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【事例7選】「XAI(説明可能なAI)」とは?その概要からメリット、活用事例まで

昨今、目覚ましい進化を続ける「AI(人工知能)」。しかしその一方で、AIには高度な技術が用いられているがゆえに、「なぜその結果が導き出されたのかを人間が理解できない」という問題が存在しています。
こうした背景から注目を集めているのが「XAI(Explainable AI:説明可能なAI)」です。
XAIとは、AIがどのように予測・判断を行ったのか、その根拠を人間が理解できる形で示すことを目的としたアプローチや技術の総称です。
すでに医療や製造、金融など、特に安全性や信頼性が求められる現場への導入が進んでいる一方で、ビジネスシーンにおいても、顧客との信頼関係の構築、意思決定プロセスの高度化といったさまざまなメリットをもたらす可能性があります。
そこで今回は、「XAI」の概要から導入のメリット、具体的な活用事例までをお伝えしていきます。ぜひ最後までご覧ください。
<目次>
- 「XAI」とは?その概要から注目の背景まで
- 「XAI」を導入することのメリット4点
- 「XAI」導入における課題・注意点
- 【事例7つ】「XAI」の活用が期待される領域
「XAI」とは?その概要から注目の背景まで
「XAI(説明可能なAI)」とは、AIがどのように予測・判断を行ったのか、その根拠を人間が理解できる形で示すことを目的としたアプローチや技術の総称です。
例えば、AIに写真を読み込ませて「犬」と判断されたとします。その理由が「犬に特徴的な耳の形状、鼻の構造が90%以上の確率で検出された」といった説明がされれば、そのAIは「説明可能である」といえます。
XAIの概念自体は新しいものではなく、AI開発の初期段階から存在していました。
しかし、機械学習やディープラーニングなどの深層学習が発展するにつれて、AIの複雑性が増し、後述する「ブラックボックス問題」の解決がより重要になってきたという背景があります。
日本国内では2018年頃から大きく注目されるようになり、総務省の「AI開発ガイドライン案(2017年)」や経団連の「AI活用戦略(2019年)」など、行政や各団体の指針にも透明性やXAIに関する内容が盛り込まれています。
それでは、なぜ今、改めて「XAI」が注目されているのでしょうか。
ChatGPTやClaudeなどに代表される生成AIツールはわずか数行のテキストプロンプトから精度の高い結果を出力してくれるため非常に便利で、日頃の業務で活用している人も多いと思います。
しかし、こうした通常のAI技術は内部で複雑なパラメータが相互に作用しており、その思考プロセスまではわかりません。これが、「ブラックボックス」問題です。
しかし、AI技術を活用したさまざまなサービスが普及する中、生成されたコンテンツが意図しない偏見や差別を助長する可能性があり、企業や開発者は社会的責任と倫理的配慮を問われるようになりました。
また、重要な意思決定にAIを活用する場合、「なぜその判断が行われたのか」「その判断をどこまで信頼できるのか」を企業内のメンバーや顧客に説明する責任がますます高まっています。
こうした課題の解決を目指し、AIの意思決定プロセスを明確にするのがXAIです。
XAIは、「入力されたデータのどんな特徴が、どの予測や判断に影響を与えたのか」を可視化し、人間の解釈を手助けします。
これにより問題発生時の原因究明が容易になり、リスク管理や説明責任を果たしやすくなるといったメリットがあります。また、AIが潜在的に持つバイアスや偏りを検出し、より公平で倫理的なシステム構築にも貢献します。
XAIは、人間がAIを理解し、信頼し、適切に活用できるようにする取り組みであり、AIの社会実装が進む現代において、その重要性は一層高まっているといえるでしょう。
「XAI」を導入することのメリット4点
ここでは、XAIを導入することによる具体的なメリットを4点紹介します。
1.ビジネスリスクの低減
AIの判断プロセスが不透明だと、誤った結果・判断に対して企業が法的責任を問われるリスクがあります。また、法規制が強化される中で、コンプライアンスリスクも高まっているという背景があります。
XAIによって結果を説明できるようになれば、問題が起きた際の原因究明がスムーズになり、迅速に対策を打ち出せます。また、法的・倫理的観点からも企業のリスクを低減できます。
2.意思決定プロセスの高度化
XAIでは「なぜ、その結果が生まれたのか」を明確に示すことができるため、ユーザーはそこから学びを得られます。
例えば、マーケティング戦略の立案にAIを活用した場合に、「どこが自社の戦略として強みがあるのか?」「どの顧客層へのアプローチを優先すべきか?」などを理解でき、より自信をもって施策を打てるようになります。
また、AIが見つけたパターンや法則を人間が理解できる形で示すことで、医療や科学などの分野にも新たな知見をもたらす可能性もあります。
3.顧客・ユーザーへの納得感の提供
融資審査や医療診断など、人生の重要な場面でAIが判断に関わるとき、多くの人は「なぜこの結果になったのか」を知りたいと思うものです。
従来は「AIによって判断されたから」という形でしか伝えられませんでしたが、XAIの導入により、「あなたの過去の返済履歴と職業の安定性からローンを承認しました」といった具体的な説明ができるようになります。
これにより、ユーザーは盲目的にAIの判断を受け入れるのではなく、理解した上で判断を受け入れることができ、企業の信頼性向上にも寄与します。
4.バイアスの検出・モデル修正
AIの思考プロセスにおける「なぜ?」を理解できることは、開発者にとってはモデル改善のヒントになります。
例えば、融資審査において返済能力に関係のない情報(居住地など)を重視して判断していることがXAIによって判明した場合、入力するデータセットや学習プロセスを見直すことができるようになります。
これにより、AIシステムの品質向上と公平性の担保に貢献し、より信頼性の高いAIの実現が期待できます。
「XAI」導入における課題・注意点
先ほどお伝えしたようにXAIには多くの利点がある一方で、実際の導入にあたっては以下のような課題が存在します。
1.実装・運用コスト
XAIの実装には追加のリソースが必要になります。加えて、計算コストが高い技術も多く、リアルタイムでの情報反映が難しいケースもあります。さらに、専門知識がない一般人でも解釈できるレベルに情報を整理するにも時間がかかります。
そのため、説明可能にすることの価値と実装コストのバランスを考慮し、XAIを実装する部分を絞ることも必要です。
2.機密性の高いデータの扱い
金融や医療などの機密性が高いデータを扱う分野では、情報の透明性とデータ保護のバランスをとり、リスク管理を行うことが重要です。
AIの判断根拠を示すために過度に詳細なデータを開示してしまうと、プライバシー侵害や情報漏えいにつながる可能性があります。
そのため、個人を特定できない形でデータを収集・学習させる、必要最小限の説明に留めるなど、各業界で求められる基準に合わせた設計が必要です。
3.人間とAIの意思決定プロセスの融合
XAIによってAIの思考プロセスが可視化されたとしても、それをどう解釈し、最終的にどのような意思決定を行うかは人間に委ねられます。
よって、もし社内でXAIの情報を共有する際には、どこまで信頼し、疑問をもって調べる必要があるかなどのルール作りが必要です。一方で、ルールを作り込みすぎると意思決定スピードが落ちる懸念もあるでしょう。
4.誤った解釈や過信リスク
XAIで人間が解釈可能な形になったとしても、それを人間が「正しく」解釈できるかは別問題です。人間には以下のような認知バイアスがあります。
- トンネルビジョン:特定の要因だけに注目し、全体像や他の可能性を見失う
- ハロー効果:「説明できた」ということだけで、必要以上に信じてしまう
そのため、XAIの出力を絶対視せず、複数の視点から検証する仕組みづくりや、専門家によるレビューといった形でリスク対策を行うことが重要です。
【事例7つ】「XAI」の活用が期待される領域
XAIは様々な分野で活用が進んでいます。以下に具体的な活用事例を領域別にご紹介します。
<金融>
金融業界では、ローン審査や投資判断などの場面でAIが活用されており、単なる審査結果だけでなくその根拠を示すためにXAIの導入が進んでいます。
三菱UFJ銀行の「住宅ローンQuick審査」はXAI活用の一例です。これは、スマートフォンやパソコンから住宅ローンの事前審査を申し込むと、わずか15分ほどで審査結果を確認できるサービスです。
同サービスにはNECの最先端AI技術群「NEC the WISE」のひとつである「異種混合学習技術」が活用されており、審査担当者の判断過程や暗黙知を可視化することで、その根拠をわかりやすく提示します。
※参考:AI/ビッグデータ導入事例 株式会社三菱UFJ銀行 様 – NEC
また、米国の大手金融機関J.P. Morganが開発する、生成AIを活用した投資システム「IndexGPT」も説明可能な形で設計されています。
具体的には、AIが投資に適した銘柄を選定し、その選定理由や市場トレンドを投資家に提示することで、投資家は自らの判断で最終的な意思決定を下すことができます。
※参考:Quest IndexGPT: Harnessing generative AI for investable indices – J.P. Morgan
<医療>
医療分野では誤診や不適切な治療方針は患者の生命に関わります。診断の背景が説明できなければ、患者が不安を感じるだけでなく、医療訴訟のリスクも高まります。
日本IBMは脂肪肝から肝がん発症リスクを予測するAIモデルを開発しており、XAI技術のひとつである「Grad-CAM++」を活用しています。
病理画像のどの部分に注目しているかを分析することで、人間では見過ごしがちな病理学的特徴を認識できるようになったといいます。
※参考:脂肪肝病理画像から発がんを予測するAIモデル – IBM
また、富士フィルムは大阪大学大学院と連携し、2019年4月に「人工知能画像診断学共同研究講座」を設置。医用画像診断支援システムの研究・開発を進めています。
この研究では、単に病変を検出するだけでなく、XAI技術を活用して「画像のどの部分、またはパターンをもって病変箇所と判断したか」を明確にすることに重点を置いています。
現在、富士フィルムはこれらの研究成果を「REiLI(レイリ)」というブランド名で、医療現場のワークフロー効率化や診断支援ソリューションとしてグローバル展開しています。
※参考:富士フイルムと大阪大学 共同研究講座を設置 人工知能(AI)を用いた医用画像診断支援システムの研究・開発を推進 – 大阪大学大学院医学系研究科・医学部
<製造>
製造業では品質管理や設備の予知保全にAIが活用されており、異常検知の理由を明確にすることで保全担当者の対応を支援しています。
花王は、製造プロセスにおいてXAIを活用した異常予兆検知システムを導入しており、AIの判断過程を製造現場のオペレーターが理解しやすい形で提供しています。
これにより、経験の浅いオペレーターでも正確に設備を監視できるようになり、スキルギャップの解消にも貢献しています。また、モデル開発にあたって監視業務の棚おろしが促され、世代間での技術伝承にもつながったとのこと。
予兆検知の対処について議論するための時間的余裕を確保できるようになったことで、問題の発生を事前に防いだ事例もあるそうです。
この取り組みは、第16回日本化学工業協会「レスポンシブル・ケア大賞」を受賞するなど、業界からも高い評価を受けています。
※参考:先進的AI技術を導入したプラントの異常予兆検知の取り組みが第16回日本化学工業協会「レスポンシブル・ケア大賞」を受賞 – PR TIMES
<公共サービス>
公共サービス分野、特に防災・消防においてもXAIの活用が進んでいます。昨今、全国的な課題となっている救急需要の増加に対し、日立製作所はXAIを活用した「救急需要予測AIシステム」を開発しています。
このシステムは過去の救急事案データや人口・気象などのオープンデータを学習し、1km単位で事案発生件数と現場到着時間を予測。その上で、平均現場到着時間が最短になる救急隊員の配置をレコメンドするというものです。
人命に関わる業務だけに、AIがどのような根拠で計算結果を出したのかが明確でなければ現場で安心して活用できないという考えから、開発当初からXAIの実装を進めてきたそうです。
さらに、現場隊員の経験と感覚がAIの予測と異なる場合、新たな情報をAIに学習させるなど予測精度の向上にも継続的に取り組んでいるといいます。
※参考・引用:救急需要予測AIシステム(消防局・消防本部向けソリューション) – 日立製作所
<マーケティング>
ECサイトでは顧客ニーズの多様化に対応するため、パーソナライズされた体験提供の重要性が増しています。この流れの中で、XAIを活用したレコメンデーションシステムを導入し、顧客満足度とブランドロイヤリティの向上に成功している企業が増えています。
Amazonはその先駆的な例で、20年以上にわたってAIを活用したパーソナライズレコメンド機能を提供してきました。
同社のシステムは単に「おすすめ商品」を表示するだけではなく、「あなたの購入履歴の〇〇に関連しています」「〇〇を閲覧したお客様がよく購入している商品です」といった形で、その推奨理由も明確に提示しています。
これにより、ユーザーは納得感をもって購買できるほか、推奨理由を知ることでより主体的な商品選択が可能になり、結果的に購買率を高めることにもつながっています。
おわりに
いかがでしたでしょうか。今回はXAIについて概要から活用のメリット、また事例まで幅広くお伝えしてきました。
AIの透明性と説明責任を担保するXAIは、AIと人間の健全な協働関係を構築する上で欠かせない技術です。
今後、AIを導入する企業や組織にとって、「説明可能であること」はもはやオプションではなく必須の要素になりつつあると言えるのではないでしょうか。AI技術の導入や活用を検討される際の参考になりましたら幸いです。(了)
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