• 株式会社クレディセゾン
  • ネット事業部 データマーケティング部部長
  • 磯部 泰之

クレディセゾンがDMPを構築。クレジットカードのデータを活用し、目指す顧客体験とは?

〜クレディセゾンが約1,200万人分のクレジットカード会員データを活用。デジタルガレージをパートナーに迎え、ユーザーとのコミュニケーション最適化を目指すため、セゾンDMPを構築〜

さまざまな業種に活用が広まる「DMP(データマネジメントプラットフォーム)」。ビッグデータを活用することで、一人ひとりのユーザーに合わせ、広告やコミュニケーションを最適化できる。

そのDMPを、クレジットカード業界にいち早く取り入れたのが、「セゾンカード」「UCカード」を発行する、株式会社クレディセゾン。1,200万人ものネット会員を持つ同社は、その大量のデータに可能性を見出し、プライベートDMP「セゾンDMP」の構築を開始した。

目的をはっきりとさせて導入することが重要」だと語る、同社ネット事業部の磯部 泰之さん。セゾンDMPでは、外部データとの連携を強化しつつも、パーソナルな情報のセキュリティを担保するため、メールアドレスなどの個人情報を一切含まない形でDMPを構築しているという。

今回は、磯部さんに、DMP導入によるメリット、導入時の注意点、そして今後の展望まで、詳しく伺った。

「オープンイノベーション」も取り入れ、新規事業を開発する

僕は1992年に、クレディセゾンに入社しました。現在はネット事業部で、インターネット分野の新規事業開発を担当しています。

新規事業と言っても、弊社にはエンジニアもおらず、専門的な知識を持っている人も多くありません。

そのような環境で事業を生み出すため、新しい技術を持っているネット企業やベンチャー企業と、大企業がコラボレーションする取り組みである「オープンイノベーション」の可能性に着目しています。

進化するアドテクノロジーに、「カード」データの可能性を感じる

弊社ではオープンイノベーションの一環として、現在デジタルガレージさんと一緒に「セゾンDMP(※)」というプライベートDMPの構築に取り組んでいます。

※DMP(データマネジメントプラットフォーム):大量のデータを管理し、活用するためのプラットフォーム。ユーザー特性に合わせたマーケティング活動などに使われる。

デジタルガレージさんは、決済代行会社を持っているだけでなく、いろいろなベンチャーへの投資や業務提携も積極的にされています。その点に弊社との親和性を感じています。

提携はDMPに限らず、今年の7月にはデジタルガレージさんとカカクコムさんと組んで、「DG Lab」というR&Dの機関も設立しました。そちらでは、AI、VR・AR、ブロックチェーン、セキュリティ、バイオの5分野で研究開発を進めており、長期的な研究開発を見据えて活動しています。

今回、DMPを導入した目的は複数あります。具体的には、CRMの観点からお客様とのコミュニケーションを最適化すること、広告のターゲティングを強化すること、将来的なFinTechへの応用の3つです

▼DMPを導入した目的

インターネットの広告が、いわゆるバナー広告からリスティングになり、今ではオーディエンスデータを使ったアドテクノロジー型の広告が増えてきていますよね。

その中で、クレジットカードのデータも、DMPに保存して外部のオープンデータとかけあわせることで、一人ひとりの消費者の行動に合わせた、最適なコミュニケーションを取れる可能性があると思ったんです

DMPを活用し、ユーザーに合わせた最適なコミュニケーションを

例えば、弊社では、クレジットカードの限度額を一時的に上げるサービスを提供しています。海外旅行や新婚旅行で出費がかさむときに、活用できるサービスです。ただ、このサービスの情報を、弊社のオウンドメディアでいくら案内しても、必要なときに気づいてもらえない場合も多く…。

DMPを使えば、「旅行をしたい」と思って航空券のサイトにアクセスしたお客様に対して、限度額を上げるサービスの広告を出せるので、今までよりもずっと気づいてもらいやすくなります。

他にも、「永久不滅.com」という、セゾンカード・UCカードの会員様向けのポイントサイトで旅行グッズをオススメしたりできます。消費行動の導線の中で、最適な情報を提供することで、スムーズなコミュニケーションが取れるようになるんです。

また、コミュニケーションを取るときの安心感にも繋がります。お客様に電話をかけるときでも、前日に資料請求をしていたり、加盟店を利用したということがわかるので、「ご利用ありがとうございます」というところから、コミュニケーションが始められるんですよ

このようなコミュニケーションをきっかけにオトクな情報を伝えていくほうが、突然「キャンペーンが始まりました!」というより、絶対受け入れてもらいやすいと思うんです。

「分析が間に合わない」領域には、機械学習で最適化を測る

今までも、さまざまなデータを収集し、それを分析する環境がありました。ただ、分析をして、その結果に基づいてアクションを起こし、効果検証を行うというサイクルは、ものによっては数ヶ月かかってしまうんです。

分析をして傾向が見えたとしても、1ヶ月も経つとお客様との関係性は変わっているかもしれません。そうなると、一人ひとりの会員のニーズに合わせて打ち手を変えていくことが、現実的に厳しいんです。結果として、マスに対してのアプローチになりがちで、お客さんにとっては自分ごとにはなりません

そこで弊社のDMPでは、機械学習を活用して、なるべく人の手を介さず、自動的に最適な情報を配信できることを目指しています

例えば、手数料のかかる「リボルビング払いを使う人」のクラスタ(グループ)を作ります。

そして、リボルビング払いをしてくれる人はどういう行動をするのかという仮説を立て、その仮説を元に機械学習でユーザーをターゲティングしていきます。それを繰り返すことで、ターゲティングの精度を上げていくことができるんです。

セゾンDMPに個人情報は「一切無し」?目的に合わせたDMPの構築を

よくある話ですが、「DMPを入れたらすべてが解決する」ということは絶対ないと思うんです。DMPを入れる目的によって、構築方法は全然変わってくるので。

何のためにDMPを入れるのか」という、自社の課題をはっきりさせて、どういう形で導入すべきなのかを目的に添って考えることが重要です

例えば、僕たちには「自社のデータを外部に提供したり、オープンデータとかけ合わせて、新しいマーケティングを作っていきたい」という思いがありました。

そうすると、外部データとの連携が重要になりますが、クレジットカードのデータには、個人情報が含まれていますよね。そこで弊社では、個人を識別する可能性がある要素はすべて削ぎ落として、DMPを構築しました。

一方で、顧客接点を最適化することを第一の目的におくなら、メールアドレスなどの個人情報はDMPに入れた方が良いと思います。

このように、DMPを構築するためには、そもそもの目的や優先順位付けを考えることが重要です

「FinTech」も見据えて、活用の幅を広げていく

クレジットカードの会社が、DMPで自社のカードのデータを活用している事例って、まだほとんど無いんです。弊社もまだ、構築したDMPというバケツに、データを一生懸命クレンジングしながら貯めている最中で、本格的な活用はこれからです。

まずは、お客様一人ひとりに合わせた、気持ちの伝わるコミュニケーションを強化していきたいですね。

そして将来的には、いわゆる「FinTech(フィンテック)」の分野で、弊社のデータと、弊社が持っていない貴重なデータを持っている企業と提携して、イノベーションを起こしていきたいと考えています。いままでリーチできていない情報を活用することで、僕ら自身のビジネスモデルを変えていきたいなと思います。(了)

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