• 株式会社グッドパッチ
  • Goodpatch Anywhere 事業責任者/サービスデザイナー
  • 齋藤 恵太

フルリモートで顧客と一体感を醸成する。デザイナー集団「Goodpatch Anywhere」の挑戦

〜デザインの制作過程を常に開示し、顧客とのミーティングを毎日実施。国内外の全メンバーがリモートでありながら、一枚岩となって活動する秘訣とは〜

リモートワーク環境下で、社内メンバーや顧客との一体感を持ちながら、事業を成長させていくにはどのような仕組みが有効なのだろうか。

新規事業の立ち上げやUI/UX改善に特化したデザインカンパニー、株式会社グッドパッチ。同社は、昨今ほどリモートワークが広まっていなかった2018年に、プロジェクトの全工程をオンラインで完結する新規事業「Goodpatch Anywhere」を立ち上げた。

現在は173名のデザイナーが在籍し、メンバーや顧客が一度も対面しない環境でありながら、プロジェクトに関わる全員が一体感を持って活動できているそうだ。また、元々フリーランスとして単独で活動していたメンバーが多い中、日常的に学び合える機会を設けることで、大きな成長実感にも繋がっているという。

今回は、Goodpatch Anywhereの事業責任者である齋藤 恵太さんと、UXデザイナーの五ヶ市 壮央さんに、リモート環境下で一体感を生むチーム作りについて詳しくお伺いした。

※編集部注:五ヶ市さんは北海道で活動されているため、リモート形式で取材にご参加いただきました。

既存の働き方を改革する。デザイナーのフルリモート事業を始動

齋藤 僕は2013年にグッドパッチに入社し、デザイナーとしてクライアントワークを経験した後、2018年8月にフルリモートのデザイナーチーム「Goodpatch Anywhere(以下、Anywhere)」を立ち上げました。現在は、事業責任者として採用や運営を担っています。

五ヶ市  私は2017年まで、都内のメーカー系子会社でUXデザイナーとして勤務していました。その後、子育てをきっかけに地元の北海道に帰った際にAnywhereの発足を知り、初期メンバーとしてジョインしました。

齋藤 僕がAnywhereを立ち上げたのは、代表の土屋から「『リモートワーク』をキーワードにした新規事業を立ち上げないか」と提案されたのがきっかけでした。

そこで、ニーズがあるかを確認するために、産休・育休を経て現場に復帰できていないメンバーに話を聞いてみたところ、本音としては復帰してクライアントワークがしたいものの、育児をしながらではなかなか難しいと…。

特に僕たちの仕事は、顧客の新規事業そのものを一緒に企画・デザインすることなので、「朝から晩までがっつり膝を突き合わせて議論する」といった働き方が当たり前で。それを子育てと両立するには、かなり無理をしないといけない環境になっていたんですね。

また、地方でデザインの仕事を希望する方も大勢いますが、首都圏ほどUXデザインに予算を投下できる企業が多くはないですし、デザインに対する理解もあまり深くない部分があります。

そのため、大きな規模の仕事をしたいと思っていても、実際はバナーやLPの作成といった、切り出しやすい仕事しかできていないデザイナーが多いということもわかってきました。

そこで、既存の労働条件やプロジェクトの進め方を大胆に変えて、「オンラインでもUXデザインなどのクライアントワークが成り立つのか」ということに挑戦をしようと決め、Goodpatch Anywhereを始動しました。

社員として雇用し、心理的安全性の高い組織づくりを実施

齋藤 現在Anywhereには、国内外のデザイナーが173名在籍しています。全員がオンラインコミュニティのように繋がっていて、プロジェクトごとに5〜6名ずつアサインする形です。案件数によりますが、アクティブに活動しているメンバーが常時40名ほどいるイメージですね。

特徴的なのは、フリーランスの方と業務委託契約を結ぶのではなく、「時給を設定した雇用契約を結ぶ」ということです。

そのため、プロジェクトに関わる実働時間だけでなく、コミュニティを活性化するような活動に対してもきちんと対価をお支払いしています。

このように設計したのは、顧客の新規事業に関わる秘匿性の高い情報を扱うことや、お互いに学び合える環境を提供するには、業務委託ではなく社員として雇用する必要があったためです。

加えて、時間給にすることで、複数のプロジェクトの兼務や他のメンバーのサポートもしやすくなっています。

また採用においては、「候補者がチームとしてうまくワークしそうか」を重視します。元々はひとりで活動していたメンバーが多い上に、対面で仲間と顔を合わせることがないので、チームの一体感を醸成することも大切にしていますね。

そこで重要なのが、心理的安全性の担保です。例えば、プロジェクトチームが立ち上がる際にはワークショップを実施して、「非難されるリスクを考えずに、自分の思ったことを素直に発言できること」といった心理的安全性の定義を伝えたり、ハブになる人を作らずに、なるべくメンバーの発言量を均一にするなどの工夫も伝えています。

なにより、「不確実で複雑に変化する時代だからこそ、それぞれが持っている知識や経験を最大限引き出して、積極的にコラボレーションしていこう」というメッセージを、繰り返し伝えていますね。

顧客とのミーティングは毎日実施。制作過程をフルオープンにする

齋藤 僕たちは、顧客も含めて「ワンチーム」になることを目指しています。なので、案件のキックオフでは「事業そのものを作るプロジェクトなので、我々にデザインを任せるのではなく協働していただきたい」といったことも明確にお伝えしますし、オンライン飲み会で親睦を深めたりもします。

プロジェクトの進め方は、顧客のオフィスへ毎週出向いていた従来のスタイルとは大きく異なり、毎日15分ほどオンラインで顔を合わせ、制作途中の画面も常にフルオープンにしています。もちろん、それをお客様が自由に変更しても良くて。

それくらい密着して、共創していくことがすごく大事かなと思っています。

五ヶ市  初めて参加したメンバーは、制作途中の状態を共有することに抵抗があったりするので、オンボーディングではそのハードルを軽くするようなコンテンツを実施しています。

例えば、同時編集ができるScrapboxに自己紹介を書いたり、メンバーの紹介にコメントを書き込んでみるといったものですね。

また、社内でも同じプロジェクトの仲間としか接する機会がなくなってしまうので、週に1度、すべてのプロジェクトの代表メンバーがZoom上で集まっています。

そこでは、各プロジェクトの内容やどのような成果が出たか、困っていることなどを共有して、チームの学びを高めています。代表以外のメンバーも、自由に参加してラジオ感覚で聞いていたりもしますね。

他にもメンバーが自発的に開催する読書会や勉強会などがあるので、それがお互いの得意なことを知る機会になり、チームを越えて相談し合うといった横の繋がりができてきました。

齋藤 1on1も実施しています。最初の1ヶ月はメンターと毎週30分間で実施し、その後は好きなメンバーに隔週で依頼できる「ご指名1on1」を任意で行っています。

センシティブな内容は除いて、1on1で話した内容の議事録も公開してもらっています。あえて共有することで「あの人は◯◯についての話も出来るんだ」という発見になり、「次はぜひ私とお願いします」といった良い連鎖が生まれたりしていますね。

このように、メンバーにとって相談できる相手をいかに増やしていくかを考えて、様々な施策を行っています。

組織づくりは強要しない。惹きつけ合う関係を築くことが重要

齋藤 組織づくりを目的として運営が主催するイベントは、半期から1年に1回ほどに絞っています。必要性は感じますが、それだけに頼ってしまうと持続性がなく「ただのイベント屋さん」になってしまうと考えているからです。

また、アクティブに活動していないメンバーに対して、組織づくりの一貫となる活動への参加を強要することはありません。

一方で、弊社ならではの面白い案件を供給し、ここでしか作れないチームの良さを伝えるなど、メンバーと企業が惹きつけ合う努力が必要だと思っています。

五ヶ市  私がメンバーからよく聞くのは、「フリーランスでずっとひとりでやってきたけど、ここでは仲間からフィードバックをもらえるし、学びがめちゃくちゃ多い」という言葉です。

私たちは直接会う機会はなくても、案件がうまくいかない時だったり、メンバーが落ち込んでいる時には一緒に泣いちゃったりして、関わり方がめちゃくちゃウエットなんです(笑)。

パーソナルな悩みであれば、Discordなどの音声チャットツールを使ってその人とたくさん話しますし、チームがうまくいっていない時は、自分をさらけ出せるようなワークショップで課題を深堀りしていくこともあります。

Anywhereはすべてが実験なので大変なことも色々ありますが、一緒に悩みを共有できるメンバーがいるというのは、すごく心強いですよね。

規模を追求し「日本のデザイン投資額」を増やしていきたい

五ヶ市  これまでを振り返ると、「リモートワークだから苦労したこと」はほぼ無かったと思います。個々の業務の中で悩みや苦労があっても、それはリモートかどうかは関係なく起きていた事象なので。

むしろ、「リモートワークでも、デザインワークの課題だけに集中できる」というところまで到達できているんだなという実感がありますね。

Anywhereには組織の階層がほとんどありませんが、プロジェクトのコアになる人として「案件のコントローラー」の役割を担うメンバーが6、7名います。

私自身もその役割として、複数の案件を横串で見ている立場なので、今後は同じように成果物のクオリティを担保したり、プロジェクトを引っ張っていく役割を担えるメンバーを増やしていきたいなと思っています。それによって、より多くの方々にデザインの力を届けていきたいですね。

齋藤 弊社では「デザインの力を証明する」をミッションに掲げています。

売り上げを「顧客によるデザイン投資額」と呼んでいますが、「日本のデザイン投資額」をもっと向上させていきたいと強く思っています。その結果として、経済にインパクトを与えるようになりたい。

そのためにも、Anywhereではきちんと規模を追求していきたいですね。「プロジェクト量や人数の規模=可能性の大きさ」なので、面白いメンバーが増え、仕事の幅が広がることで、働く環境に制約がある方も活躍できるような土壌もできてくるかなと思います。

また、組織全体でのリモートワークが一般的ではなかった時にAnywhereを創ったように、「僕らがいるのはフロンティアだ」という気持ちで日々挑んでいます。

試したいことが無限に出てきているので、顧客と共に新しいことをどんどん実験して、うまくいったやり方は世の中に対しても還元していきたいですね。(了)

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