- 株式会社ポリゴン・ピクチュアズ
- プロジェクト推進部 グループリーダー
- 長崎 高士
ポリゴン・ピクチュアズが創る最先端のアニメ制作ワークフロー。選んだのはSHOTGUN!
〜アニメーション制作会社の中でも、洗練された制作ワークフローを構築するポリゴン・ピクチュアズ。プロジェクト管理ツール「SHOTGUN」を活用した、そのワークフローの全貌を公開〜
「シドニアの騎士」「亜人」などを代表作にもち、先端的なエンタテインメント映像の製作を手がけるデジタルアニメーションスタジオ、株式会社ポリゴン・ピクチュアズ。作品そのもののクオリティだけでなく、それを制作するワークフローの完成度も、最先端に位置している。
そんな同社も、以前はいくつものスケジュールとステータスがGoogleスプレッドシートで管理され、情報の整合性に悩まされていた。
そこで、自社開発のレビューツールやデータ管理ツールで構成されたワークフローに、Autodesk製のプロジェクト管理ツール「SHOTGUN(ショットガン)」を組み込み、データの一元管理に乗り出した。
▼プロジェクト管理ツール「SHOTGUN」
導入から約2年が経過し、SHOTGUNの活用を推し進めている山森 徹さんと長崎 高士さんは「炎上案件の傾向がつかめるようになった」と語る。今回は、そんな2人に詳しい話を伺った。
プロジェクト管理ツール「SHOTGUN」を活用
山森 弊社は「シドニアの騎士」や「亜人」などの作品を制作してきた、デジタルアニメーションスタジオです。 その中で私は技術責任者として、自社ツールの開発や、情報システムの管理をしています。
長崎 私は現在、海外向けのTVシリーズのCGディレクターを担当しています。
▼左:長崎さん、右:山森さん
弊社では2014年ごろから、作品の制作管理にプロジェクト管理ツール「SHOTGUN(ショットガン)」を活用しています。もう2年ほど使用しているので、最近のプロジェクトでは使い方もこなれてきて、空気のように使えるようになっていますね。
SHOTGUNの機能の中でも、特に各エピソード(話)のサマリーページはよく見ます。いくつのショット(1話を構成する各シーン)がクライアントやディレクターの承認をもらえているのかといった、大まかなプロジェクトの進捗がわかります。
▼サマリーページで全体の進捗を確認
工程管理、アセット管理、ノートの管理など機能は多彩
長崎 弊社のプロジェクトでは、ショットを複数の工程に分割して管理しています。ショットの一覧ページでは、どのショットがどの工程まで進んでいるのかが即座に分かるよう可視化されています。
▼ショットごとの進捗も一覧で確認
エピソードごとに新しく登場するアセットも管理されています。「ヒューマン」や「プロップ」、「セット」という単位でグルーピングし、アセットの制作にかかる工数の見積もりや、実際にかかった時間なども細かく入力しています。
弊社はCGモデルの制作をアウトソースすることも多く、ひとつのエピソードで200人ものアーティストが参加することがあります。そのような体制でも、SHOTGUN上では誰がどのアセットを担当しているのか、そしてどのようなステータスにあるのかが、ひと目でわかります。
▼各アセットの概要や、想定工数、実績などを管理
他にも、工程ごとの指示も記載しています。例えば、レイアウト用のノートには、それぞれのショットごとに「カメラワークは3Dでつけてください」というような指示が書かれていたりします。海外に発注しているものも多いので、英語と日本語で指示を残せるような構成にページをカスタマイズしています。
今ではSHOTGUNを使いこなすも、2年前までは…
長崎 SHOTGUNの導入以前は、タスク管理が非常に煩雑になっていました。アニメーションの制作では、アセットのバージョン、担当者、ステータス、そしてリテイクのフィードバックなど、管理しなければならない情報が大量にあります。
それらの情報を一元管理するために、弊社では「Pizmo(ピズモ)」という社内パイプラインデータベースシステムを作りました。
▼ポリゴン・ピクチュアズの自社ツール「Pizmo」
ただ、Pizmoはアセット管理やステータスの管理などのデータフローに重点を置いていたので、スケジュールや誰にタスクがアサインされているかといった情報が扱えていなかったんです。
そこでGoogleスプレッドシートにそれらの情報を管理していたのですが、今度はいくつもの表に同じ意味のステータスが個別に入力されてしまい、信頼性が低いものになっていました。
シートのフォーマットも、プロジェクトごとにバラバラで。フォーマットを統一するためのタスクフォースが、何度も立ち上がっては消えていきました(笑)。
▼SHOTGUN導入前に使われていたスプレッドシート
その状態を解消するために、2014年からSHOTGUNを試験導入、2015年4月には本格的に使い始め、今ではほとんどのプロジェクトで活用しています。
本格導入のときには、導入のメリットをまとめた資料を作ったり、試験的に使っていた人にアンケートを取ったりしましたね。「SHOTGUNなら、いろいろな立場の人が、自分の見たい情報だけを好きなように取り出せますよ」ということを経営会議にかけて、導入に至りました。
洗練された既存のワークフローに、SHOTGUNが最適だった
山森 弊社ではSHOTGUNのようなツールだけでなく、自社開発した社内用のツールも積極的に活用しています。「PPI Review」もそのひとつで、ショットのレビューを行うツールです。
実は、SHOTGUNに表示されているステータスは、SHOTGUN上では基本的に入力していないんです。パブリッシュの情報やPPI Reviewに入力した情報がPizmo上に保存され、それがSHOTGUNに自動的に反映されるような仕組みを構築しています。
▼SHOTGUNが組み込まれているワークフロー
動画やアセットのデータもSHOTGUNのクラウドストレージにはアップしておらず、ローカルサーバーに置き、そこへのリンクをSHOTGUNに貼っています。
長崎 なぜこのような構成になっているのかというと、海外のスタジオの中には、アーティストのインターネットアクセスをセキュリティポリシーから許可していないスタジオが結構あるんです。一説には、インターネットがあるとアーティストが遊んでしまうからという噂もありますが(笑)。
そのような環境ではSHOTGUNも見られないので、SHOTGUNに依存しすぎないようにしているんです。海外のスタジオでは、PPI Reviewに入力したステータスがローカルサーバーに反映され、それがPizmoに最低1日に1回は同期される作りになっています。
山森 SHOTGUNは単体でも高機能ですが、このように他のツールと連携して使うこともできます。弊社にはPizmoというデータベースを中心としたフローが整備されていたので、そこにSHOTGUNが上手くはまったのも、導入の決め手ですね。
管理しきれないタスクは、アナログのカンバンも活用
山森 制作のワークフローの中で、SHOTGUN以外にも「HIERO PLAYER(ヒーロプレイヤー)」というツールも活用しています。いくつものショットをつなげて、一連の動画のように再生できるんです。
ショット単位では完成していても、つなげてみないと発見できないアニメーションエラーはどうしても出てくるので。HIERO PLAYERはパイプラインシステムと相性が良く、一度ショットをつなげてしまえば、誰もが常に新しいショットで再生できます。
SHOTGUNにも「Screening Room」という同等の機能がありますが、以前からHIERO PLAYERを使っていたので、今はそのまま使っています。
長崎 また、デジタルツールではないのですが、タスク管理にアナログのカンバンも合わせて活用しています。プロジェクト管理って、タスクの粒度を決めるのがとても難しく、ひとつのタスクでも掘り下げていくといくらでもミクロに細分化できてしまうじゃないですか。
でも、そこまで細分化すると今度はマクロな目線でのサマリーが追えなくなってしまうので。SHOTGUNでは比較的粗い粒度で可視化して、より細かいタスクはカンバンで管理しています。
▼細かいタスクはアナログのカンバンで管理
「炎上案件の兆候がわかる」状態に。今後はより精度を高めていく
山森 実はSHOTGUNを導入するときに、Pizmoを進化させてSHOTGUNのようなものを自社開発するかを検討しました。
開発期間やメンテナンスコストなどのバランスからSHOTGUNを導入し、代わりにそこで空いた開発リソースを使って、プリプロワークフローの管理をする新しいシステムを作りました。
▼空いたリソースで開発したプリプロ管理ツール「Pinoco」
Picasaのように、画像を管理するだけのソフトウェアは世の中にありますが、バージョンやタグの情報を合わせて管理したり、柔軟に検索が行えるようなものが欲しかったんです。
開発リソースを効率的に活用することで、新しいシステムを作ることにリソースを割くことができました。
▼プリプロに最適化されたツール
長崎 SHOTGUNを導入して、4ヶ月くらい経過したタイミングでアンケートを取ったんです。そのアンケートでは、マネージャーやスーパーバイザーの1日のチェック業務が、30分ほど削減されたという効果が出ています。SHOTGUN単体の効果というより、スプレッドシートを使わないようにワークフローを統一したことの効果だと考えています。
ただ、業務時間の削減成果よりも「正しい情報が得られるようになったこと」が良いという意見が強かったですね。
僕らはこれまでたくさんの炎上案件を経験してきていますが(笑)、SHOTGUNを導入することで、そういった案件の兆候がわかってきました。炎上する案件は、SHOTGUNのサマリーページをうまく使えていないんです。
サマリーページを厳密に管理しようとすると、結局はそこに結びついているショットやアセットといったタスクのステータスを正しく管理する必要があります。それら末端のタスクをきっちりトラッキングすることが、プロジェクトを炎上させないために大事なことなんだと改めて感じました。
今後は、「このプロジェクトはリテイクが何%だった」「このアーティストは1日に何ショット提出できる」というようなデータを統計的に出して、これからのプロジェクトに活かしていけたらと思っています(了)