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【後編】地域活性×ブロックチェーンの活用事例!厳選10個(岩手県・埼玉県・兵庫県など)
近年めざましい進化を遂げ、金融分野に留まらず地域活性の分野でも大きな注目を集めている、ブロックチェーン技術。
住民票やふるさと納税の返礼品へのNFT活用をきっかけに、DAO的コミュニティを形成し、新たなファンの獲得を目指す地域が増えています。
先日公開した【前編】では、北海道 夕張市や福岡県 飯塚市、新潟県 旧山古志村などの地域におけるブロックチェーン技術活用の事例をご紹介しました。
そして【後編】となる本記事では、前編同様に、ブロックチェーン技術を活用して、関係人口の創出や新たなビジネスモデルの構築に取り組む5つの地域をご紹介します。
先進的で創意工夫がなされている取り組みが満載ですので、ぜひ最後までご覧ください。
<目次>
- 岩手県 紫波町 :Web3タウン
- 埼玉県 横瀬町 :Open Town Yokoze
- 兵庫県 神戸市 :BE KOBE NFT
- 鳥取県 智頭町/静岡県 松崎町 :美しい村NFT
- 鹿児島県 薩摩川内市 :カバードピープル×ふるさと納税
※編集部より:本記事に掲載している情報は記事公開時点のものとなり、プロジェクトのアップデートにより、情報が記事公開時と異なる可能性がございますので、予めご了承ください。最新の情報については、各自治体の公式ページをご参照ください。また、記事の内容についてご意見や修正のご提案がございましたらこちらまでお願いします。
1.岩手県 紫波町:Web3タウン
岩手県のほぼ中央に位置し、盛岡市の主要なベッドタウンである紫波町(しわちょう)。地理的な条件・交通の便に恵まれている一方で、雇用機会の少なさや地場産業の乏しさ、中心市街地の衰退といった課題を抱えている自治体でもあります。
そこで、これらの地域の課題をすべく、紫波町が2022年6月からスタートさせたのが「Web3タウン」です。この取り組みでは、地域を超えて多様な人との結びつきを創り出すことを目的として、以下のようなプロジェクトが検討・実施されています。
- 地域課題の解決を目指すDAO(分散型自立組織)の設立
- Web3技術を活用した、新型地域通貨の発行に向けた活動
- ふるさと納税の返礼とデジタルアートのNFT化
- Web3技術の推進に取り組む企業の誘致
上記を実現するために、紫波町は「Web3 で地方を豊かにする」をビジョンに掲げる民間企業、SOKO LIFE TECHNOLOGY社と連携協定を結びました。2018年に紫波町で創業した同社は、不動産や旅行にまつわる情報サービス事業のほか、Web3技術を活用した地域活性事業を展開しています。
同社との連携で特に注目されるのが「Furusato DAO(仮称)」構想です。ブロックチェーン技術を活用して構築されるDAOでは、誰もが自由に参加できるため、多様な人材やアイデアが集まることを期待できます。
さらに、NFTの発行によって自主財源を確保でき、地域課題を解決するプロジェクトへの投資を促進できることで、将来的にはWeb3に取り組む企業の誘致にも繋げていきたいと表明しています。
DAOの仕組みとしては、「Help To Earn(助けて稼ぐ)」と名づけ、地域住民がボランティア活動や行政支援に繋がる行動をした際にトークンを発行するといった、日常生活にWeb3を組み込んだ施策が取り組まれています。
例えば、紫波町では過疎化と高齢化が進んでおり、「買い物難民」が多いとされています。そこで、買い物代行をした人へのインセンティブとしてトークンを発行することで、助け合いのコミュニティを醸成できないかという試みです。
※出典・参考:Web3タウンの取り組みについて – 岩手県紫波町(2022年10月25日)
加えて、紫波町におけるWeb3の取り組みとして、NFTを活用したふるさと納税の返礼品もあります。
2022年10月に返礼品として追加されたのが、ゲーム「くりぷ豚レーシングフレンズ」とコラボして作られた、NFT技術を活用した紫波町オリジナルのキャラクターです。ゲームをきっかけに紫波の特産品を知ってもらおうと、ブランド豚「しわ黒豚」の精肉がセットになっている返礼品が用意されました。
さらに、このNFT発行をきっかけに紫波町が進めているのが、「電子紫波町民構想」です。
これは、ふるさと納税などを通じて紫波町のNFTを保有する町外の人を、属性チェックや本人確認をした上で「デジタル紫波町民」として認定するものです。オンラインコミュニティを活動拠点として、自治体運営に関する議論や投票に参加してもらうことなどが目的で、2023年8月より本格的にスタートしています。
すでに、コミュニティ内からのアイデアとして障がい者の方々が制作するアートをNFT化するといったプロジェクトや、廃校を活用した「酒の学校」プロジェクトなどが検討されているといいます。
また、自治体運営に携われるだけでなく、特典として町の温泉入浴料の割引など、町内のサービスをお得に利用できたり、限定イベントへの参加権、専用のECサイトで特産品の買い物ができるといったコンテンツも用意されているそうです。
2.埼玉県 横瀬町:Open Town Yokoze
埼玉県の秩父郡に属する横瀬町(よこぜまち)は、都心からのアクセスと豊かな自然に恵まれた、人口約8,000人の町です。2005年頃から人口が減少しており、消滅可能性都市にも指定され、いかに移住者・定住者を増やすかが課題となっています。
これらの課題を解決すべく、横瀬町は「日本一チャレンジする町」を掲げ、ブロックチェーンを活用した新たな取り組みに挑戦中です。その1つが、奇兵隊社が横瀬町の協力を得てスタートしたプロジェクト、「Open Town Yokoze」です。
同社は、ウガンダやインドネシアなどの世界各国において、自律的なまちづくりの実現を目的に、資金と応援者を持続的に集めるWeb3型クラウドファンディングサービス「Open Town」を運営しています。過去に、SELECKでもその取り組みを取材させていただきました。
横瀬町でのOpen Townプロジェクトは、国内初の試みです。仕組みとしては、制作したNFTアートの販売益を財源として、横瀬町で「自分のアイデアでまちづくりを実践したい」という熱意を持った人々が事業や研究に取り組みながら、自律的なまちづくりを推進していくものです。
※出典:NFTアートの売上収益で「自律的なまちづくり」を目指す奇兵隊と埼玉県横瀬町が、国内初となるOpen Townプロジェクトを横瀬町で実施することに合意 – 株式会社奇兵隊(PR TIMES)
その第1弾として展開されたのが、知識ゼロからでも学べるWeb3スクール「JOY LAB」です。
JOY LABでは、参加証となるNFTを購入すると、Web3に関する基礎知識からマーケティング方法までを実践を通じて学べます。目指すのは横瀬町と世界の架け橋となる、グローバル人材の育成です。
参加者同士でチームを組み、NFTアートの企画、制作から収益化までの流れを体験できる全7回の講座は、2023年1月から2月にかけて実施されました。
この参加権となるNFTアートは、横瀬町出身のイラストレーター若林 夏さんによって制作されたものです。また、JOY LABの受講を希望する横瀬町在住の小・中学生に対しては、販売されたNFTとは別に「Yokoze Color Pass NFT」が無償で配布されたとのこと。
▼実際に販売された「Yokoze Color Pass NFT」
横瀬町は他にも、町内外から集まったアイデアを形にする「よこらぼ」や、多様性のある町を目指す「カラフルタウン」の取り組みにもチャレンジしています。「よこらぼ」で採択されたプロジェクトのうち、希望者に対しては、Open Town Yokozeを通した資金調達の機会を得られる仕組みも設けているとのこと。
すでに、「Open Town Yokoze」の第2弾の計画が進められているそうで、今後の展開からも目が離せません。
3.兵庫県 神戸市:BE KOBE NFT
関西地方における主要都市として知られる兵庫県 神戸市でも、ブロックチェーン技術を取り入れたプロジェクトが展開されています。それが、uzumaki creative社およびrakugoka社と神戸市が連携して立ち上げられたプロジェクト「BE KOBE NFT」です。
BE KOBE NFTは主にZ世代をターゲットとしており、全国の若い世代と神戸市がNFTをきっかけに、お互いにつながり合える自治体ファンコミュニティの創出を目指しています。
▼「BE KOBE NFT」のロードマップ
オンラインコミュニティの形成にあたっては、Z世代の利用が多いチャットツール「Discord(ディスコード)」を採用してサーバーが作られました。自治体として、Discordを活用しコミュニティを創出している事例は、神戸市が初とされています。
そして、2023年3月にはNFTコレクション第1弾が販売され、アーティストには神戸にゆかりのあるKawaii SKULLが起用されました。神戸市の市外局番078にちなみ、78個のNFTアートが販売されましたが、実際に応募された購入希望数は250件超と、その注目度の高さが伺えます。
さらに、同年8月にはBE KOBE NFTの第2弾コレクションが発表されました。第1弾からの進化ポイントとしては、カードを「かざす」だけの簡単なアクションでNFTを受け取れる、ハードウェアウォレット「POKKE(旧NFTag)」が採用されたことです。
加えて、日本円での決済が可能なECサイト上での購入も可能となり、第1弾以上にNFTがより身近な存在となったことで、NFTアート作品の購入にハードルを感じていた層を含め広く認知されるプロジェクトとなりました。
▼神戸市にゆかりのある3名のクリエイターによって制作された3種類のPOKKE
※出典:自治体初!NFTを媒介したZ世代コミュニティ創出プロジェクト「BE KOBE NFT」第二弾コレクションを販売開始。 – 株式会社 uzumaki creative(PRTIMES)
また、POKKEの導入により、観光施設と連携した特典の配布やスタンプラリーなど、NFTを活用したオフライン施策を広く展開できるようになり、実際に足を運ぶ人の流れを促進できる可能性が広がったとのこと。
このBE KOBE NFTは2022年から実証実験として行われていたもので、当初予定されていたロードマップは全て終了しており、第2弾以降のNFTアート作品の販売も未定とのことです。しかし、オンラインコミュニティは継続されるそうで、今後の続報が楽しみなプロジェクトです。
▼POKKEを開発する、PBADAO社に取材した際の記事もぜひご覧ください
自治体のようにリアルな商環境をもたない場合は、フィジタルが有効である可能性があります。直近では、神戸市さんが推進するNFTを活用したファンコミュニティ創出プロジェクト「BE KOBE NFT」に、POKKEを採用いただきました。
ご相談いただいた際、同プロジェクトは2つの課題を抱えていました。1つは、コンセプトとして「Z世代のコミュニティを作る」と掲げていたにも関わらず、NFTの購入者の多くがZ世代ではなくWeb3ネイティブの方が多くなってしまったことです。
もう1つは、データの追跡ができなかったために「神戸市への訪問」率を計測できず、もし仮に来訪していても「おもてなし」ができていないといった課題を抱えていました。
そこで第2弾からPOKKEを導入いただき、日本円での販売やユーティリティの付与などを通して、本来のターゲットであるZ世代にリーチできるように整備していきました。
なお、Z世代をターゲットにしたコミュニティは一見オンラインだけで完結しそうですが、やはり神戸市内の事業者はリアルでビジネスを営む方々がほとんどなので、NFTを購入した先の体験をどう構築するかを考えた時にフィジタルが紐づいてくると思っています。
4.鳥取県 智頭町/静岡県 松崎町:美しい村NFT
「日本で最も美しい村」連合へ加盟している、鳥取県 智頭町(ちずちょう)および静岡県 松崎町。2005年からスタートしたこの連合は、日本の農山漁村の景観・文化を守りながら、美しい村としての自立を目指して立ち上げられました。
同連合に加盟している両町が、NFTを活用することで関係人口を創出し、地域課題の解決を目指しているプロジェクトが「日本で最も美しい村デジタル村民の夜明け事業」です。
▼「日本で最も美しい村」連合の紹介ムービー
同事業では、ブロックチェーン技術を活用して「デジタル村民」のコミュニティを形成することで村の関係人口を増加させ、新しい社会構造を形成することを目指しています。
このコミュニティはDAO形式で運営され、NFTの販売益を活用しながら、少子化や人口流出、雇用機会の確保といった、地域課題の解決に向けたプロジェクトが推進されています。町と住民、自治体を応援したい人々が一体となって、「美しい村DAO」を形成するのです。
▼「美しい村DAO」の仕組み
美しい村DAOの形成にあたっては、デジタル村民の証となる「美しい村NFT」が2023年4月より販売されました。
販売されたNFTは、デジタルアートだけでなく、地域内でのアクティビティや特産品などと紐づいているのも大きな特徴です。実際に、鳥取県 智頭町のお祭りをモチーフとしたNFT作品や、静岡県 松崎町からは町長が自らデザインしたアートを紐付けたツアーNFTなどが発売されました。
これらのNFTを購入したデジタル村民は、様々なインセンティブを享受できます。具体的には、「宿泊割引」や「温泉入湯割引」などの町で使えるクーポンがもらえたり、DAOの取り組みに関する提案、運営に携わる権利などを得られます。
▼NFTが活用されているインセンティブの事例
さらに、地域資源とNFTを紐付けたサービスや体験なども企画でき、DAO内の投票で承認されれば販売できるといった仕組みも用意されています。
実際に、文化や景観の保持を目的として、NFTホルダーに対して棚田のオーナー権や森林所有権などが付与されたり、脱炭素を促進するための取り組みに販売益が活用されています。「美しい村」を守り続けるために、環境問題へのアプローチも行っている点が、このプロジェクトで見逃せないポイントです。
※出典・参考:日本で最も美しい村デジタル村民の夜明け事業 – 智頭町
5.鹿児島県 薩摩川内市:カバードピープル×ふるさと納税
2004年に県内の9市町村が合併して誕生した、鹿児島県の北西部に位置する薩摩川内市(さつませんだいし)。海や川、緑が融合した美しい自然と、都市の利便性をあわせ持つ「ちょうどいい町」として栄えています。
この薩摩川内市では、一風変わったコミュニティとコラボレーションし、ふるさと納税制度を活用した町おこしに取り組んでいます。その相手とは、「くだらない事にこそ価値がある」をモットーとして、独特の世界観とアートを武器に活動するクリエイティブコミュニティ「カバードピープル」です。
同コミュニティは、「数百年後も繁栄し続ける経済圏・生活圏の構築」をビジョンとして掲げ、オンラインのみならずリアルの舞台にも活躍の場を広げており、昨今注目されているコミュニティのひとつです。
同コラボレーションでは、カバードピープルのアーティストが、薩摩川内市をテーマに描き下ろしたNFTアート「COVERED PEOPLE」を返礼品とし、ふるさと納税を受け付けました。イラストには薩摩川内市の名物を「かぶった(カバーした)」キャラクターが描かれ、同市の魅力が表現されています。
購入者に送られるNFTアートは、全て1点物のイラストです。100枚の中から、ランダムに選ばれた1枚が送られ、Discordを活用した限定コミュニティへの参加権として機能します。
通常、NFTの購入にはイーサリアム(ETH)などの暗号資産が必要ですが、このふるさと納税は日本円で決済でき、これまで「NFTは敷居が高い」と考えていた人でも、参入しやすい点が魅力的です。2023年2月に受付を開始して以来、納税額はすでに200万円を突破しています。
これらの返礼品のNFTを入手した人は、実際に薩摩川内市を訪れることで、オリジナルグッズを受け取れるほか、限定NFTをもう1枚手に入れられるなど、リアルとデジタルの垣根を超えた特典も設けられています。
コミュニティ内の仕組みとしては、カバードピープルのNFTを購入すると自動的に独自の階級制度に組み込まれるとのこと。コレクションによって階級制度は異なり、NFTアートコレクション「COVERED PEOPLE」ではNFTの保有数とメンバーの話し合いにより、4つの階級に分けられ、それぞれコミュニティ内での役割が与えられるそうです。
▼NFTアートコレクション「COVERED PEOPLE」の階級制度
また、本プロジェクトはリアルでの活動も盛んに行われています。実際に、2023年10月には、カバードピープルによるリアルイベント「川内川大ハロウィン祭り」が開催され、アートの展示やバーベキュー、花火など数多くの企画が実施されたとのこと。
▼2023年10月に実施された「川内川大ハロウィン祭り」の様子
お祭りの参加券となるBBQチケット付きNFTの販売は、KDDIのNFTマーケットプレイス「αU market」上で事前に完売。さらに、イベントの来場者には、参加証として無料のNFTが先着1,000名に配布され、薩摩川内市のハロウィンは大いに盛り上がりました。
現在、800名超のメンバーを誇るカバードピープルは、薩摩川内市以外にも、東京都町田市にある小学生サッカークラブとスポンサー契約を結ぶなど、その活動の幅を広げています。さらに、2024年には離島(甑島)にてビール工場建設を予定しているなど、カバードピープルの今後から目が離せません。
おわりに
以上、前編と合わせて10の地域におけるブロックチェーン技術の活用事例をお届けしてまいりましたが、いかがでしたでしょうか。自治体に勤められている方も、「地元を盛り上げたい!」と思っているビジネスパーソンの方にも、ぜひご参考になりましたら幸いです。
▼地域活性×ブロックチェーン事例記事の前編もぜひ一緒にご覧ください