- 一般社団法人全日本ピアノ指導者協会
- 専務理事
- 福田 成康
「IT未経験」でも勤怠管理システムを開発!?業務改善に役立つ「FileMaker」活用法
〜大切な情報のインプットから、アウトプットまで。社内に蓄積するデータを「FileMaker」で管理する取り組みを公開〜
大切な情報をパソコンのどこに保存したか、わからなくなってしまった経験はないだろうか。
社内データベースは、そんな悩みを解決するITシステムだ。データベースを活用すれば、例えば顧客の連絡先や、在庫、売り上げといった情報を、ひとつの場所に保存して、いつでも呼び出すことができる。
しかしこうしたシステムは、構築に多くの時間と費用がかかる場合が多い。さらに、実際にデータベースを使うとしても、それを多くのスタッフが使いこなせるようになることは稀だ。
一般社団法人全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)は、コンクールやセミナーといった事業を中心に、ピアノの指導者を会員として音楽教育を行なっている業界団体だ。同協会では、そんなデータに関わる課題を解決するために、データベースソフト「FileMaker(ファイルメーカー)」を活用している。
その活用法は、会員情報の管理から、Webサイトの情報の自動更新に加えて、スケジュール管理や経理システムまで多岐に渡る。しかも同協会では、社員みんながデータベースを活用して、リアルタイムに日々、業務の改善を行なっているというから驚きだ。
今回は専務理事の福田 成康さんと、エンジニアを担当をしている野口 啓之さんに、FileMaker導入の背景から現在の活用法まで、詳しいお話を伺った。
発足から50年。現在は、社員が毎日「FileMaker」に触れる職場に
福田:私は弊会で、代表理事をしております。もともとは環境系の仕事をしていましたが、その後母が創立した協会の経営を引き継ぎ、今年で28年目になります。
野口:私は現在、ITマネージャーを担当しています。弊会はメンバー30名のうち、エンジニアは5名ほどしかおりません。ですので、会員サイトの運用や、Webサイトの設計、サーバーやネットワーク基盤の管理、それから電球の交換まで(笑)マルチに業務を行っています。
福田:ピティナは社団法人化して32年、発足からはまもなく50年になります。おもに個人でピアノ教室を開いている先生向けの教育と、ピアノコンクールの運営をしています。
弊会では、業務に使うシステムを全て、「FileMaker(ファイルメーカー)」を使って内製化しています。
▼FileMakerで管理された会員情報
▼FileMakerで制作された会員のピアノ教室紹介ページ
例えば、会員・コンクール・セミナー等の各事業の事務システムは、全てFileMakerで開発されています。仕事のベースになる情報がすべて集約されているので、エンジニアだけでなく、社員みんなが毎日、FileMakerを使って仕事をしている状態です。
実際に、入社前は全くのIT未経験だった社員が、アナログのタイムカードで行なっていた勤怠管理を、全てiPad上で登録するシステムを開発した事例も生まれました。社内にも「エンジニアでないとできない」から「自分でもできる」という自信をもってくれる社員が増えましたね。
▼iPad上での勤怠管理システム
▼FileMakerに入力された勤怠情報が登録されている
データベースの選定は慎重に!渡米し、開発者と対話しながら比較
福田:もともとFileMakerを導入するきっかけは、今から20年ほど前まで遡ります。
その当時の会員数は、まだ3,000名ほどでしたが、全ての情報を紙で管理していて、その状況に限界を感じていました。今では考えられませんが、あるコンクールの申込者の登録に、数ヶ月かかるなんてことが起こっていたんですよ。
そういった課題を解決するため、データベースシステムを導入することにしました。ただ、しっかりと今後も生き残るデータベースを導入しなければ、別のデータベースへ移行しなくてはならなくなった際に、再構築のコストが掛かるので…。私たちも慎重に、利用するツールを選びました。
具体的には、各データベースのベンダーに直接、話を聞きに行ったんです。FileMakerの場合は、なんとアメリカまで行って、FileMaker社の社長や、開発者に会いました。
各社から情報を収集をしていく中で、当時他社のデータベースはバージョンアップのたびに、それまでのアプリケーションが使えなくなっていることがわかりました。しかしFileMakerでは、既存のアプリケーションが全てそのまま使えて、かつ手軽にカスタマイズできると。それが決め手となって、色々と試し使いをしていた中でも、FileMakerへ一本化するようになりました。
また、実際に開発元から今後の製品の計画や、バージョンアップの方針を聞いたことで、「今後も改善がされ続ける製品なんだな」と、納得して選ぶことができました。
名刺管理から、決済システムまで。FileMakerの拡張性を活かす
野口:今、FileMakerが、あらゆる業務の起点になっています。Webサイトの運用、各事業の事務システム、データ抽出から分析まで、全てFileMakerで実現できます。
例えばFileMakerでは、チラシを簡単に作成することもできます。レイアウトを作り、テキスト部分にFileMakerのデータベースの内容をそのまま表示させ、PDF形式で書き出すだけで完成です。
▼FileMaker上にてチラシに必要な情報を入力する
▼FileMakerに入力された情報がそのままチラシの情報として表示できる
イラストレーターやフォトショップなどと比較すると、デザイン性はやや劣りますが、データベースの内容をそのままチラシとして使うことができます。
何かひとつのデータをFileMaker上で差し替えても、自動でチラシが書き換わるため、毎月使うパンフレットなどを作成する場合には大変便利です。操作も簡単ですので、社員みんながFileMakerを日々活用しています。
他にも、QRコードを読み込むチケット発行システムを1日で実装したり、「PayPal(ペイパル)」と連携した決済サービスを、Webサイト上に組み込むこともできました。
▼QRコードを端末から読み取る
仮に欠点があるとすると、やや処理速度が遅いことです。そのため高速な処理を必要とする一部のWebサイトは、Ruby on Railsなどで構築し、FileMakerに備わっているESSという機能を用いて、MySQLと動的に連携しながら使っています。
最大の魅力は「プログラミング不要」で、誰でも簡単に使えること
野口:このように高度な機能も実現できるFileMakerですが、その大きな魅力はプログラミングの必要がないことです。簡単なアルゴリズムや、リレーショナルデータベースの基本思想さえわかれば、誰でも使うことができます。
アルゴリズムとは、分かりやすく一例を挙げるとするなら、特定の条件に合致しているかどうかで、データ処理するかを判断する「条件分岐」のことですね。
▼条件分岐を設定することで、データ処理するかを指定可能
そういった簡単な構造さえ理解していれば、あとはGUI(※)上で操作するだけです。レイアウトの編集を行いたい場合も、真っ黒な画面のコマンドプロンプトを使用せず、実際の画面を見たまま行える点が魅力です。
(※)GUI:グラフィカルユーザインターフェース(Graphical User Interface)の略。 システムの命令や指示を、画面上で視覚的に操作、指定できるものを指す。
ただ今までデータベースを全く使用したことがない社員にとっては、やはり習得の場が必要だと思っています。そのため、早朝に有志でFileMakerの勉強会をしています。
福田:もちろん、今まで以上に高度なこともできるよう、弊会のエンジニアは定期的にFileMakerのカンファレンスにも参加して、他社の開発や活用事例を勉強しています。
システムを全て内製化し、開発スピードとコストを改善!
福田:弊会本部事務局では、1年の終わりに全社員がそれぞれ、その年に行なった業務改善した事例をプレゼンテーションする機会があります。
今ではほとんどの社員が、データベースを使用して仕事をしていますので、改善内容の多くはFileMakerに関連した内容です。その中でもFileMakerを拡張開発して改善した事例は、全体の2、3割にのぼります。
▼FileMakerを拡張開発した事例のプレゼンテーション
FileMakerを使うと、自分たちで使い方を学習するコストはかかります。ですがその代わり、ソフトウェアベンダーに頼んだら数週間かかり、かつ数十万するレベルの機能変更を、数時間で実現できることは大きな魅力です。
何より、現場の社員がデータベースを設計することで、無駄なものを開発せずにすみました。細かい修正であれば数時間で改修が可能なので、ローコストかつスピーディーですね。専門のベンダーと比較すると、完成度は劣りますが、最小の工数で求める機能を実装できます。
開発の工数や苦労を理解している社員がほとんどですので、エンジニアへ開発を依頼するときも、感謝できる人が増えて、社内の雰囲気も良くなりました。(了)