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ブロックチェーンで社会課題の解決を目指す「ReFi(再生金融)」とは?概要から活用事例まで

近年、国際社会において合意されている17の目標「SDGs」が話題となっています。これは、国連に加盟する193ヶ国によって採択された、2030年までに持続可能でより良い世界を目指す国際目標です。

しかし、これらの目標に取り組むには金銭的コストが伴うため、特に開発途上国や資源が限られている企業にとっては負担が大きく、取り組む主体者が限られてしまっているのが現状です。

このような状況の中で、昨今注目を浴びているのが、「ReFi(再生金融)」と呼ばれるアプローチです。ReFiは、ブロックチェーン技術やDAO(分散型自律組織)などの仕組みを活用して、環境問題や気候変動、生物多様性の保全、貧困や食糧不足など、世界が直面する様々な課題の解決に経済的インセンティブをもたらします。

持続可能な活動が、ReFiによって経済的にも魅力のある選択肢となることで、これまで以上に多くの国や企業がSDGsに取り組むきっかけになるのではないかと期待されています。

そこで今回は、ReFiの基本概念からそのメリット、さらには国内外の事例までを徹底解説いたします。ぜひ最後までご覧ください。

<目次>

  • 「ReFi(再生金融)」とは?
  • ReFiのアプローチが有効な対象領域
  • 【事例6選】今話題の国内外のReFiプロジェクト

※編集部より:本記事に掲載している情報は記事公開時点のものとなり、プロジェクトのアップデートにより、情報が記事公開時と異なる可能性がございますので、予めご了承ください。また、記事の内容についてご意見や修正のご提案がございましたらこちらまでお願いします。

「ReFi(再生金融)」とは?

ReFi(Regenerative Finance:再生金融)」とは、ブロックチェーン技術やDAO(分散型自律組織)の仕組みを活用し、環境問題や社会課題の解決に経済的インセンティブをもたらすことで、持続可能な社会を目指す取り組みのことです。

例えば、土地の保全が伐採よりも金銭的メリットをもたらす場合、人々は伐採ではなく保全を選択するように、エコシステムの健全性を向上させる活動に報酬を与えることで、人々が環境に良い選択をするように促すという考えがベースにあります。

この考え方は、経済学者ジョン・フラートンが2015年に提唱した「再生経済(Regenerative Capitalism)」の理念に基づいています。フラートンは、環境問題の解決のために従来の資本主義経済を悪にするのではなく、むしろ経済的な活動が解決策の一部になるように経済システムを再構築すべきだと考えました。

また、ReFiに似た用語として「DeFi(Decentralized Finance:分散型金融)」がありますが、これはブロックチェーンを基盤とした金融サービスのことで、スマートコントラクトを介してユーザー間の直接取引を可能にするものです。DeFiは中央集権的な管理者も存在しないため、低コストかつ高速な取引を実現できることが利点として挙げられます。

そしてReFiは、このDeFiがもたらす取引の透明性・効率性を活かして資金の流れを変える試みといえます。

具体的な事例については後述しますが、現在、「カーボンオフセット」に関わるプロジェクトの多くでReFiのアプローチが試みられています。カーボンオフセットとは、直接的な温室効果ガスの削減が難しい場合に、環境保護プロジェクトへの投資やカーボンクレジットの購入を通じて相殺する活動です。

この活動におけるカーボンクレジット(※)の取引に、ブロックチェーン技術の相性が良いとされています。

※カーボンクレジットとは、企業が環境保全活動に取り組むことで生まれた温室効果ガスの削減効果を「クレジット(排出権)」として売却したり、反対に、過剰に排出する場合はクレジットを購入するなど、企業間で取引できるようにする仕組みのこと

元々、このカーボンクレジットはいくつかの課題を抱えていました。それは、認証機関によって中央集権的に管理されていることで、発行から取引までの手続きが煩雑だったり、国や地域によってクレジットの基準が異なるといった問題です。

また、一つの企業や地域などでは取り組みに限界があることや、個人単位での手続きの煩雑さから取り組みづらいといった課題もありました。

それらの課題に対して、カーボンクレジットにブロックチェーン技術を活用すれば、透明性の高い追跡システムを構築でき、クレジットの取引を効率的に行えるようになるというわけです。

また、ReFiの活動はDAO的に運営されることが多く、コミュニティ主導でのリソース分配や意思決定が可能となり、多様なステークホルダーの声を反映したプロジェクト運営ができる点もメリットとして挙げられます。つまり、ReFiのアプローチによって、より個人単位で、かつグローバル規模に取り組みを広げられるのではないかと期待されているのです。

しかし、未だブロックチェーン技術やWeb3という考え方が、一般に広く普及していないため、参加者が限られているのが現状です。市場への参加者を増やし普及を加速させるには、これらの技術への理解を深め、受け入れを促進する必要があるでしょう。

ReFiのアプローチが有効な対象領域

では、ReFiのアプローチはどのような領域で展開されているのでしょうか。今回は、4つに絞ってお伝えします。

1.気候変動対策

ReFiは、太陽光発電を含む再生可能エネルギープロジェクトへの投資やカーボンクレジットの取引を通じて、温室効果ガスの排出削減および炭中和(カーボン・ニュートラル)を実現します。

これらの取り組みは、気候変動への有効な対応策となるため、炭素排出市場を中心にプロジェクトが展開されています。

2.生物多様性の保全

生物多様性とは、地球上の様々な生物が環境に適応しつつ互いの個性を認め、互いに繋がり、支えあうシステムのことを指します。生物多様性の喪失は、生態系全体に重大な影響を及ぼします。

そこでReFiは、農業や森林管理の改善を促したり、企業と消費者間における持続可能な消費と生産の促進を通じて、生物多様性の保全と破壊防止に貢献します。

3.一次産業における持続可能性の向上

化学肥料や農薬の削減や土壌の改善、効率的な水資源利用を促し、持続可能な農業への転換を目指すReFiプロジェクトも存在しています。

また、環境に優しい農業技術や有機農業への融資および投資を通じて、食料システムの持続可能性を向上させることも期待されています。

4.社会的責任と包摂性

JICAによると、正規の金融サービスにアクセスできない人たちは世界に約17億人いるとされています。そこで、金融サービスを提供する企業などへ投資を行うことで、経済的機会の均等性をもたらし、貧困削減に貢献することが可能です。

【事例6選】今話題の国内外のReFiプロジェクト

では実際に、ReFiのアプローチはどのようなプロジェクトで展開されているのでしょうか。ここからは、国内外のReFiプロジェクトを6つご紹介します。

1.SINRA

SINRAは「地球上の自然が再生し続ける状態」と「地域経済が持続可能に運営される世界」の両立を目指し、三重県尾鷲市で展開されているReFiプロジェクトです。

太平洋側に位置し、日本有数の多雨地帯として知られる尾鷲は、脱炭素と教育を基盤とする「22世紀に向けたサステナブルシティ」の実現を目指し、2022年3月に「尾鷲市ゼロカーボンシティ宣言」を行っています。

同プロジェクトでは、自然資源が保有する多元的な価値を象徴した「Regenerative NFT」を販売することで、個人でもクレジットを取引できる市場を構築することを目指しています。そして、このNFTは、環境保全活動に貢献した証になるだけでなく、NFTを保有する企業・個人を中心としたコミュニティへの参加権としても機能します。

また、NFTの販売益は自然資源保有者と地域に還元され、さらなる自然資源の再生や地域経済の活性に寄与する仕組みが構築されています。

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2.aNET ZERO

aNET ZEROは、コンクリートの脱炭素化のために、全国の主要メーカー50社が結集したコンクリート産業の政策集団です。

最先端の脱炭素系コンクリートを大規模に社会実装し、事業活動に関係する全ての温室効果ガスの排出量(サプライチェーン排出量)を、2050年より前倒しでゼロにすることを目指しています。

aNET ZEROは、政策課題と取り組みとして以下の3つ挙げています。

  • 自己治癒コンクリート「Basilisk」や炭素除去コンクリート「CarbonCure」などの全国的な普及を通じて、日本のコンクリートGX(Green Transformation)をリードする
  • 脱炭素系コンクリートを使ったCO₂削減記録をNFT化し、ウォレットを介して顧客へとリレーするコンクリートGXの新たなビジネス基盤を確立する
  • 蓄電コンクリートの大規模な実用化や、さらなる炭素除去技術の共同開発に取り組み、2050年のIPCC目標を前倒しした期限付きNET ZEROにコミットする

そのほか、炭素削減の根拠データをNFTとして発行する「Decarbo Badge Factory」の開発や、アメリカのベンチャーチームと連携して炭素データの精密さを高めるなど、脱炭素経営に様々なアイデアを取り入れています。

3.428NFTプロジェクト

428NFTプロジェクトは、街の落書き消去に必要な資金をNFTアートの販売によって募るプロジェクトです。

このプロジェクトを手掛けているのは、「クリーン」と「アート」の力で落書きの解決を目指す「一般社団法人CLEAN&ART」です。2018年に東京藝術大学出身の壁画アーティストKen Sobajima氏によって設立され、これまで渋谷の街から500件以上の落書き消去を実施しているほか、SDGs17色を用いた壁画を複数製作しています。

本プロジェクトの第1弾として、渋谷にちなんだ428種のNFTアートが販売され、その販売益を利用して2023年10月に渋谷区恵比寿にて落書き消去が実施されています。ここは落書きを消去する際に駐車場15台分を複数日程押さえる必要があり、営業保証費用の問題から消去実施が難しかった場所でした。

また、NFTアートは、落書き消去活動を行うCLEAN&ARTのユニフォームがモチーフとなっており、これまでの消去活動によってメンバー各自のユニフォームに実際についた汚れを素材にしています。落書きが消去されるとランダムにアートが浮かび上がる仕様になっており、ユニフォームにペンキが飛び散っていく様子が再現されています。

4.Regen Network

Regen Networkは、ブロックチェーン上でカーボンクレジットの売買ができるプラットフォーム「Regen Marketplace」の運営や基盤を提供することで、持続可能な農地利用の促進を目指しています。

このプラットフォームでは、クレジットを発行したい人はレジストリに情報を入力し、クレジット生成・申請することで、売買が可能になるといった仕組みが構築されており、世界中の人が安心して取引できる環境が整えられています。

また、クレジット発行事業者と購入者とのマッチングを促進するために、あらゆるカーボンクレジットを一つの規格に集約させ、流動性を向上させる機能も果たしています。

そして現在は、「Regen Ledger」という独自チェーンの構築と、ステーキングとユーティリティの機能を持った独自トークン「REGEN」の発行も行なわれており、環境保全と持続可能な土地利用を推進するプラットフォームとして、より重要性を増していくと期待されています。

5.Celo

「すべての人が豊かになるための金融システムの構築」をテーマに、スマートフォンによる暗号資産の普及を目指すプロジェクトが「Celoです。たとえ銀行口座にアクセスできなくても、モバイルファーストで金融システムにアクセスできる環境の構築を目指して設立されました。

同プロジェクトでは、ユーザーの電話番号が公開鍵にリンクされ、送金相手がCeloのユーザーでなくても、電話番号を指定すれば送金できるといった仕組みが構築されています。

また、ドルと連携した「Celo Dollars」や、ユーロと連携した「Celo Euro」が開発されており、すでに多くのユーザーを獲得しています。また、複数の企業からも支援を受けており、ReFiプロジェクトの中でも広く普及している取り組みとして知られています。

特に東南アジアやアフリカなどの先進国では銀行口座を持っていない人が多く、円やドルなどの法定通貨は先進国に比べて価値を見いだされていません。そうした事情に加えて、コロナ禍のタイミングでインターネット上に口座がつくられるケースも増えており、今後デジタル決済の需要が高まれば、Celoの市場はますます拡大していくでしょう。

6.Alóki

ReFiのプロジェクトでユニークな働きをしているのが、Alókiです。メタバース(仮想現実)の開発に注力しているAlókiは、コスタリカの山林で歩き回るゲームを制作しています。仕組みとしては、ユーザーがゲーム内で植林すると現実のコスタリカにも植林が行われ、好影響を与えるシステムが構築されています。

ここ数年、ブロックチェーンゲームは遊びながらお金を稼げるとして注目を浴びましたが、Alókiはお金を稼ぐことではなく物の所有を目的としています。つまり、植林する木をユーザーが所有して実際に植えることが、コスタリカの山林を守ることに繋がるのです。

メタバース市場の展開として、Alókiのように現実世界と連動し、影響を及ぼすような活用方法が今後も増えていくと予想されます。

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は、「ReFi」の定義からメリット、具体的な事例までをお伝えしてきました。

昨今、アート文脈のNFT業界が落ち着く中で、今後は社会貢献に焦点を当てたプロジェクトがより一層増えてくるのではないかと思います。今後の展開に注目です。(了)

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