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「馴れ合い」はご法度。同僚と評価し合う「ジョブ型」雇用で、組織の連携を生む秘訣
〜成果創出に特化した「ジョブ型」の雇用形態を新設し、業務の設計者と実行者で役割を分割。メンバーの「馴れ合い」や「無関心」を排除する、独自の評価制度とは〜
コロナ禍により新たな働き方が求められる中、注目を集める「ジョブ型」雇用。特定の職務内容を定義し、成果をもとに評価する雇用形態だが、その評価はどのような制度設計が有効なのだろうか。
ハウスクリーニングや家事代行、不用品回収、引越しなどの生活にまつわる出張・訪問サービスに特化したマーケットプレイス「くらしのマーケット」を運営する、みんなのマーケット株式会社。
同社では、新型コロナウイルスの影響を鑑みて、今年3月よりフルリモートに移行。さらに7月には、業務設計と実行の双方を求める「メンバーシップ型」に加え、仕事の成果のみを求める「ジョブ型」の雇用形態を新設。
併せて評価制度を刷新し、上長(=経営メンバー)を除くすべてのメンバー同士で「チーム間評価」と「個人評価」を行うことで、全員が能動的に目標進捗や成果を把握し、相互に成長支援が行われる仕組みを構築したそうだ。
新制度の導入により、各自のスキルを生かした業務に専念できる環境を構築できたことで、個々人の頑張りがより正しく評価されるようになったという。
今回は、評価制度の刷新に携わったコーポレート本部の森田さんに、ジョブ型雇用の導入背景から評価制度の全容まで、詳しくお伺いした。
従来のメンバーシップ型に加え、成果のみを求めるジョブ型を新設
私は、大手証券会社で労務・研修などの育成業務を経験した後、2017年にみんなのマーケットに入社しました。現在はHR業務全般を担当しています。
弊社は「正直者が馬鹿を見ない世界をつくる」というビジョンのもと、2011年から「くらしのマーケット」を展開し、お客様に良質なサービスを提供している事業者が、口コミやランキングで正当に評価される仕組みを提供してきました。
また、組織運営もこのビジョンに基づき、ベストな人事制度や仕組みを追求し続けています。
その中で、昨今の世の中の変化を鑑みると、今後は組織における「業務の設計者」と「実行者」の境界が明確になり、それぞれの役割に磨きをかけることを求められるようになると考えたんですね。
そこで、よりよいサービスを、スピード感をもって実現していくための組織体制として、今年の7月にメンバーシップ型・ジョブ型制度を自社にローカライズして導入しました。
今回の制度は、建設的に「役割を分けた」ものです。メンバーシップ型は事業戦略や組織運営の意思決定など、業務を設計することが主な役割なので、広範囲の業務を理解する必要があります。「組織志向」「リスク志向」といった、会社が求める人物像にマッチした行動ができているかどうかも重要ですね。
一方、ジョブ型は自分が担う仕事の目標達成が最も重要で、それに直結するスキルが求められます。
入社直後はカルチャーフィットしているかどうかの判断ができないため、全員がジョブ型でスタートします。入社3ヶ月以降に一定の評価基準をクリアした場合のみ、メンバーシップ型に変更可能です。
これまでは、全員に業務の設計者と実行者の両方の成果とスキルを求めてきましたが、分けたことによって、「正直者が馬鹿を見ない世界」を創るための役割を個々人がもち、メンバーにとっても「正直者が馬鹿を見ない仕組み」になったと思いますね。
チーム、個人間で同僚同士がスコアをつけ、切磋琢磨する評価制度
各メンバーの目標は、全社>本部>チーム>個人へとブレイクダウンして決めているので、良い評価をもらいやすいように、難易度の低い目標を立てるということはできない仕組みです。
そして、新しい働き方の導入に合わせて、評価制度を刷新しました。
メンバーの成果を評価する仕組みは、大きく3つあります。四半期ごとに同僚同士で評価しあう「チーム間評価」「個人間評価」と、半期ごとにメンバーシップ型のメンバーに限って行う「上長(=経営メンバー)評価」です。変更点としては、「ジョブ型」のメンバーから「上長評価」を排除したことです。
▼評価制度の全体像(同社提供)
ひとつめの「チーム間評価」は、各チームの目標に対する成果を、月次で開催される「業績報告会」で発表し、上長(=経営メンバー)を除く全メンバーが点数をつけて評価するものです。
ここでは成果を定量で示すだけでなく、どれだけコミットしたか、達成できていない場合はどのようにリカバリーしていくのかなど、周囲が納得できる説明をする必要があります。
また、業績報告会に向けては、各チームが提出したレポートに対して、事前に他チームのメンバーが記名式フォームで質問を提出しておきます。その中から「率直であるもの」「チームの課題やそれに対する取り組みを深堀りするもの」といった観点で、会社の成長に繋がる質問をボードメンバーが選定して、当日に回答してもらっています。この運用にしたことで、質問者の視座も上がりましたね。
ふたつめの「個人間評価」では、チームへの貢献度、目標達成の状況やプロセスを踏まえて、同僚同士でスコアとフィードバックコメントを提出して評価し合います。個人間評価にも上長は参加せず、これらをもって「ジョブ型」メンバーの評価が決まります。
弊社は今年3月からフルリモート体制に移行していますが、このような評価制度を通じて、全員の目標や進捗、成果などが可視化されるので、「他のメンバーが何をしているかわからない」といった課題が生じにくい仕組みができています。
ジョブ型でも業務を固定せず、成長のために変化させることが重要
メンバー同士で評価する制度が健全に機能している背景には、評価スコアの「持ち点制度」があります。これは、成果や説明責任などの評価基準に従って、各自が持ち点内で他のメンバーを評価するものです。
これによって全チームに良い評価をしたり、甘い評価をすることはできませんし、お互いの業務に関心を持っていないと正しく評価できないため、「馴れ合い」や「無関心」が入り込む余地がないんですよね。
率直なフィードバックをしないとメンバーの成長が妨げられるので、会社やチームの成果にも結びつかず、自分の評価も相手の評価も上がりません。そのため、メンバーには相手の成長を手助けする「優しさ」が求められると思います。
また、新しい働き方や仕組みがスムーズに移行できたのは、元々の組織文化が寄与していると思っていて。
たとえば、Slackではメインの4つのチャンネル上で業務のやり取りを行うことになっており、原則DMの使用やグループの作成も禁止しているので、すべての情報がSlack上で可視化されていて、能動的に情報を追う習慣が全員に根付いているんです。
さらに、代表の濱野が開始したラジオで、あらかじめ自身の考えを伝えた上で制度を発表したので、メンバーが思考を整理する時間が取れたのも良かったですね。
そういったお互いの動きや考えをブラックボックスにしないというカルチャーが、新しい仕組みとうまくマッチしたのかなと思います。
一般的に、ジョブ型は「自分のジョブだけを遂行する」というイメージが先行しているように感じます。しかし弊社では、メンバー個々人が会社の成長のために、柔軟に自分自身を変化させる必要があり、個人の業務の境界線が明確に決まることはないと考えています。
同様に、本人の意思と相応の努力があれば、キャリアアップやキャリアチェンジも可能ですし、会社として確実にフォローします。ジョブ型やメンバーシップ型という雇用形態によって、選択肢の幅が変わることはありません。
制度の存在によって、個人の成長が頭打ちになってしまっては逆効果なので、必要最低限のルールしか設けないことが大切だと思いますね。
いかなる制度の導入においても、カルチャーフィットが土台になる
ジョブ型の導入によって見えてきた効果としては、各自のスキルを生かした業務に専念できる環境を作り、評価制度を刷新したことで、個々人の頑張りがより正しく評価されるようになったと思いますね。
また、採用の段階で、事業戦略や組織運営の意思決定など「設計者」としての役割を求めず、ジョブディスクリプションに基づく採用を加速させたことで、内定者の数が増加しました。
新卒採用では、必須スキルを満たしているかどうかは判断できないので、リモートのインターンに参加していただいて、仕事やカルチャーが候補者の意向に合うかを確認してもらっています。
ジョブ型×フルリモートの働き方は自由度が高いので、すでに移住したメンバーや海外からジョインしたメンバーもいますし、候補者の居住地に関係なく採用できるので、今後もビジョンに共感してくださる方にぜひジョインしていただきたいですね。
私個人としては「ジョブ型を導入したから」「リモートにしたから」という理由で生じたマイナスな変化はないと思っています。もし何かしらの課題が生じても、元々組織に潜在していたものが顕在化しただけだと思うんですね。
結局、どんな制度を導入するにしても、組織のカルチャーや思想にマッチしてるかが一番重要です。評価制度やカルチャーに関する、長年のチャレンジと改善プロセスに加え、元々リモートワークができるインフラが整っていたことなど、透明性を保つ工夫を徹底してきたことで、全てが合理的にワークしていると思っていて。
私たちも、まだまだ試行錯誤しながらベストな働き方を追及している段階なので、世の中の流れを踏まえつつ、ベストな組織の在り方を模索していきたいですね。(了)