• ナイル株式会社
  • 取締役 社長室 室長
  • 土居 健太郎

「マネジメントの実態」をどう可視化する? リアルな組織課題を発見し、解決する方法

〜「スコアが低い=悪いマネジメント」ではない。 独自のサーベイを実施し、個と全体のマネジメント課題を解決する組織改善の手法とは〜

組織をより良くしていく上で、重要な役割を担う「マネージャー」。だが、そのスキルアップや、現場のマネジメント状態の改善に、課題のある企業も多いのではないだろうか。

2007年に創業し、デジタルマーケティング事業を主軸として数々のWebサービスを展開する、ナイル株式会社。

社員100名規模になるまで人事の専任部署がなかった同社でも、マネージャーが本当にマネジメントの仕事をできているのか? がわからなかったという。

そこで、2018年にマネジメントの状態を可視化するための独自サーベイを導入。目標の設定やレポートラインの明確化など、マネージャーとしてすべき仕事ができているかを調査した。

その結果をもとに人事が、マネージャーに対するの個別のフィードバックや、サポートの必要なメンバーへのフォローなどを行い、組織の懸念を早期に発見。課題解決に必要なアクションをすばやくとることができているそうだ。

今回は、同社の人事責任者を務める土居 健太郎さんに、独自サーベイの設計から具体的な運用法、課題に対するアクションの仕方までをお伺いした。

「本当にマネジメントの仕事してますか?」を測るサーベイを導入

僕は、2009年にナイルに入社しました。当時は創業3期目で社員20名ほどの組織でしたが、キャッシュを回すのに精一杯で。とにかく売上を立てるために、様々なことをしていましたね。

その後、会社としてSEOの事業に一旦注力することになり、その立ち上げから事業責任者を務めました。軌道に乗った段階で後任に引き継いでからは、自社Webサービスの運用責任者や新規事業の立ち上げなど、ずっと事業づくりに携わってきました。

そんな中、社員が100名ほどになった頃に、ナイルが次のステップに進むためには、土台となる組織づくりに力を入れていった方がいいよね、という話が出てきたんです。

というのも、それまで採用や労務などの機能はあっても、人事の専任部署はなかったんですね。そこで2018年の秋に、僕がその役割を務めることに決まり、2019年の1月から正式に人事責任者になりました。

弊社は、デジタルマーケティング事業、スマートフォンメディア事業、モビリティサービス事業という3つの異なる領域で事業展開をしているので、もはや別の会社が3つあるような雰囲気がありました。

人事施策についても、各事業部の責任者が判断して取り入れているような状況でした。たとえば1on1は、もともと制度ではなく、「ヤフーの1on1」という書籍を読んだある部署のマネージャーが取り入れて、それを見た他部署が「うちもやってみようかな」といった形で広まっていったものです。

一方で、会社全体としてその目的やルールも決めずに始まったので、事業部によっては実施していなかったり、同じ部署内でもマネージャーによっては実施していなかったりして、足並みが揃っていませんでした。

こうした状況は、1on1に限らず各所で起こっていて。マネージャーが実際にどんなマネジメントをしているのか? がわからなかったので、それを把握するためにサーベイを実施することにしました。

理想の組織状態をつくる要素を言語化し、サーベイの設問を設計

サーベイの設問は、実は自分の経験が元になっています。最初に、デジタルマーケティング事業部で事業責任者をしていた頃は、プレイヤーだった時の経験から、どうすれば上手くいくかという方法をメンバーに教えることで、なんとかやっていたんです。

ですが、経験のなかったメディア事業部に異動して、自分がロールモデルではなくなったことで、今までのやり方が通用しなくなって。その際に、メンバーが動くには何を満たさないといけないのか、逆に何をすると良くないのか、といったマネジメントの本質がわかってきました。

この実体験や、マネジメントに関する様々な書籍を読んで、理想の組織状態をつくる要素を言語化しました。

▼理想の状態をつくる要素(土居さんご提供)

この要素を元にして、サーベイの設問に落とし込んでいきました。その際には、なるべく主観ではなく、事実として確認できるような質問を意識しました。

たとえば、「あなたの会社はミッションを実現するために努力していると思いますか」と聞かれても、現場のメンバーにしてみたらよくわからないと思うんですよ。

そうではなく、「あなたのチームでは1on1を定期的にしていますか」「目標は明確になっていますか」といった聞き方にしています。

また、サーベイは実名で実施しています。もちろん匿名の方が答えやすい人も中にはいると思うのですが、弊社の組織風土としてオープンコミュニケーションを大切にしているためです。

なので「人事として、みなさんが思っていることを率直に答えてほしい」と伝えて、四半期に一度、全社員を対象に実施しています。実際、サーベイの回答率はほぼ100%になっていますし、かなり率直に書いてくれていますね(笑)。

ここで気をつけているのは、要望の吸い上げには使わないということです。というのも、これをしてしまうと、不平不満があった際に要望をあげれば叶えてもらえる、というマインドセットができてしまうと思うんですね。

あくまで「チームの状態を把握する」という趣旨を明確にして伝えるようにしています。

「スコアが低い=悪いマネジメント」という評価はしない

第1回のサーベイを実施した結果、たとえば「目標が明確である」と回答した人は9割ほどで、「業務のレポートラインが明確である」と回答した人は6割ほどでした。

また回答は、部署別とマネージャー別の2軸で集計しています。全体と部署別の平均点を公開し、マネージャー本人の点数もあわせて個別に伝えているので、自分の課題となる部分が可視化されます。

▼実際のマネージャー別・集計表(一部抜粋)

ただ、この数字を鵜呑みにすることは危険だと思っていて。なぜなら、スコアが高いか低いかってマジックみたいなものなんですよね。

よく5段階評価のアンケートってあると思うのですが、人間の心理的に3をつける人が増えるので、弊社では4段階評価にしています。そこで「普通=不満がないので3」の人もいれば「普通=満足していないので2」をつける人もいますし、当日の気分に影響されることだってあります。

さらに、事業の状況によってもチームのムードが左右されるので、マネジメント以外の影響って結構大きいと思っていて。「点数が低い=悪いマネジメント」とは一概に言えないですし、全員が良い点数を取ることが目的でもありません。

大切なのは、マネージャー本人が自分自身やチームの課題と伸びしろを認識し、普段から意識して改善できるようにすることなので、評価とは切り離して運用しています。

一方で、マネジメントの課題に対する「仮説」を立てることはできます。

たとえば、同じ部署内の複数チームで目標やレポートラインの項目が低く出ていた場合、「大きな体制変更の後、マネージャーとメンバーの間でコミュニケーションが十分に取れていないのではないか」といった具体的な仮説が立ちます。

実際に、個別ヒアリングを行ってみると、数ヶ月にわたって1on1が実施されていなかったとか、体制が変わってから具体的な目標の話をしたことがなかった、といった話も出てきました。

あれこれと難しいことを考える前に、こうした基礎の部分を整備する方が有効なケースも、実はすごく多いなと感じています。

このように、人事としては、個別課題の解決に向けて具体的なアクションがしやすくなりましたね。特にピープルマネジメントはなかなか見えなくてフィードバックがしづらいのですが、サーベイがあることで、事実に基づいた対話ができるようになりました。

また、マネージャーだけでなく、メンバー側へのアプローチも行っています。点数付けやコメントなどが気になるメンバーには、人事が個別に近況をヒアリングさせてもらったり。体調面で心配ごとがあると回答した方には労務から声掛けするなど、必要に応じて解決に動きます。

以前よりも懸念発見が早くなったことで、人事からも早期の対応ができるようになりましたし、最近は懸念そのものが少なくなりましたね。

マネージャーの目線を揃えるため、マネージャー合宿を実施

さらに、個別のアプローチだけでなく、全社的にマネジメントスキルを上げるための取り組みも始めています。マネジメントに関する外部研修の導入や、1on1のガイドライン作成などを通じて、土台を整えている段階です。

またスキルだけでなく、マネージャー層の目線を経営に近づけることも大切だと思っています。

以前から、経営とマネージャー間に距離があることが課題だったのですが、サーベイの結果を見ても、改めてそれが浮き彫りになって。組織の一体感におけるスコアが低い要因として、事業部間の隔たり以上に、縦のレポートラインが弱いことの相関性が高かったんです。

弊社では、2018年の8月にミッション・ビジョンを、そして2019年の7月にバリューを刷新し、今は浸透させていくフェーズなんですね。それを進めていく上で鍵となるのは、やはり経営と現場をつなぐマネージャーだと思っています。

そこで、全社のマネージャー約20名を集めて半日かけた合宿を、今年の6月、11月の計2回実施しました。この合宿では、主にミッションやビジョン、バリューなどについてテーマを設定し、グループディスカッションなどを行いました。

ナイルが掲げている理念に対して、お互いにどう解釈しているのかがわかりましたし、共通のテーマに対して考えを深めたことで、マネージャー同士の交流が増えたのもよかったですね。

この合宿を通じて、普段気兼ねなく会話するシーンが増え、事業部合同のイベントが企画されるような動きも出ています。

事後アンケートでも「今後も半期に1回くらいやりたい」と回答した人が8割いたので、今後も継続的に行っていきたいと考えています。

人事の仕事は「外」に向かう組織のエネルギーを最大化すること

僕は、生産性の高い組織って、社員全員が社会やユーザーなどの「外」に対して、懸命に考えて行動できている状態だと思うんですね。逆に、自分の評価がなんでこうなんだとか、社内のことにエネルギーを使っている状態が、一番生産性が低いと思っています。

現場のメンバーからすると、任された責務があって、それに対する成果や承認によってモチベーションが高まるのが普通じゃないですか。それをベースとして考えるべきで、会社のあらゆる制度とか人事施策というのは、これをいかに邪魔せずに促進できるかに置かれるべきかなと思います。

つまり、会社において人事が「目的」になることって100%ないと思うんです。

組織づくりが目的になることもないし、働きやすさが目的になることもない。フレームワークやツールなどはあくまで手段ですし、どれが正しいかは組織によって異なりますよね。

まずは会社の事業や現場で働く人たちにきちんと目を向ける。そして、全員が外に向かってエネルギーを発揮できているのかをみて、それを妨げているものがあれば取り除いていく。

今後も、1つひとつの課題に目を向けながら解決し、組織を強くしていきたいと思います。(了)

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