黒田 悠介さん
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  • 黒田 悠介

ユーザーインタビューが新規事業の役に立たない理由と、役立たせるコツとは?

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「ユーザー目線でのサービス開発」は重要。

私自身がそういう仕事のスタイルであることもあって、この意見自体には賛成です。しかし一方で、「顧客の声を聴くな」という言葉が多くあるのも事実です。

たとえば、自動車の普及に大きな役割を果たしたヘンリー・フォード氏は、「もし顧客に何が欲しいかを聞いてしまっていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えただろう」と言ったとか。マーケティングの領域でも「ドリルを買いに来た人が欲しいのは、ドリルではなく穴である」という、古くから言われている言葉があります。かのスティーブ・ジョブズ氏も言いました。「多くの場合、人は形にして見せて貰うまで自分は何が欲しいのかわからないものだ」と。

この「ユーザーの声を聴くべきか否か」という命題は、実は難しいものではありません。ことわざにも相反する2つの主張をしているものがあるように、絶対的な真実というよりもケースバイケースだよね、ということです。聴くべき声だけに耳を澄まし、ノイズの海から有益な情報を手に入れる「インタビュー」の手法を考えてみましょう。

そもそもなぜ、インタビューするのか?

昔ながらのモノづくり的な発想の「製品開発」というプロセスではなく、デザイン思考やリーンスタートアップに代表される「顧客開発」の考え方では、特に欠かせない作業のひとつがユーザーインタビューです。ユーザーの声をなくして、事業の成功はありえません。

インタビューをしなくても、既知の情報だけで事業構想を作ることはできます。でもきっと、創業者は不安でいっぱいになるでしょう。この事業はユーザーの課題を解決するだろうか? このインセンティブで想定通りの動きをするだろうか? この事業は市場にフィットするだろうか? 

たくさんの「未知」の中で、暗中模索の気持ちになると思います。しかし、ユーザーインタビューを適切に行うことによって、たくさんの「未知」を少しずつ「既知」にすることができます。

インタビューは「顧客が認識していることを聴ける」という点において十分に有用ですが、さらに有用な点は、「顧客が認識していないことを聴ける」という点です。その人の「発言」や「行為」から、本人が認識していなかった思考や感情、そしてニーズや課題が見えてくることがよくあります。こういった洞察のことを「インサイト」と呼んだりします。

インサイトをユーザーに確認してはいけない

インサイトは、インタビュアーの頭に仮説として思い浮かびます。それをインタビューを通じて検証していくのですが、このとき気をつけないといけないことがあります。それは、インサイトを直接聞いてはいけない、ということです。

インタビューを受けてくれる人はいい人であることが多いので、インサイトについて尋ねられると「確かにそうですね!」という同意をしてくれます。しかし、それはバイアスがかかった同意であって、真実かどうかは分かりません。インサイトを直接尋ねるのではなく、インサイトが事実であることをサポートする回答が得られるであろう質問を重ねていくことが大切です。

例えば「ユーザーはドリルではなく穴を求めているはずだ」というインサイトを検証するためには「家具を組み立てるときに、どんなことに困った経験がありますか?」という質問をするべきなのです。その質問で「板に穴を開けるのが面倒」という発言があれば、「どうしたらその課題は解決されますか?」という質問を重ねてみるのです。間違っても「ドリルではなく穴が欲しいんですよね?」ということを直接聴いてはいけません。

このようなインタビューを重ねていくと、面白いインサイトが大量に発見されます。その過程で事業構想を組み替える(ピボットする)必要が出てきますが、それは良い兆候です。机上の空論だったものが、成長する事業として実現できる可能性が高まっている証拠ですから。

ユーザーインタビューでやりがちなミスとは?

インサイトを直接聴いてしまうのと同じくらいやりがちな間違いが「こんなソリューションがあったらどう?」といきなり聴いてしまうこと。これをやるとだいたい「いいね!」と言ってもらえます。この状況でインタビューを続けても、ソリューションのバイアスがかかったインタビューになり、本来得られたはずのインサイトが得られなくなります。

「いいね!」という好意的な返事は自信にはなるかもしれませんが、これではインタビューする意味がありません。従ってソリューションについてではなく、まずはそのユーザーが抱えている課題について聴くべきなのです。具体的には、まずユーザーが抱えている課題をヒアリングし、その課題にどんな現状対策を打っているのかを質問します。できるだけ深掘りするために、気になることがあれば「それはなぜ?」という問いかけを繰り返していきましょう。

実際にこういったヒアリングをすると、多くのユーザーは課題に対して現状対策をせずに諦めていたり妥協しています。しかし、その中にも明確に対策を打っているユーザーがいます。こういったユーザーはアーリーアダプターである可能性が高く、その他の多くのユーザー以上に重要なインサイトを与えてくれます。特に、そのユーザーが課題の現状対策に不満を抱えているようであれば、そこに事業のチャンスがあります。現状対策にかけているコスト(時間、労力、お金)をスイッチさせることができれば、それは新しい事業の収益源となり得ます。

ここまで把握して初めて、事業のコアであるソリューションの話をするわけです。「課題についてはよくわかりました。その課題を解決するこんな新しいソリューションがあるんですが、どうでしょう?あなたがやっている現状対策と比べてみて、どう思いますか?」という具合です。このとき、ソリューションのイメージが分かるスライドやプロトタイプのようなものがあるといいですね。具体的なニーズや、ソリューションの問題点を浮き彫りにすることができます。

このように、きちんと有益な情報を得るためのステップを踏むことで、ユーザーインタビューは新規事業にとって価値のある手法になり得ます。ぜひ実践してみてくださいね。

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