• 株式会社Unyte
  • 代表取締役
  • 上泉 雄暉

70以上のコミュニティを支援したUnyteが語る。企業がDAOを構築するメリットとポイントとは

ブロックチェーン技術などのテクノロジーの進化を背景に、組織運営の分散化を推進する動きの一環として、「DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)」の構築に取り組む企業が増えている。

DAOには特定の意思決定者が存在せず、参加者の総意で組織の方向性や運営ルールを決め、プロジェクトを推進するのが大きな特徴だ。

まさにWeb3時代のコミュニティの在り方として期待される一方、企業がDAOを構築し、運用していくためのロールモデルが未だ少ないのが現状である。その背景として、DAOに関連するツールの多くが海外製で操作がわかりづらい点や、そもそもコミュニティ立ち上げ自体のノウハウが少ない点などが挙げられる。

そうした中、DAOの組成に必要な「投票」「タスク管理」「トークン付与」「チャット」などの機能を搭載したツールを提供し、同時にプロジェクトの立ち上げ支援までを行っている国内企業がある。

それが、DAO構築・管理のための統合プラットフォーム「Unyte(ユナイト)」を開発する、株式会社Unyteだ。同社は、2022年12月にプロダクトのβ版をローンチしてから、すでに70以上の企業やコミュニティに採用された実績を持つ。

そこで今回は、同社にて代表取締役を務める上泉 雄暉さんに、企業がDAOを立ち上げるメリットや運営におけるポイント、具体的なプロジェクト事例などについて詳しくお話を伺った。

「DAOで自由に働く」を実現するために、Unyteの開発をスタート

私は、新卒でパナソニックに入社し、1年半ほど新規事業の立ち上げを担当しました。その頃は「NFTバブル」と呼ばれていた時期で、社外活動として「和組DAO」などのNFTのコミュニティに参加していました。これが、Web3との最初の接点です。

なかでもDAOに着目したのは、以前から画一的なキャリア形成や働き方に疑問を持っていて、その点でDAOは一般的な会社組織と比べて参加ハードルが低く、かつ、いつでも離脱できるカルチャーがあったからです。そうした特徴から、個人がスキルを活かしながら、自己責任の元で自由な働き方を選択できるのではないかと可能性を感じました。

そこで、まずは複数のDAOに参加してみたところ、仕組みが整っている組織がほとんどないことに気づいて。

具体的には、適切な報酬分配の方法が定まっておらず、お互いの貢献が見えづらいことからDAOの活動が持続しなかったり、熱意を持って入ってきた人が辞めてしまったりするといった問題がありました。

また、「ガバナンストークンの値上がり」を期待し、各人がタスクをこなしているような雰囲気に違和感を覚えてしまって。私はDAOはギルド的な組織だと想像していたため、キャピタルゲインを目指すような仕組みにギャップを感じてしまったんです。

そうした背景から、コミュニティメンバーの頑張りや貢献を可視化し、それに応じた報酬を付与できるツールを提供できないかと考え、2023年10月に正式にローンチしたのがUnyteです。

Unyteは、Web3コミュニティの多くで利用されているコミュニケーションツール「Discord(ディスコード)」と連携して使っていただく形を想定しています。チャットや投票、タスクの確認やトークン発行といったDAO運営に必要な作業を、1つのツール内で完結できる点が大きな特徴です。

加えて、一部の情報のみをパブリックなオンチェーンに記録することで、個人のプライバシーを保護している点も特徴として挙げられます。例えば、投票時の回答内容を匿名にすることで、遠慮せずに意見を表明できる投票環境を整えていたり、タスクの遂行状況を暗号化し、必要な時に限って貢献データを開示できたりするような機能を実装しています。

そして現在は、ツールの提供だけでなくDAOの立ち上げ支援も展開しており、これまで70を超えるコミュニティの運営をサポートさせていただきました。立ち上げのノウハウがだいぶ貯まってきているので、今後それらもプロダクトに落とし込んでいきたいと考えています。

DAOの運営は「中央集権型」と「分散型」のハイブリッドが鍵

近年、DAOの定義について多くの議論がなされてきましたが、私たちは大きく2つの定義があると考えています。

1つ目は、ビットコインのように「厳格に分散化された組織」のことです。ここでは、基本的にすべてのルールがスマートコントラクトなどを用いてブロックチェーン上に記録され、自動で取引が行われます。ユーザーは提案を通じてガバナンスを変更でき、システムがそれに応じて書き換えられる仕組みです。

2つ目は、より広い意味でのDAOです。これは、すべてをプログラム化するのではなく部分的に人の介入を許容し、メンバーが自律的に動くことでコミュニティが形成される組織のことです。

例えば、和組DAOではシステム上にルールが記録されているわけではありませんが、メンバーが議論し合い、投票を通して、出資や権限の分散に関する意思決定が行われています。

このようにDAOを説明する際に使われる「自律的」という言葉の解釈が難しいのですが、システマチックに自動化されるという意味と、メンバーが能動的に働くという2つの意味が存在する場合、両者を広義に捉えればどちらもDAOと言えると思っています。

私としては、後者の定義の方が現時点では重要だと思っていて。既存のサービスやコミュニティの多くは人の介入が必要ですし、いきなり組織の仕組み全体を自動化するのは技術的な観点からも難しいでしょう。

また、近年は「ティール組織」などのフラットな組織概念が生まれている一方で、一つひとつの意思決定を全員で行うには膨大な時間がかかってしまうという問題があります。

したがって、DAOの理想形に近づくためにも実現可能な部分から自動化していき、技術の発展に合わせて組織運営をシステマティックに移行するプロセスを経ながら、中央集権型と分散型のバランスを取ることが重要だと考えていますね。

顧客との関係を深化させ、商流を可視化。DAOを構築するメリット

昨今、NFTプロジェクトだけでなく企業がDAOを構築する事例も増えています。DAO構築のメリットは大きく2つあると考えていて、その1つが商流の効率化です。

従来の商流では、マーケティングやPR活動を代理店に委託して予算を先払いするのが一般的で、発注先の企業が効果検証を行う形で効率化が図られていると思います。しかし、このアプローチではユーザーとのコミュニケーションが分断され、真の意味での効率化は図れていないと思っていて。

一方で、DAOであれば最初のタッチポイント取得からその後のコンタクトまでを自動化できます。これにより、製品購入のタイミングや購入者を正確に追跡でき、広告予算の削減が可能になります。

例えば、DAO内のメンバーがSNS上で商品の宣伝を行い、実売につながった人だけに対価を支払うモデルを作れば、これまで広告予算を一括で数百万円ほど払っていたのを削減し、成果に基づく効率的な資源分配を実現できます。

▼DAO内での貢献を可視化

もう1つのメリットは、ユーザーとの関係をより深化させられる点です。

現状は、サッカーで例えると「最後にゴールを決めた人だけがハッピーになる」仕組みになっていると思っていて。要するに、ユーザーが購入を意思決定するまでの流通経路が可視化されていないため、SNSで告知したり知人に紹介するなどして売上に貢献した人に対し、個別にリワードを付与することができません。

そこで、ブロックチェーンを活用して一連の商業活動をトラッキングすることが可能になれば、メンバーの貢献度を可視化・数値化し、成果に基づく対価を支払う仕組みを作ることができます。そうすれば、DAOに対するエンゲージメントの向上にも寄与すると思っています。

そうしてDAOがうまく機能すればアフターサポートまでもメンバーが自発的に担うようになり、カスタマーサクセスの役割を代替する可能性もあると思っていますね。

とはいえ、DAOが商業的なエコシステムを変えるほどの影響力を持つにはまだまだ時間が必要で、5〜10年のスパンをかけながら取り組んでいきたいと思っています。

最初からすべて分散化させるのは難しい。フェーズ毎のポイントとは

ここからは、実際に企業がDAOの構築に取り組む際のポイントをフェーズごとにお伝えします。

まず前提として、最初からすべてを分散化させるのは非常にハードルが高いので、「段階的に分散化させていくためのロードマップ」を作る必要があります。具体的には、フェーズ毎のコミュニティの目的やゴールは何か、どのような役割を設けるのか、貢献に対する対価は何を得られるのか、いつ誰に権限を委譲するのかといった点を明確にしておくと良いでしょう。

このDAO運営の軸となるものは、初期段階では中央集権的に決めざるを得ないため、予めルールを作る担当者を決めておきます。

その上で、まず立ち上げ時には、参加者の関わり方のレイヤーに応じた報酬の設定が重要になります。というのも、精力的に活動を頑張りたい人もいれば、そこまでアクティブな活動は望んでいない人もいるため、それぞれの目線に合わせたインセンティブ設計を考える必要があるからです。

例えば、コミュニティに参加したばかりの人や、定期的にログインしてくれる人には「小さな成功体験」を積んでもらうための仕掛けを行う。他方で、コミュニティとして大きな目標を掲げた時やモチベーションが高い人向けには大きな報酬を用意する、といった設計がベストだと考えています。

このアプローチの上手い事例が、Very Long Animalsのコラボプロジェクト「VLCNP(VeryLong CNP)」です。「ポイ活」感覚で参加したいユーザーに向けては、Discordに「gm(おはよう)」と投稿するだけで5ポイントもらえる仕組みが設けられています。

そして、本格的に活動を頑張りたい人には、記事の執筆やSNSでの発信など重めのタスクが用意されていて、そのタスクをこなせば100ポイントが付与されます。加えて、ポイントを貯めた人にはイラストを描く権利が付与されるなど、金銭的なインセンティブを超えた価値の提供も行われています。

VLCNPは今後、Unyteを通じて発行されているトークンと、VLCNPが発行している「UNIコイン」やオリジナルアイテムなどを交換できるようにする計画も立てていて。ブロックチェーンの相互運用性を活かすことで、ブランドや業界の垣根を超えた新たな価値を生み出していけたらと思っていますね。

▼VLCNP内で使われているUnyteの様子

組織の拡大と共に権限を移譲し、DAOの意思決定スピードを上げる

次に、DAOを分散化させる拡大フェーズのポイントをお伝えします。先述した通り、立ち上げ期は中央集権的にルールを設定する必要がありますが、組織の拡大とともに資金管理やルール変更の権限をメンバーに委譲していくのが理想的です。

そのため、どの権限をどのタイミングで誰に移譲するのかについて、事前に設計しておくことが重要です。この計画がうまくできているコミュニティの方がユーザーも参加しやすく、より面白くなる可能性が高いと感じていますね。

この設計がうまい事例としては、ガイアックス社と巻組社が運営する「Roopt神楽坂DAO」が挙げられます。空き家をリノベーションした一軒家が「DAO型シェアハウス」として運営されており、物件の管理者が不在で、入居者が中心となって運営・管理が行われる仕組みです。

具体的には、現在1個につき3万円のNFTが240個販売されており、1トークンを購入すると1カ月の賃貸居住か、7泊8日の宿泊滞在のいずれかの権利を得られるルールです。NFT保有者はDiscord上で物件の管理や運営についての議論に参加でき、家賃設定や入居基準、ハウスルール、各仕事に応じた報酬などを決めることができます。

例えば、内覧対応を行った場合、報酬として現金1,000円相当の4トークン付与され、トークンが3万円分貯まると家賃に充当できるといった仕組みもあり、行動に対するメリットが非常に明確です。

このようなガバナンスモデルやトークン付与のルールは立ち上げ期から定められていたので、入居者もそれに沿って主体的に活動することができ、成功したモデルだと感じています。

▼Unuteではタスクの内容を詳細に設定することができる

最後に、ある程度組織が拡大してきたタイミングでは、目的や役割に合わせて「サブDAO」を複数作ると良いでしょう。重要なのは、運営者がいつまでも権限を握っていないことで、これこそが本来のDAOの定義に近いことですし、それを大胆にできる意思決定のスピードが鍵を握ると思いますね。

「働いてもいいし、働かなくてもいい」という自由の獲得を目指して

最近は、エンタープライズ企業様からのDAOの立ち上げに関するご相談が増えていますが、その際のアプローチは2つに分けられると思っています。

1つ目は、既存のビジネスにDAOを組み込むパターンです。企業がコミュニティを運用する主な目的は、商品の販売促進やライフタイムバリュー(LTV)の向上にあると思います。DAOはこれらの目的に対して、「ユーザーが能動的に活動してくれる場」と「貢献に応じたリワード付与の仕組み」を提供することで貢献できます。

もう1つは新規事業の文脈でのDAOです。直近の事例としては、ガイアックス社が支援されている三井住友海上火災保険社様の「採用DAO」プロジェクトでUnyteのDsicord Botをご利用いただきました。

これは、採用活動の透明化を目指したプロジェクトで、従来は人事担当者が中央集権的に採用候補者を評価していたところを、その評価プロセスを可視化することで、候補者が自身の強みや弱み、評価された点などを把握できるようにすることが目的です。

ここまで企業の事例をメインにご紹介してきましたが、DAOは地域活性のプロジェクトや教育機関などとも相性が良いと思っています。例えば、生徒会は分散型のモデルに近いものですし、学生個人の実績や活動履歴をオンチェーンに残していけば、総合型選抜入試などの選考材料になるといった可能性も考えられます。

よって、今後は、様々な分野でのDAOの活用可能性を模索し、いかに面白いユースケースを創出していけるかを主眼に置きながら「広義のDAO」の概念を広めていくようチャレンジしていきたいですね。

また、DAOの概念が当たり前になった暁には、私個人としては「労働からの解放」を実現したいと思っていて。これは、誰も働かなくていいという世界観ではなく、「働いてもいいし、働かなくてもいい」という自由を選択できることです。

そうした世界を実現するためには、DAOの普及に加えて、ベーシックインカムや生成AI、自動化などの技術も絡んでくると思います。こうした技術も視野に入れながら、個人がやりたいことにフォーカスできる生活を手に入れるための布石を打っていきたいですね。(了)

取材・ライター:古田島 大介
企画・編集:吉井 萌里(SELECK編集部)

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