみ。

同社の執行役員テクニカルエヴァンジェリストである桑原 聖仁さんからは、「全員が意思決定する組織の『光と闇』〜開発環境と向き合う僕の奮闘記〜」と題したお話をいただきました。

2.Ubie株式会社 ソフトウェアエンジニア 田口 信元さん

Ubie田口さん「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」をミッションに掲げ、一般生活者が自身で症状や病気を調べられる症状検索エンジン「ユビー」と、医療機関の診療場面で用いられるAI問診などの診療支援パッケージ「ユビーメディカルナビ」を展開しているヘルスケアスタートアップのUbie株式会社。

同社でソフトウェアエンジニアとして働く田口信元さんからは、「Ubieにおける開発生産性の改善に関する取り組み」をテーマにお話しいただきました。

3.株式会社アンドパッド 執行役員 VPoE 下司 宜治さん

ANDPAD下司さん「幸せを築く人を、幸せに。」をミッションに、建築・建設業に特化したクラウドサービス「ANDPAD」を提供している株式会社アンドパッド。急成長中のサービスであり、2022年には総額122億円の資金調達を行い、組織規模も拡大を続けています。

今回は同社の執行役員 VPoEである下司 宜治さんに「ANDPADの開発者体験のリアル」をテーマにお話しいただきました。

【3社比較】「開発者体験」に関するパネルディスカッション

今回はゲスト3社に事前に3つの質問にお答えいただき、それをベースとしたパネルディスカッションを実施しました。視聴者の皆さまからも質問が出始めたので、関連するものは一緒に回答していく形式で進めています。

質問①「開発者体験」といってもその対象は幅広いですが、現状、特に重視している要素はありますか?

質問①SELECK LIVE! for Startup vol.3下司 Findy Team+は2〜3年前から導入していますが、開発者体験を測る上で非常に使いやすいですね。たとえば、先月と比べてプルリクのスピードが下がったエンジニアをFindy Team+上で確認し、ヒアリングの機会を設けています。

もちろん中には、別の案件で要件定義をしていたから問題ないようなケースもありますが、エンジニアの健康診断のような形で利用できていると思います。

桑原 ゆめみでも同じような使い方をしています。エンジニアの現状を可視化して、そこからヒアリングして、エンジニアが今困っていることを顕在化する流れを取っています。

田口 Ubieでは、先ほどもお伝えしたとおり、アーキテクチャの負債が大きな問題となっています。そこで現在は全社OKRにも組み込んで、進捗をトラッキングしています。

ーーこちらに関連して、視聴者さんから「エンジニアだけではなくデザイナーへ向けた開発者体験の向上の取り組みはあるか?」という質問が来ていますが、いかがでしょうか。

田口 Ubieでは、エンジニアだけでなく、デザイナーやBizDev、医師も同じスクラムに入っていますね。そのため、職種間の違いはなく取り組めていると考えています。

下司 アンドパッドでも、同じチームにデザイナーがいるため、一緒に取り組んでいますね。あえて挙げるとしたら、フロントエンドエンジニアのスキルでデザインの幅が狭められないように、顧客重視のデザインにして欲しいということは、念を押して伝えています。

桑原 ゆめみも、密なコミュニケーションは大事にしています。職能別で組織が分かれている分、互いにリスペクトして相互コミュニケーションをしています。またエンジニアでも、Figma(※デザインツール)を自発的に勉強している人が多いです。

田口 デザイナーとエンジニアのコミュニケーションという点では、Ubieでは「デザインエンジニア」という職種を置いています。

桑原 そうなんですね!ゆめみでも、まさにデザインエンジニアチームが立ち上がり始めるところです。これからどう発展していくか検討中なので、また詳しくお聞きしたいです。

質問② 開発者体験を改善するための、ユニークな or 大きな成果が上がった制度や仕組みを教えてください。

桑原 スタンドアップミーティングは、1日のはじめに今の課題や今日のアクションについて語りあう朝会です。そしてチェックインは、会議の前にあるテーマについて全員に発言してもらう取り組みです。

これらは「これから会議に入る」という全員の意識を揃える上で大きな役割を果たしていると感じます。

田口 Ubieの場合、この中で特にユニークなのは「評価なし」でしょうか。その名のとおり、仕事に対して評価をしないという制度です。

背景にあるのは、「評価されるためのムーブは、本質的なコトに向かわないケースがある」ことです。目立たなくても必要なことに向かって行動して欲しい、失敗してもどんどんチャレンジしてほしいと、評価のない形になりました(事業開発組織であるUbie Discoveryの場合)。

下司 「評価なし」気になりますね。フィードバックはどうしているのですか?

田口 フィードバックがなければ個人の成長につながらないので、社内のSlackに「フィードバック集めてくれるくんbot」を設置して、フィードバックをもらえるようにしています。人事評価と関係がない分、正直なフィードバックがもらえますね。

下司 なるほど。アンドパッドは先ほど挙げた通りですが、一体感という意味合いでも、自慢大会は大きな成果を上げていると感じます。この発表は、個人ではなくチーム単位で行っています。そうすることでハードルも下がりますし、チームの一体感につながります。

質問③ 逆に、この施策はちょっと失敗だったかも・・・? という取り組みはありますか?

田口 おそらくエンジニアあるあるなのではと思うのですが、社内向けの便利ツールを作ったら、必ずそれを保守し続ける必要がありますよね。

その運用を誰がするのか、責任の所在が曖昧になりがちです。重要なものは保守するチームを決めようと、現在洗い出しをしている最中です。

下司 OSSに公開して、全世界でメンテナンスしてもらうのはどうですか?

田口 それも考えましたが、そこまでもっていくためのハードルもありますよね。OSSに公開するための工数を誰が払うのか、とか。

下司 アンドパッドも同じくですね。OSSに公開したいと思いつつ、なかなか踏み切れない部分があります。

エンジニアとしては、せっかくつくったものであれば社内だけでなく、多くの人に使って欲しいという思いはあると思います。だからこそ、社内で便利ツールを作る際は、OSSに公開できそうなものを作ろうという意見も出ていますね。

桑原 技術負債の問題はつきものですよね。どうしても便利ツールを作った人が、保守を担当する…という人依存の構造となってしまいます。なかなかやっかいですよね。

下司 言語、FWの決定権を各エンジニアに渡したことも、結果的に技術負債につながっています。例えばアンドパッドでは、テスト自動化ツールを各チームが好きに選んだ結果、MagicPodとAutifyの両方を使っているんです。

使い分けはしているものの、なかなかバージョンアップに追従できなくなる事態に陥ってしまい、SREの仕事がバージョンアップになってしまっている部分もあります。

桑原 わかります。ゆめみの全員CEO制度も、職能型の組織が独自の生態系を作り出し、それぞれの知見をシェアしあうことによる相乗効果が生まれている一方で、権限の委譲による悪影響もあります。たとえば、みんながやりたくない仕事がこぼれてしまったり。難しいですね。

田口 Ubieでも、ルーズボールが生まれてしまうことがあります。どのチームの領域か明確でない場合は特に生まれやすいですね。チームトポロジーを導入しながら、ルーズボールが生まれないためのチーム構成を模索中です。

下司 これまではエンジニアたちの自助努力で解決してきた側面がありましたが、もう規模的に難しいですね。

最近では「問題だと思うことをつらつら語る会」を設けたり、ゆめみさんのテックリード会のようなものを設けて、課題が集まる場をつくっています。そこから課題解決ができるのではと考えています。

ーー視聴者さんから、開発者体験の向上に対してのリソース投下について、どう経営層と握り合うべきかという相談が来ています。いかがでしょうか。

下司 アンドパッドは先ほども話したとおり、「顧客体験」が最優先で、その向上のために開発者体験をあげるという構造で考えています。なので、経営層へも同じストーリーで伝えることが多いですね。

桑原 内容にもよりますが、経営層と握り合う前にスポットレベルで始まっているケースが多いですね。PoC的に一度無料枠(物によってはミニマム前提での有償枠)で使ってみて、そこから全社展開すべきかをCTOなどの経営メンバーが集まって相談する流れが一般的です。

視聴者、Twitter実況者からの質問にリアルタイムで回答

ーーでは、続けて、視聴者さんからの質問に答えていきます。「皆さんの、開発者体験についての考えの原体験となったエピソードはありますか」という非常に気になる質問ですが、いかがでしょうか。

桑原 個人の力ではなく、チームの力で早く解決できた経験が原体験となっているかもしれません。

たとえば僕は、15分考えてみて具体的な答えがわからなかったら、誰かに聞くようにしています。チームの中で、誰かが答えをもっていることもありますから。

僕自身、まだ技術力が低かった時代に、たまたま先輩が困っていたところを助けることができた経験もあります。こういった経験ができるチームをつくっていきたいという気持ちがありますね。

下司 僕の場合は…「インターネット老人会」みたいな話になるんですけど(笑)、ソースコード管理ツールを使っていた時代からGitHubを使うようになったりなど、ツールが変わったことで「なんて開発しやすいんだ!」と感動した経験が大きいですね。

ほかにも、エンジニア目線だけではなく、営業の方からも話を聞いて、製販一体となって物事を進めて成功できた経験は自分にとっては大きかったと思います。

田口 「これを導入したことで便利になった!」という小さな積み重ねが大きいと思います。はじめて自動化に取り組んだときも、デプロイまでのスピードが段違いだと感じた経験があって。そうやって便利なツールに触れた経験は、やはり自分にとって大きかったですね。

桑原 僕としては、逆の体験もあって。過去にPHPを書いていたときに、Yiiフレームワークが生まれてとりあえず使ってみたところ、生産性が爆下がりしたんです。

ツールとしては便利になっているものの、その現場には合わなくて。やはり現場でどう使われるかを意識しないまま、技術ドリブンで考えると失敗するなと感じました。

ーー技術によるプラスとマイナス、双方の体験をしたことが大きいのですね。

ーー次の質問です。「最近Chat GPTが話題ですが、AIによってブラックボックス化や権利問題などの可能性もあると考えています。AIが開発者体験の向上に寄与する可能性について、どうお考えですか?」

田口 AIは開発者体験の向上に役立つと思いますね。今は、AIとベアプロみたいなことをしている人も増えていると思います。ただ、まだまだ個人的には生かしきれていないです。

桑原 詰まったらとりあえずAIに投げる、といったことはしていますね。僕たち(=人間のエンジニア)は、AIのためのドキュメント作成に徹するべきなのかなと思ったりします。

下司 テーブル設計とか、めちゃくちゃ早いですよね。テストもやりやすいです。

ーー育成の面での悪影響などはないのでしょうか?

桑原 特に感じていませんね。むしろ若手が使いこなしていて、僕は使い方を教わる立場ですよ(笑)。

ーー次の質問です。「アンドパッドさん、Ubieさんは自社サービス、ゆめみさんはクライアントワークと業態が違いますが、それぞれ優先すべき開発者体験のポイントは違うのでしょうか。」

桑原 クライアントワークをする企業は、おそらくほかの会社よりも不確実性に向き合う場面が多いと思います。

だからこそ多様性に対応する組織をつくり、自分たちの得意分野を伸ばすようにしています。もちろん、マストでキャッチアップすべき技術もありますが、それ以上に自分たちの強みを伸ばすことが大切だと思います。

下司 ここまでの話を聞いてみて、自社プロダクトだから、toBだから、toCだから、という違いはあまりないのかなと思っています。どの業態であっても、同じ目的に行き着くんだなと思いましたね。

田口 下司さんの言うとおり、あまり差は無いんだなと感じますね。むしろプロダクトの種類よりは、自社の風土が色濃く出る気がします。

ーー最後の質問です。「エンジニア組織をより良くしたくても、何を言っても変わらないときはどうしていますか」というリアルな相談です。

ーー中長期的に捉えて組織を変えたいけれども、短期的に見ると違う選択肢をとってしまうといった場面だと思うのですが、いかがでしょうか。

下司 採用の段階で、言っても変わらないような人を入れていないのが、正直なところです。

田口 論理的に伝えることですかね。ロジックが破綻していなければ、変わる気はします。

桑原 僕個人としては、政治力を使うかもしれませんね。外堀を埋めたり、強い味方をつけたりします。

ーーあらためてみなさま、本日はありがとうございました!

終わりに

いかがでしたでしょうか。開発者体験を向上させるための施策やポイントなど、それぞれの会社の実例をまじえてお話しいただきました。皆さまの組織の開発者体験向上のヒントになれば幸いです。

今後も、現場で役立つナレッジをお伝えするイベント「SELECK LIVE!」を定期的に実施していきますので、興味のある方はぜひご参加くださいませ。(了)

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