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デジタルとWebの「ちょっと先の未来」を考えよう!SELECKゆるのみ番外編【イベントレポート】

2021年頃から世間を賑わせ始めた「Web3.0」。この1年間、SELECKでもWeb3.0の有識者やNFTプロジェクトのファウンダーなど、業界の最前線で活躍されている方々のインタビュー記事をお届けして参りました。

しかし、Web3.0は非常に変化が激しく流れの早い世界。日本は今、どのような場所にいて、今後はどのような未来が描かれていくのでしょうか。

そこでSELECKでは、「デジタルとWebのちょっと先の未来を考えよう」をテーマに、編集部と読者の皆さまがお酒を飲みながらゆるく語り合う会「SELECKゆるのみ」の番外編を11月25日(木)に開催いたしました!

SELECKゆるのみは新型コロナウイルスの関係で2年ほどリアル開催を見送っておりましたが、この度、株式会社ゆめみと恵比寿に位置するイベントスタジオSTUDIO VIZZ EBISUの2社様ともコラボレーションさせていただく形で、一夜限りの復活となりました。ご参加いただいたみなさま、本当にありがとうございました。

▼イベント当日の様子

本イベントでご登壇いただいたのは、いずれもWeb3.0の最前線で活躍されている方々ばかり。今回のイベントレポートでは、登壇3社によるオープニングセッションの内容をお届けします。ぜひご覧ください。

<目次>

加留部 有哉さん / 株式会社FUSSY 代表取締役

まず最初に、株式会社FUSSYの代表取締役を務める加留部 有哉さんにお話いただきました。

加留部さんは新卒でRELATIONS株式会社に入社し、当媒体SELECKの立ち上げやマネジメント改善SaaSツールの事業責任者を務めた後に独立。現在は株式会社FUSSYを立ち上げ、貢献でつながる推し活プラットフォーム「FUSSY(ファシィ)」を運営されています。

加留部さん自身、ELLEGARDENや少女時代といった音楽アーティスト、攻殻機動隊や忍者戦隊カクレンジャー等のIPコンテンツに昔から興味があったとのこと。また、「推し」のために自らポップアップストアを運営する人の存在など、「ファン」の「好き」の気持ちから拡散されるエネルギーにも魅了されてきたといいます。

そうしたファンの方々の熱量をブロックチェーン技術で可視化することで、推しへの貢献を加速できないか。その考えの元で生まれたのが、FUSSYだそうです。

FUSSYは2023年度にリリース予定とのこと。構想中の仕組みとしては、「QUEST(クエスト)」と呼ばれる課題が存在し、それらを実行することで推しに貢献しながら独自のポイントを手に入れることができます。そのポイントはFUSSYが発行するNFT証明書に記録され、プレミアムイベントへの招待やファン同士の交流、検定試験の受講といった様々なユーティリティに紐づけることを検討されているそうです。

▼FUSSSYの仕組み

今回は、この「好き」の熱量から生まれる制作活動、そして情報の保存といった文脈からちょっと先の未来をお話いただきました。

「結婚観」から考える、ブロックチェーン技術と価値の保存

加留部 先日、高校時代の同級生の男5人で集まる機会がありまして。その時に、たまたま全員がパートナーを連れてきていて、僕だけ「独り」だったんです(笑)。「みんな成長したんだな…」と思いながら、考えました。「結婚とは何だろう」「パートナーとは何だろう」と。

頭を悩ませた結果、パートナーは「お互いの情報をどのように保存したいか」によって関わり方が変わるのではないかと思ったんです。

例えば、パートナーとの思い出を残したい場合はオンラインアルバムなどのサービスを利用しますよね。サービス終了まで情報は保存されますし、公開範囲も二人に限定してこっそり「この時は楽しかったね」と会話することもあるでしょう。

他にも、パートナーとの絆を保存したい場合には身体にタトゥーを刻むという選択肢もあると思います。これも人体が火葬されて土に分解されるまで情報が保存されますね。

結婚について調べていた時に興味深かったのが、一般的に戸籍が無効になる「除籍」までの年数は150年で、意外と短いこと。結婚しても、国は150年しかそれを証明してくれないという点にとても驚きました。パートナーシップ宣誓制度に至っては、自治体でしか承認されないのに加えて、有効期限は発行からたった10年とされています。

冒頭から僕の結婚観の話をした理由ですが、先ほどから出ている「保存」という概念とブロックチェーン技術は非常に深い関係性があると思っています。これまで人類は、進化していくためにあらゆる場面で保存という技術を追求してきたのではないかと。

身近な例だと、保存食の「漬物」が挙げられます。長く食べられることを目的とした保存の例です。また、何か歴史的な出来事に紐付いて建てられる石碑も、後世に歴史を伝えることを目的とした保存の例ですね。ミイラもある種人体の保存、そして故人の意思表示として遺されています。

昨今、注目されているブロックチェーン技術はこの「保存」という概念や技術をもう一段アップデートする存在ではないかと思っています。もちろん、ブロックチェーン技術そのものが消滅したらデータは消えてしまうので、完全なものかと言われるとそうではありませんが、改ざんできないという性質を持つ以上これまでの「保存」の系譜を受け継いでいるのではないかと思います。

好きな時に集まって、「また会おうね」と言えるコミュニティが心地良い

加留部 みなさん、「青空文庫」というWebサイトをご存知でしょうか。青空文庫は1997年に立ち上げられ、誰でも自由に電子本にアクセスができるインターネット上の図書館のようなサイトです。

この青空文庫の運営がとてもDAO的で、90年代に立ち上げられたとは思えないほど画期的なんです。設立当初から明確な代表が存在せず、運営が呼びかけた人以外すべてボランティアで集まった方々で運営組織が構成されています。

さらに、組織の中でも「耕作員(入力・校正を行う)」「呼びかけ人(全体に関わる判断や承認を行う)」「点検グループ(校正の受付や質問回答)」「広報(取材や相談の窓口)」といったように、様々な役割も設けられていて、その役目を全員が無償で担っているとされています。

このような組織を構成しながら、いまだに毎日更新されているからすごいですよね。過去にはSlackやGitHub上にコミュニティがあったこともあり、青空文庫を運営するための様々な取り組みも行われています。Web3.0時代における「制作」と「保存」に関する議論は、この青空文庫の在り方から学べる点が大いにあるのではないでしょうか。

昨今、新しいNFTコミュニティが多く誕生していますが、これからの「人との繋がり方」として、プロジェクトベースで人が集まり、貢献で繋がって、ブロックチェーン上で証明された実績を元にコミュニティが形成されていくという形が主流になると面白いなと感じています。

最後に、FUSSYでやらないと決めていることについてお話しします。FUSSYは、NFTホルダー向けのコミュニティ運営は行わない予定です。コミュニティ批判ではなく、運営の負担が大きいと感じているためです。海外のコミュニティを見ていても、フロア価格が下がってクレームが運営に送られ、コミュニティが立ち行かなくなるという事例が多いと思っていて。

僕は、これからのコミュニティの在り方としてキリスト教徒の関わり方をイメージしています。彼らは常に一緒にいるわけではないですが、一つ信じるものが存在していて、それに祈りを捧げるために教会というメディアを建設したり、定期的に集まったり、聖書を編集したりしている。

Discordコミュニティの多くは入会したら情報を自ら収集して、得意なことで貢献しないといけないといった風潮が多少ある気がしていますが、そうではなく、「思い」で繋がりながら、定期的に集まって「楽しかったね」「またしばらく経ったら会おうね」くらいの関係性が一番心地よいのではないかと思いますね。

▶︎加留部さんの登壇資料はこちらからご覧いただけます

NORI / 「NORIFORCE」創業、Web3.0・NFTリサーチャー

次に、現在フリーランスでWeb3.0/NFTリサーチャーとして活躍するNORIさんにお話いただきました。

フリーランスに転身する以前は、ブロックチェーン領域でプラットフォーム事業を展開するSBINFT株式会社でCMOを務められていたとのこと。そして2022年10月に「NORIFORCE」というチームを立ち上げ、国内外のNFTプロジェクトに対して様々なソリューションを展開しています。

主な活動内容としては、Web3.0やNFT周辺のリサーチ業務をはじめ、オンボーディング支援、コミュニティビルディング、マーケティング等幅広いソリューションが挙げられます。

2022年は「BRIDGE THE GAP(あらゆるギャップを埋める)」をテーマに、海外の面白いプロジェクトを発掘して日本国内の個人やコミュニティ、企業との橋渡しを行いつつ、日本のNFTコミュニティをエンパワーメントする活動を行ってきたそうです。

NORIさんは、「Web3.0の世界では『信用』を獲得することが最も重要」だと話します。その前提がある中で、海外のプロジェクトの多くは「日本での認知も獲得したい」と思いながら、どのようなアクションを取るべきか分からず身動きが取れないケースが多いとのこと。

そこで、NORIさん自身面白そうなプロジェクトをSNS等で積極的に発信しつつ、実際に日本国内の企業にも足を運んでサービスやプロダクトを実際に触ってもらいながら、Web3.0の世界への参加を促すといった活動もされています。

また最近では、「OP Sumo Club」という活動のプロデュースも行っているとのこと。これは、若くしてその才能をNFT領域で開花させている@0xSumoさん@SENBENさんが立ち上げたNFTプロジェクトです。6月の発売時点で0円だったものが、現在は1体10万円まで価格が上昇しているとのこと。今年の12月には初のフィジカルイベントも開催されました。

▼12月5日に開催されたSUMO展の様子

デジタルとWebの「信用」課題から、ちょっと先の未来を考える

NORI 本日のテーマは「デジタルとWebのちょっと先の未来」ということですが、そもそもデジタルとWebの課題ってなんだろうと考えていて。皆さんご存知の通り、情報漏洩などのセキュリティ面や、情報リテラシーの個人差、スパムメールなど、依然として課題は多く存在していると思います。

なかでも、一番大きいのは「信用」に関する課題だと思っていて。例えば、僕が皆さんに「NFTが盛り上がっているから、一緒にビジネスをしよう」とメールを送ったら信じますか? おそらく怪しいと感じて、信用できないですよね。

昨今、Web3.0はこの課題を解決する期待を寄せられているように感じますが、僕としてはWeb3.0は世界を変えるようなものだとは思っていなくて。「ちょっと良くなるのではないか」と感じているくらいなんですよね。

では、どのような領域を「ちょっと良く」できるのか。今回は「Web.3.0ソーシャル」に焦点を当ててお伝えします。

Web3.0ソーシャルとはいわゆる分散型SNSのことで、TwitterやFacebookとは異なり中央管理者に依存しない形でプロフィールやフォロー、コンテンツの管理ができるという特性を持ちます。

そして形成された分散的なコミュニティやエコシステムを通じて貢献し、互いの信用を高め合うことで、既存のDAOやメタバース、NFTプロジェクトといったものをさらに強固にする可能性があります。

例えば、同じコレクションのNFTを保有している人は「仲間」であると認識でき、持っていない人と比べて信用度が高いですよね。そして同じNFTを保有する者同士でディスカッションを行い、一緒にコミュニティの価値を高め合う。そういったコミュニティの形成がWeb3.0の世界では理想だとされています。

ここで重要な概念として「オンチェーンクレデンシャルデータ」と呼ばれるものがあります。これは、個人の行動履歴をNFTとして発行するもので、個人のアイデンティティを形成します。今回のイベントで配布される「POAP(イベントの参加証明バッジ)」もその一つで、他者に譲渡できないNFTとして発行することで個人の「信用あるデータ」として蓄積していくことができます。

このクレデンシャルデータを一元的に閲覧できるサイトも誕生しています。例えば、「Light」と呼ばれるサービスでは誰がどのNFTを保有しているのかを閲覧でき、データを元に検索したりソートをかけることもできます。

また、Web3.0版Facebookと言われている「Relation」では、同じNFTを持つ人々同士でチャットや交流ができます。NFTプロジェクトの仲間集めやマーケティングの際にこうしたサービスが役立ちます。

最近、この領域のスタートアップがさらに勢いを増していて、サイバーコネクトという企業は2022年3月に15億円を調達しています。彼らのプロジェクトの一つである、Web3.0版Linktreeの「Link3」というサービスは、オンチェーン上のNFTやTwitterのフォロワーなどを一元的に見ることができるサービスです。

NORIさんのLink3プロフィール画面

ただ、その機能だけではなかなかユーザーを獲得できず、新たに「Event Planner」という機能を発表しました。これは、イベント出席証明のNFTをLink3上で簡単に発行できるシステムで、例えばTwitterのスペースやDiscordの音声番組を15分聞くとNFTがもらえるという仕組みを構築できます。

これは「SocialFi」、つまりソーシャルとファイナンスを掛け合わせた形ですね。他にもイベントのサムネイルを自動生成したり、参加者を分析したりといった機能があります。

僕はNORIFORCEを通じて様々なサービスやプロジェクトを紹介するTwitterスペースの司会をやらせてもらっているんですが、すでに世界中からいろんな人が集まってきていて、かつて100人ほどだったのが現在は平均1,400人ほどの規模に拡大しています。うち6割が日本と中国、他の4割はアメリカ、フランス、イギリス、東南アジア諸国の方々が参加してくれています。

基本的には「参加証明NFTをもらいたい」という理由で参加している方が多いと思うのですが、番組を面白いと感じて長く滞在してくれる方も多く、15分で特典がもらえるにも関わらず平均滞在時間は40分ほどを記録しています。

また、「NFTを活用してみたい」という日本企業が多い反面、「どのような活用用途があるかわからない」「NFTを自社で作るのは大変そう」といったケースも多いかと思います。

そうした中、先日、札幌の国際短編映画祭で登壇させてもらった際にWeb3.0の勢いを感じていただけて、自分達で会員券を作りたいといったモチベーションを持ってくださる方も非常に多くて。

また、個人でDJとして活躍されている方とコラボした際にも、NFTを活用したことで普段の10倍以上の集客ができたと驚いていて、今後はご自身でNFTプロジェクトを立ち上げようとしていたりもしています。そういった方々がWeb3.0に参加するきっかけの一助を担えていたら非常に嬉しいですね。

NFTによって、インターネット上の個人の「信用」が蓄積されていく時代

NORI NFTに関して、これまでは何がいくらで売れたのかという金銭的な話に注目が集まっていましたよね。しかし、これからはブロックチェーンに刻まれたトランザクション(取引履歴)とNFTによって個人のアイデンティティや信用がどう形成されていくのかという点に重きが置かれると思っています。

昨今、NFTは冬の時代だと言われているんですが僕はそれを否定していて。確かに、イーサリアムの時価総額でいうと今年の1月がトップで、その後から下がっています。しかし、トランザクション数(購買点数)でいうとそんなに悪くないんです。

というのも、今年に入ってイーサリアムじゃない通貨やネットワークがたくさん増えています。例えば、PolygonやSOLANA、Avalancheなどで、それら全てのトランザクション数を見てみるとすごく伸びているんですよね。

いろんな考え方や思想はあると思いますが、よりガス代が安いチェーンが登場したことでEthereumはこれまでの立場から役割を変えていくのではないかと思っています。よって今後は、ソリューションを提案する際にも例えばビジネス系はAvalanche、スポーツ系はFlow、マスアダプションを目指す際にはPolygonといったように、チェーンの使い分けができるようになってくると思います。

▶︎NORIさんの登壇資料はこちらからご覧いただけます

石部 達也さん / 株式会社PitPa 代表取締役

最後に、株式会社PitPaの代表取締役を務める石部達也さんよりお話しいただきました。

PitPaは「メディアのあり方を再定義し、持続可能な経済性を提供する」をミッションに、ポッドキャストを通じて企業のメディア戦略を支援する音声コンテンツの制作事業を展開しています。

同時に、インターネット黎明期から活動し、元MITメディアラボ所長として知られる伊藤穰一さんのポッドキャスト「Joi Ito’s Podcast – 変革への道」の運用をきっかけに、最近ではWeb3.0領域でもビジネスを構築されています。

伊藤さんのポッドキャストでは、リスナーのエンゲージメントを高める実験をWeb3.0的に実施されているとのこと。具体的には、リスナーに会員証NFTを配布し、番組を聞いた人に対してトークンを配る「Listen to earn」の仕組みを構築。

この会員証NFTの配布を皮切りに、個人の学歴・職歴・スキルの証明書をNFTとして展開する「sakazukiをリリース。(※正式なリリースは23年3月頃を予定)。過去には、千葉工業大学と共同で、国内初となる学修歴証明書をNFTで発行しました。また、NewsPickが提供している「NewsPicks NewSchool」の受講証明書NFTも発行されています。

昨今のWeb3.0の雰囲気について、石部さんは「僕が大学生の時にiPhone4が発売されて、みんなこぞってアプリを開発していた雰囲気に似ている。現在はゲームやIPの文脈でブロックチェーン技術が活用されていることが多いが、そこを超えた非エンタメ領域で伸びたらWeb3.0は普及すると思っている。」と話します。

そこで今回は、「HR×Web3.0」の文脈で、デジタルとWebのちょっと先の未来をお話いただきました。

「日本国内のIT人材不足」と「人的資本情報開示の義務化」にブロックチェーン技術は有効か

石部 ここ数年、日本国内ではIT人材の不足が喫緊の問題です。2030年には最大79万人が不足すると予測され、有効求人倍率や採用コストが上昇する中で企業はなかなか採用できていないという現状があります。

そこで海外人材を日本国内で採用するという動きもありますが、ここで一つ問題があります。それは「学歴詐称」です。

日本ではあまり馴染みが無いかもしれませんが、海外では約4割の人が詐称経験があるとするデータもあり、日常茶飯事です。つまり、履歴書や職務経歴書の真正性が担保されておらず、求職者と企業のマッチングができていない、あるいは入社してもすぐに離職してしまうといった問題が起きています。

その一方で、最近「人的資本経営」という言葉をよく耳にするかと思います。人的資本経営とは、経済産業省によると「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」と定義されています。

注目されている背景は大きく二つです。一つは投資家目線として、上場企業の株価を評価する際に「無形資産」がより重視されるようになっている点。特にESG投資の文脈では、S(ソーシャル)に分類される人的資本の割合が最も大きく影響するとされています。

もう一つは、2023年3月から有価証券の報告書で人的資本情報の開示が義務化されたことです。すでに欧州や米国では人的資本への投資が積極的に行われており、企業の競争力を形成する最も大きな要素だとも語られています。開示は投資家目線だけではなく、求職者としても就職先の企業を選ぶ際の指針になる可能性が大いにあります。

つまり、人的資本情報を開示しなければ企業に良い人材が集まらないですし、投資家からも見放されてしまう。今後、企業は開示するか否かで成長する企業とそうでない企業に二極化していくと思います。

こうした課題に対するソリューションとして提案したいのが、ブロックチェーン技術です。ブロックチェーン技術がインターネット空間にもたらした功績は何か。一番は、改ざんできないという特性によってデジタル上に「時間軸」が生まれた点だと考えています。

人的資本の文脈では、誰がいつその企業に属していたのか、どんな実績を残したのかといった情報をブロックチェーン上に記録しておけば、信用度の高い人的資本の開示に繋がります。さらに、個人の学歴・職歴をトークン化していくことで人材マッチングの精度を高めたり、個人のキャリアアップにも繋がるような仕組みを構築できるのではないかと考えています。

NFTとVCを掛け合わせ、個人のプライバシーを保護しながら横展開を可能に

石部 PitPaが配布するNFT証明書は、NFTとVC(Verifiable Credential)という二つの技術を掛け合わせています。この形にすることで、四つのメリットがあります。

※VCとは国際技術標準化団体のW3Cが規定する「内容の検証がオンラインで可能な自己主権型のデジタル証明書」のこと。発行者が保持者に対して発行した証明書を、第三者である検証者がオンライン上で検証できる。

▼NFTとVCを組み合わせることのメリット

まず1点目は、「個人情報のプライバシーを保護できる」点です。NFTはパブリックデータとなるので、一度公開されたものは消せないんですね。

例えば学生だと、「この学歴番号は山田太郎さんで、成績は…」という全ての情報がNFTだと全て記録されてしまう。この場合、欧州で2018年に施行された「GDPR(General Data Protection Regulation:EU一般データ保護規則)」で主張されている「忘れられる権利」が侵害される可能性があります。

つまり、安易にプライバシー情報をNFT上に載せることはできません。ただし、企業側として求職者の実績は確認したいですよね。そこでVCを活用します。

VCは保持者が誰にどこまで情報を開示するかを選択できる特性を持ちます。よって、VCにプライベート情報を載せて、保持者が外部に公開したい情報、例えば「前職での功績」や「取得したスキル名」といった情報のみをNFTに記録し発行する形です。

また、発行プロセスや検証ツールなど全てがオープンソースとなっている「Blockcerts」と呼ばれる技術をOSSとして利用しているため、データの真正性や透明性も担保される仕組みです。

2点目は、「アクセシビリティの良さ」です。例えば、皆さんが大学卒業後に卒業証明書の発行を求められた際、当時の学籍番号やパスワードを思い出すのは難しいですよね。とはいえ、TwitterやFacebookのようにユーザー情報を企業が管理する体制があったとしても、仮に企業が倒産すればデータは消滅してしまいます。

そこで注目されている技術が「DID(Decentralized Identifier)」です。DIDは特定の企業やサービスの運営体に依存しないIDのことで、発行元を超えてIDを活用できるというメリットがあります。学歴・職歴NFTは個人のDIDに紐づける形で管理を行います。さらに、MetaMaskなどのウォレットアプリで管理可能なため、個人側でデータを管理しやすいというメリットもあります。

3点目は「ローコストで開発ができる」点です。既存のオンライン証明書は独自のデータベースの構築などで数千、数億円の費用がかかっています。しかし、Blockcertsを活用すれば短期間、かつローコストでシステムの構築が可能です。

4点目は、Web3.0の特性として挙げられる「コンポーザビリティ」です。コンポーザビリティはよくレゴブロックに例えられ、データを部品として第三者が自由に組み合わせられるという特性を指します。

例えば、千葉工業大学の学修歴NFTを持つインターン生を雇いたい企業があるとします。Web2.0的にシステムを構築する場合は千葉工業大学のAPIを作成し、その企業のシステムと連携して…といった工数が必要で、お金や時間のコストがかかります。

しかし、ブロックチェーン上にプライバシー保護の機能を添えた形でデータを公開しておけば企業側がデータに自由にソートをかけることができます。つまり、データを横展開しやすいということですね。

もう少し例を挙げてみます。Web3.0版Trelloと呼ばれ多くのDAOで利用されている「DeWork」というツールでは、ウォレットと連携して特定のNFTを持っている人のみが参加できるといった制限をかけられます。

また、「Dune」と呼ばれる分析ツールを活用すれば第三者が企業分析を独自に行うことも可能です。企業に監査法人が入っている場合でもなかなか見えない部分があると思います。しかし、ブロックチェーン上にデータがあれば信頼性の高い情報を元に分析が可能となり、将来的にはこうした場所にIR情報を出すケースが増えるのではないかと思います。

▼Duneで適当な値を用いて、職歴発行数ランキングと個社別の人的資本を可視化したもの

PitPaでは、千葉工業大学の学修歴NFTの作成に貢献してくれたメンバーに対して実績証明のNFTを発行しています。また、2022年12月にはアジア最大規模42.5万人の学生数を誇るネパール最高学府トリブバン大学と戦略的覚書を締結し、2023年以降はグローバル規模での学歴・職歴NFTの発行、そして人材マッチングを加速させていく予定です。

Web3.0はまだ黎明期と呼ばれ、個人のデジタルアイデンティティの具体的な活用を推進するためには、産官学一体となって活用を促進していく体制が必要です。今後もHR領域でのブロックチェーン活用を加速させ、個人が国内に留まらずグローバルで活躍できる世界を目指していきたいです。

▶︎石部さんの登壇資料はこちらからご覧いただけます

株式会社ゆめみのWeb3.0・NFT事業について

今回のSELECKゆるのみでは、参加者の皆さまに限定POAP(イベント参加証明NFT)を発行いたしました。SELECKとしてNFTを配布するのは今回が初の試みとなりました。

▼発行したPOAP

POAP発行にあたり、株式会社ゆめみに技術面のご協力をいただきました。

ゆめみでは、大きく3つの領域でWeb3.0・NFT関連事業を展開しています。まず一つは「技術のパッケージ化」で、POAPのようにNFTを活用した施策をモジュール化し、パッケージとして利用されたい企業に展開しています。

最近では、2022年10月に開催された屋外型国際フォトフェスティバル「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2022」にて独自開発したNFTを活用したスタンプラリーシステムを展開していました。

これは、本来NFTを受け取るときに必要なデジタルウォレットを持っていなくても、QRコードからNFTを受け取ることができるシステムで、手軽でスムースなNFTの受け取りを実現したものです。SELECKゆるのみのPOAP発行でも、この独自システムを活用しています。

▼「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2022」で配布されたNFT

※出典:ゆめみ、「T3×大丸東京店」コラボNFTの限定配布に技術協力 ~NFTを活用したスタンプラリーシステムを東京・京橋エリアで展開~ – 株式会社ゆめみ

二つ目は「アーティスト支援」です。アーティストとエンジニアでチームを組成し、NFTアートの付加価値を探求、流通を支援しています。

2022年には社内アートチーム「Transform Art Lab」が発足しており、その第一弾の施策として、次世代を担う人材のための価値生成の発想法、ストラテジーおよびアート思考を学ぶ教育プログラム「アートストラテジー講座(NFT編)」が9月に開講されました。

そして三つ目は「クライアント支援」で、これからWeb3.0関連施策を行いたい企業に対してWeb3.0やNFTに特化したワークショップの開催や相談会の実施、企画書の作成支援などを行っています。

これらのNFT事業をゆめみ社内で推進している、同社の取締役(アート組織担当)兼コンセプターの吉田 理穂(よしだりお)さんには、今回のSELECKゆるのみのモデレーターも務めていただきました。本当にありがとうございました!

株式会社ゆめみ 取締役(アート組織担当) / コンセプター 吉田理穂
日大芸術学部卒業後、出版社で『テルマエロマエ』『坂本ですが?』『乙嫁語り』など、マンガコンテンツのPRを担当。その後、外資系スタートアップの東京オフィスを支援したのち、2017年からアプリ開発を行う株式会社ゆめみに入社。仮想通貨取引アプリ、がん患者専用SNS、弱視体験VR、NFTを活用した新規事業開発支援を行う。傍ら、バンタン・テックフォードアカデミーで、10代向けに企画立案や付加価値戦略を考える授業講師を務める。

おわりに

いかがでしたでしょうか。2022年に2度開催した「SELECK LIVE! for Startup」をはじめ、SELECKでは来年以降もさまざまなイベントを企画中です。また、今回のイベントで配布したPOAPのユーティリティも検討中ですので、ぜひお楽しみにしていただけたら幸いです。

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