- 株式会社インテグレート
- 代表取締役 CEO
- 藤田 康人
マーケティングのPDCAは商品発売前にできる?刺さるマーケティングストーリーの作り方
〜購買行動を促すマーケティングストーリー作成のポイントと、その検証方法を公開〜
自社の商品を顧客に「買いたい」と感じてもらうためには、どうすればよいだろうか。
その答えのひとつが、商品やサービス、企業などのブランドに対して、ただ性能や機能の優位性・価値を訴えるのではなく、その商品の持つ理念や世界観と顧客の欲求をつなぐことで、購買行動を喚起する、マーケティングストーリーだ。
ただし、効果的なマーケティングストーリーを作るためには、顧客の反応を見てストーリーを何度も改善することが求められるのが一般的だ。
そのマーケティングストーリーのPDCAを「商品の発売前に」実施しているのが、独自のマーケティングノウハウを活かしたコンサルティングを行う株式会社インテグレートである。
同社は、消費者への1対1のインタビューからストーリーを生み出し、グループインタビューを通してPDCAを回すことで、商品発売前でも「顧客に刺さる」ストーリーをほぼ完成させているという。
今回は、顧客に価値を伝えるストーリー作りのポイントとその検証方法について、代表取締役の藤田 康人さんと執行役員を務める三宅 隆之さんのお二人に伺った。
IMC(統合型マーケティング)の支援会社は日本には無かった?
藤田 2007年に株式会社インテグレートを立ち上げ、代表取締役を務めています。
弊社はいわゆるIMC(※)と呼ばれる、マーケティング活動を支援するプランニングブティックです。国内の大手メーカーを中心に、戦略の策定から広告、PR、デジタルメディア、店頭を通じたマーケティング施策の実行までを統合的に支援しています。
※ IMC:Integrated Marketing Communication(統合型マーケティング)の略称。広告、PR、セールス・プロモーション、デジタル、パッケージなどを戦略的に統合したマーケティング活動のこと
IMCの支援を始めたのは、前職の外資系の食品素材メーカーでその重要性を感じたことがきっかけです。
アジアにおけるキシリトールのマーケティング責任者を15年ほど務めていたのですが、キシリトールは薬事法上、その効能を広告で訴えることができません。そのため、広告を通じたマーケティングには限界があり、メディア報道や専門家を通じたPRを行うなど、複数のソリューションを活用する必要がありました。
▼株式会社インテグレート 代表取締役 藤田さん
海外には、そのようにPRを含めて総合的にマーケティングを支援する会社がいくつもあります。ですが、当時の日本には「総合広告代理店」はあっても、「総合マーケティング支援会社」は存在しませんでした。
そのような企業が日本にも必要になってくると考え、創業を決意しました。
広告代理店との違いは「マーケティング課題を解決するか」
三宅 前職の広告代理店では、広告とPRを掛け合わせてソリューションを提供する、クロスメディア事業の仕事をしていました。
当時の仕事も楽しかったのですが、藤田と出会って「本当の意味でのIMC」を実現するためにジョインしました。現在はリサーチやインタビューを通して、マーケティングストーリーを設計する専門家として従事しています。
転職するにあたっては、クライアントのマーケティング戦略そのものに対する課題解決ができる点も大きな魅力でした。
広告代理店では、クライアントが描く戦略の通りに製作物を用意して広告を打ちますが、その戦略自体が正しくないケースも多いのではないかと感じていたからです。当然、そういったケースでは、広告を打っても期待していたような効果は出ません。
▼株式会社インテグレート 執行役員 三宅さん
弊社では上流のマーケティング戦略にある課題の解決でフィーをいただき、必要に応じて広告やPR、SNSなどの最適なソリューションを使ってマーケティングを支援するビジネスモデルとなっています。そのため、クライアントにより本質的な価値を提供できていると実感しています。
モノ中心から顧客中心へ。マーケティングの変化が求められている
藤田 戦後の日本では、モノを中心にしたマーケティングがなされてきました。日本はとてもモノ作りに長けた国でしたし、そこでの成功体験も大きかったからです。モノが中心ということはつまり、これまでマーケティングのイニシアティブは企業側にあったということです。
一方、モノと情報があふれる現代社会では、そのようなアプローチではうまくいきません。現在は、顧客を中心に据えたマーケティングを行うことが求められているといえます。
そのような考えから、「カスタマーセントリック思考」という書籍を2016年に出版しました。
カスタマーセントリック、つまり顧客を中心においたマーケティングでは、消費者の生活を良くするための商品を徹底して追求します。
重要なのは、それが生み出す価値をどう表現したら消費者に「伝わり」、消費者が「動く」のかを考えることです。
購買行動の前にある「生活欲求」に気づいているか?
藤田 消費者に商品の価値を伝え、買いたいと思ってもらうためには、 ストーリーを通じて「生活欲求」と「購買欲求」の2つを喚起することが必要です。
「生活欲求」とは、商品とは直接結びつかない欲求で、生活上の課題や願望レベルのものを指します。例えば、健康になりたい、英語を話す力を伸ばしたい、といったものです。
「購買欲求」とは、「生活欲求を解決・実現できる最適な商品が欲しい」という欲求です。例えば、英語を話す力を伸ばしたいという生活欲求に対しては、「あの英会話スクールに通いたい」というものが購買欲求です。
三宅 支援をする中でありがちなケースは、消費者の「購買欲求」を刺激することにとらわれてしまい、「生活欲求」に訴えかけることができていない状況です。
例えば車に興味がない若者に、その車が「速い」「快適」ということをいくら伝えても興味喚起にはつながりません。ビールが好きではない人に対して、「麦芽が○○%入っている」というメッセージを訴えても効果は薄いでしょう。
にもかかわらず、多くの企業が競合他社とのシェア争いに過度にとらわれて、非常に狭いところで自社商品の魅力を打ち出してしまっています。他社との一番二番の争いをする前に、「生活欲求」を訴求できているかを問うことが重要です。
消費者へのデプスインタビューで定性的なインサイトに迫る
三宅 「カスタマーセントリック」なマーケティングの実現のため、弊社では消費者に対して様々な調査をします。消費者が持つ「インサイト」に迫るため、特にインタビューによる定性調査を重要視しています。
具体的な手法としては、まずはマーケティングの問題点がどこにあるかという仮説を検証するために、消費者に対してデプスインタビュー(※)を行います。ケースにもよりますが、20名ほどを対象に行うこともあります。
※ 1対1の個別面談方式で行われるインタビュー。消費者の深層心理を探るのに効果的な手法と言われている。
インタビューの際は「はい/いいえ」で答えられる質問ではなく、できるだけ自由に語ってもらえるような内容にすることで、日常の生活背景まで詳しくヒアリングします。
その結果をもとに、「生活欲求と購買欲求を喚起するストーリー」を開発します。
メッセージボードでパーセプション(認識)の転換点を探る
藤田 ストーリーを作った後は、実際の効果を確かめます。
作成したストーリーを数十枚のメッセージボードにまとめ、グループインタビューを通して消費者に順番に見せていきます。
▼メッセージボードを活用したグループインタビューの概念図
ここで検証するのは、ストーリーの各パートを通じて起こる、商品に対する消費者の「パーセプション(認識)」の変化です。そのために、例えば「ここまでの段階で、この商品を買いたいと思いますか?」といった質問を何度か行い、スコアリングしていきます。
もしストーリーが刺さらないようであれば、見せる順番や内容を変えて、次のグループインタビューに臨みます。
このようなグループインタビューを何度か行い、消費者のパーセプションが転換されるストーリーをその場で組み立て始めます。そして、完成したストーリーを最適なソリューションを通じて世の中に発信していきます。
商品を出す前にPDCAを回すことで、効果的なマーケティングを
三宅 既存のリサーチ方法からすると、少し変わったグループインタビューかもしれません。ですがこの手法により、大半の案件で消費者のパーセプションを変えることに成功しています。
藤田 通常は、商品を出してからマーケティングについて振り返りをします。そして売れなければ「ここを変えよう」と議論が始まります。そうすると、発売してから適切なストーリーができるまでに長い時間がかかってしまいます。
我々の手法であれば、商品を発売する前のグループインタビューでPDCAを回してストーリーの完成度を高めるため、発売した後に大きな軌道修正をせずに済みます。
結果的にクライアントからの評価も高く、今では多くのトップメーカー、大手企業が弊社のクライアントになっています。
消費者のパーセプションを導き、購買につながるストーリーを作ることで、今後もクライアントの「カスタマーセントリック」なマーケティングを支援していきたいと考えています。(了)