• 株式会社ナナメウエ
  • 代表取締役
  • 石濵 嵩博

Web3で進化するYay! 、関係者全員の満足度を最大化するトークミクス設計

SNSが普及したことで、見知らぬ個人同士が直接繋がり、コミュニケーションをとることが当たり前になった。さらに、あらゆるトレンドがSNSを起点に生み出されるなど、私たちの日常生活に欠かせないものになっている。

そんなSNS市場では、昨今のWeb3の台頭にあわせて新たな潮流が生まれている。それが、SNSに金融の要素を掛け合わせることでコミュニティ内に独自の経済圏を築き、新たな価値を創出する「SocialFi(ソーシャルファイ)だ。

SocialFiの特徴は、利用者個人が収益を得られることに加え、これまでの中央集権的なプラットフォームとは異なり、エコシステムに参加するステークホルダーが多様な方法でプラットフォームの運営に貢献できる「オープンな環境」が存在していることだ。

そうしたWeb3の要素を取り入れ、日本国内のSocialFi領域を先導しているのが、株式会社ナナメウエが運営するバーチャルワールド「Yay!(イェイ)である。

Yay!は、「すべての人に居場所を」というコンセプトのもと、新しいSNSとして2020年にリリース。これまで、共通の趣味を持つユーザーが集まるコミュニティ(サークル)が9万個以上も形成され、累計登録者数は800万人を超える規模にまで成長した。

そして、2022年8月には、さらなる成長と拡大に向けてWeb3機能の提供をスタート。この新機能に関する方針と緻密なトークノミクス設計が記載された「YAY ホワイトペーパー v2.2」は、その公開と同時にWeb3業界から大きな注目を集めた。

既に多くのユーザーを有し、SNSとしての人気を確立しているにも関わらず、なぜWeb3へのシフトを図ったのか。また、その勝機や将来性はどこにあるのか。今回は、同社の代表取締役である石濵 嵩博さん(@takachan114)に、詳しくお話を伺った。

「すべての人に居場所」を届ける、コミュニティベースのSNSを目指して

僕は、当時大学4年生だった2013年に株式会社ナナメウエを創業しました。はじめはモバイルアプリの受託開発を行っていましたが、次第に自社ブランドのアプリも開発するようになり、合計で200以上のアプリをローンチしてきました。

そして2020年1月に、現在の主軸事業であるソーシャルサービス「Yay!」をリリースしました。Yay!は、通常のSNSのようなタイムライン機能に加えて、ゲームやアニメ、音楽などの様々な趣味を通じてサークルを形成し、チャットやグループ通話で交流できるのが特徴です。

これまで累計で9万以上のサークルが誕生していて、利用者層は、18歳から24歳までのユーザーが約半数を占めています。

「つながりを科学する」を弊社のミッションに掲げている背景にも繋がりますが、僕たち人間にとって最も重要なものは人とのつながりやコミュニティだと考えています。インターネットやSNSの登場により、コミュニケーションの在り方が一変して、1日の多くをバーチャル上のコミュニティで過ごす人も存在しています。

けれども、現代のSNSは、インフルエンサーやオピニオンリーダーなどの一方的な発言が目立ち、メディアとしての側面が強くなっていると感じています。そのような環境下では、人の目や反応を気にしたり、「いいね」の数を競い合ったりして、かつてのSNSにあった自由さが失われつつあると思っていて。

こうした状況を鑑みて、個人が自分らしさを表現し、好きなことを自由に共有したり、他者とつながれる場を作りたい。そんな思いで作ったサービスが、Yay!でした。

しかし、個々のコミュニティを持続させるためには、中央集権的な運営ではなくユーザーが自ら積極的にコミュニティに関わることで、自律的にその治安が維持され、成長していく必要があります。

そこで、ブロックチェーン技術の活用によって、ユーザーのコミュニティに対する貢献にインセンティブを付与し、個々の活動を促進できないかと思い、誰もが素を出せるバーチャルワールド「Yay!」として2022年にリブランディングを行いました。

▼Yay!のリブランディングムービー

原資がなくとも金銭的なインセンティブを付与できるのがWeb3

Yay!のWeb3化は、いわゆるWeb2のサービスやビジネスモデルのコモディティ化が進んでいる中で、必然的な選択でした。

これは僕個人の考えですが、既に世の中の多くのニーズは解決されていて、新たなプロダクトやサービスが目指す市場は、ユーザーニーズが本当に存在しているかわからないニッチなものが多いと感じています。

この状況はSNSに関しても同様で、どのサービスも基本的な機能、例えばコンテンツの投稿や「いいね」機能、フォロー機能などに大差がないですし、ユーザーが新たに欲しいと思う機能ももはや存在しておらず、差別化が非常に難しくなっています。

さらにいうと、機能面で大差がないが故に、ユーザーがそのSNSを使う動機は誰かに連絡をとる際に「第一想起」されるからに過ぎないと思っていて。例えば、誰かと話したいと思った時は「LINE」を思い浮かべると思いますが、それは相手が利用しているから思い浮かべるだけで、主体性をもって選択している人は一部のはずです。

けれども、SNSの本質的な価値は、誰とつながり、どのようなソーシャルグラフ(バーチャル上でつながった人間の相関関係)を形成するかという点にあると思っています。そのため、Yay!においては「人とのつながり」を重視し、アプリ内でユーザー同士の関係性を深める機会を提供することで、差別化を目指すことにしました。

つまり、このアプローチでは、「いかに、Yay!だけで繋がっている人を増やせるかどうか」が鍵を握ります。しかし、既に多くのSNSが存在している中で、スタートアップが新規ユーザーを獲得するのは至難の業です。

そうした中、マーケティング視点でベンチマークしていたのがPayPayでした。決済市場が飽和している中で普及は困難だと多くの人が予想していたものの、その予想を見事に覆し、一気にマーケットシェアを拡大した施策がありました。それが、100億円を配るキャンペーンです。

この事実は、同様の機能や体験を提供していたとしても、「金銭的なインセンティブの強いサービス」に人が流れるということをPayPayが証明したといえます。とはいえ、無論スタートアップには潤沢な資金がないため、こうしたパワー技のマーケティングはできません。

ところがWeb3の世界では、自社でトークンを発行し、ユーザーの活動によってその価値を高めていくことができる。つまり、企業が原資を用意する必要がなくとも、金銭的なインセンティブをもたらすマーケティング施策が可能であるというWeb3の特性を踏まえて、方向転換を決めたという背景があります。

全てのステークホルダーの利害を一致させるトークノミクス設計

ではここからは、Yay!が描くトークノミクスの全体像についてお伝えできればと思います。

前提として、Yay!の既存ユーザーの多くはトークンに触れたことがない層であるため、そうしたクリプト初心者から上級者、投資家、それぞれのリテラシーや属性に合わせたUX設計を心がけました。

具体的には、以下4つのトークンから成るトークノミクスを設計し、各ステークホルダーに合った形でリターンが得られるような構造を目指しました。

▼NFT(唯一無二の価値を持つ、非代替性トークン)
・Yay! Pal(Play to Earnに参加するためのNFT / 発行上限なし)
・Yay! Genesis(Yay! Palをミントする権利をもつNFT / 発行上限5,000枚)

▼FT(交換が可能な、代替性トークン)
・YAY(ガバナンストークン / 発行上限100億枚)
・EMPLE(コミュニティ貢献やバトル参加の対価として支払われるトークン / 発行上限なし)

▼Yay! Palのデザイン【左】Yay! Genesisのデザイン【右】

トークノミクスの中心にあるのは、アプリ内に設けられたバトルです。これに参加するにはデジタルペットNFTの「Pal」を所有し、報酬率を上げるにはYay!のサービス利用を通じて育成する必要があります。

そして、Palの獲得方法については、Yay!の既存ユーザーとクリプト上級者で明確に分けています。まず前者は、Yay!の継続利用やコミュニティへの貢献を通じて無料で得られるガチャ券を利用することで、Palを取得できます。

一方、後者は、専用のマーケットプレイスでPalをミントする権利をもつGenesisを、イーサリアム(ETH)で購入する方法を提供していて、有料のPalの方がバトルで得られる報酬を多く設定しています。また、バトルに参加せずとも、Palを売ったりプールに無償提供することで報酬を得ることも可能です。

そして、ユーザーはバトルに参加すると、ユーティリティトークンのEMPLを獲得できます。ユーザーはこれを用いてPalを強化したり、いくらか貯めてYAYと交換し、暗号通貨取引所で法定通貨とも交換できます。

▼バトルの仕組み

また、コミュニティへの貢献を通じたPalの育成も可能です。貢献度の測定は、ユーザーの行動を基に独自のアルゴリズムで算出する「トラストスコア」と、月額有料プランやギフトの送受信、友達の招待といった「アクティビティスコア」の2つの指標を設け、それらを総合的に見て評価しています。

この際、チャットの投稿や頻度は、スパムや品質維持の観点から貢献指標として取り入れていません。また、長期的なサービス利用を重視しているため、連続して実行しやすい「いいね数」もスコアの算出には取り入れていません。このアルゴリズムは、適切なタイミングで今後公開予定です。

▼Yay!のトークノミクスの全体像

最後に、このトークノミクス内で消費された暗号通貨やマーケットプレイスの取引手数料、アプリ内収益の一部はYay!のトレジャリーに貯められ、利用者がEMPLをYAYに交換するタイミングで利用されます。つまり、トレジャリー内のお金は運営収益ではなく、最終的にユーザーに還元される流れです。

このような設計を通じて、エコシステムの価値が最終的にYAYに集約され、Yay!に関わる全てのステークホルダーの利害が一致する構造を目指しました。

クリプト初心者の既存ユーザーを置いていかないオンボーディングが鍵

先ほどお伝えしたトークノミクスの設計において最も重視した点は、クリプト初心者である既存ユーザーの方々がWeb3を楽しめるUXを追求することでした。

Yay!のトークノミクスを円滑に回すためには、金銭的なインセンティブが無くとも熱量高くサービスを利用してくださっている彼らが、トークノミクスの肝要であるPalに魅力を感じ、エコシステムに参加してもらう必要があります。

しかし、一般的なWeb3サービスの多くは、利用するまでの準備として、取引所での口座開設や暗号資産の購入、ウォレットへの送金などを行う必要があり、初心者からすると複雑でかなりハードルが高いのが現状です。

そのため、「いつの間にかWeb3の世界に入り、自然とGameFiを楽しんでいた」という状況をどこまで構築できるかが勝負だと考え、その入り口としてミニゲームを実装することにした背景があります。

つまり、既存ユーザーからすると、普段利用しているYay!にペットゲームが加わったような感覚で、遊ぶためにわざわざホワイトペーパーを読んだり、トークノミクスを意識する必要もありません。

そして、遊んでいたらいつの間にかトークンが貯まっていて、そのトークンを換金したいと思ったときに初めてWeb3を勉強してもらえたら良いと思っています。Yay!に関しては、アプリ内にウォレットが内蔵されるので、自然と必要なツールがいつの間にか手元に揃っている状態を目指す予定です。

こうして、「GameFiで稼げる」という小さな成功体験を積んでもらった後、さらに稼ぎたいと思うようになった際に、報酬率の高いPalを購入するなどして、トークノミクスに深く関わってくれたらと思っています。

とはいえ最初は、既存ユーザーの方からすると「ゲームで稼げる」ことがどういうことか、また、Palを購入した際のメリットや費用対効果もよくわからないのではないかと思っていて。

そこで鍵を握るのが、GameFiに精通している層なんですよね。彼らがトークノミクスの構築をリードし、その口コミを通じて既存ユーザーの方々も追随することで、持続可能な経済圏が形成されていく。

実際、既にWeb3のユーザーの方も多く集まり、Web2の人と混ざり合いながら共存していて、Web3関連のコミュニティも活発に動いている状況で、わからないことを教え合う文化も醸成されていますね。

売り上げや利益ではなく、マーケットからの評価が「通信簿」になる

最後に、企業がトークノミクスを設計する上で留意すべき点をお伝えできればと思います。それは、「トークノミクスで得た利益はPL(損益計算書)ではなくBS(貸借対照表)で計上する」という点です。

Web3においては、概してNFTやクリプトを保有するユーザーは「値上がり」を期待しているため、Web2のように売り上げや利益といった概念を持ち込まない方が良いと思っています。

どういうことかと言うと、例えば、企業が1万円のNFTを1,000体販売し、1,000万の売り上げがあったとします。そこから人件費や販促費を引いて利益を500万とする計算は、Web2であれば違和感がありません。しかし、Web3で同様の計算を行うと、エコシステムに利益が残らなくなってしまい、ユーザーやコミュニティへの還元が難しくなってしまいます。

これが、元々認知度が高いIPを活用したNFTコンテンツなどであれば、二次流通のモデルを活用してトークンの価値を十分に高めていけると思います。しかし、弊社のような場合は、利益をエコシステムに還元しながら、事業投資のサイクルを回し、ホルダーと共にNFTの価値を高めていく方向性で考えなければなりません。

そうして、トークンやNFTの資産価値が上がれば、BS上のプロジェクトの価値も上がってくる。そこがトークミクスの本質であって、弊社としては、ガバナンストークンのYAYの価値が上がれば良いと思っています。

このような話をすると、「それでは、営業利益が出ないのでは」と思われるかもしれませんが、僕はそれで良いと思っていて。その背景として、Yay!は有料会員や広告といった外部収益が既にあるからで、その点はかなり大きいと思いますね。

そこで、プロジェクト自体の市場からの評価を高めていくためにも、YAYの保有者に向けたアロケーション(割り当て)をフェアに設定して、「YAYを保有して良かった」と思ってもらえるよう、長期的視野をもってみんながハッピーになる設計を全力で追求しなければいけません。

その上で、投資家の方にも損がないようにするために、流動性のある取引所に上場させたり、トークンを最初から売りすぎないようにしたり、初期のアンロック分を鑑みて売り圧がどれぐらいだったら耐えられるかなど、計算していけば良いのではないでしょうか。

とはいえ、やはりトークノミクスで最も重要なのは、稼げることではなく、ユーザーにYay!のコミュニティが好きで貢献したいと思ってもらえるような場を創ることです。そのためにも、「良いつながり」を加速させ、関係者全員でYay!のサービス自体が魅力的なものになるように、引き続き尽力していきたいですね。

適切なタイミングでWeb3を実装し、トークノミクスの持続性を担保する

ここまで、Yay!をどうWeb3化していくかについてお伝えしてきました。今後、僕たちと同じようにWeb3の金銭的な側面をマーケティングに組み込んだ上で、サービスを一気に拡大していくような流れが増えてくると思っています。

そうした中で、プロダクトをWeb3に寄せていく際によく議論されるのが、「何をオンチェーンに書き込むか」という点だと思います。

ただ、この議論は「サービスが無くなってもデータを残しておきたい」という脱中央集権構造を目指す文脈の話であって、そもそも、そのサービスには残すべきデータが存在しているのかがポイントです。

新興のSNSではユーザー同士の繋がりがまだ形成されていない段階なので、そこには消されては困る思い出や人間関係が存在しておらず、ブロックチェーン技術の良さを活用できる段階に達していないと言えます。

もちろん、持続可能なエコシステムを作るために必要なWeb3やブロックチェーンの要素は、市況感やサービスの成長フェーズを見定めながら適切なタイミングで実装していく予定ですが、まずはユーザーニーズを満たすという最優先事項はこれまでと変わりません。

そのため、まずはトークノミクスを円滑に循環させていくにも、誰もが素を出せるバーチャルワールド「Yay!」でつながれる喜びや楽しさを追求し、Yay!独自の体験価値を創っていきたいです。その上で、Yay!が暗号資産のマスアダプションの入り口になったら嬉しいですね。

将来的には、タイやインドネシアなどの東南アジアを中心に広げていき、徐々にクリプト系の強い中韓やアメリカにも展開していきたいと思っています。引き続き、「Web3×SNS領域に挑戦する多国籍ITスタートアップ」として挑戦していくためにも、積極的に仲間を募集しているので、ご興味を持っていただいた方はご連絡いただけると嬉しいです。(了)

取材・ライター:古田島 大介
企画・編集:吉井 萌里(SELECK編集部)

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