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- 執行役員
- 勝村 泰久
離職率67%→9%への軌跡。採用を通じた組織開発「エントリーマネジメント」とは
〜組織崩壊で離職率が67%に高まり「組織の入口管理」の重要性を認識。KPIを「一次選考後の辞退率」とし、期待値を徹底的すり合わせる採用施策の全容〜
人材が長く定着する組織をつくるためには、どのようなプロセスを踏むと良いのだろうか。
2016年に創業し、日本発のボイスメディア「Voicy」の開発運営を行う、株式会社Voicy。
同社では、2019年に組織崩壊が起こり、一時離職率が67%にまで高まってしまったという。そこから、採用を通じた組織開発である「エントリーマネジメント」を開始。
まず、求人の必要性を現場のメンバーと徹底的に議論し、妥当性を見極め。その上で、求人票・採用広報・面接・内定オファーの各プロセスにおいて、自社とのマッチ度を候補者自身が的確に判断できるような情報発信、すり合わせを徹底しているそうだ。
取り組みを実施した執行役員の勝村 泰久さんは、「人事は最も求人を止めるべき人であり、求人を出すのであれば、双方の期待値が一致した状態で採用できるようなコントロールが重要」だと語る。
今回は勝村さんに、エントリーマネジメントの取り組みの全容や、大切にしているスタンスについて詳しくお伺いした。
社員が半減する組織崩壊を経験し、エントリーマネジメントを開始
僕は、新卒で総合人材サービス企業に入社し、営業部長や新規事業の立ち上げ、HR責任者といった経験を経て、2020年1月にVoicyに入社しました。現在は執行役員として、人事や事業開発などを幅広く担っています。
弊社は、今でこそ離職率9%の「人材が定着する組織」になっていますが、実は過去に組織崩壊を経験していて。
創業から数年は、株主や業務委託の方の力を借りて事業を伸ばしていた中で、2019年の資金調達を機に初めて社員を増やし、30名以上の組織へと急拡大しました。
しかし、それから1年と経たずに退職が相次ぎ、社員は16名に減少、離職率は67%まで上がってしまいました。
その理由はいくつかありますが、代表の緒方が語るビジョンと事業成長がかみ合っていなかったり、組織も経営も未熟でチームビルディングがうまくいっていなかったり。こういう時は「聞いていた話と違う」といった言葉が社内で横行すると思うのですが、まさにその状態で、コミュニケーションロスによる問題が大きかったですね。
僕が人事として入社したのは、組織崩壊が起きている真っ只中でした。そこで、退職が決まっていた全員に話を聞いて課題を把握し、1ヶ月ほどで組織体制の変更やオンボーディングの設計、サーベイを基にした細かい運用変更などを実施しました。
その一連の出来事で感じたことは、職務内容や人間関係、会社の方向性や待遇面といった主な退職要因は、応募から入社までのすり合わせを徹底していれば、事前に解消できていたのではないかということです。
そこから、「組織の入口管理」の重要性を強く認識するようになり、2020年2月頃からの採用活動においては、採用を通じた組織開発である「エントリーマネジメント」を強化することを決めました。
人事は求人を出すのではなく止める人。その必要性を徹底的に確認
採用活動において僕が最も重視しているのは、「求人の必要性」の確認です。それは、人事は一番求人を出してはいけない人であり、「求人を止めることが仕事」と捉えているからです。
大抵は「人手が足りないから」という理由で現場から求人の要望が出ますが、経営において人件費ほど怖い経費はありません。
なので、求人を希望する部門や経営陣と「なぜ人を増やす必要があるのか、増えないとどんな影響があるのか、人が入らない前提でどんな代替手段があるか」を徹底的にすり合わせるようにしています。
加えて、サーベイなどでの組織状態の確認や、代表と部門のメンバーとの日常的な壁打ちで、経営者が向かいたい方向と部門が向かいたい方向がマッチしているかも人事が確認しています。
その上で求人を出すことが決まれば、「求人作成→採用広報→一次面接→二次面接・ワークサンプルテスト→内定」といったフローで採用活動を行います。
求人作成では、GoogleやAmazonなどの求人票が非常に細かい情報まで載せているのを参考にして「なぜ募集するのか、具体的な職務範囲や給与、募集チームの組織構成、上長はどんな人か」まで、できる限り細かく記載しています。
また、中には「声の求人票」を貼っているものもあり、社員が語る形でその内容を10分ほどの音声にまとめています。
それによって、一緒に働く人の雰囲気が事前に伝わりやすくなりますし、求人票を見た段階で「自分に合いそうか、活躍できそうか」を、ある程度判断できるようになっていると思いますね。
▼実際の「アカウントプランナー/新規事業開発」職の求人票(一部抜粋)
「採用狭報」のスタンスで、自らマッチ度を判断できる情報を発信
エントリーマネジメントを開始した当時は採用広報ができておらず、自社にマッチしない方も多く応募されていました。そこで、2020年5月からWantedlyやnote、オウンドメディア、Voicyの音声採用チャンネル「採用なう」での発信を開始しました。
まずWantedlyとオウンドメディアでは、就業ルールの変更や社内イベントの紹介などの直近の出来事を掲載し、Voicyの生感が伝わるような内容を発信します。候補者の方には面接官情報として入社エントリーを事前に送るので、その際に読んでほしい記事TOP3も目に入るようにしています。
一方、noteでは目線を上げて、代表の「声の履歴書」や今どんなことを考えているかというメッセージを主に発信しています。これによって、候補者の方が最初から「noteを見たのですが、あの内容ではー」といった深い質問から入るようになりましたね。
いつからか採用市場は「とりあえずエントリーして、カジュアル面談で判断する」という世界観になりましたが、以前ナイル社の渡邉さんがおっしゃっていた「採用狭報」という考え方を僕も大事にしていて。
採用広報における基本スタンスとしては、「広く報じず、届けたい人にだけ届けば良い」と考えています。仮にマッチしない人が僕たちの発信を見たら、自然と離脱するような設計にしていますね。
KPIは「一次面接後の辞退率」。事実を伝え、次に進む覚悟を問う
その後の選考におけるKPIは、「一次面接後の辞退率」としています。
やはりここでも、いかに自社にマッチする候補者の方だけに次に進んでいただくかを重視していて、そのために気をつけているのは「事実をありのままに伝える」ということです。
志望動機は一切聞かず、退職理由や転職において希望する軸を徹底的に聞くのですが、Voicyでその軸をどこまで叶えられるか、これまでの経験ですぐに生かせる部分と生かせない部分はどこか、希望年収に対してはどのくらいの提示になりそうかなどを率直にお伝えしています。
また、会社説明においても「数ヶ月前に組織崩壊が起きています。事業もこれまで真っ直ぐ成長したわけではなく、過去にはこんなことが起きました」と背景も含めてすべてお伝えします。その上で「こういった波がある状況に耐えられそうですか?」と問いかける形ですね。
無責任と言えば無責任なんですが、「一次面接はすり合わせの場なので、合わないと思ったら辞退してくださいね」とお伝えして、相手に投げかけて判断していただくというスタンスを取っています。
続く二次面接では、ワークサンプルテストやメンバーとのランチも実施しています。実際に一緒に働くとなれば、業務スキルだけでなくデスクサイドコミュニケーションとワークコミュニケーションが重要になるので、ここではコミュニケーションフィットとアウトプットを1対1の割合で見ています。
メンバー側には、声をかけた時のリアクションや話す感じを見て、候補者の方に対してどう思うかを聞きますし、同時に候補者の方にも僕らの日常を見てもらって、その中に自分がいるイメージがあるかを感じ取っていただく形ですね。
また、選考に関わるメンバーには事前に「事実を伝えてください。必要以上に良く⾔う必要もなければ、悪く⾔う必要もないです」「⽬指している未来やビジョンは、今できている/やっていることではなく、しっかりと未来軸で語ってください」 といったガイドラインも伝えるようにしています。
選考過程で信頼関係が形成され、内定承諾率は85%以上と高水準
内定までの選考過程において、次のステップに進めるかどうかの判断基準は、「スキルの再現性と当社へのカルチャーマッチ度」の2点だけで、スペックは全く重視しません。
というのも、音声メディアは新しいマーケットなので、経験者がいない中で人材を採用しないといけなくて。なので、このマーケットの現在地や未来において、候補者の方が持っているスキルの再現性がどこにあるだろうかという視点で、類似ポイントを見つけ出すようにしています。
内定オファー面談では、転職活動を通じてどのように軸が変わったかを伺った上で、あらためてVoicyで提供できることと、提供できないことをお伝えします。そのままテンションが上がった状態で受けられると期待値がずれてしまうので、すぐ決める人は一旦止めて、一晩考えてもらうこともありますね(笑)。
複数社から内定が出ると、候補者の方は収入などのハード軸で最終判断をしがちなので、「なぜ転職したかったのか、これからどうなりたいのか、そのためにはどんな環境に身を置くと良いか」といったところを一緒に整理してあげることが大事だと思っています。
そういったやり取りで築かれた「そこまで言ってくれるんだ」という信頼関係は、入社後にも大きく役立つと思いますし、エントリーマネジメントを開始してからの内定承諾率は85%以上を維持しています。
その後のオンボーディングとしては、入社前からSlackのシングルチャンネルに招待し、社員のプロフィールカードや、社内のみで公開されている「声の社内報」の共有も行っています。
入社当日はランチ前にチームメンバーの声の紹介を聞いてもらって、初対面でもパーソナルな会話をしやすくしたり、入社から1週間以内に代表から直接メッセージを伝える時間を設けたりといった工夫もしていますね。
そして、入社前と入社当日の午前・午後、入社後1週間の4回のタイミングで、それらのオンボーディング体験に対する評点をつけてもらっています。点数が低ければその要因をヒアリングし、本人の承諾があれば「今悩んでいること」という項目を上司にも共有して、それらを短期で改善することで信頼関係を強固にするということを繰り返しています。
人が定着する組織になり、メンバーが事業に向き合える環境を実現
このような一連の取り組みを通じて、離職率は67%から9%まで改善し、2020年は26名の新しい仲間が増え、40名規模の組織になりました。
入社後の定期面談では、入社前の期待値とのギャップは無いという回答がほとんどで、組織の課題が解決されたことでメンバーがきちんと事業に向き合えるようになったことが、一番の成果ですね。
ただ、エントリーマネジメントは「入社したタイミングの組織にフィットするかどうか」を重視するので、スタートアップとしてどんどん成長して、組織が変化したタイミングでまた組織崩壊が起きるんじゃないかという悩みはあります。その点は今後も考えて改良していければと思います。
今後やりたいこととしては、僕らは音声体験のEXを「VEX」と呼んでいるのですが、それを強化していけば「退職時にその企業のファンになる」という世界観が作れるんじゃないかと思っていて。
音声のオファーレターを聞いて入社時の気持ちを思い出したり、表彰や目標設定、イベント時などに録音した音声から「Voicy人生」を振り返ってもらって。最後にみんなの寄せ書きメッセージを聞いて「いい会社だったな」と感じながら次のステージに進む。そんな体験が作れたら嬉しいですね。(了)