- 株式会社ディー・エヌ・エー
- ゲーム・エンターテインメント事業本部 組織開発部 部長
- 菅原 啓太さん
HRBPは「事業に資する」人事。人事戦略から採用、評価まで、DeNAの戦略人事の動き方
〜HRBPは「パートナーの事業・組織に一番詳しい人事」。事業部と「同じ側」に立ち、経営と人事をつなぐその役割とは〜
企業の経営や事業に対しての価値貢献をミッションとする人事、「HRビジネスパートナー(以下、HRBP)」が広がりを見せている。
株式会社ディー・エヌ・エーでは、2014年からHRBP制を導入。現在は12名のHRBPが「事業に資する人事をやる」というミッションのもと、それぞれの事業部が抱える課題の解決に取り組んでいる。
その業務範囲は、人事戦略、人材戦略、組織開発、採用、マネジメント育成、そして評価まで非常に多岐に渡る。
これまで、現場を巻き込んだリファラル採用によって半年で20名以上を採用する、組織内のマネージャー数を倍以上にする登用によって離職率を半減させる、といった成果を上げたそうだ。
今回は、同社のゲーム・エンターテインメント事業にてHRBPを務める菅原 啓太さんと、山下 裕大さんに、その取り組みの具体例や成果、そしてHRBPの果たすべき役割について、お話を伺った。
「パートナーの事業・組織に一番詳しい人事」として、事業推進を後押し
菅原 私は ITベンチャーで6年間の勤務を経て、2009年からDeNAにエンジニアとして入社しています。そこから2015年にHRBPになって、いま4年目ですね。
山下 私は2014年の2月に中途採用でDeNAに入社しました。採用面接のときから、当時のHR本部長に「HRBPを作りたい」という話を聞いていたので、入社した初年度にHRBPの初期メンバーのひとりになり、現在5年が経ったところになります。
菅原 当社はスポーツやオートモーティブなどの領域で多角的に事業を展開していますが、その中核にあるのはゲーム・エンターテインメント事業です。人的リソースの面でも、社内の約半数の社員が所属しています。
従って、HRBPの体制も全社の中でふたつの組織に分かれています。
ひとつは我々が所属している、ゲーム・エンターテインメント事業本部の中にある5名体制のHRBPチーム。
もうひとつが、全社横断のヒューマンリソース(HR)本部に所属していて、ゲーム・エンターテインメント事業以外を見る7名のHRBPチームです。
HRBPの業務範囲は事業との親和性が強く、事業特化にしたほうが価値の出せる仕事を担っています。例えば組織開発や人材開発、中途採用や評価もですね。
逆に給与計算や労務管理、新卒採用といった活動は全社で動いた方がメリットがあるので、HR本部が担当しています。
▼【左】山下さん・【右】菅原さん
社内におけるHRBPの立ち位置をざっくり言うと、「パートナーの事業・組織に一番詳しい人事」かなと思います。
その中でHRBPが担っているミッションは、「事業に資する人事をやる」ということです。業務範疇は非常に広いのですが、私は「縦と横」で認識しています。
「縦」は、いわゆる会社のビジョン、経営戦略、事業戦略からの人事戦略、という縦のラインをつなげることです。一方で「横」は、その戦略の中にある戦術論としての採用、オンボーディング、育成、評価といったことですね。この全部が、スコープに入っている形になります。
いわゆる、デイビッド・ウルリッチ氏の定義と比べると、もう少し範囲が広いですね。いま全部ができているかというとなかなか難しいのですが、少しずつ、テリトリーが広がってきたかなと思っています。
採用からマネジメント強化まで。現場と一体となり、組織課題を解決
山下 HRBPが立ち上がったのは2014年ですが、その背景は大きく2点あります。
まず、当時はちょうどヘルスケア事業が立ち上がる直前で、事業が多角化していたこと。もうひとつは、組織の人数が1,000名を超えた中で、DeNAが大切にしてきた組織文化をフォローしていく必要が出てきたことです。
例えば、事業の大黒柱である人材を引っこ抜くことで、抜かれた組織のメンバーによりチャレンジングな役割を担ってもらう事で、組織を強くする…といった風土ですね。
要するに、現場が思いっきりチャレンジできるように、事業と組織の戦略面を人事としてサポートして、一緒に事業を推進していきたい。これが当初のコンセプトでした。
当時は人材企画部という名前で5人の組織だったのですが、全員が事業部の出身者でした。その後、菅原をはじめ、現場の一線で活躍しているメンバーを徐々に引っ張ってきて(笑)。
菅原 私は最初、断っていたのですが、当時のHR本部長でもともと一緒に事業を推進していた人間に3回誘われまして。「三顧の礼」ではないですが、三回目に「これは受けなきゃあかんやつや」と思って、決めました(笑)。
山下 具体的にこれまでHRBPで成果を挙げた事例でいうと、2017年に行った「採用番長」という取り組みがあります。
当時、ゲームの開発・運営における経営課題として、人材不足が非常に顕在化してきたんですね。そこで人事だけではなく、現場も巻き込んでエッジの効いた採用施策をしたいね、という話になりました。
そこで、横浜DeNAベイスターズの球団を引っ張ってくれていた、三浦 大輔投手の愛称である「ハマの番長」の名前からアイデアをもらって。現場で採用を引っ張ってくれるエースに「採用番長」の役割を持ってもらい、採用を加速させる企画を考えていきました。
施策の中身はいわゆる「リファラル採用」なのですが、各番長に裁量や予算の権限を渡して、現場ならではの活動を期待しました。すると、社内のメンバーを巻き込みながら各自で候補者をリストアップしてくれ、どんどんアクションが進んでいったんです。
多くの会社が「社員紹介制度」を導入していると思うのですが、この制度の特徴は各部門の番長達が、今後どのように事業を立ち上げていくか、どのような仲間が必要かを把握したうえで、仲間集めをしたことです。
この取り組みによって、半年でおよそ20名以上を採用することができました。まさに、現場と一体となって、「人が足りない」という組織課題に取り組んだ事例ですね。
ベンチャーの初期フェーズに人を集める感覚のようで、すごくスピード感がありました。
菅原 他にも組織開発の事例だと、2016年には、150人ほどのエンジニア組織におけるマネジメント体制を一新しました。
当時、その部門にはマネージャーが4名しかおらず、しかもプレイングマネージャーだったので、メンバーのフォローが十分にできておらず…。
それだけが要因ではないですが、退職も多発していたんです。退職率の高さは事業経営の課題にもなっていました。
そこで何をしたかと言うと、マネージャーの数を倍以上にしました。その中には当然、「え、大丈夫?」と思うような若手の登用もあったのですが、結果的に離職率は半分になったんですよ。
当時の部長からすると、やはり事業に対する責任があるので、マネージャーをチャレンジアサインするなんて考えられなかったんですよね。そこにHRBPが入って「私が組織の立て直しにコミットします」と約束することで、マネージャーを増やすことができたんです。
…正直、当時は私自身も「こんなこと言っちゃったけど大丈夫かな…」という気持ちでしたが(笑)、結果的には非常に良かったなと思っています。
事業部と同じ「側」から、評価や採用にも切り込んでいく
菅原 先ほどのケースで具体的にどんな人材をマネージャーにアサインしたかと言うと、まずはマネージャー要件を満たせる、ないしは満たせることが期待できる人。
かつ、エンジニアとして、スペシャリストではなくジェネラリストとしてのキャリア志向があったメンバーです。
特にエンジニアの場合、マネージャーをすることで専門スキルの磨き込みがスピードダウンしてしまうので、嫌がる人もいます。そこは本人の「Will(将来なりたい姿)」を確認しながら、という感じですね。
山下 こういった登用ができる背景としては、HRBPが常にメンバーについて把握している、ということがあります。具体的にどう把握するのか、一例を言うと、半期ごとの評価にHRBPが入っているんですね。
菅原に至っては、ゲーム・エンターテインメント事業本部内のすべての評価に関わっています。
もちろん、最終的に評価を決めるのは事業部長ですが、HRBPはその評価が適正かどうか、全社の経営視点から見ています。
他にも、「AIエンジニアが高騰している」といった市場の変化と、社内のバランスをとることもやっていますね。
また採用に関しても、最終面接はHRBP側で行っています。当然、一次・二次面接の中で、事業部としてのスキルフィットは見極めてくれているので、我々の方では会社とフィットするか、経営目線で中長期的に見て双方がハッピーになるか、といったことを確認しています。
菅原 HRBPが面接に入っているもうひとつの目的は、評価の平準化です。評価ってどうしても「甘辛」が出てきますので、そこは現場と喧々諤々と話し合っています(笑)。
ただ、話し合うことで最終的に擦り合っていくので、採用を通じて、マネージャー育成と組織開発を行っているイメージです。
HRBPは、事業部と同じ「側」で話ができる人事なんですよね。例えば、とある事業部で採用候補者の方の採用合否で悩んでいる、といったケースがあるとします。
そこでHRBPとしては、「こういうマネジメントができれば候補者の方が能力を発揮 できると思うけれど、どう思う?」といった形で具体的な対話ができます。
基本的に私は、面接の中で、「この人が入ったあとのマネジメントを実際にどうするべきか」までを見るようにしていますね。
組織サーベイや360度評価の結果を読み解き、組織開発につなげる
山下 DeNAでは、360度アンケートや組織状況アンケートなど、サーベイ結果を用いた人材開発や組織開発もHRBPが関わっています。
弊社では自前の組織サーベイを使って定量・定性の情報を集めているのですが、そもそも人間って数字に左右されがちなんですよね。でも、サーベイにおいて数字が上がればいいかというと、本質的にはそうではないと思っていて。
例えば、「チームは外部環境に対してアンテナを張っていますか」という質問があるとします。
それに対して、目線が高い人ほど「まだ海外まで見れていないから、できていない」と厳しく回答したり、逆にあまり意識していない人が「まあできているよね」と、良い点数をつけたり、といったケースもあると思います。
この場合、厳しいスコアがついたチームのマネージャーが本当にできていないのかというと、そうではないですよね。こういったことをHRBPが読み解いて、個別にカスタマイズして1on1などでフィードバックをしています。
菅原 先日、とある部署で「目標に対して理解はしているが、共感は低い」という結果が出たことがあったんですね。
それに関して事業リーダーと「なんでだろうね」と話をして深掘りしていったら、そのリーダー自身が、実は目標に対して腹落ちしきれていない部分があった、ということに気づけたこともありましたね。
重要なのは肩書ではない。組織として、経営と人事をつないでいく
菅原 HRBPの存在意義として、重要なのは経営と人事をつなぐ・事業と人事をつなぐ、ということだと思っています。なので、実際の肩書はHRBPではなく、人事部長でもCHROでも何でも良くて。
実際、会社ごとにHRBPの仕事内容は全然違っているはずなんですよね。
小さい会社の場合、それをやっているのは社長です。社長から組織のすべてが見える規模であれば、その中で採用をすればいいし、評価をすればいい。
ただ、やはり100人、200人と人数が増えていくと、徐々に社長と人に距離が出て、見きれなくなってしまう。そうなってきたときに、人事が担うべき役割がそこにあるんです。
なので肩書は何でも良いですが、心持ちとして、単に「会社の人事機能を担う」のではなく、人事の視点から経営を見て、経営と人事をつなぐ。社長が今まで1人でやってきたことを、組織的にやっていく、ということが大切だと思っています。
山下 さらに組織が拡大してくると、社長ではなくて部長レイヤーでも「部としてやりたいことがあるのに、組織のスピードが上がらない…」といった課題が出てくるわけです。
そのボトルネックがどこにあるのかと言うと、人材不足だったり、組織課題だったりします。
そういった課題に対して、採用をするのか、誰かを抜擢するのか…そのような意思決定の際に、事業リーダーの壁打ち相手となって、事業スピードを上げることに貢献できるのがHRBPだと思っていますね。(了)