- 株式会社マッチングエージェント
- 代表取締役社長
- 合田 武広
270万DLのスマホアプリ「タップル誕生」の裏側!新規事業の立ち上げプロセスを徹底公開
〜新規事業の企画、デザイン、開発、グロースハック、を徹底的に解説した事例〜
株式会社サイバーエージェントで、内定者時代から子会社の社長を任される一方、2度のサービスクローズを経験した合田 武広さん。
その経験を経て2年半前に立ち上げたのが、現在270万ダウンロード(※2016年6月末時点まで)まで急成長中の恋活アプリ、「タップル誕生」だ。
今回は合田さんに、新規サービス開発を始める時のニーズ・タイミングの検証から、リリース後のグロースハックに至るまで、「新規事業の立ち上げプロセス」のすべてを詳細に語っていただいた。
2度のサービスクローズ後、「1,700万タップル」を誕生させるまで
2012年に新卒でサイバーエージェントに入社しました。内定者時代に株式会社フェイスマッチを設立し、マッチングサービス「Pitapat」というサービスを運営していたのですが、リリースからわずか5ヵ月でクローズしてしまいました。
その後、実名Q&Aサービス「Qixil」というサービスを立ち上げ、運営していましたが、こちらも上手くいかず。最終的には親会社であるサイバーエージェントに、事業を譲渡する形になりました。
「Pitapat」というサービスで成し遂げたいことに共感してくれ、人生をかけて入社してくれた人もいたので…。悔しさ、やりきれなさで、押し潰されそうな毎日でした。人生で一番、無力感、絶望を感じた時期でもありました。
そんな中、再びマッチングサービスで子会社を設立する話が立ち上がり、再度代表として、任せてもらうことになりました。
「二度と、会社を潰さない。持続的に利益を出し会社を成長させていく」と奮起し、2年半前に立ち上げたのが、「タップル誕生」です。
「タップル誕生」は「趣味でつながる」をコンセプトにしたマッチングサービス。グルメや映画、スポーツ観戦といった自分の「好きなこと」から、恋の相手を見つけることができます。
これまでのべ1,700万タップル(同サービス内でマッチングしたペア)が誕生し、アプリのダウンロード数も、270万を突破しました。
新規事業で大切なのは、「タイミング」と「リアルな世界」
これまでの失敗を踏まえ、新規事業を立ち上げる時は、「タイミングの見極め」が改めて重要だと感じています。
タップル誕生を立ち上げた2年半前は、pairsやOmiaiのような、「スマートフォンで異性に出会える」サービスが登場しはじめた時でした。
それらが多くのユーザーに評価されている様子を見て、マッチングサービス、いわゆる「出会い系」と称されるサービスに対しての世の中の抵抗感が、薄れてきているなと感じました。
「Pitapat」で参入した時は、まだFacebook連携でサービスにログインするということは根付いていなかったので…。新規ユーザーの獲得には、なかなか苦戦しました。
その経験があったからこそ、参入するタイミングがとても重要だと考えていました。
またサービスのコンセプトを考える上で重視していたのは、「それがリアルな世界で成立しているか」という点です。リアルな世界にないモノをWebやアプリで実現しようとしても、なかなか成立しないと思っていて。
ちょうど当時は、街コンが大流行していたので、その雰囲気をアプリに落とそうと考えました。
街コンがどんなもので、どんなユーザーがいるのかを肌で感じたかったので、実際に自分でも参加し、体験してみました。すると意外にも参加者のほとんどが、ごく普通の人だとわかって。
純粋に出会いを求める自然な交流の様子を体感できたことで、考えていたコンセプトが、多くの人に受け入れてもらえる可能性を感じましたね。
競合がおらず、しかし海外では伸びている領域を研究
ここから具体的な機能やデザインを作っていくわけですが、最初から、現在の「タップル誕生」の形にいきついたわけではありません。
最初は女性から「連れて行って欲しいところ」を投稿するアプリを考えていました。競合は結婚寄りのサービスばかりだったので、それより手前の価値を提供しようと考えたんです。
「ランニングに行きたい」「バーベキューに行きたい」といった情報が、女性から挙がってくるイメージです。しかしデザインを作って社長の藤田に見せたところ、「もう少しエッジを出せないかな。あと、女性が投稿するのはハードルが高いから、サービスとして成立するかな」という指摘を受けました。
また、周囲の知り合いなどにも相談したところ、「面白いけど、投稿するかはわからない」といった意見をもらって。そこでもう一度はじめから、国内・海外サービスの研究を徹底して行うことにしました。
pairsやOmiaiなどのサービスは、アプリで異性を見て慎重に「アクション」をする特徴があります。一方で海外のTinderというサービスは、異性に対して気軽に「アクション」をすることができ、ユーザーもものすごい勢いで広がっていました。
その点を参考にして、フリック操作で直感的に異性を選べるようなサービスを作ろうと考えました。
▼直感的に「アクション」できる、タップル誕生
方向性がブレないよう、サービスコンセプトは明確に
方向性を決めてからは、自分、プランナー、デザイナー、iOSエンジニア、サーバーサイド2名、という6名体制で開発をはじめました。
開発の方向性がブレないために重視したのは「何をやるか、何をやらないか」を決めた上で、企画に全員を巻き込むことです。
「結婚を目的にしたサービスにはしない」というサービスコンセプトは、明確に決めていました。ごく普通の人が気軽に出会えるようなサービスにしよう、という話は、チームメンバーに繰り返ししていましたね。
当時の開発フローは、まず企画者である僕が、パワーポイントを使って主要画面を作ることから始まりました。タップル誕生のときは、4画面ほどを作りました。
そして、その画面をデザイナーさんに渡してデザインに起こしてもらいました。デザインがなければ、チームメンバーがプロダクトに対するイメージを持てないからです。
この間エンジニアは何をしていたのかというと、主にインフラ設定や環境構築です。コンセプトや主要機能は崩さないと決めていたので、それをもとに、着手できる部分の設計を進めてもらっていました。
主要画面のデザインができたところで、チームメンバーで方向性について合意を取りました。その後、プランナーが詳細な要件定義を行い、それをもとに全画面のデザインを制作し、それをエンジニアに渡して実装する、という流れでした。
「初回ログイン時のアクション」を、最重要KPIに
サービスとしての目標を見失わないために、リリース前の段階で明確にKPIを定めておくことが重要だと考え、指標を定めた上でリリースに備えました。
リリース当時は、アプリへの初回ログイン時のアクションを重要視していました。App Storeには様々なアプリがあるので、初めて起動したときに有益なアプリだと思われなければ、2日目以降は絶対に利用してもらえませんし、すぐにアンインストールされてしまいます。
初回ログイン時のアクション率が高ければ、当日のリテンション(継続率)、翌日のリテンション、1ヶ月後のリテンションも良い数値が出ます。現在では「初回ログイン時のアクション」というKPIをさらに細かく定義して、「初回ログインから30分以内のアクション」を重視していますね。
グロースハックのプロセスはデータ、仮説、チームワークが重要
サービスリリース後のグロースハックのプロセスは、仮設の立案と検証、施策の実行、効果検証の繰り返しです。
仮説の立案については、僕とプロダクトの責任者で行います。具体例をあげると、「初回に起動した際に3人以上の相手にアクションをした人は、継続率が高いのではないか」といった内容です。
次に、データ分析によって、仮説が確からしいかを検証します。この例であれば、アクションを3人以上した人とそうではない人の数値を比べて分析し、実際に継続率に違いがあるかを調べます。
仮説が確からしいとわかれば、その仮説を採用し、プランナーが施策のたたき台を作成します。そしてエンジニアやデザイナーも巻き込んでミーティングを開催し、たたき台をブラッシュアップしていきます。
仕様を決めるところからエンジニアやデザイナーを巻き込むことが、チームで開発をスムーズに進める上では重要ですね。
その後は施策を実行するためのデザインに進みますが、ここではプロトタイピングツール「Prott(プロット)」を使い、実際のアプリに近い動きを再現します。それをそのまま仕様書としてエンジニアに渡し、実装という流れになります。
打った施策をGitHub、Googleカレンダーで管理
打った施策は「Googleカレンダー」に登録をして、時系列で確認できるようにしています。そして施策の細かい情報は、「GitHub」で管理します。具体的に言うと、目的や、定量的なゴール、仕様、結果とその要因を記録していますね。
▼実際のGoogleカレンダー 日々の施策が記録される
このように記録を残しておくことで、仮説が間違っていても資産になります。
例えば過去に、「無料ユーザーでもある程度女性とメッセージのやりとりをできるようにすれば、有料ユーザーが増えるのではないか」という仮説を立てたことがありました。
それをもとに、無料の男性ユーザーでも5通までメッセージのやりとりができる、という機能をつけたのですが、有料ユーザーは増えなかったんです。検証の結果、5通のメッセージのやり取りである程度満足してしまうのではないか、物足りなさが重要なのではないか、という結論に至りました。
こういった過去の記録を、次の施策を考える時に役立たせています。
チーム開発に正解はない。都度のコミュニケーション設計を
現在はチームが20名になり、コミュニケーションのバランスの重要性を強く感じています。企画側にエンジニアやデザイナーを巻き込むことは重要ですが、あまりに巻き込みすぎると、会議が増えて何も進まない、という問題が起きます。
今後もチームは拡大していく予定ですので、その都度、最適な方法を模索していきたいです。
サービスについては、将来的にはマッチングして終わりではなく、その後のリアルな出会いにつながるような機能を提供していきたいと思っています。今後もより多くの人の出会いをサポートできるように、挑戦を続けていきたいです。(了)