• 株式会社ルーラ
  • ファウンダー CEO
  • 田中 昌明

「推し活×Web3」で観光促進。NFTに体験を紐付け、地域経済を活性化するルーラの戦略

大都市圏への人口一極集中や、少子化に伴う超高齢社会の到来により、地域活性化の重要性がより一層増している昨今。それに伴い、ブロックチェーン技術を活用した新たな地域活性のあり方を模索する動きが加速している。

例えば、ふるさと納税の返礼品や伝統工芸品などをNFT化して販売したり、DAO(分散型自律組織)のような組織形態でオンラインコミュニティを構築し、関係人口を可視化したりするといった取り組みが存在する。

その一方で、地域活性化を目的としたプロジェクトは持続可能性の追求が肝であり、貢献者へのインセンティブ設計や地元の事業者の巻き込み、関係人口の拡大といった点に課題を感じ、様々な運営体が解決策を探っている状況といえるだろう。

そうした中、日本初の観光に特化した地域デジタル通貨「ルーラコイン」と、位置情報連動型NFT「ルーラNFT」を展開し、観光者に新たな体験価値を創出することで日本の地域活性化に取り組むのが株式会社ルーラだ。

▼観光促進型デジタル通貨「ルーラコイン」の紹介動画

同社は、観光産業と相性の良い「推し活」を紐付け、緻密なサービス設計を行うことで、観光者と地域の事業者、そして観光資源という三方にメリットがある関係性を構築し、サービスの持続可能性の向上に努めている。

同社のファウンダー兼CEOの田中 昌明さんは、「ユーザーが潜在的に最も欲している価値を見極めた上で、リアルで使えるユーティリティを設計し、何度も地域に足を運んでもらう動機を作ることが重要だ」と語る。

そこで今回は田中さんに、Web3を活用した地域活性化の取り組みや、推し活×NFTで見出す新たな体験価値の可能性について、詳しくお話を伺った。

「地方創生×推し活×Web3」で観光者に新たな体験価値を提供する

私は昔からスタートアップがとても好きで、起業家としての活動に並行しながら、若手起業家の輩出をミッションとして、エンジェル投資家や大学客員としても活動しています。

Web3に関しては、2014年頃から暗号通貨に触れていたこともあって、この技術を使ってこれまでにないユーザー体験を創りたいとずっと思っていたんです。そして、2021年頃にNFTブームが到来したことをきっかけに、初代代表の橋本や現取締役の弘中と共に事業アイデアを固めながら、株式会社ルーラを設立しました。その後、2023年に代表を交代し、現在は私がCEOを務めています。

多くの場合、Web3の事業を始める際には、クリプトユーザー向けにWeb3の要素を純度100%で盛り込むか、クリプト初心者でも触れやすいように純度70%くらいにするかという2つの方向性があります。それに対してルーラでは、出来るだけ多くの人が親しみやすい設計にすることで、社会に貢献したいと考えていました。

また、橋本が地方創生の在り方に課題を感じていたこともあり、地域産業の主軸である観光において何かできないかと思っていたんです。そうして立ち上げたのが、「ルーラコイン」と「ルーラNFT」でした。

それぞれについて説明すると、まずルーラコイン」は、全国の観光地や温泉地で使える観光促進を目的としたデジタル通貨です。1コイン1円でチャージして利用でき、それらを旅館での宿泊代金の精算やお土産の購入、後述する「ルーラNFT」の購入に利用できます。

ルーラコインはQRコードを介した形で決済が可能なので、ブロックチェーン技術に初めて触れる方でもスマートフォンがあれば簡単に利用できるのが特徴です。

そしてルーラNFT」は、日本全国にある温泉地や酒蔵、城郭などの観光資源と、キャラクターIPやアイドルがコラボレーションした、現地にて数量限定で発行されるNFTです。

このNFTでは、地域を訪れるユーザーに新たな観光体験を提供することを目的として、特別な宿泊プランやアクティビティ、限定グッズなど様々なユーティリティを提供しています。

過去のコラボレーション例としては、アニメや漫画などが好きな方々に人気の地域活性化プロジェクト「温泉むすめ」や、アイドルグループ「アイドルオーケストラ(通称アイオケ)」、神戸電鉄などがあり、すでに40種類ほどのNFTを販売しています。

▼「温泉むすめ」とのコラボNFT

ルーラコインを利用できる範囲は日々拡大中で、現在では33の観光地、計200店舗ほどで利用できます。また、NFTの販売数は、この1年ほどで累計13,000枚を突破しました。2024年中には、100の観光地、および500店舗を目標に据えて積極的に展開しています。

さらに、「Travel to Earn(旅して稼ぐ)」が実現される世界を目指して、暗号資産の「ルーラトークン」、そしてトークン保有者が参加できる観光地支援のためのコミュニティ「ルーラDAO」の運用をスタートさせる予定で、現在準備を進めている段階です。

▼Travel to Earnの仕組み

Travel to Earnの仕組みについては、ユーザーがルーラトークンを所有することで、全国の観光地で特別な体験に参加できる「VIPチケット」が付与されます。このVIPチケットは各地の観光事業者と共同で開発しており、開発に携わった事業者にもルーラトークンが発行され、弊社が運営する「観光DAO」に参加できます。

この観光DAOでは、収益分配だけでなく、ルーラコインの決済時に集まった予算を活用して、新しい観光商品の開発や観光地の整備、プロモーションの実行、観光支援策の起案・投票などを行うことができます。

ルーラトークンに関しては、現在、国内外の暗号資産取引所と一緒に、IEO(Initial Exchange Offering)の実現に向けたプロジェクトを水面下で進めているところです。

「推し活」と観光産業を紐づけることで、持続可能な地域支援を実現

日本ではこれまでにも、地域経済の活性化を目的に、多くの地域通貨やポイントサービスが導入されてきましたが、これらには「限られた地域でしか使えない」「観光客があまり利用しない」といった課題が存在していました。

特に地方の課題は、人口減少や観光客の不足などが挙げられるため、地域としては県外の人にお金を使ってもらう必要があります。しかし、既存の地域通貨は地元の金融機関が発行主体となっており、その地域内でしか利用できないケースが多かったんです。

このような制約があると、県外の人としては、わざわざ地域通貨を使ってまでお土産やご当地品を買おうとは思わないですよね。その結果、地域通貨の主なユーザーが地元の人になってしまい、地域課題の根本的な解決に繋がっていないというのが現状です。

そこでルーラではこの問題に対処するため、「旅行やお出かけなどで地域を訪れる県外の人」を明確にターゲットとして設定しています。NFTとユーザーの位置情報を紐付け、現地でしか購入できないNFTを発行しているのもこのような背景があるためです。

▼【左】位置情報を取得する様子、【右】NFTが発行される時の様子

さらに、こういった地域活性化を目的とした施策は、一過性で終わらせないためにも、ユーザーが何度も地域に足を運びたくなる動機を作り、その地域と長期的な関係を築いてもらうための工夫が必要です。

そこで私たちは、アイドルや声優などの「推し活」が観光産業と相性が良いのではないかという仮説の元、様々なIPとコラボレーションしながら事業を展開しています。

というのも、私の個人的な考えですが、日本人の多くは何かしらのオタクだと思っていて(笑)。例えば、日本酒やワインが好きで色々な種類を飲んで嗜む人もオタクですし、神社仏閣の御朱印を集めている人などもそうだと思います。

何か好きなものや集めたいものがあれば、それに対してお金と時間をかけることを惜しまず、遠出さえも厭わない。そういう性質をもつ人たちとNFTは親和性が高いんですね。そこで、ルーラでは敢えて「推し活」へのモチベーションが高い人に訴求する体験を、サービス全体に落とし込むように心がけているんです。

では、なぜ最初のコラボレーションIPが「温泉むすめ」だったかというと、観光振興の文脈での「推し活」ならば、日本人にとっては温泉が最も身近だと考えたからです。また、各地の温泉郷には温泉協会という組織があり、基本的に旅館やお土産屋はそこに加盟しているため、温泉協会とのグリップを握ることができれば一気に横展開できます。

つまり、地域を跨いで通貨を利用できるようにすべく、全国にある観光資源に目を向ける必要があったことと、私たち目線での横展開のしやすさを踏まえて、温泉地からスタートさせたという背景があります。

ユーザーが潜在的に求めるニーズを見分け、「情緒的な価値」を提供

ルーラコインが他の決済サービスと比較されないように何を意識しているかというと、大きく2つのポイントが挙げられます。

1つ目は、「お得感の醸成」です。多くの決済サービスでは、購入後にキャッシュバックする形で支払額の数%が戻る仕組みになっているのに対し、ルーラコインではチャージ金額を「10%増量」する仕組みにしています。そうすることでお得感を生み、県外の人が現地に行って利用したいと思う動機を醸成しているんです。

つまり、ルーラコインは現状、あくまで前払い式の決済手段の一つとして機能している形なので、厳密にいえばブロックチェーンを活用する必要はありません。

では、なぜブロックチェーンを利用しているかというと、ルーラNFTとルーラコインのトランザクション管理を行うためと、将来的にはルーラコインを「デュアルトークン(決済手段と通貨価値の両面を持つトークン)」にすることで、リアル店舗でクリプト決済ができる世界を目指したいと思っているからです。

当初からその構想を考えていたため、Polygon(MATIC)チェーン上でルーラトークンを発行し、それにルーラコインを紐づけることで、ボラティリティ(価格変動)がほとんど無い、ステーブルコインのようなアーキテクチャにしているんですね。

今後は、然るべきタイミングでのルーラトークンのIEOも視野に入れながら、まずはルーラコインを流通させ、「ルーラトークノミクス」の構築に注力していきたいと思っています。

そして、意識しているポイントの2つ目は、「情緒的な価値を生む体験設計」です。その一例として、加盟店で決済した際に鳴る決済音ボイスにある仕掛けをしました。

具体的には、コラボレーションしたIPの声優やアイドルの方に、加盟店の特徴を表現した複数バージョンの音声を収録してもらい、店舗でランダムに流れるようにしています。そうすることで、「推しの声」を聞くために何度も決済する人が出てきていて、なかには数万円分のお土産を購入した方もいると聞いています。

とはいえ、ただ「推し活」とコラボしただけでは実売に繋がりづらいのも事実です。そこで重要なのが、「ファンが深層心理で1番欲しいと思っているものは何か」を見分けることだと思っていて。

例えば、「温泉むすめ」のファンの属性は声優好きやキャラクター好きなど色々ありますが、彼らが最も欲しているのは、「温泉地へ貢献したことで感謝される体験」なんですよね。

このニーズに応えるため、ルーラコインは決済額の1%が自動的に観光地に寄付され、それらが足湯の修繕や樹齢数百年の木などの観光資源の保全に活用される仕組みにしています。そうすることで、ユーザーが1番欲しい「自尊心」を満たしながら、地域との間にコミュニケーションが生まれるようにしています。

体験型のユーティリティを設計し、推し活のモチベーションを向上

また、推し活と紐付けた体験を設計するにあたり、NFTの技術特性は非常に相性が良いと感じています。

NFTの大きな利点は、デジタルデータの唯一性を担保し、資産性を持たせることで、ユーザーに「所有」という感覚を生み出せる点にあります。

ルーラではこのNFTの利点を活かして、アイドルグループ「アイオケ」とのコラボレーションの際に、​​「シリアルナンバー付きチェキ&サインNFT」を販売しました。紙のチケットは無くしてしまう可能性がありますが、NFTはデジタル上に半永久的に記録されるため、思い出として残しておくことができます。

さらに、先ほどの「ファンが深層心理で1番欲しいと思っているものは何か」を考えた時に、アイドルの文脈だと「推しとの交流や接触」だと思うんですね。そこで、チェキ撮影用のNFTチケットを活用して、アイドルと繋がれるような企画を用意しています。

例えば、アイオケのチェキ撮影会の際には、アイドルが選んだ番号が記載されているNFTを持っているユーザーが行列の一番前に並べるというキャンペーンを行いました。他にも、アイドルと一緒に10秒間の動画を撮影できるNFTや、グッズがあたるガチャ権付きNFTの販売や、NFTをコンプリートするとイベント中に名前を呼んでもらえるといった企画も用意しました。

「温泉むすめ」とのコラボレーション企画においても、2022年に開催した「ルーラNFT祭りin塩原」では、販売したNFTの発行総数に応じて達成報酬を設けました。具体的には、500枚の発行が達成されたらキャラクターの新作書き下ろしイラストとパネルが塩原温泉に誕生し、2,000枚の発行が達成されたら人気声優をキャスティングした現地イベントを開催するといった形です。

つまり、NFTの活用方法として、デジタルコンテンツの資産価値を担保するのに加え、リアルでのユーティリティにこだわることで、「推し活」のモチベーションを上げてもらうようにしているのがルーラの大きな特徴です。私たちがルーラNFTを「体験型NFT」と言ってる所以もここにあります。

他にも、NFTに温泉や宿泊、飲食店での割引券としての機能を付与したり、対象のお店で提示するとグッズがもらえたりするユーティリティも用意していて、地域内で複数の場所に訪れてもらえるような仕掛けも行っています。

このような仕掛けを通じて、事業者側は特別力を入れてマーケティング活動をしなくても売上を上げることができ、たった1〜2日間で1カ月分の数字を叩き出したケースも複数生まれています。現在も、ルーラを導入いただく事業者様は口コミベースで徐々に広がっている状況ですね。

「ルーラトークノミクス」を構築し、地域経済の活性化に貢献したい

とはいえ、これまでずっと順調に事業を拡大してこられたわけではありません。ルーラを立ち上げた初月は売上が好調だったものの、2ヶ月目に大きく沈んでしまったんですよね。

その原因を調査すべく、ユーザーさんにヒアリングしたところ、ルーラNFTを買わなかった人の共通項として潜在的な「心理的ハードル」があったことがわかりました。具体的には、NFTと聞くと「盗まれる可能性が大きい」とか「危ないもの」といった先入観や、ウォレットという概念のわかりづらさから生じる不安があったんです。

そこで、ユーザーを集めた説明会をオンラインとオフラインで繰り返し開催したり、Web3に関する用語の言い換えをして、捉え方を変えてもらえるように丁寧に説明したりしていきました。例えば「ウォレット」を「マイぺージ」に言い換えたり、「改ざんされない」ではなく「手元に一生残るもの」などと表現していった形ですね。

それらに加えて、ルーラNFTを集めるともらえる特典なども説明しながら、「ルーラを使うモチベーションを上げて、心理的ハードルは下げる」ことを意識した取り組みを実施していきました。

これらの施策を通じて、NFTに対しての安心・安全が芽生えたところから次第に購入してくださる方が増え、月間のルーラコインの流通量が約半年で4倍になりました。さらに、サービス開始から約2年経った現在は、月間の流通額が平均して800〜1,200万円ほどで安定し、流通総額は1.5億円を超えています。

今後はさらに、ルーラコインを使える場所を広げていきたいと思っていて、地方に留まらず、様々な地域のアンテナショップが集結している銀座や、推し活の聖地とされる池袋や秋葉原などの地域でも使えるように準備を進めているところです。

また、より幅広い世代の方にルーラを利用していただくためにも、ルーラNFTが取り扱うIPの種類をもっと増やしていきたいと思っています。世代を超えて愛されるアニメキャラクターや地方で活躍するローカルアイドル、地元密着型のスポーツチームなど、水面下で進めているコラボレーションも多くあるので、今後の展開も楽しみにしていただけたら嬉しいです。

引き続き、ルーラ経済圏の構築に尽力しながら観光産業の課題に向き合い、地域経済の活性化に尽力していきます。(了)

取材・ライター:古田島 大介
編集:吉井 萌里(SELECK編集部)

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