- コラボレーター
- 加留部 有哉
マネージャー不在の「ティール組織」ビュートゾルフの、ITを使った意思決定術とは?
2018年1月31日に発売された、「ティール組織:マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」。
組織運営に関わる方々で、既にお読みになった方も多いのではないでしょうか。
この本では、「ティール組織」と名付けられた、新しい組織・コミュニティのあり方が説明されています。
▼ティール組織:マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現
ティール組織においては、組織は社長や株主のものではなく、目的のために進化を続けるひとつの生命体であると捉えられています。
そのため、ティール組織には指示系統がなく、各々が自分たちのルールや仕組みを理解しながら意思決定をしていくことになります。
んー。難しい。本当にこんなことができるのでしょうか?
今回は、オランダでティール組織の代表例として捉えられているマネージャーのいない組織・Buurtzorg(ビュートゾルフ)を例に、そのITを駆使した組織運営を紹介します。
オランダの介護業界を刷新した変革者「ビュートゾルフ」
まだ実例の少ないティール組織のひとつが、オランダの非営利団体Buurtzorg(ビュートゾルフ)です。
2006年に立ち上がったビュートゾルフは、在宅介護支援の新しいモデルを提供する組織です。そして、その特異な組織形態・介護システムによって、およそ10年間で24ヶ国、850チームで、1万人以上の介護士が働く組織に急成長を遂げました。
その特徴は、マネージャーを持たない850ものチームが、ビュートゾルフが進化するという目的のために完全に独立して運営されていることです。
マネージャー不在の状態で、850チームがそれぞれ意思決定をしているなんて、信じがたい話かもしれません。
【ビュートゾルフの組織の特徴】
- 最大12名のスタッフからなる「チーム」で構成されている。
- チームはビュートゾルフの6つの目標に沿って、自由に行動する。
- チームは介護ケアなどの実務と、採用といったビジネスの両面をこなす。
- 850のチームを、45名のバックオフィスが支える。
- 850のチームに15名のコーチがいて、議論の補助をする。
- すべてのチームで情報、ノウハウ、アドバイスが共有される。
- 上記を支えるITツールを利用する。
▶参照情報:2016 Burrtzorg Study
ビュートゾルフでは、「Buurtzorg Web」というITツールを利用して、この特異なマネジメントスタイルを支えています。
今回は、そのBuurtzorg Webの持つ機能を、具体的に紹介していきます。
全てのコミュニケーションを統括する「コミュニティ機能」
まずBuurtzorg Webでは、チーム内やチーム間のコミュニケーションや情報共有のために、コミュニティ機能が設けられています。
▼社内SNSで、その日にあったことを報告し合う
チーム内で問題解決のために議論を行う際に、行き詰った場合にはコーチが補助を行います。
ただし、コーチは問題解決をするのではなく、あくまでも議論をファシリテートし、質問の投げかけを行うだけです。
最終的な問題解決の意思決定は、各メンバーが行います。
▼ドキュメントやメッセージを送信できるコミュニティ機能
当然、看護師の間には、専門的な知識の差というのが存在します。
そこで看護師同士はこのコミュニティ機能を使って、「誰がどんな専門性を持っているのか」確認することもでき、質問をすることもできます。
マネージャーのような権限の階層はありませんが、自分の専門領域について活発にドキュメントを公開することで、スキルや専門性を互いに認知できます。
すると評判や影響力といった形で、自然発生的で流動的な階層が存在するようになります。
患者の記録・アセスメント・評価を蓄積する「顧客管理機能」
Buurtzorg Webには、電子健康記録も機能として入っています。これは普通の企業における、顧客管理に近いものです。
看護診断(アセスメント・評価・記録)をデジタルで共有し、より質の高いケアプランをチームで提供できるようにします。
▼患者ごとのアセスメントやケアプラン、これまでの経緯などが閲覧可能
チームの誰もが顧客のタイプや進捗状況を把握することができるので、メンバーのそれぞれの専門性を活かしてケアプランを作ることが可能です。
また、すべての顧客データをもとに、近い将来にどれだけ介護リソースが必要になるのかがわかるダッシュボードも提供されます。
これをもとにチームは、今から自分が何をするべきか、チームとして何が必要なのか、意思決定をすることができます。
▼ダッシュボードのイメージ
生産性やスケジュールを記録する「タレントマネジメント機能」
ビュートゾルフでは、自分の仕事を自分で判断して動く「自主経営(セルフマネジメント)」が推奨されています。
ですので、チームや患者のことだけでなく、自分の状況を正確に把握することも必要不可欠です。
そのためBuurtzorg Webでは、自分の契約情報や勤務時間、スケジュール、休暇の設定、同僚からの評価や改善するべき点までも記録できるようになっています。
▼自分の1日のスケジュールや仕事内容もひと目でわかる
自分が提供したケアの質、治療時間などもデータで可視化されるので、自分で仕事のパフォーマンス(生産性)を把握して改善につなげることもできます。
タレントマネジメントシステムは多く存在していますが、自分の仕事のアウトプットに対しての記録をしっかり活用しているケースは珍しいですね。
▼自分の仕事のアウトプットが記録される
またビュートゾルフには、人事部が人材の評価をするという概念はありません。
代わりに、毎年自分たちで決めたコンピテンシー評価(※)に基づいて、相互評価を行います。
※成果に繋がる行動特性・スキルなどを評価項目として評価する仕組み
そして、その評価もBuurtzorg Web上に蓄積されるので、そのフィードバックをもとに自分のパフォーマンスを上げることで、患者へ還元していきます。
顧客数やコストなどを全て把握できる「ダッシュボード機能」
また各チームには、全てのチームメンバーがチームの状況を把握することができるダッシュボードが提供されています。
そこには顧客のステータスや数だけでなく、チームのコストや働きかたの質などが可視化されていて、意思決定の判断基準となります。
▼チームの状況がわかるダッシュボードが提供される
▼チームが組織全体と比べて、患者に時間を使えていないことがわかる
マネージャーがいないため、メンバーはこの情報を見ながら、今後どう動くべきかを決め、チームに共有します。
例えば、来年の動きを考えた際に人数が足りないのであれば、採用活動を開始します。
採用活動を行うのは、人事部ではなくそのチーム自体です。クライアントのために、自分たちと一緒に働く仲間を集める採用活動はメンバーもモチベーション高く取り組むようです。
チームの状態を惜しみなくオープンすることで、マネージャーのいない独立したレベルの高い組織運営ができていると言えるでしょう。
ノウハウや前提知識などを学べる「ビデオラーニング機能」
また、自分自身でスキルや専門知識を獲得し、質の高い仕事をするために、ビデオラーニングが用意されています。
ビデオ教材は、各プログラムのプロセスに沿った形で用意されており、メンバーは自主的に学習を行うことができます。
例えば、ビュートゾルフに新しく入社した人は、その環境に最初は戸惑うかもしれません。しかしそんな時にも、組織の基礎情報をビデオで順を追って理解できるようになっています。
ビデオラーニングは一度作ってしまえば、テキストと比べてわかりやすいですし、より効率的に学習を進めることができますね。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
マネージャーのいない環境で、自らが意思決定をしていくには、行動や意思決定に繋がる情報がオープンにされている必要があります。
そしてそれらの情報をもとに、セルフマネジメントを促し自発的に動いていくことが要求されるようです。
ティール組織までとはいかなくても、社員のマネジメント工数を減らし、自律的に動く組織を作りたいのであればこれらの取り組みを参考にしてみてください。
▶参照情報
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