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インターネット空間上の「信頼」を構築する、Web3 Socialとは? 海外事情や事例も紹介

2022年は、インターネットの新たな革命「Web3」が日本において大きく注目される年となった。

政府が日本における成長戦略の柱の一つとしてWeb3を掲げ、推進していくことに言及したほか、NTTドコモがWeb3領域に6,000億円の投資を行うと発表。さらにブロックチェーンを基盤としたWeb3ゲーム分野においては、セガやスクウェア・エニックスなどの大手ゲーム企業が参入を表明した。

そんななか、2023年に脚光を浴びる可能性のあるキーワードが「Web3 Social」だ。

Web3 Socialとは、ブロックチェーン技術を活用したNFT等のトークンで築き上げられる「分散型アイデンティティ」と「分散型SNS」を総称したカテゴリーを指す。既出のソーシャルメディアのようにプラットフォーム企業の管理に依存せず、ユーザー自らがコンテンツの管理やデータの所有ができる点が特徴だ。

Web3コミュニティビルダーとして数多くのプロジェクトに参画し、マーケティング支援やリサーチ業務などに従事するNORIさんは、「Web3 Socialは今よりも信用あるデータの蓄積を可能とし、社会を”ちょっと”良くする手段になり得る」と予測している。

そこで今回は、インターネット空間上の「信頼」を構築するWeb3 Socialの概念や具体的な活用方法、海外における動向についてNORIさんに詳しくお話を伺った。

Web3 Socialの概念と現状のインターネット空間が抱える課題

現在、私は「NORIFORCE」というチームで、Web3に関する国内外のリサーチやNFTプロジェクトのマーケティング支援、コミュニティビルディングなどを主として活動しています。

2022年は「BRIDGE THE GAP(あらゆるギャップを埋める)」をテーマに据え、海外発の面白いプロジェクトやサービスを発掘し、日本のWeb3事業者や企業との橋渡し役として活動することに注力していました。その中で注目するようになったのが、今回お話させていただく「Web3 Social」です。

Web3 Socialに興味を持ったのは、2022年の3月頃です。元々、NFTの文脈でコミュニティの形成をお手伝いすることが多かったのですが、POAP(※)など個人を表現するNFTの価値が、その後につながっていかない点になんとなく違和感を感じていて。

※Proof of Attendance Protocol:イベント参加証明のNFTバッジ

そこで、「Web3における個人の行動履歴を一元化することができれば、それが『信用』を構築するデータとして機能し、非常に面白くなるのでは」と感じたことがきっかけです。

そもそも「Web3 Social」とは、ブロックチェーン上で発行されたNFT等のトークンを活用して築き上げる「分散型アイデンティティ」と「分散型SNS」を総称したカテゴリーを指します。

趣味嗜好や考え、出身校などの共通点があれば、人と繋がりやすくなるというのは既存のSNSでも同じですが、それをトークンを通じて構築していくのがWeb3 Socialだと捉えてもらうとわかりやすいです。

例えば、同じNFTを所有している人同士で共通点を見いだすことで、新たな繋がりや交流が生まれます。さらには、ブロックチェーン上に自分のNFTなどのデジタル資産を乗せた時に、それが「信用できるデータ」としての証明にもなるわけです。

要はオンチェーン(※)上に、資格や学位、経歴、身分などクレデンシャルデータを蓄積することで、個人のアイデンティティや信用を形成していけるのが、Web3 Socialの最大の特徴ともいえます。

※ブロックチェーン上に記録されることを指す。対義語は「オフチェーン」で、ブロックチェーン上の外側で行われる取引のことを指す。

現状のインターネットやSNSにおける課題はいくつかありますが、まずは「相手が信用に値するかどうか」を検証しづらいという点が一番大きな課題として挙げられるのではないでしょうか。

SNSを通じて多数の人と簡単に繋がれ、情報収集も容易にできるようになった一方で、実際にフィジカルで会ったことのない人の情報が本当に正しいかどうか、それを判断する指標はまだまだ少ないですよね。

事実を確認しようにも、その人のブログやSNSのプロフィールを見にいったり、何通かメッセージのやり取りをしたり、場合によっては昔の職場の人に電話して聞いたりと、相手の信用度を測るのに結構な労力が必要です。

また、他の課題として、 SNSを運営するプラットフォーマーの元でアカウントを作成しているので、異なるSNS同士間ではアカウントの情報を継承しづらく、情報が分散してしまうという問題もあります。例えばInstagramとTikTokではフォロワーやコンテンツの共有ができませんよね。

加えて、プラットフォーマーの意向でルールが改定され、予期せずにアカウントがBANされるリスクも少なからずあると思います。こうした課題を解決する可能性があるのが、Web3 Socialということです。

SNSの変遷をブロックチェーンで再構築する「Web3 Social」

よく「Web3 Socialは難しい」と言われますが、あまり身構えずに肩の力を抜いて、シンプルに考えてみてほしいと思います。

ここで少し、普段の生活を振り返ってみてください。何か商品を購入する際にAmazonやメルカリなどのサービスを利用しますよね。また、TwitterやInstagramなどのSNSも、ごく普通に日常で触っているはずです。フォロワーとメッセージのやり取りをしたり、友人の投稿にコメントしたりしますよね。

先ほど、Web3 Socialは「分散型SNS」だと説明しました。今の話をWeb3における行動に当てはめると、例えばOpenSeaなどのマーケットプレイスで、NFTを売買するだけで終わると思いますか。その先には、Web3上で人と交流したり、所有しているNFTを見せ合ったりする未来が、遅かれ早かれ来ると想像できるのではないでしょうか。

結局、これまでの歴史がWeb3上で繰り返されるはずで、今はちょうど、その出発点にいるんです。要は、Web3 Socialというものは、これまでのSNSがたどってきた変遷を「もう一度ブロックチェーンを使ってやり直していく」ことだと思っています。

TwitterからMyspace、Mixi、TikTokなど、これまでの時代とともに色々なSNSが登場してきたからこそ、私たちはSNSがどのようなものかは理解できる。そこからさらに、ブロックチェーンを使えば何ができるか? をみんなで妄想していくことが必要だと思います。

では具体的に、ブロックチェーンを活用すると何ができるようになるのか。

まず、分散型SNSのアカウントは、MetaMaskなどの分散型ウォレットを接続するだけで作成が可能で、既存のSNSとの大きな違いとして「ユーザー自身がアイデンティティを所有できる」ことが挙げられます。

もし仮に、分散型アプリケーション上でBANされたとしても、ブロックチェーン上にユーザーのアイデンティティが刻まれていることから、他のプラットフォームへスムーズかつシームレスな移行が可能になります。

また、オンチェーン上での活動や行動履歴も引き継げるため、「アカウントが凍結されたことで、所有していたコンテンツが失われた」ということもなくなります。

さらに、ブロックチェーンにおける重要な思想の中で「コンポーザビリティ」というものがあります。よくレゴブロックに例えられるのですが、各アプリケーションやネットワーク上のデータを「部品」のように転用できる性質のことです。

例えば、「Twitterに、このブログの情報を転用したい」という時に、API連携ですぐに反映できるような形ですね。いろんな事業者が一緒になって世界を作り込んでいくことでデータの相互利用が可能になり、サービスがより発展していくのではないかと思います。

3つの分散型SNSサービスから見る、海外のWeb3 Social事情

このようなWeb3のソーシャル文脈を理解し、実際のビジネスシーンでの利用を検討する場合は、海外のWeb3 Social事情や展開されているサービスを押さえておくと良いでしょう。

私もそのうちのいくつかを実際に使ってみて、CyberConnectLens ProtocolFarcasterRELATIONといったものに将来性を感じました。今回はその中から、三つをご紹介します。

1.Cyber Connect

まずは、Cyber Connectです。​​Web3 Socialを初期からリードしてきたサービスの一つで、分散型ソーシャルグラフプロトコルを提供しています。

ブロックチェーンには、「プロトコルレイヤー」や「アプリケーションレイヤー」といったレイヤー構造が存在していて、プロトコルというのはサービスを作る上での土台や基盤となるものだと考えていただくといいでしょう。既存のものでいえば、通信ネットワーク事業者のソフトバンクやau、ドコモの立ち位置と近しいと思います。

Cyber Connectは分散型で人が繋がれるコミュニティのようなエコシステムを作っているほか、Web3版LinktreeやLinedInと言われている「Link3というアプリケーションレイヤーのサービスも提供しています。

Link3は、オンチェーン上での取引履歴や所有しているNFTなどを可視化でき、さらにはYouTubeやTwitter上での活動を一元化して表示することも可能で、自分専用のリンクとして他のSNS 等でシェアできるのが特徴です。

さらに「Event Planner」という機能があり、Twitterスペースでの「AMA(Ask Me Anything:質問会や音声イベントのこと)」やオンライン配信イベントなどを簡単に作成できます。一定の時間AMAを聴くなどのタスクをこなした人に対し、LINK3独自の「W3ST」というイベント参加証明のNFTを発行できる点も特徴です。

参加者は音声で情報のキャッチアップができるだけでなく、W3STも特典としてもらえる。要は双方にメリットがあるわけです。実際に、私もTwitterスペースを開く際にこの機能を活用していますが、以前は100人ほどの参加者だったのが、W3STを配布するだけで1,400人規模の人が参加してくださるようになったんです。

さらに、参加者のTwitterフォロワー数や住んでいる国などの属性も分析できるので、企業のマーケティングとしても活用が期待できます。配信以外にも、ラジオ形式で音楽アーティストが一曲かけて、その後にインタビューするような番組の構成を行えば、新曲のプロモーションなどにも活用できるでしょう。

現在はベータ版で招待制となっていますが、正式版がリリースされれば、さらにユーザーが拡大していくと予測しています。

2.RELATION

二つ目は、シンガポール発のWeb3版Facebookと呼ばれるRELATIONです。分散型ソーシャルグラフを通じた交流ができる世界を目指すプロトコルです。

TwitterやDiscord、GitHub、Telegramといったサービスのほか、分散型ウォレットとも接続可能です。さらに、ユーザーの保有するNFTやトークンによって、AIが共通点のあるアカウントをレコメンドしてくれるのが特徴的です。

加えて、「チャットプラグインツール」という機能があり、NFTのマーケットプレイスやWebサイト上でも、RELATIONのユーザー同士であれば、NFTアートに関する売買やユーティリティに関する質問などをチャットできます。

そのほか、Link3と同様に、RELATION上での活動に応じてメダルが付与される仕組みも実装されています。Discordのイベントに参加する、誰かとチャットするなどの活動に対してポイントが付与されるため、RELATION内での貢献度を蓄積していけば、オンチェーン上で信用データを溜めることができます。

我々の日常の生活においても健全なコミュニティやエコシステムには円やドルといった通貨が必要ですが、RELATIONにおいても貢献度に対してNFTやトークンを発行する「SocialFi(ソーシャル×金融)」が確立されることがすでに検討されています。つまり、分散型SNSがコミュニティの持続的な成長の後押しをするツールになり得るというわけです。

3. Farcaster

三つ目はFarcasterです。元Coinbaseの副社長であるDan Romeroが立ち上げたプロトコルで、Web3版Twitterと言われています。直近ではApp Storeにも導入され、着実にユーザーエクスペリエンスを高めながら影響力を拡大しています。

こちらも先述したプロトコルと同様に保有するNFTを閲覧できたり、それをベースに人と交流することが可能です。まだ実装されていませんが、Farcaster上で友達になったらNFTが発行され、信用あるデータが溜まっていくような仕組みも出てくるかもしれません。

他方で、Farcasterが稀有なのは、クリプトネイティブなユーザーを中心に毎月5%だけユーザーを増やし、サービスを研ぎ澄ましていくことを目指していること。

Farcasterのアカウントを発行したい場合は、RomeroのTwiiterに直接DMして招待コードをもらうというアナログな手法で地道にユーザーを増やしている状況です。

すでにFarcasterを通じてさまざまなアプリケーションが開発されており、Mirrorのような分散型ブログやサービスとAPI連携してコンテンツを共有していくことで、Farcaster独自のエコシステムが広がっていく可能性を秘めています

Web3 Socialの領域における今後の展開や未来とは

以上、海外発の分散型SNSをご紹介しましたが、現状としてはあくまでWeb3という特殊なコミュニティへのプロモーションだと思っていただくと良いでしょう。

今後、Web3のマスアダプションが進み、オンチェーンに蓄積される個人の活動履歴や実績などがより多く可視化されていけば、人を信用するための参考材料のひとつになり、インターネット空間は「信用ある世界」に少しずつ近づいていくと私は捉えています。

その上でキーワードになるのが以下の五つです。

Web3 Socialが広まってくると、何をどのような形でオンチェーンに乗せるのかという「オンチェーンアクティビティ」に対する議論が活発になると思います。

また、スコア化されたクレデンシャルデータを、どう採用や営業活動、エンジニアリング、あるいはマーケティングやブランディングに活かせるのか。さまざまな可能性を視野に入れながら思案していくことが求められるでしょう。

また、近年注目されているクリエイターエコノミーともかなり相性がいいと考えています。

アーティストであれば、企業や事務所に依存せずに自分で収益化を行い、活動の軌跡をオンチェーンに刻むことで、その積み重ねがファンのコミュニティの形成やロイヤリティの向上に繋げることができます。

一方、NFTを保有するファンに関しても、アーティストと新たな関係性を構築することが可能になります。例えば、話し合いながら自分自身が貢献したい度合いを決めてプロジェクトに関われるといった形も生まれるかと思います。そうなれば、「より応援したい」「貢献したい」という気持ちが芽生え、純度の高い熱心なファンが増えるかもしれません。

最後に、私個人の展望ですが、引き続き「BRIDGE THE GAP」というテーマのもと、国内外で見つけてきた面白いものをわかりやすく人々に伝え、コミュニティの隆盛をエンパワーする役割を担っていきたいですね。

Web3 Socialもそうですが、これからどうなるかわからないことをみんなで議論しながら模索していく作業がすごく楽しくて。自分が熱中できるくらい、面白いと感じるものを広めていくこと。そして、今あるものをどのように面白くしていくのかを考えること。自分のノウハウやパッション、ビジネスをフル活用しながら取り組んでいきたいと思っています。

ただ、総じて一番大切だと感じているのは、Web3 Socialのプロダクトを作っている開発者へのリスペクトです。私はあくまでコミュニティビルダーとしての観点なので、事業者や開発者を尊敬しつつ、一緒になってこの領域の可能性をもっと広げていきたいと思います。(了)

ライター:古田島 大介
企画・取材・編集:吉井 萌里(SELECK編集部)

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