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「誰にも売れなかった」暗中模索の2年半。金脈を探し、1年でリード数を13倍にした方法

〜ヘルステックからHRテックへ転換し、1年でリード数が13倍に。問い合わせの「階段」を作り、接触回数を増やすことで「運命」を演出する、マーケティングの全貌〜

「良いサービスではあるけれど、誰もお金を出さない」状態から抜け出すには、どのような意思決定が必要なのだろうか。

「働くひとと組織の健康を創る」というビジョンを掲げる、株式会社iCARE。同社が提供するクラウド健康管理システム「Carely」は、リリースして2年半もの間、全く売れない暗中模索の状態にあったという。

そこから脱するため、「誰のどのようなペインを癒すのか」に立ち戻り、ヘルステックから、労務管理の業務を効率化する「HRテック」へと見せ方を転換したことによって、エンタープライズからの問い合わせが一気に増加。

さらに、コンバージョンまでの「階段」となるホワイトペーパーの拡充や、インサイドセールスを中心にした攻めのナーチャリングによって、1年でリード数約13倍に、MRRでは2年連続・2倍の成長を遂げているそうだ。

今回は、同社の取締役CROの中野 雄介さんと、マーケターとしてCarelyの成長を牽引した小川 剛史さんに、マーケティング施策の全貌を詳しくお伺いした。

誰にも売れない、暗中模索の2年半。「Carely」が直面した苦難

中野 僕は2015年11月に、iCAREの1人目の社員として入社しました。セールスを中心に、ビジネスサイドの業務に携わった後、2019年9月にCRO(Chief Revenue Officer)に就任しました。現在は、売上に関するセールス・マーケティングの統括責任を担っています。

僕が入社した当時は、クラウド健康管理システム「Carely」の前身となる、人事と産業医をつなぐクラウドサービス「Catchball」を提供していました。

でも、2、3年でたったの1件しか契約が取れなくて(笑)。Catchballは、人事ではなく産業医の方をターゲットにしたサービスだったのですが、全然売れなかったんですね。

▼左:中野さん、右:小川さん

そこで改めて「誰に向けたサービスを作るか」を当時のメンバーで議論したんです。その時に「働くひとと組織の健康を創る」という会社のビジョンからプロダクトを見直して、「働くひと」、つまり「従業員」を対象としたサービスに変えることにしました。

そうして、2016年3月に「Carely」をローンチしたのですが、これも最初は全然売れなくて(笑)。

初期のCarelyは、人事と産業医との情報共有に加えて、専門家への相談窓口が備わったサービスで、「オンライン保健室」をコンセプトにしていました。

また、当時「〇〇テック」が流行っていたので、Carelyも「ヘルステック」と名乗っていて。でも、それに反応したのは医療従事者の方々だけだったんです。

我々としては、企業に導入していただきたい。けれど、人事の方に「従業員さんの健康は守るべきですよね」といった話をすると、みなさん「いいですね」とは言ってくれるものの、実際にお金を出す人はほぼいなくて。金脈がどこにも見当たらなかったですね。

こうした状態が2年半ほど続き、本当に暗中模索の状態でした。

誰のどのペインを癒すのか? ヘルステックからHRテックへの転換

小川 僕は2017年12月に、マーケターとしてiCAREに入社しました。当時、まず最初に思ったのは、「Carelyというサービスは、世間からどのカテゴリーとして認知されているのだろう」ということです。

過去の営業記録を見たり、セールスに顧客の声をヒアリングしたりすると、人によって「プロダクトの見え方」が全然違ったんですよね。Carelyを「ストレスチェックツール」だと思う人もいれば、「健康診断ツール」や「産業医との情報共有ツール」だと思う人もいました。

そこで基本に立ち戻り、3C分析やSTP分析などのフレームワークを使って、考え得る市場やターゲット、ポジショニングなどを洗い出しました。その掛け合わせから、一貫性のある戦略を見つける作業をしていきました。

中野 結局、「誰のどのようなペインを癒すのか」が当時はわかっていなくて。それを見つけるために、営業とマーケでとにかくPDCAを回しました。特に「Do」の回数を重ねていたので「pDca」みたいな感じですね(笑)。

そして、営業の最前線にいた立場から、誰が一番ペインを感じているのかを改めて考えてみると、おそらくはストレスチェックや健康診断の調整といった実務を担う方々だろうと。

さらにマーケ側でも、「健康増進」や「ヘルスケア」よりも、「ストレスチェックをしなければならない」「健康診断を予約しないといけない」といった実務の煩雑さをメッセージにした方が刺さるということがわかってきて。

そこで2018年の夏頃に、それまで曖昧だったターゲットを「人事労務の担当者」と明確に定義しました。

つまり、それまでの「ヘルステック」から、業務を効率化する「HRテック」へと転換することにしたんです。プロダクトの提供価値としても、例えば「休職予防」が必ずできるかと言われるとそうも言い切れないところがありますが、業務効率化であれば費用対効果がわかります。

▼Carelyの商品説明に関するキーワードを検討したときのメモ

これによって、ようやくお客様と「お金の話」ができるようになりました。さらに、料金プランも見直しました。元々は基本プランのみの提供でしたが、提供価値と企業規模に合わせた3つの料金プランに変更しました。

すると、それまでSMBからがほとんどであった問い合わせがエンタープライズからも来るようになり、この頃からMRRが伸びていきましたね。

ホワイトペーパーを量産し、コンバージョンまでの「階段」を作る

小川 次に、プロダクトのメッセージを人事労務の担当者のペインに刺さるような打ち出し方に変え、「従業員の健康管理=労務の仕事」だと伝わるように「健康労務」というワードも作りました。

そうして入ってきたリードが、きちんと商談、受注にステップアップし、解約されていないかを1年ほど計測しました。その結果、僕たちの訴求メッセージとプロダクトの提供価値に一貫性があることを確認できましたね。

さらに2019年の夏頃から、リード数を増やすために取り組んだのが、コンバージョンまでの「階段」を複数用意するということです。

元々、LPには「お問い合わせ」ボタンしか設置していなかったのですが、よりハードルの低い入り口を用意するため、ホワイトペーパーの制作に注力しました。

というのも、SMBからエンタープライズの企業が増えてくる中で、入り口が「資料請求」だとハードルが高くてなかなか問い合わせがこないという課題があって。

また、人によっても刺さるワードがバラバラだったりするので、「働き方改革」「テレワークの健康管理」といったキーワードで、10種類以上のホワイトペーパーを作りました。

▼デジタルマーケティングプランを作成したときのメモ

中野 最初は全員1テーマで、各々作ったんですよ。小川に至ってはもう「コンテンツパティシエ」みたいな感じですね(笑)。その結果、リード数がこの1年で約13倍に増えました。

小川 また、ハードルの低い入り口から入ってきたリードを、商談にステップアップさせるためには、各キーワードからCarelyにつなげるストーリーも重要です。

例えば「法令遵守」であれば、具体的にどのような実務があるかを説明したあと、手段としてのCarelyがありますよ、というストーリーで一貫性をもたせていました。

接触回数を増やして「運命」を演出する、攻めのナーチャリング

中野 一方で、ホワイトペーパー経由には、ダウンロードしただけで温度感の低いリードも多いんですよね。そこで重要になるのが「ナーチャリング」です。

ナーチャリングは、リターゲティング広告やホワイトペーパーなどのデジタル施策と、コールなどのオフライン施策を併用して、空中線と地上戦で一緒に攻めていくような形で行っています。

基本的に、人は「運命」に弱いんですよね。短期間に何度も出会うと「あれ、これってもしかして運命なのかも…?」と思うじゃないですか(笑)。

これはマーケティングも同じだと思っていて、いかに「iCARE」や「Carely」の名前を見聞きするか、という接触回数が重要だと考えています。

実際、弊社のインサイドセールスでは、資料請求だけでなくホワイトペーパーのダウンロード者に対してもすべてコールしますし、ウェビナーの前日案内も電話で行ったりします。

小川 さらに、ホワイトペーパーはただ増やすだけでなく、セールスにも積極的に活用してもらっていますね。コンテンツマーケティングは「網を張って待つ」ような人が多いのですが、こちらから押し出しています(笑)。

そのため、営業が使う前提で、営業方針に合ったコンテンツを作成するようにしていて。すると、コールしたときに話題が作りやすいんですよ。

中野 大体1〜2週間くらいの頻度で、新しいコンテンツを作っているので、営業からお客様に「こんな記事が出ました」「御社ではこういう風に使えると思います」といった形でシェアしています。

人間って元来「物々交換」をしてきたわけじゃないですか。こちらがお客さまの情報をいただくのであれば、代わりに何を渡せるだろう? と考えることが大切だと思っています。

ビジョンの実現に向けて、再度「ヘルステック」に立ち返りたい

中野 一連の施策を通じて、SMBからエンタープライズの顧客に向けて営業とマーケを転換し、現在は2年連続、2倍成長を実現しています。

今までを振り返ってみると、僕たちはこれまでユーザーが「何を欲しがっているか」ではなく、「何を痛がっているのか」に耳を澄まし続けてきたんですね。

実は、HRテックに転換したときに、現役の産業医である代表が猛反発したんですよ。それでは「働くひとと組織の健康を創る」というビジョンを達成できないと。

ですが、ずっと課題ドリブンでやってきたからこそ、今があるのだと思います。

今後は、ビジョンを実現するために、もう一度「ヘルステック」に立ち返って、カンパニーケアの常識を変えていきたいと思っています。

専門的で煩雑なこの領域を、いかにエンターテイメント性のある世界にするか、が重要だと思っていて。Carelyで健康管理の問題を可視化した後に、どう改善するか。そのソリューションを提供していきたいです。

小川 僕はマーケターとして、ビジョンの実現に向けて、マーケットをもっと広げていきたいと思っています。いま、日本に約6,000万人の労働者がいる中で、僕たちがリーチできている人って本当にわずかなんですよね。

今はIT系の企業がほとんどですが、小売や飲食などの他領域にもっとアプローチしていき、カンパニーケアを世の中に広めていきたいと思います。(了)

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