• クレストホールディングス株式会社
  • 代表取締役 社長
  • 永井 俊輔

レガシー産業からの脱却。老舗の看板屋がおよそ「5年で売上3倍」を実現した改革の全貌

〜あらゆる領域をDX化。二代目として事業継承した「老舗の看板屋」を変革し、約5年でおよそ3倍の売上を実現した組織改革と事業戦略の描き方〜

「創業200年以上の企業数」で世界トップに位置する日本では、長年発展を遂げてきた企業が多くある一方で、需要の減少が続く斜陽産業に属する「レガシー企業」も数多く存在する。

昨今、ユニコーン企業(※)と呼ばれるようなスタートアップが次々にイノベーションを起こしている中で、レガシー企業が生き残っていくためには、どのような成長戦略を描けば良いのだろうか。

※ユニコーン企業…評価額10億ドル以上で、設立10年以内の非上場ベンチャー企業

1983年、群馬県で看板屋として創業した株式会社クレスト(現:クレストホールディングス株式会社)。同社では、レガシーな看板事業を「花形」の成長事業に変革するため、2軸のステップを踏んだことで、約5年でおよそ3倍の売り上げを達成したという。

具体的には、「事業や組織のデジタルトランスフォーメーション」による生産性向上を行った上で、「レガシーアセット ✕ IT」によるイノベーションを起こし、新しい価値を創造することに成功したそうだ。

今回は、同社の代表取締役を務める永井 俊輔さんに、具体的な「2軸」のステップと、それに伴う組織変革について、詳しくお伺いした。

市場成長性の低さと「個人商店型」組織に課題を感じ、改革を決意

私は大手ベンチャーキャピタルに新卒入社し、M&Aやバイアウト投資に携わった後、2009年に株式会社クレストに入社しました。

クレストは父が看板の設計・施工業として創業し、私も学生時代から事業に携わっていました。入社後は長く営業を担当し、事業承継をして二代目の代表取締役となりました。

私が入社した際、明確に感じた課題があって。まず業界自体の認知が低く、成長性のある市場ではなかったということ。そして、営業活動から納品、請求書発行までを営業メンバー1人ひとりが行う「個人商店」の集まりで、組織として機能していなかったことです。

よりイノベーティブな商品やサービスが生まれなければ、既存産業は代替され、生き残ることが難しくなる。「この業界を変えなければ」と決意しました。

そして、1社目のベンチャーキャピタルでの経験から、レガシー産業がイノベーションを起こして花形産業への変貌を遂げるには、一足飛びではなく、2軸のステップが必要だと考えました。

あらゆる領域をDX化。生産性を向上し、資金と時間を生み出す

その2ステップとは、最初に既存事業の「生産性」を最大限まで高め(下図横軸)、次にIT技術を掛け合わせて「市場成長性」を高める(同縦軸)というものです。

▼クレストホールディングスにて実践しているLEGACY MARKET INNOVATION®の概念図


まず、看板事業の生産性を高めるために、サプライチェーンの変革を実施しました。当時はゼネコンの下請けである内装業者を通じた「孫請け」としての取引が多かったので、直接仕事を請ける「元請け」の形に変えていったんです。

これには当然ながら大変な反発がありましたね。5年ほどかけて、90%を占めていた孫請けの仕事は5%まで減り、今はほとんどが元請けの仕事になっています。

同時に、社内の生産性向上にも数年かけて取り組みました。いわゆる「デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)」ですね。たとえば、営業面では商談管理や請求データの連携、営業同士の情報共有のために、営業管理クラウドのSalesforceを導入するといった形です。

以前は、とにかく社内の情報共有ができていなくて。似たような属性のお客様に、どのような営業をしているのかといった事例のシェアや、営業分析を行うことのできる仕組みを作りました。

また営業だけでなく、マーケティング、会計、HR、コミュニケーションなど、あらゆる領域にITツールを導入し、効率化を徹底しました。まずは試してみて、課題がでてきたら別のツールを取り入れる。都度、改善を繰り返してきました。

さらに、個人商店の集まりから、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサポートと、役割を明確にした「機能別」の組織編成に変えました。

各自がそれぞれの役割に注力できるようになった結果、営業の利益率も上がりましたね。こうして、時間と資金を生みながら、次のステップへの土台固めをしていきました。

企業理念は、事業の「成長実感」が得られてから全員で決定する

土台ができた後は、目標管理の仕組みを刷新し、評価制度を作っていきました。レガシー企業の多くがそうだと思うのですが、以前は月次の売上高と粗利額というKGIしか置いておらず、その手前にあるKPIという概念がなかったんですね。

これだと、どこがボトルネックになっているかがわからないじゃないですか。そこでKGIを達成するための要素を細かく分解し、既存・新規顧客の売上配分や有効商談数、受注率などをKPIとして設定して、週次で追う形にしました。

また、当初は評価制度がなかったのですが、組織が100名ほどの規模になった2016年頃に、個人の「Will・Can・Must」と事業別の業績に基づいた評価制度を作りました。

その上で、組織変革の仕上げとして「経営理念」と「ミッション・ビジョン・バリュー」を定めました。これが、既存事業の生産性を向上させる第1ステップで、最後にして最も大事だと考えています。

このタイミングが、ひとつのポイントだと思っていて。というのも、組織がDX化して事業成長の実感が得られたからこそ、社員も前向きに理念や未来の話ができるようになります。

その策定プロセスでは、社員1人ひとりが自ら考えて決めたかのように導くことが大切です。「今からみんなで理念を作ろう」と言っても難しいので、5〜10人ずつの飲み会を開いて、こっそり理念を作るつもりで参加するんです(笑)。

その雑談の中で、社員同士の共感ポイントを探し、理念となる要素をまとめていきました。たとえば「仕事がだるい」とこぼす人がいれば、「だるいよね。それなら、なんで今この仕事をやってるの?」と聞く。負の感情の先にある、プラスの感情を引き出して、本人にもそれに気付いてもらうんです。

ここでは、社員と同じ目線や、あえて下からのコミュニケーションを取り、社長の前では言いづらいことも自ら発言することで、お互いが本音で語れるように意識しました。

さらに、経営戦略やマーケティングなどの成長に向けた議論は全員で行う一方で、役員の人員整理といった負の意思決定は経営陣のみで行いました。

こうした一連の「生産性向上」の取り組みによって、看板事業としては国内トップシェアの企業へと成長しました。

他産業の事例から解決策を類推。イノベーションの起こし方

次に取り組んだのが、「市場成長性」を高めてイノベーションを起こすステップです。

イノベーションを起こすには、既存産業の課題を抽出し、他産業の事例からその解決策を類推することが有効です。たとえば看板事業では「看板や店舗のディスプレイ広告は、効果測定ができていない」という課題があったんですね。

それに対して、私たちはWeb広告の計測を参考にしました。具体的には、リアルの世界でもエッジコンピューティングの画像解析技術を活用し、看板の効果測定が可能になれば、顧客に「投資の最適化」という新たな価値提供ができそうだと考えました。

そこで、「esasy(エサシー)」というリアル店舗トラッキング・計測カメラを自社で開発しました。全国の看板にesasyを設置することで、視認量や入店数、店舗前の交通量を性別や年代ごとに計測して、各店舗への関心度を分析できるようにしたんです。

結果、レガシーであった看板事業を、企画から効果測定までをシームレスに提供できるイノベーティブな事業に変革することができました。そして売り上げは、約5年でおよそ3倍に急成長しました。

現在は事業譲渡やM&Aにより、ガーデニング小売業、デザイン事業、材木卸売業が加わり、ホールディングスとして4つの事業会社を展開しています。いずれも元々は、レガシー産業の会社ですね。

私たちが看板事業で構築した、既存のレガシー産業を花形産業へと昇華する「レガシーマーケットイノベーション®」というモデルで、この3つの事業会社も同様の変革を行っています。

生産性を向上させる第1のステップには社員の9割が携わり、あらゆる課題から「イノベーションの種」を見つける役割を担っています。残り1割の社員が、第2のステップにあたる、事業特性に合わせたイノベーション改革を実行しています。

今ではそれぞれの事業会社が横軸でも連携し、常に情報交換をすることで相乗効果を生んでいますね。

本質的な価値を追求し、永続性のある「ゼブラ企業」でありたい

レガシー企業のDX化を進めていく過程では、社内から相当な反発が起きます。その時には「10年後を想像してください」と伝えるんです。

紙とペン、FAX、パソコンなど今まで当たり前に使ってきたものが、10年後には全く違う形になっているかもしれない。その世界に一歩でも向かっていかないと、このまま取り残されるぞと。

私がレガシー産業に身を置いて痛烈に感じることは、市場を独占するほど急拡大するユニコーン企業のような事業は、それ自体は素晴らしくとも、古い業界から顧客を奪ってしまうということです。

もちろん、市場原理はありますが、私は既存産業の企業が自分たちで変革を起こして成功する道を作っていきたいし、それに挑戦するプレイヤーももっと増えてほしいと思っていて。

最近では、ユニコーン企業と対照的な「ゼブラ企業」が注目されつつあります。会社の価値を追求しながらも、社会と共存・共栄しながら持続的な成長を目指す企業がそう呼ばれていますが、私たちの事業モデルもまさにそれと一致します。

今後は、弊社で実践しているモデルの概念を広めて、レガシー産業にいる多くの中小企業と共に、市場を盛り上げていきたいと思います。(了)

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