- 株式会社overflow
- 代表取締役 CEO
- 鈴木 裕斗
3年で270名に拡大!全社フルリモートでも「情報格差」を生まない組織の運営法
〜そのコミュニケーション、本当に必要ですか? 「KPIの可視化」「ドキュメント文化」「ラポール形成」etc…フルリモート組織が明かすコミュニケーション術とは〜
リモートワークにおいて、全社の「情報の透明性」をいかに担保できるかは重要な課題である。
2017年6月の創業以来、リモート前提での組織運営をしてきた、株式会社overflow。現在、270名ほどのメンバーを抱える同社では、これまで数々のトライアンドエラーを繰り返しながら、リモート環境下でのコミュニケーションを改善してきたという。
例えば、情報伝達の齟齬を生まないようにするため「テキストコミュニケーション」と「ドキュメント文化」を徹底。
会議では事前のドキュメント化と共有を可能な限りマストにし、「画面共有を必ず行う」「参加者はミュートにしない」「会議のオーナーを決める」といった会議中のルールを整備している。
また、偶発的に発生するコミュニケーションを担保するため、「ラポール形成(※)」という思想に基づいて、相互理解や感謝を目的とした様々な施策を行っているそうだ。
※ラポール形成…心理学用語で、心が通い合う関係性(=ラポール)の構築のこと
今回は、同社の代表取締役である鈴木 裕斗さんに、コミュニケーションの解像度を上げ、フルリモート組織でも情報格差を生まない方法について、詳しくお伺いした。
副業メンバー中心で組織を拡大し、日本中に眠る才能にリンクする
overflowは、まもなく創立3周年を迎えます。創業当初からリモートを前提とした組織運営をしてきて、現在は約270名のメンバーのうち、8割ほどが副業やフリーランスの方々です。
僕はもともと新卒でサイバーエージェントに入社したのですが、その頃から「いつか起業する」と心に決めていて。20代の頃は、様々な業務を経験しながら、どういう事業が良さそうか、どんなメンバーでやりたいか、を日々考えていました。
その頃に、現在のボードメンバーである田中、大谷と出会い、その後スタートアップへの転職を経て、2017年6月にoverflowを共同創業しました。
ただ、創業初期はうまくいかないことばかりで。金融サービスの「Fincy」というプロダクトを開発・運営しながら、新規事業を3、4つほど立ち上げてはピボットして…を繰り返していました。
いよいよキャッシュも尽きかけてきた頃、2018年3月から始めたコンテンツマーケティング事業が成長し、それがひとつの転機になったんです。
事業が伸びるにつれてメンバーも増え、その中で「眠っている才能って日本中にめちゃくちゃあるな」と実感して。大手出版社の出身ながら諸事情で地方に住んでいる方など、スキルセットも意欲も非常に高いメンバーが加わってくれました。
オフィス勤務が前提になってしまうと、そうした方々とは出会えないじゃないですか。でも僕らは、リモート前提で組織運営を続けてきたことで、日本中の才能にリンクすることができた。
そして、複数立ち上げたプロダクトも知人のエンジニアやデザイナーに副業で助けてもらいながら、すべてフレキシブルな体制で経営することができました。
この経験をもとに、副業という働き方をもっと当たり前にしたいという思いから、副業・複業マッチングサービスの「Offers」を2019年6月にローンチしました。
当時から約9割のメンバーがリモートで働いていましたが、新型コロナによる影響を鑑みてオフィスを手放す意思決定をし、今年の4月からはフルリモートに移行しています。
コミュニケーションを「4象限」に分類し、必要なものを可視化
当初から、エンジニアやデザイナーなどの副業メンバーがいたことで人集めには苦労しなかったものの、業務を進める上ではさまざまな問題がありました。
たとえば仕様書を渡しても、元となる思想を伝えていなかったことで「点」のアウトプットになりがちだったり、ストーリーの変更を伝えきれずに都度修正が入ることでメンバーが疲弊してしまったり。うまくディレクションしきれずに、プロダクトを世に出せなかったこともありました。
また、副業メンバーが10人を超え始めたくらいから、バックグラウンドの違いによる価値観のズレや、メンバー間の情報格差を感じるようになってきました。
こうして日々生じる課題をひとつずつ潰しながら、リモートで働く副業メンバーとのコミュニケーションの仕方を改善してきて、今はその最適なやり方がある程度わかってきたと感じています。
僕は、そもそも組織におけるコミュニケーションには、必要なものと不必要なものがあると考えていて。その分類に「必然・偶発」の軸を加えて4象限に分けると、下図のように整理することができます。
▼組織におけるコミュニケーションの整理
すべてを「コミュニケーション」で一括りにしてしまうと、ものすごく量が多いのですが、この中で僕が本当に必要だと思うコミュニケーションは、上記2つの象限だけだと思っています。
たとえば、形式だけの定例会議や付き合いでの飲み会などは、本来必要のないものだと思うんです。
オフラインでは周囲の目を気にして「断りたいのに断れない」という現象が起きがちですが、リモートワークになると目的ありきのコミュニケーションになるので、その取捨選択ができるようになります。
これが、フルリモート組織におけるコミュニケーションの前提になっていると思います。
数値の可視化とテキストでの伝達を徹底し、情報の格差を生まない
その上で、事業計画やKPI、タスク確認といった「必要・必然」のコミュニケーションにおいては、情報の透明性を担保した上で、情報伝達の齟齬を生まないことが大切です。
まず、社内のあらゆるデータを「Redash」というツールに集めて、事業・チーム別のダッシュボードを作成し、各KPIの進捗が誰でも常に見られるようになっています。
また普段のコミュニケーションでは、チャットツールのSlackやドキュメントツールのNotionを活用しています。
というのも、オンラインでの口頭コミュニケーションって、めちゃくちゃエラーが起きやすくて。それをテキストで明確にすることで、ファクトに近くなるんです。
Slack上で「なんかズレてるな」と感じたら、チャットではなくドキュメントに一旦落とします。そこに「背景・目的・課題・やりたいこと」の4項目を書いてから、相手に伝えるようにしています。
▼実際のドキュメント(一部)
また会議においても、事前のドキュメント化をルールにしていて。例えば、月イチの全社会議では、2日前くらいまでに各チームが所定のフォーマットに報告事項を記入しておいて、全員がそれに目を通し、質問があれば記入しておきます。付箋などで意見の吸い上げを行うイメージですね。
全部で60〜70ページになるのですが、会議では質問や意見が出揃った状態で始められるので、当日は回答のための時間に充てることが可能です。
またフルリモートになってから、暗黙知になっていた会議中のルールもいくつか明文化しました。
例えば、発表する人が「画面共有をマストにする」こと。オンライン会議って「今、どこの話?」となりがちだと思っていて。減らせるコミュニケーションや情報伝達のロスを防ぐために、必ず画面共有するようにしていますね。
また、大人数の会議であっても、子供がいて騒がしいなどの理由がなければ「ミュートにしない」ことも基本ルールにしています。
というのも、「考えて、ミュートを解除して、発言する」ってわりと重たい作業だと思うんです。発言のブレーキになってしまったり、相槌がなくて発表者が「本当に伝わっているかな」と心配しなくて済むように、ミュートはしない方がいいと思っています。
他にも、会議が曖昧なままに終わってしまうのを防ぐために、誰が会議のオーナーシップを持っているか明確にする、などもルールにしています。
「ラポール形成」を軸に、必要・偶発のコミュニケーションを設計
こうして「必要・必然」のコミュニケーションを効率化し、情報格差を生まないようにする一方で、「必要・偶発」のコミュニケーションを意図的に設計することも大切です。
そこで僕が大切にしているのが、「ラポール形成」という思想です。個の存在をお互いに認め合うことでより強い絆が生まれ、特に逆境の時、エネルギーに直結すると思っています。
例えば入社時には、全メンバーが自己紹介を書くようにしています。自分を象徴する写真を2、3枚貼ったり、好きなことや得意なこと、ペットの話などパーソナルな内容を書いてもらうことで、相互理解のきっかけになっていますね。
また全社会議では、メンバー1人ひとりがその月に感謝したい人を決めてメッセージを書く「Thanks to」という取り組みも行っています。
▼実際の「Thanks to」の様子
他にも、斜め1on1やピア1on1を活発に行ったり、週1の「オフカフェ」や月1の「もてなし会」など任意参加の場を設けたりすることで、ラポール形成を深めています。
弊社では、何かを意思決定する際に、最低3人から助言をもらう「助言プロセス」を推奨していますが、このベースにはやはり信頼関係があります。
誰がどのようなスキルを持っているかについては、Notionのタグで可視化されているので、そうした仕組みづくりも大切ですね。
また、形式的な会議はできるだけ排除する一方で、「偶発・必要」の会議は行うようにしていて。
例えば新しいアイデアのブレストや、お互いのバックグラウンドや知見を共有しないと前に進まない案件、また温度感をもって情報伝達したい場合などは、会議の場を設定するようにしています。
フルリモート組織を運営する上で重要な「3つの要素」とは
リモート前提の組織運営をしていくためには、経営者自身が意識を変えることが重要です。自分が現場の最前線にいるとして、どのようにすれば働きやすいかを、いかにイメージできるか。
漫画「キングダム」で例えるなら、中枢にいる将軍と最前線にいる兵士って、いわばリモートワークみたいな状況じゃないですか(笑)。
そうした状況で戦に勝つためには、兵士の戦闘力を上げる必要があります。そして、そのための要素が3つ。ひとつは、何のために戦うのかを明確にして、勝ったあとの世界を心から望んでいること。会社ではミッション・ビジョン・バリューに値します。
次に大事なのは、将軍や仲間から信頼されていると心から感じられること。だから、ラポール形成が大切なんです。
そして最後に、十分な装備を渡されていること。木刀で戦ってこいって言われても、かなり厳しいですよね。では、会社にとっての武器は何か。それはすなわち「情報」です。
結局、意思決定の質に差が出るのは、個々の能力差以上に情報の格差が大きいと思うんですよね。情報にゲートを作るようなマネジメントをしていると、その戦には一生勝てません。
そこで弊社では、情報の透明性を徹底的に高めて、各自が信念を持ち、信頼されている状況で戦えるような組織を構築しています。リモートでなくてもその要素は同じですが、情報伝達をいかにテキストなどで代替できるかが重要です。
今後は、自分たちの体験をもとに、必要なタイミングで必要な人と一緒に働いたり、自らの経験から事業を生み出したりするようなフレキシブル経営を、日本中の企業にインストールしていくお手伝いをしたいと思っています。
DXを企業の内側から推進できるように、必要な才能のマッチングを支援していきたいですね。(了)