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- 山本 花香
【特別対談】BASE x STORESのプロダクトマネージャーが語る、PMの役割と未来への挑戦
〜オンラインストア作成サービスを開発・運営する、BASEとSTORES.jp。同業界・同職種で現場のノウハウをシェアし合う、競合対談・第1弾〜
SELECKは、先日の2019年5月25日に4周年を迎えました。いつもご愛読いただいている皆さま、誠にありがとうございます。
今回は4周年を記念して、「同業界・同職種の方同士で、現場の知見を共有し合う」対談インタビューを、読者の方々と一緒に企画しました。
第1弾は、オンラインストア作成サービス「BASE」と「STORES.jp」の、プロダクトマネージャー(以下、PM)対談。
▼BASE(左)とSTORES.jp(右)のオンラインストア
業界を牽引するおふたりが語る、PMとしての役割やプロダクト開発の体制づくり、未来に向けた挑戦とはなにか?
BASE株式会社の神宮司 誠仁さんとストアーズ・ドット・ジェーピー株式会社の西岡 大揮さんに、詳しくお話を伺いました。
【左】ストアーズ・ドット・ジェーピー 西岡さん、【右】BASE 神宮司さん
オンラインストア作成サービスにおける、PMのやりがいとは?
ーー最初に、お二人の自己紹介をお願いできますでしょうか。
神宮司 では僕から…(笑)。複数のIT企業でのサービス企画を経て、2013年12月にBASEに入社しました。CEOの鶴岡とは入社前からの知り合いで、創業期のBASEを手伝っていた経緯があり、入社後はプロダクトに携わる幅広い業務を経験してきました。
カスタマーサポートや新規事業の立ち上げなどに携わった後、今から3年前くらいにショッピングアプリ「BASE」のPMになり、2018年4月からはEコマースプラットフォーム「BASE」全体のPMを務めています。
西岡 僕は、新卒で楽天に入社し、ECサイトのディレクターを務めました。その後、クックパッドに転職し、ディレクターとして「トクバイ」の小売店向けのマネタイズや機能開発を担当しました。2018年7月にSTORES.jpに入社し、以来PMを務めています。
前職と比べると、ネットショップ運営って幅広い機能が必要だなと感じていて。例えば、在庫管理や配送、決済など、もう機能の種類がとてつもなく幅広いんです。
その中で「やる・やらない」の判断や、優先順位をどのようにつけていくかという意思決定を、先手でできるかどうかがとても大事だと思っています。
神宮司 確かに、そこは僕も同感ですね。BASEは70万を超える店舗が出店してくださっているのですが、ショップさんの商材や規模、目的も様々だったりするので、求められる機能や運用の幅がかなり広いと感じています。そこの優先順位づけは、すごく難しいですよね。
数年前と比べると、特に運用面での変化を感じていて。少し前のショップオーナーさんだと、ECを使って売上を上げたいという方が多かったのですが、今はネットショップというインターフェースを通じて、自らの世界観やブランドを発信していきたいという方が増えました。
そうした中で、CVRや購入率という基本的な用語や、どうやって販売するかという基礎知識がない方も中にはいらっしゃって。そこをプロダクトを通じていかに簡単にして、課題を解決できるか、というところは、PMとしてすごくチャレンジしがいのある部分だと感じますね。
プロダクトマネージャーの役割は「意思決定」。その種類とは?
ーーおふたりの考えるPMの役割について、お伺いさせてください。
西岡 僕は、PMの仕事って基本的には意思決定だと思っていて、その種類を大別すると3つくらいに分けられるのかなと考えています。
まず一番大きな部分でいうと、数年単位の長期スパンでどういった課題を解決すべきか、競合マーケットの中でどういうポジションを取っていくべきか、といった意思決定です。
そこからブレークダウンしたプロジェクトであったり、KPIに対する施策の優先順位を決めるのが、2つめの意思決定。さらに、仕様だったり、UI/UXデザインなどの最終的にユーザー体験に落ちる部分が、3つめの意思決定にあたります。
これらの意思決定はすべてPMに求められるものですが、「自分が今、どの部分の意思決定をしているのか」を自覚することが、すごく大事かなと思っていて。
プロダクトやチームの状況を見極めつつ、それぞれの意思決定に割く時間のリソースを柔軟に変えていって、その判断のためにはどんな情報が必要なのかを考えています。
ーー意思決定の「種類」を自覚するということですね。BASEさんはいかがですか?
神宮司 BASEでも、何かしらのKPIを追っていると短期的な視点になりがちなので、意思決定のたびにこれは短期なのか、中期なのか、長期なのか、というのをすごく意識していますね。
また、その意思決定をするために、PMとして特に大事にしているのが、ショップオーナーさんの課題をいかに見つけられるか、ということです。
カスタマーサポート経由で共有された情報から、ショップオーナーさんの課題を洗い出すこともありますし、このタイミングでヒアリングしたいといった事象があれば、その都度依頼して会いにいきますね。
西岡 ヒアリングって大事ですよね。STORESではPMが複数いるのですが、入社時に必ず5、6社ほど同行して、ストアオーナーさんの意見をがっと収集する期間みたいなものを設けていますね。
プロダクトマネージャーは「分担」する? 開発体制の作り方
ーーSTORESさんではPMが複数いるとのことですが、開発体制について教えていただけますか?
西岡 もともと、僕が入社する前はPMというポジションがなかったんですよ。基本的には、社長の塚原が見ているような形で、そこに僕が最初のPMとしてジョインしたんです。
開発体制としては、プロジェクト別に担当のPMを置いて、要件に応じてエンジニアとデザイナーをアサインしている感じですね。現在は僕のほかにPMが2人いるのですが、まだ入社して日が浅いので、徐々に体制を作っているところです。
中長期を見据えてどのプロジェクトを始めるか、という意思決定は、今までは社長の塚原と僕で行ってきました。各PMの主な役割としては、関係部署と連携しながらプロジェクトをリードしつつ、開発の要件定義をしていくことですね。
この辺り、僕もBASEさんに聞いてみたかったんですけど(笑)、どのような体制でやってらっしゃるんですか?
神宮司 BASEの場合だと、組織上、PMと呼ばれる人は僕ひとりですが、徐々にプロダクトマネジメントグループという形で組織化しています。
このグループは現在6人で構成されていて、その中でPMの役割を分担している感じですね。例えば、プロダクト戦略を考える人、ユーザー体験の向上を担当する人、プロジェクトの進行管理をする人といった形で、それぞれが役割と責任領域をもつ体制になっています。
今までは、僕ひとりですべてを横断的にみていたのですが、どうしても抱えきれないですし、1つひとつが深まらなかったりして。なので、徐々に専門性を持たせて分散している形です。
これとは別に、オーナーズグロースグループという組織があって、そちらではショップオーナーの方々が目指す世界観の実現をミッションとして、カスタマーサクセスのような役割を担っています。
「やる・やらない」の判断や、開発の優先順位づけは?
ーー開発の優先順位づけについては、どのように判断されているのでしょうか?
神宮司 開発の優先順位については、外部環境やチームの状況、プロダクトの定量データなどの定性・定量の両面から現状の課題を把握して、総合的な判断を行っています。
BASEでは、クォーターごとにロードマップの見直しを行っています。大体1ヶ月半おきくらいに見直しの時期が入るので、なかなか大変ですが(笑)。
ーーこないだ見直したばかりだと思ったら、すぐに次の見直しになったりしますよね(笑)。
神宮司 ただ、これまではやることが結構決まっていたということもあり、短期を積み重ねていくフェーズだったので、これくらいの頻度でも良かったんですよね。徐々に中長期のスパンで戦略を作っていくフェーズに入ってきたので、頻度は変えてもいいかもな、とは思っています。
西岡 STORESでは、半年ごとにロードマップを見直して優先度を組み替えていますね。ユーザーの課題解決や競合マーケットにおけるポジショニングなど、機能追加することによるビジネスインパクトがどれだけあるか、という観点から見直しています。
また、年に1回は長期的なことを考える機会を設けていて、そもそもターゲットユーザーって誰なんだっけ? という上流から整理しています。その際、ペルソナを体現しているストアオーナーさんに会いに行ったりして、課題を洗い出した上で優先順位をつけています。
神宮司 BASEでも「どのようなショップオーナーさんに向けてサービスを成長させていきたいのか?」を大切にしています。優先順位って結構フレキシブルに変わっていくものだと思っているのですが、コアの部分はブラさないようにしていますね。
70万店舗もあれば本当にいろんな方々がいるので、自分たちがきちんと価値提供し続けなければならないショップオーナーさんたちはどんな方々か? がいつも議論の原点にあって。
開発の優先順位を組み換えるというのは、その原点に立ち戻り、価値提供すべき相手に適切なプロダクトはどういうものか、を考えた結果だと思っています。
プロダクトの改修は、どのように進めている?
ーー過去に、機能を開発したけれどクローズした、といった失敗ってありますか?
西岡 失敗事例ではないですが、STORESではリリースしてみて後から判断することが多いかもしれないですね。もちろん、みんなで議論した上で仕様を決めているのですが、1回リリースしてからオーナーさんの意見をもとに細かい修正を加えるようなフローになっています。
例えばこの間、顧客管理機能のUX改善のため、決済方法のカラムをひとつ削除したんですよ。というのも、少し要素が多くなってきてしまったので整理した方がわかりやすいんじゃないかと考えたんです。
ですが、リリース後に「その決済方法がないと発送処理が大変」みたいな問い合わせがいくつかきたので、それは半日〜1日くらいで判断してすぐに修正しました。
ずっとPMがいなかったこともあるので、わりと細かい修正についてはエンジニアやデザイナーが自主的に動いてくれる文化がありますね。
ーーこの辺りの改修フローについては、BASEさんはいかがですか?
神宮司 BASEでも、もちろんショップオーナーさんの反応はみていますが、細かい修正などは社内で気が付ける仕組みを作っています。
というのも、時が経つにつれてどんどん仕様が変わっていくので、どうしても綻んでいく部分が出てくるんですよね。
それを社内メンバー全員で拾うため、最近「#ダサいぞ」という名前のSlackチャンネルを作ったんです(笑)。みんながイケてないと感じたことを自由に挙げて、それをエンジニアやデザイナーが確認しています。
開発工数がかかりそうであればPMにボールが飛んできますし、文言変更などの細かい修正であれば、誰かやりたい人が手を挙げてアップデートしていく感じですね。
やはりPMだけでプロダクトをすべて見きる、というのは不可能に近いと思っているので、全メンバーがプロダクト作りに関わっているという意識を持ち、即座にアップデートしていけるような仕組みを徐々に作っているところです。
業界を牽引するプロダクトマネージャーが見据える「未来」とは?
ーー今後、プロダクトの方向性についてはどのようにお考えですか?
西岡 hey全体として、サービスを活用いただいてるお客さまを定義する言葉のひとつに「ライジングセラー」というワードがあります。これは自らのブランドやコミュニティを持ち、お商売をするオーナーの方々です。
今後、SNSなどを使って個人の特色を出すことで、コミュニティを形成してファンを作り、集客まで自分でできるような方がもっと増えてくると思っていて。
その方々がお商売を始めたり、楽しく続けていくというところにおいて、ネット販売ってまだまだ負が残っている部分かなと。それをプロダクトで解決していきたいと思っています。
神宮司 BASEでは「オーナーズ」と呼んでいますが、自分の選択や人生に対してオーナー権を持ち、それを仕事にしている人をいわゆるペルソナとして定義しています。特定の属性というよりも、「生き方」に近いですね。
そこにおけるプラットフォーマーの役割としては、オーナーズのリスクを、自分たちがどれだけ負えるか、というのがすごく大事かなと思っていて。
というのも、小さなチームで運営されていたり、ブランドを始めて間もなかったりして、誰もがすでに知っているようなショップさんばかりではないんですね。
なので、例えば金融や物流などの交渉をプラットフォーマーの僕たちが巻き取るなどして、いかにオーナーズがチャレンジしやすい世の中にできるか、ということに挑戦していきたいです。
ーー先日リリースした「YELL BANK」もその挑戦のひとつですか?
神宮司 そうですね。ショップオーナーさんの資金繰りの課題を解決するため、ほぼ即日で資金調達ができるサービス「YELL BANK」を、子会社のBASE BANKからリリースしました。
西岡 このYELL BANKが出たときに、個人的に「すごくいいな」と思って。今の市場において、信用の低い人たちがリスクを取れない、みたいなところは僕も課題だと思うんですよね。
海外のサービスだと、ShopifyやSquareがストアのトランザクションデータを元にお金を貸し出す仕組みがあり、ニーズは間違いなくあると思っていて。
ただ、国内だと法律上なかなかハードルが高かったりしたので、それをプロダクトの力で解決する思想や、その方法を粘り強く見つけてすごいなと、純粋に尊敬しましたね。
神宮司 ありがとうございます。めちゃくちゃ嬉しいですね(笑)。
ーー神宮司さんは、STORESさんのプロダクトで参考にしている点などありますか?
神宮司 プロダクト自体すごくいいなと思ってるのですが、最近で言うと、ストアのデザイン編集機能はまだショップを開いていない方にとってもすごく魅力的だろうな、と思いました。
自分のショップを開くというのは、まだまだマイホームを持つみたいな感覚で「夢」に近いと思っていて。それを、あんなに簡単にデザイン編集ができてストアにこだわれるというのは、デモ映像を見ても楽しそうでいいなと思いましたね。
プロダクトマネージャーの介在価値、その理想像とは?
ーー最後に、プロダクトマネージャーとして挑戦したいことをお伺いさせてください。
西岡 僕はPMの介在価値って何なのかをずっと考えてきたのですが、最近思うのは「事業の成長を一番に考え、物議を醸すような意思決定をすること」なのかなと。
というのも、圧倒的にリソースを集中したり、今までうまくいっていたことをやめて何かにフォーカスするといった大きなリスクを取らないと、スタートアップ的な非連続的な成長はできないと思うんですよね。
過去の経験を振り返ると、あまりうまくいかなかった施策ってデザイナーとエンジニアの要望する仕様の間を取って落とし所を見つけにいった結果、凡庸なアイデアに丸まってしまっていたことが多くて。
なので、今後の移りゆく市場の中でサービスを成功させるために、「これ、本当に大丈夫?」といった物議を醸すような意思決定のできるPMになりたいと思っていますね。
神宮司 僕は未経験でBASEアプリのPMを始めてから、ひとつの悩みを乗り越えるとまた次の悩みに突入する、という繰り返しで今までやってきました。正直、PMとしての悩みは尽きないです(笑)。
直近の悩みは、プロダクトマネジメントする組織をいかに作るか、ですかね。今まで僕ひとりでしていた意思決定を徐々に分散しているのですが、プロダクトのクオリティーを維持し、より向上させていけるか、は今後のチャレンジのひとつです。
そのために、プロダクトに対するビジョンを全チームに浸透できているかというと100%ではないと思うので、個人的にはリーダーシップを発揮するという部分により注力していきたいと思っています。
また今後、テクノロジーの進歩によって世の中や人々がどのように変わっていくのかを、広い視野と長期的な目線で捉えて、自分自身をアップデートしていくことが大切だと考えています。
例えばスマートフォンの登場のような時代の急激な変化が訪れても、プロダクトの成長のために適切な意思決定ができるよう、日々を積み上げていきたいですね。(了)