Kouji Anzaiさん
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愛される書体へ - 「すずむし」

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タイプデザインコンペティション2012でトリプル受賞を達成した書体「すずむし」とは

Webフォント「すずむし」

すずむし」は、モリサワの主催する「タイプデザインコンペティション 2012」で和文部門モリサワ賞銅賞、明石賞、ファン投票1位のトリプル受賞を達成したデザイン書体です。このコンペティションでの受賞後、2014年10月にモリサワの新書体としてリリースされました。

「すずむし」の特徴は、小さな字面とかわいらしいデザインです。デザインのコンセプトは落語の世界。人情味あふれる下町のひとたちの日常やあたたかさを表現した書体です。このようなコンセプトを持った書体としては、歌舞伎や芝居で使われる勘亭流や寄席で使われる寄席文字、大相撲の相撲字などがありましたが、それよりももっとポップでかわいらしい文字で表現したい、という思いから制作したそうです。

できあがった書体は、たくさんの墨を含んだ筆で書いたような、ふくよかでみずみずしい点画が親しみを感じさせる、かわいらしいデザインになりました。字面の小ささに対してあえて正方形にまとめない設計が、アンバランスながらも組み上げた時の軽妙なリズムを生み出しました。

リリース当初から、大手鉄道会社の駅広告やお菓子などの商品パッケージ、広告でのメインビジュアルなど、さまざまな場所、さまざまなシチュエーションで利用されています。みなさんもどこかで一度は目にしているのではないでしょうか。

デザインはニューヨークのカフェで 自由な発想と環境から生まれた書体

「すずむし」をデザインしたのは豊島 晶さん。日本でデザインを学び、デザイン制作会社で経験を積んだあと単身渡米。ニューヨークを活動の場とし、フリーランスデザイナーとして活動しました。 ニューヨークでの活動中、冒頭で紹介した「タイプデザインコンペティション 2012」で「すずむし」 がトリプル受賞。2014年に帰国し、現在は桑沢デザイン研究所で教鞭とっています。

「すずむし」の制作はニューヨークの数々のカフェで行われました。まずは雰囲気のメモやデザインのラフをノートに書き留め、具体的なスケッチは描かずに、頭のなかで練ったイメージをMac上でデザインに移していったそうです。

一般的な書体デザインの流れは、まずは紙にスケッチをしてそれをPCに取り込み、デザインツールでトレースしていくというものです。豊島さんの制作手法は、この流れとは大きく異なります。

カフェという外部空間で作業をすることで、カフェにいた見ず知らずの人から感想や反応をもらったりすることも刺激になったと言う豊島さん。こうした自由な発想と環境から生まれた書体が、「すずむし」なのです。

大切なのは想像力と行動力、そして少しの...

最後に、「すずむし」の制作を通して豊島さんが伝えたかったことを聞きました。

「文字は気楽に、誰にでも作れる。知識や技術も重要ですが、最初の一歩として、いまの状態で作ってみてもいい。ゼロに近い状態でしか作れない文字がある。必要なのは、こういうものが作りたいという創造力と、やってみようという行動力、そして少しの忍耐力です。」

日本語の文字セットで考えると、かなや英数字に加えて、使用頻度の最も高い文字を含むJIS 第一水準で約3,000文字、もう少し範囲を広げた第二水準まで含めると約6,400文字もあります。更に、業務向けに Adobe が定めている Adobe-Japan1-6 ともなると約23,000 文字にもなり、日本語における書体制作が容易ではないことは誰にでも理解できるでしょう。

しかし、たとえば企業のロゴや本のタイトル、商品のパッケージなどで使われる文字はごくわずかです。作りたいものがあるならば、まずは行動し、ときおり立ち止まって考えることにより、「すずむし」のような書体ができるかもしれません。

自分が情熱を注ぎ込むところから、愛される書体が生まれるのではないでしょうか。

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