優秀な人材の離職を防ぐ!「テレワーク・マネジメント」5つのコツを紹介【事例8社】

新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、国内でも一気に導入が進んでいる「テレワーク」。

中国最大手のオンライン旅行サイト「Ctrip」の運営会社が、コールセンターの社員を対象に行った調査によれば、「テレワーク勤務をした社員の方が、オフィス勤務の社員と比べて13.5%も多くの業務を完了し、欠勤が少なく、かつ仕事への満足度が向上した」といいます。

このように、テレワークには生産性向上などのメリットがありますが、それを享受する上で重要な鍵を握るのが「マネジメントです。

そこで今回は、テレワークにより生じがちなマネジメント課題に対する、具体的な解決策を、SELECKで過去取材した事例をもとにご紹介します。ぜひご参考ください。

<目次>

  • テレワークのメリット・デメリット
  • テレワークでより重要性が高まる「マネジメント」
  • 【施策①】業務コミュニケーションを円滑にする
  • 【施策②】「雑談」できる場を確保する
  • 【施策③】明確な「目標設定」を行い、進捗を確認する
  • 【施策④】「1on1」で課題を吸い上げ、継続フォローを行う
  • 【施策⑤】自律的に行動できる組織をつくる

テレワークのメリット・デメリット

テレワークを導入して間もない企業では、不便を感じることも多いかもしれませんが、実際には多くのメリットが存在します。

たとえば、以下のようなメリットがあります。

  • 通勤がなくなることで、通勤時のストレスが減ったり、作業時間を多く確保することができる
  • 柔軟なスケジュール調整ができ、より集中した環境で生産性高く働くことができる
  • 家族との時間や、自己研鑽に使える時間が増えるなど、ワークライフバランスを保つことができる

一方で、デメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • 従業員同士のコミュニケーションが取りづらく、組織の一体感を感じづらい
  • 人によって自己管理能力が異なるため、業務のパフォーマンスに差がでる
  • 勤務の実態を把握することが難しく、フリーライダーが出る恐れがある

上記のデメリットを放置してしまうと、チームの生産性が落ち、事業の推進力が下がってしまう、といった問題が生じる可能性があります。

テレワークでより重要性が高まる「マネジメント」

では、上述したようなテレワーク環境下で生じやすい問題に対して、どのような対策を行えばよいのでしょうか。その解決の鍵となるのが「マネジメント」です。

テレワークが組織にもたらし得る負の影響としては、大きく分けて3つ考えられます。

  1. 優秀な人材の離職
  2. 著しいパフォーマンスの低下
  3. 企業文化・バリューの脆弱化

2018年に行われたHarvard Business Reviewの調査レポートによれば、「長期的に会社にコミットしたいと考えるテレワークの従業員は、全体の約5%」「しっかりと仕事に従事できていると感じるテレワークの従業員は、全体の約3分の2」という結果が明らかになっています。

つまり、テレワークが長期化するほど、優秀な人材の離職や、仕事のパフォーマンス低下といった問題が起こる可能性があるのです。

さらに、日常のコミュニケーション量が減ることによって、企業文化やバリューが脆弱化することも考えられます。

こうした組織に対する負の影響を引き起こす要因には、マネジメントが大きく関係しています。

たとえば、「優秀な人材の離職」の原因としては、会社の方針・対応への不信であったり、成長機会の減少などが考えられます。

また「著しいパフォーマンスの低下」に対しては、役割や責務が不明瞭であることや、マネジメントの機能不全などが考えられるでしょう。

上記を踏まえると、テレワーク環境下で従業員のパフォーマンスを高めるためには、リモートでの働き方の特性を理解した上で、きちんと「マネジメント」を機能させることが重要です。

では、テレワークでのマネジメントを円滑に行うために、どのようなことに注意すればよいのでしょうか。有効な5つの施策を、先進企業の事例をもとにご紹介します。

【施策①】業務コミュニケーションを円滑にする

テレワーク環境下では、相手の顔が見えないために、メンバーが何に取り組んでいるのか、どのようなコンディションなのか、が把握しづらくなります。

そこでまずは、社員同士がしっかりとコミュニケーションできる環境を用意することが重要です。

業務に関するコミュニケーションとしては「日常的な報告・相談」と「会議」の大きく2つに分けることができます。

まず、日常的な情報共有を円滑にするためには、チャットツールの活用が効果的です。中でも、ビジネス上のチャットツールとして多くの企業が導入しているのがSlackです。

Slackはその拡張性の高さから、社内のカルチャーに合わせて様々なカスタマイズを行うことが可能です。

たとえば、チーム別やプロジェクト別にチャンネルを作れば、自身が関係する仕事のコミュニケーションが効率的に行えます。また、グループ通話も可能なので、「朝会」や「夕会」などを実施するのもよいでしょう。

次に、リモートでの会議においては、ZoomGoogle Hangouts MeetCisco WebexといったWeb会議ツールの導入がおすすめです。

いずれのサービスも、ビデオ通話や画面共有といった基本機能を備えていますが、セキュリティ面や時間制限の有無といった違いがあります。

※テレワークで役立つ海外ツールについては、ぜひこちらの記事もご覧ください。

また、コミュニケーション環境を用意する上で注意しておきたいのが、「監視」にならないようにすることです。

テレワーク環境下で「マネジメントを強化する」という意識を高めると、社員1人ひとりが今何をしているか、どのようなアウトプットを出したか、などを細かく詮索したくなるかもしれません。

しかし、「監視」や「管理」の体制になってしまうと、既存の信頼関係を崩してしまう恐れがあります。

リモートワークを実践しているサイボウズ株式会社は、「いつでも話しかけられる環境を作る」ことが、業務コミュニケーションを円滑に行うためのポイントだといいます。

すべてを共有する」ことがリモートワークの成功の秘訣だと思っていたんです。ただ実際にやってみると、それは必要なかったということがわかりました。

実際にそこにいるわけでもないのに、常に「見られている」という感覚は、あまり気持ちのいいものではないんですね。直接見られているのと、パソコン越しに見られているというのは違うんですよ。

空間の共有が大事だと妄想していたのですが、実際は必要ありませんでした。チャットでいつでも声をかけられるだけでも十分だということを、これから職場を分散化していきたい人には伝えたいですね。

記事はこちら:「すべてを共有する」必要はない!? サイボウズに学ぶ、リモートワーク成功のカギ

【施策②】「雑談」できる場を確保する

また、業務に関するコミュニケーションはできても、テレワーク環境下では、どうしても「雑談」の機会が減ってしまいがちです。

オフィスでは、自分に関係のありそうな話題に気軽に入ることができたけれど、オンライン上では難しい…と感じている方も多いのではないでしょうか。

こうした状況が続くと、孤立感が増したり、チームの信頼関係が薄まってしまったりして、組織に対するエンゲージメントの低下にもつながりかねません。

そこで大切なのが、業務に関するコミュニケーションとは独立した「雑談専用の場」を設けることです。

社内コミュニケーションツールとしてSlackを活用している株式会社ミラティブでは、プライベートな呟き専用のチャンネル「times」や、あいさつ専用のスレッドを作ることで、業務外のコミュニケーションが気軽にできる環境を作っています。

▼同社の「times」チャンネルの様子

また、雑談できる環境構築のため、バーチャルオフィスソフトのremoや音声チャットツールのTandemなどを活用するのもおすすめです。

remoは、本当のオフィスのようなUIデザインが特徴的なビデオチャットツールです。ツール上のオフィスには大小様々な個室が用意されており、自分のアイコンを動かすだけで、オンラインになっている人にすぐに話しかけることができます。

また、誰がどこの部屋にいるのかを一目で把握することができるので、誰と誰がコミュニケーションをしているのかわかり、途中から会話に混ざりやすいといったメリットがあります。

一方のTandemは、「ランチ」「晩酌待機部屋」といった目的に応じた部屋をセッティングすることで、そのときの気分や話したい内容に合わせて、気軽に話しかけることができます。

さらに、Tandemは40以上の外部ツールと連携し、どのツール・アプリを使っているかがプロフィールに表示される仕様になっているので、タイミングを見計らって話しかけることができます。

▼RELATIONS株式会社のTandemの様子

いずれもWeb会議ツールのように「顔出し」することが不要で、アプリを立ち上げておけばいつでも話しかけることが可能です。「雑談専用の場」として取り入れてみてはいかがでしょうか。

【施策③】明確な「目標設定」を行い、進捗を確認する

コミュニケーションの場を整えたら、次に重要なのが「目標管理」です。

テレワーク環境下では、マネージャーがチームメンバーの動きを細かく把握することが難しいため、「何をしたらいいのかわからない」といったメンバーが出てくる可能性があります。

こうした状況を防ぐためには、会社やチームの目標に紐づいた個々人の目標設定を行い、アクションを明確にしておくことが重要です。

目標管理のフレームワークとしては、GoogleやIntelも導入している「OKR(Objectives and Key Results)」で設定するのがおすすめです。

※OKRについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

OKRとは、Objectives(目標)とKey Results(重要な結果)からなる、目標管理の手法です。全社OKR→チームOKR→個人OKRへと目標が紐づくため、自らの業務がチームや会社の目標とどのように紐づいているのか、を意識することができます。

そのO(Objectives)には、60〜70%の達成が見込まれるストレッチ目標を設定することが推奨されるため、メンバーのモチベーション向上も期待できます。

2019年1月よりOKRの運用を始めたキャディ株式会社でも、日々の業務とミッションとのつながりが明確になり、高い目標を目指せるようになったといいます。

OKRの一番の肝って、今までのやり方の延長線上では到達できないけれど、実現を想像するとワクワクするような「ムーンショット目標」をいかに置けるかだと考えていて。

特に弊社の場合、MBOやKPIに慣れていた中途メンバーが多かったので、OKRの「目標の達成水準は6〜7割を理想とする」という部分に違和感を覚える人が結構いたんですよね。(中略)

僕は、このムーンショットをみんなで議論する過程そのものが、かなり大事だと思っていて。というのも、目標を設定して終わりではなく、その先にある世界って何だろう? という話をみんなで何度も議論するんです。

記事はこちら:高いゴールには「線形」の目標設定では到達できない? ゼロから始める、OKR運用の全貌

【施策④】「1on1」で課題を吸い上げ、継続フォローを行う

目標を設定したら、その進捗を確認し、継続フォローを行うことが大切です。

マネージャーとメンバー間で、目標進捗を共有する定期的な場を設け、思うように進捗していない場合には、内省支援やアドバイスなど必要なサポートをします。

その手段のひとつとして、今回取り上げるのが「1on1ミーティング」です。

1on1は、「メンバーのための時間」であることを前提として、「業務支援」「内省支援」「精神支援」の3つの支援を通じてメンバーの成長を支援する場です。

※1on1についてより詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

月1や隔週の頻度で、30分ほど実施されることが一般的ですが、テレワーク環境下ではコミュニケーション量を担保するために、通常よりも頻度高く実施することがおすすめです。

1on1では、仕事の進捗を確認するだけではなく、テレワークによる心身のストレスなど、コンディションの確認を行うことも大切です。

株式会社Gunosyでは、「タスクの進捗管理」と「メンタリング」の2軸で1on1の場を分けることで、その目的を明確にしているといいます。

※記事はこちら:事業目標は「ストーリー」で伝える。目的別の1on1を実践する、チームマネジメント術

また、2015年からコーチングを社内制度化しているSansan株式会社では、社員のパフォーマンスを向上させるため、対面だけでなくオンラインでのコーチングも実施しているといいます。

米国CTI認定のCPCC(Certified Professional Co-Active Coach)を有し、同社の「社内コーチ」として活動している三橋 新さんは、「テレワークではパーソナルスペースに留まったまま話せるため、普段よりも質の高い内省ができる」といいます。

僕はコーチングをする際、よく2つの物体を使って、自分と相手との「関係性」を表してもらうことがあるんですね。喫茶店であれば、ミルクとガムシロップでできますし、定食屋であれば塩とコショウでできます。

「ミルクが『あなた』でガムシロップが『相手』だとすると、いまはどんな向きでどんな距離関係ですか?」と問いかけるんですね。

こうした物理的なものを媒介することによって、ただ考え込むよりも相手との関係性を自ら俯瞰しやすくなります。これをオンラインで行うのであれば、たとえば両手を使って「右手のパーが『あなた』、左手のグーが『相手』」で同じことが表現できます。

同じく、オフラインでよく使う紙とペンも、オンラインホワイトボードで代用できます。Zoomにあるホワイトボード機能を使えば、お互いに書き込むことも可能です。

記事はこちら:今、多くの人が「ロードリーム」に陥っている。Sansanのオンラインコーチング実践法

【施策⑤】自律的に行動できる組織をつくる

テレワークを中長期的な働き方のひとつとして取り入れるためには、ご紹介してきたような施策を通じてマネジメント環境を整えつつも、より俯瞰的に「組織としてどうあるべきか」を見直す必要もあります。

そこで求められるのは、社員が「自律的」に働くことのできる組織づくりです。

近年、「ティール組織」や「ホラクラシー組織」といった新しい組織形態が注目されていますが、こうした自律型組織をつくるためのポイントとしては、以下の3つが挙げられます。

  • ミッション・ビジョン・バリューの策定・浸透
  • 権限委譲と、そのための情報オープン化
  • 心理的安全を担保した組織風土

まず、メンバー1人ひとりが自律的な行動をするためには、目指すべき方向を理解し、何をすべきかを判断できる指針が必要です。

その指針となるのが、ミッション・ビジョン・バリュー(以下、MVV)です。MVVを浸透するには、認知・理解・実践の各フェーズにおいて、適切な施策を実行することが効果的です。

たとえばLINE株式会社では、MVVの浸透のため、認知のためのステッカーや、理解のためのカルチャーブックや社内報の制作といった取り組みをしています。

記事はこちら:カルチャー浸透は「目的」ではない。「LINE STYLE」を策定から2年で進化させた理由

テレワーク環境下においても、PCの壁紙を配布したり、オンライン上で社内報を共有することで、MVVの浸透を促すことができます。

次に大切なのが、権限委譲と情報のオープン化です。業務遂行にあたり必要な権限や情報をメンバーに渡すことで、自律的なアクションの実行が可能になります。

最後に、こうした組織を支える根底には、心理的安全性というソフト面も大切です。

EX(従業員体験)専門部署を有する株式会社リクルートホールディングスでは、自分自身のコンディションをオープンにする「今月の調子さん」という取り組みを行うことで、「相互理解」を深め、心理的安全性を高めているといいます。

▼同社の「今月の調子さん」

まず「相互理解」のための施策として、「今月の調子さん」という、月に1度、自分自身のコンディションをオープンにする取り組みがあります。

コンディションは1〜10段階で表現して、仕事のことからプライベートのことまで、自由にコメントを書いてお互いの近況の共有を促す形です。

リモートで働くメンバーが多く、顔を合わせて雑談する機会も少ないので、意識的にこういった仕組みを取り入れて相互理解を深めています。

記事はこちら:正しい「心理的安全性」が組織の実行力を高める。リクルートのエンゲージメント経営

心理的安全性という土台の上で、自律的に行動することができる組織を作ることが、中長期的なテレワークにおいては重要です。

今回は、テレワーク環境下でのマネジメントをテーマに、そのポイントと事例をご紹介させていただきましたがいかがでしたでしょうか? ぜひ、自社のご参考になさってください。

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