- 株式会社カプコン
- 通信技術室 東京通信技術チーム チーム長
- 高野 和之
クリエイターの感性 ✕ データで最高のオンラインゲームを!カプコンのデータ分析組織
〜魅力的なゲームを作り続けるカプコンのオンラインゲームへの挑戦。クリエイターの感性を最大化する、データ分析の取り組み〜
「バイオハザード」シリーズや「モンスターハンター」シリーズなどのゲームで知られる、株式会社カプコン。今ではそのフィールドをオンラインゲームにも広げている。
パッケージにするまでが勝負であった従来型のコンソールゲームと違い、オンラインゲームでは継続的にサービスを改善し、長く遊んでもらうことが重要になる。これまでクリエイターの感性に頼って勝負してきたカプコンにも、時代に合わせた変化が求められていた。
そこで同社はデータ分析をゲームタイトル横断の取り組みとするべく、BIツールの「Tableau(タブロー)」の本格導入に踏み切った。
その「仕掛け人」である高野 和之さんと二瓶 美帆さんは、「クリエイターの感覚は大事にしながら、データ分析のムーブメントを起こしていきたい」「しっかりと遊び込んでから分析することが大事」と語る。
クリエイターの感性をデータ分析で支える2人に、詳しい話を伺った。
「感性」だけでは生き残れない?データ分析の取り組み
高野 当社は「バイオハザード」シリーズや「モンスターハンター」シリーズなど、コンソールのタイトルを主力にしてきました。
「カプコンならでは」のこだわりが、コンソールゲームを舞台にお客さまに認められてきたと解釈していますが、近年ではインターネットにつながらないゲームというのは、事実上あり得ず、「長く遊んでいただく」という方向に市場も変わってきています。
そこで私たちもコンソールのみならず、「モンスターハンター フロンティアZ」や「ドラゴンズドグマ オンライン」などのオンラインゲームにも力を入れています。
当社のプロダクトは、どちらかというとプロダクトアウト型で、クリエイターの「こだわり」がコアなファンの方に受け入れてもらっていたというのも特徴です。一方で、オンラインの時代はプラスアルファが必要と感じています。
ユーザーさんが何を求めているのか、長く遊んでいただくために何が障害になっているのか。「感性」を第一にして満足度を高めながらも、数字で裏付けを取って収益も両立しなければいけません。
当社でも現場レベルでの取り組みは散発的に動いていたのですが、2016年11月には体制をより強固にするため、オンラインゲーム向けのインフラや分析基盤のチームをR&D部門に統合しました。私はその組織のマネージャーを務めています。
いいものを作る技術は大事にしながらも、それをどう収益につなげるかという部分を埋めていくのが、私たちの役割です。
分析の前に「そのゲームが大切にしているもの」を理解する
二瓶 私はカプコンに入社後、通信販売の部門に8年ほど在籍していて、お客さま対応やシステムの管理をしていました。そしてひょんなことからデータ分析の仕事をするようになりました。
今の部門ができる前、分析業務は数十のタイトルごとのチームで個別に行っていました。でもタイトルによっては専任の分析担当がいないものもあって、エンジニアが必要に応じて分析しているような状態でした。
R&Dのチームに統合されてからは、私のような分析担当が分析の仕方を説いて回るような体制になっています。各タイトルに数字を解釈できる分析担当がいるのが理想ですが、まだまだ追いついていない状況です。
私が分析をするときは、まずプレイ感を掴むことから入ることが多いですね。しっかりと遊び込んでから分析するようにしています。
そのゲームが何を大事にしていて、お客さまに何を提供しているから楽しんでもらえているのか。その大事なもの、楽しみの部分を変えるような提案はしたくないんです。
しっかりと遊びこんだ上で、ある部分が不便だと思うならデータを取ってみる。実際にそこで離脱している人が多かったら改善を提案しますし、逆に大勢の人は大丈夫だというのが見えてくるなら「私だけがそう思っていたんだな」とスルーする。そうして客観的に判断するように意識しています。
Tableauを導入し、Excel分析から脱却!
二瓶 すべてのタイトルで同じフォーマットのデータが取れていて、同じように分析できることが理想なのですが、現状はまだ実現できていないですね。システムも個別に構築しているので、データベースの種類も設計も違っていて、タイトルごとに方言を覚えないといけない状態です。
また、古典的なマーケティングで使うような数字は取れているのですが、それ以外の数字はこれまで可視化できていませんでした。
例えば「客単価が減っている」という問題に対しても、コアな客層の単価が減っているのか、逆にライトユーザーさんが増えて平均が下がっているだけなのか、深掘りするのが難しかったんです。
そのような部分でつまずいている時間がもったいないなと思いました。できるだけ多くの分析をこなすためにも、BIツールの「Tableau(タブロー)」を導入しました。
▼「Tableau」画面イメージ
Tableauを最初に使ってみたときは衝撃でしたね。プレーンなSQLを叩いた結果をCSVでダウンロードして、それをExcelで分析するような環境に私はずっといたので、SQLを書かなくてもある程度の分析ができるというのは、すごく便利ですね。
▼クエリ構築画面
Excelでの分析だと、結果を出した1週間後に「あれどうなったの?」となると、もう一度同じ分析をしないといけないですよね。Tableauなら一度ダッシュボードを作ってしまえば最新の結果が常に出せるのでとても良いですね。
かゆいところに手が届く?形式がバラバラなExcelも分析可能
二瓶 Tableauを選んだのは、Excelをデータソースとして使えるというのも大きな理由ですね。社内には埋蔵金のようなExcelが大量に溜まっているんです(笑)。そういったExcelって、フォーマットが整っていなかったりしますよね。
▼フォーマットがバラバラのExcelデータでも、整理してインポートすることが可能
ヘッダーがあったり、セル結合されていたりと、CSVのようにキレイな形のExcelってほぼ無くて。でもTableauのデータインタプリターという機能を使えば、ある程度解釈してデータとして取り出してくれるんです。これはなかなか他には無い機能ですね。
高野 様々なフォーマットのExcelも読まないと仕事にならないという、現場の実状をよくわかっていると思いますね。かゆいところに手が届くというか、現場のことをよく考えて作っているなという印象です。
二瓶 アップデートも頻繁で、1年に1回くらいある大型アップデートで追加される機能がまた「それ欲しかった!」というのが多くて。例えばバージョン10では、複数のデータベースを組み合わせて集計できるようになりました。複数のデータをExcelで結合して…という手間がなくなって重宝しています。
Tableauを導入して、分析にかかる時間は感覚ですが10分の1くらいに削減できていると思います。
複数のデータベースに入っているデータを組み合わせないといけない作業があって、半日から1日かかるなと見積もっていたのですが、それが1時間くらいで終わってしまうこともあって。しかも、それが定型的な集計であれば、一度ダッシュボードにしてしまえば、あとはリロードするだけで同じことはしなくていいんです。
高野 数字を作る作業ではなく数字をどう解釈するかというところに時間をかけられるようになりました。Excelだとやろうとも思わなかった分析もするようになったので、短縮した時間以上の価値がありました。
データでお客さまの顔が見えるようにしていきたい
高野 良いものを作ってなんぼというのは、カプコンとして失ってはいけないものです。コアなファンに支持されて今があるので、数字だけを追いかけて大衆迎合型のモノ作りをしてしまうと、カプコンはカプコンでなくなります。
でも時代の流れについていくことも大事なので、今はその軸足の置き方を模索している段階です。クリエイターの感覚は大事にしながら、データ分析のムーブメントを起こしていきたいですね。
二瓶 どんなユーザーがどの部分を楽しんでくれているのかという、お客さまの顔が見えるような分析をして、今までクリエイターの人たちに見えていなかったものを見えるようにしていきたいですね。そして、クリエイターがより良いものを作る手助けになるといいなと思います。