• 株式会社PBADAO
  • 代表取締役COO
  • 堀井 紳吾

誰もがポケットにNFTを持てる世界へ。POKKEが目指すWeb3の社会実装

近年、企業のWeb3領域への参入が増加しつつある。その際に特に重要になるのが「ブロックチェーン」や「ウォレット」の選定だ。これらはWeb3ビジネスの方向性や提供する価値を決定づける要素であり、企業は自社のビジネスとの親和性や将来性を考慮して意思決定を行う必要がある。

その一方で、Web3の技術は理解が難しく、十分な知識がなければ暗号資産の管理やNFTの取引すらもハードルが高くなってしまう。そのため、事業者としていかに消費者にわかりやすくサービスの価値を伝え、Web3の「マスアダプション(大衆受容)」を推し進められるかが重要だ。

そうした中、「Web3をマスアダプションする」をミッションに掲げ、Web3初心者でも手軽にブロックチェーンサービスを楽しめる世界を構築すべく複数の事業を展開しているのが、株式会社PBADAOである。

同社は、NFC(※)を活用した体験型ハードウェアウォレット「POKKE(ポッケ)を主軸事業とし、カードや指輪、キーホルダーといったフィジカルアイテムに、スマホをタッチするだけでNFTを入手できるという手軽なユーザー体験を実現し、業界内外から多くの関心を集めている。

※「NFC(Near Field Communication)」とは近距離無線通信のことで、NFCに対応する機種同士を、接触または接近させることで通信を行える仕組み

POKKEのように、物理(フィジカル)とNFTなどの技術(デジタル)を掛け合わせた思想・サービスは「フィジタル」と称され、ユーザーが現実世界とデジタル世界をシームレスに行き来することを可能にする。これに対して、これまでにない価値を創出できるということで、昨今は世界中の企業やクリエイターからの注目が集まっているという。

そこで今回は、同社で代表取締役COOを務める堀井 紳吾さんに、POKKEを開発した背景やその将来性、そして企業がフィジタルなサービスを展開する際に留意すべきポイントまで、詳しくお話を伺った。

地域ポイントの開発をきっかけに、ブロックチェーンの世界へ

私は、新卒で入社した共通ポイントシステムを企画・開発する会社で、地域ポイントを活用した「まちづくり支援」のサービスを開発していました。

そして当時は、地域が抱える課題に対して、ポイントをきっかけに地域住民の活動が活性化され、いかに持続的にポイントを使う仕組みを作れるかと試行錯誤していました。それがまさにWeb3でいう「トークノミクス」に近い経験で、その頃からブロックチェーンに興味を持ち始めて今に繋がっています。

その後は複数の起業を経て、「TASTE LOCAL」というECサイトの立ち上げに参画したのですが、そこでもブロックチェーンの可能性を感じる機会がありました。

というのも、このサービスは、コロナ禍の影響を受けた飲食店や宿泊施設の食品を購入できるようにして支援できないかと、同じ課題感をもつ有志のエンジニアやデザイナーの方々などが集まって立ち上げたものでした。

そこでは各人が得意なことで力を発揮し、いわゆるDAO(分散型自律組織)のような形で機能していたんです。結果的には、年間GMV(流通取引総額)が1億を超えるという予想以上の成果をあげることができ、大変興味深い体験でした。

これらの経験を基に本格的にブロックチェーンの世界に飛び込みたいと思い、Web3を実践的に学べる「UNCHAIN」というDAO的なコミュニティで活動していたところ、共同代表である芳賀に声をかけてもらい、PBADAOを創業して現在はCOOとして事業開発を中心に行っています。

「ポッケ」のように親しみやすいイメージを。リブランディングの背景

弊社は、代官山に構えているNFTギャラリー「EDGEoff」を拠点に、アーティストやエンジニア、コミュニティマネージャーなどの多様な職種のメンバーが集まり、アートやカルチャーを軸に様々なWeb3プロジェクトを展開してきました。

そして、ここ数年は、簡易型ハードウォレット「NFTag」を基点に複数のサービスを展開してきましたが、今年の10月に1.7億円の資金調達のリリースを行ったことをきっかけに、「POKKE」という名称にリブランディングを行いました。

POKKEという名前には、ブロックチェーンを活用したウォレットを、「日常の中で私たちが小銭や鍵、キーホルダーなどの様々なアイテムを入れる『ポッケ』のように親しみやすいイメージを持っていただき、Web3を身近に感じていただきたい」という思いを込めています。

このリブランディングを経て、現在はNFCを活用したウォレットソリューション「POKKE Wallet」、トークンの発行ソリューション「POKKE Link」、トークンの認証ソリューション 「POKKE Check」の3つのサービスを提供しています。

また、これらのソリューションを掛け合わせて、NFTプロジェクトのマネジメントやマーケティング、開発面でのサポートも行っています。過去には、遊戯苑やBucketBear、NEO TOKYO PUNKS、Skater JOHNといった著名なプロジェクトをご支援させていただきました。

弊社の主軸事業であるPOKKE Walletは、「事業者の方がブロックチェーンを活用するためのインフラ」として価値を発揮できたらと思っています。

その背景として、Web3の魅力は「ユーザーが自己主権型で情報資産を保有できること」や「価値に流動性を持たせられること」などが挙げられますが、これらの価値を享受するには、サービスの受け手側がウォレットを作成したり、暗号資産を購入したりする必要があります。しかし、その作業には一定のリテラシーが必要で、Web3ネイティブ層以外の方にとっては利用時のハードルになってしまっているのが現状です。

こうした課題を一挙に解決するために、POKKEはウォレット開設における工数を95%以上削減することで、誰もが簡単にNFTを受け取れる体験を目指しました。

具体的には、専用のモバイルアプリをダウンロードしてウォレットを作成しておけば、手元に届いたNFC内蔵のカードをスマホにタップするだけで、NFTを受け取れる仕組みです。

このように簡単にNFTを受け渡しできることから、現代アーティスト井田 幸昌氏によるNFTアートのリリースイベントでは、来場者の9割を占める約100名の方々がPOKKEを活用してウォレットを開設し、限定NFTを受け取ってくださった実績もあります。

やはり、Web3は初心者にとって「得体の知れないもの」であり、抵抗感やとっつきにくさがあると思いますが、POKKEは操作方法が簡単なことに加えて、何よりも「現物がある安心感」が強みだと感じていますね。

「フィジカル×デジタル=フィジタル」を活用する上で重要な2つの視点

POKKEのように、物理(フィジカル)とNFTなどの技術(デジタル)を組み合わせたサービスは総称して「フィジタル」と呼ばれています。昨今、NIKEなどの大手企業もフィジタルなプロダクトを展開し始めていて、ブロックチェーンの社会実装に有効だと注目されています。

私たち自身もフィジタルに可能性を感じている一方で、ビジネスに応用する際には大きく2つのポイントを意識しています。

1つ目は「少し先の未来を想像して体験を作る」ことです。ここ数年、メタバースなどが話題になったことで、デジタル上で自分のアイデンティティを表現するという考えが広まりつつあると思います。しかし、それを多くの人が楽しむ時代はもう少し先になると考えていて。

そうした中でも、すでに自分の容姿や好きなファッションなどをアバターに反映している人もいるわけで、将来的には、現実世界で自身が身に付けているものをデジタル資産としても保有できるような、フィジタルな体験の需要が高まると感じています。

よって、お客さまから相談をいただく際にも、将来を予見しながら、既存の事業やプロダクトの可能性を最大限引き出せるようにプロデュースをすることを意識しています。

直近では、弊社が運営する京都のギャラリービル「EDGEoff KYOTO」にて、ヒップホップアーティストのOZworld氏が展開するメタバースプロジェクト「NiLLAND」を再現し、そこでライブを開催するという没入型コンテンツを実施しました。

館内では音楽を楽しめるだけでなく、VJパフォーマンスやホログラムアートの展示、限定フードの提供などを行い、リアルとデジタルを行き来しながらアーティストとファンが新たな形で交差する体験を目指しました。

そして2つ目は、「デジタル上での資産価値だけを重視しすぎない」ということです。昨今、Web3の潮流の中で「RWA(Real World Asset:現実資産)」(※)が注目されていますが、その背景として、やはり私たちにとってデジタル資産の価値よりも、目に見えるリアルな物の価値の方が信用しやすいんですよね。

※RWAとは、流動性が低い不動産や車、アートなど、身の回りの物理的な価値をもつものを指す

よって、デジタル資産自体の価値は「実際に人々がリアルで享受する利便性や体験そのものに紐づく」という前提を理解した上で、リアルとデジタルの狭間を行き来しながら、いかに新たな価値を生み出していけるかを考えることが重要です。

身近にあるフィジタルの良い事例としては、「医療データ」へのブロックチェーン活用が挙げられると思います。例えば、幼少期、学生時代、就職後などで、それぞれ通う病院が異なる場合、診療の履歴がすべて分断されるので利便性に大きく欠けていると思っていて。

そこで、患者データにブロックチェーンやDIDsなどの技術を活用することで互換性が付与され、個人がデジタル上で医療データを管理し、活用できるといった可能性があります。その活用を促すためには、保険証や診察券などすでに皆さんが使っているものに技術を活用し、リアルとデジタルを日常生活の中で行き来できる体験が必要だと考えています。

「Why Web3?」を考え抜いて、デジタルとRWAを紐づけることが重要

先ほどの2点を踏まえて、企業がフィジタルなサービスを展開する上で留意すべきなのは、デジタル技術とRWAをどう絡めていくのかをしっかり考えることです。

たまに「予算があるので、NFTを使ってコミュニティを作りたい」という要望をいただくことがありますが、単に「Web3だからやりたい」という気持ちだけで事業を立ち上げるのはかなり難しいと思っています。

NFTはデジタル資産として半永久的にユーザーのウォレットに残るため、コミュニティやユーティリティの設計を十分に行わず単にNFTを販売するだけでは、事業者側のイメージがむしろマイナスになってしまう恐れがあります。

そこでまずは、ブロックチェーンを活用したサービスを利用する人は未だに少ないという前提を理解した上で、どのように自社の事業に紐づけ、その持続可能性を担保できるのかをプランニングする必要があります。

これらの背景を踏まえ、私は「Why Web3?」を問い続ける重要性を実感しています。そして、お客様と一緒に「なぜWeb3をやる必要があるのか?」を考えていく中で、結果的にフィジタルを選択いただくケースも増えていますが、やはりフィジタルに関しても既存事業との相性があると思っています。

例えば、自治体のようにリアルな商環境をもたない場合は、フィジタルが有効である可能性があります。直近では、神戸市さんが推進するNFTを活用したファンコミュニティ創出プロジェクト「BE KOBE NFT」に、POKKEを採用いただきました。

▼神戸市にゆかりのある3名のクリエイターによって制作された3種類のPOKKE

ご相談いただいた際、同プロジェクトは2つの課題を抱えていました。1つは、コンセプトとして「Z世代のコミュニティを作る」と掲げていたにも関わらず、NFTの購入者の多くがZ世代ではなくWeb3ネイティブの方が多くなってしまったことです。

もう1つは、データの追跡ができなかったために「神戸市への訪問」率を計測できず、もし仮に来訪していても「おもてなし」ができていないといった課題を抱えていました。

そこで第2弾からPOKKEを導入いただき、日本円での販売やユーティリティの付与などを通して、本来のターゲットであるZ世代にリーチできるように整備していきました。

なお、Z世代をターゲットにしたコミュニティは一見オンラインだけで完結しそうですが、やはり神戸市内の事業者はリアルでビジネスを営む方々がほとんどなので、NFTを購入した先の体験をどう構築するかを考えた時にフィジタルが紐づいてくると思っています。

実際、「NFTを受け取ること」に軸を置いているサービスでは、その先の認証やデータ活用がしづらいことがよくあります。その一方で、POKKEは、最初にカードを購入したりアプリをインストールするなど、ユーザーにとって入り口のハードルが少し高いと思いますが、それはNFTを受け取った後の経済活動に結びつけやすい体験設計を心がけているからなんです。

「国が指定するウォレット」に採択されることを目指して

今後、POKKEの事業展開で見据えているゴールは、「国が指定するウォレット」に選ばれることです。

2020年に政府がWeb3を国策に取り入れることを明言しましたが、なかなか推進できていない側面もあると感じています。その要因の1つとして、ウォレットに関して言えば、一体誰が資産を保有していて、その取引は誰から誰に行ったものなのかというユーザーの情報が明確にされておらず、管理できていないことが挙げられると考えています。

そうした背景から、国が指定するウォレットの決め手の1つが、KYC(※)になると予測していて、現在POKKEではKYCが可能なウォレットの開発を進めています。これが実現できれば、ユーザー情報が可視化されつつも、セキュアな状態で取引が行えるような体験を創出できると思っています。

※KYC(Know Your Customer)とは、銀行口座などを開設する際に必要となる「本人確認手続き」のこと

また、KYCの技術に加えて、Web3のマスアダプションを目指す新たな手段として「パラレルウォレット」の可能性も感じています。これは、現物自体がウォレットになるというもので、例えば現物の財布にチップを埋め込むなどしてデジタルとリアルの両方の資産を管理できるサービスです。

この仕組みのメリットは、異なる決済を紐づけられることで、例えばテーマパークの年間パスや音楽ライブのチケットなど今までは財布とは別に管理する必要があったものを、すべてひとまとめにして管理できるようになると思っています。

最近の事例では、今年の10月にBEAMS JAPANと連携して、日本の古刹・善光寺とのコラボレーションを実現し、畳縁で作られたデザインのハードウェアウォレットにNFTを保有する機能を搭載して販売しました。こうした取り組みを通じて、一般の方が安心して、かつ簡単にNFTを活用いただけるプロダクトを今後も提供していきたいですね。

改めて、ブロックチェーンが採用されたウォレットだからこそ提供できる「実用的で利便性に富んだ体験」があると思っているので、どういったユーザー体験を設計をすれば広く利用されるのか、そして、日常の中で必要とされるのかを考えながら、引き続き事業を展開していきたいです。(了)

取材・ライター:古田島 大介
企画・編集:吉井 萌里(SELECK編集部)

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