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素人集団が4,000人のコミュニティに。「2分で完売」のNFT「NEO TOKYO PUNKS 」の裏側
2022年3月の販売開始と同時に、世界的に大きな話題を呼んだNFTコレクション「NEO TOKYO PUNKS(以下、NTP)」。
サイバーパンクの世界観あふれるガジェットと横顔が印象的な「パンクス」たちをSNSなどのアイコンに設定している人も多いので、一度は見かけたことがある人も多いのではないだろうか。
▼NTPの「パンクス」たち
NTPが注目された背景の一つに、国産のジェネラティブNFT(※)のアートコレクションとしてほぼ初といえる成功を収めたことが挙げられる。
※イラストレーターが1枚1枚イラストを制作するのではなく、用意された複数のパーツをコンピュータが無作為的に選択・合成するNFTのこと
同作品は、2022年の3月26日にプレセール、および27日にパブリックセールを実施したが、パブリックセールはわずか2分で完売。NFTマーケットプレイス「OpenSea」でのランキングは販売初日で138位、最終的には27位にまで上昇するなどの功績を残した。
NTPでコミュニティマネージャーを務めるTOMOさんは、この成功の背景には「コミュニティの存在」があると話す。
具体的には、NTPの立ち上げ前から存在していたDiscordコミュニティ内にて、リリースまでの過程を公開することで「みんなでプロジェクトを盛り上げよう」という空気が醸成されていたという。そして、Twitterでの情報拡散などを通じて、その熱量が草の根的に広がっていったそうだ。
また、パブリックセール後に投資家から「NFTの価値を高めるために運営に動いてほしい」といったリクエストがあった際にも、コミュニティの存在が「日本のサイバーパンクカルチャーを世界に広げていく」という本来の目的をぶらさないための力になったのだという。
そこで今回は、NTPの創始者兼イラストレーターであるNIKO24さんとTOMOさんに、NTPの立ち上げから販売前後のマーケティング、コミュニティ運営の裏側までを詳しくお伺いした。
「世界に日本のサイバーパンクをみせる」NFTプロジェクトを開始
NIKO24 僕は元々、趣味程度にイラストを描いていて、2021年の9月から本格的にNFTクリエイターとして活動を始めました。これまで7個ほどのコレクションを発表しており、NTPは初めてのジェネラティブNFTの作品です。
TOMO 僕はコミュニティマネージャーとしてNTPに携わらせてもらっています。本業であるITコンサルの知識、スキルを生かして副業として関わっている形で、具体的には、Discordの設計やコミュニティの活性化、プロジェクト管理などを行っています。NIKOさんと同じく、web3の領域に踏み込んだのは昨年の9月頃です。
実は、NTPより前にNIKOさんが発表されていた「THE WOLF」のNFTアートを購入していたので、元はNIKOさんファンの1人でした。
▼NIKO24さん(左)、TOMOさん(右)
そこからNFTに惹かれて色々と調べていたら、Ninja DAO(※)でDiscordでコミュニティが運営されていることを知って。今でこそ、さまざまなNFTプロジェクトでDiscordが活用されていますが、その理由が気になって海外のNFTプロジェクトを調べたら、その形がスタンダードになりつつあることを知りました。
※Ninja DAOとは、「CryptoNinja NFT」の公式コミュニティで、日本最大級のDAO的コミュニティといわれている。誰でも無料で参加可能。
そこで国内でも、NFTのプロジェクトの盛り上げにはコミュニティの活性化が有効なのではないかという仮説のもと、NIKO24さんにTwitterで連絡をしたのが出会いでした。
NIKO24 当時はまだコミュニティを作っていなかったので、TOMOさんから「今後、Discordが重要になるから、立ち上げにサポートが必要だったら手伝います」と、突然連絡がきたんです(笑)。そこから、まずは「THE WOLF」のコミュニティの立ち上げをしていただきました。
その後、TwitterでNTPを企画していると発信していたら、とある学生さんから熱いメッセージが来て。「一緒に、日本を代表するNFTコレクションを作りたいです」という内容で、その熱い想いに惹かれて2021年の12月ごろに参加してもらったのがエンジニアメンバーの0xSumoさんです。
さらに、本業が放送作家でNTPではメインストーリーを設計してくれたSHOWGOさんと、デジタル知財に関する企業を経営するRyoさんがサイバーパンクのテクニカルな部分を監修する形で22年の2月ごろに参加してくれて、僕を含めた計5名で「世界に日本のサイバーパンクのクオリティをみせる」をミッションに掲げてプロジェクトがスタートしました。
2050年の東京が舞台。NFTホルダーと共に物語を拡張していく
NIKO24 NEO TOKYO PUNKSは、2050年の東京を舞台にした2,222体のジェネラティブNFTのアートコレクションです。NTPのDiscordサーバーは、NFTのホルダーさんに限らず一般公開しているので、現在は4,000名ほどの方が参加してくださっています。
企画し始めた頃は、日本ではまだジェネラティブNFTが流行っておらず、多くはアーティストが1枚ずつ手描きしたNFTアートを販売していました。
ただ、海外ではジェネラティブNFTのアートが盛り上がっているのを知って、日本からも世界に通用するNFT作品を生み出したいという気持ちがあって。
また、先に販売していた「THE WOLF」は手描きのものを70枚ほど販売していたので、やはりなかなかコミュニティが広がらない実感があったんです。そこでジェネラティブで作品を制作することに決めました。
TOMO NTPの大きな特徴は、NFTのホルダーさんと共に物語を拡張していく「ジェネラティブ・ストーリー」に取り組んでいる点です。
これは、「富裕層や権力者が支配する仮想空間『ブレインバース』から、失われた東京を取り戻す」という物語の大枠は決まっているものの、2,222体の中からランダムに選ばれたNFTが登場人物となって、コミュニティ内で物語の詳細を考えていくというものです。
ホルダーの皆さんにとっては、いつ、どんな物語に自分のパンクスが登場するかわからないので、購入時のレアリティに関わらず保有するNFTに付加価値がつくという特徴もあります。
▼ジェネラティブストーリーのリリース時にDiscord上で公開される情報
月に3〜5回ほどの頻度で、運営側が「日時」「場所」「イベント」「登場人物・職業・ギルド」のみ決定し、ストーリーの要素として発表したものを元にホルダーの皆さんが物語を制作していきます。シーンごとにDiscordのスレッドも立ち上げられ、活発に議論が交わされています。
なかには、小説ほどの文量で物語を考えてくださる方や、動画を編集してナレーションをつけてくださる方もいて、ホルダーの皆さんのクリエイティブ力には本当に驚かされます(笑)。
▼NTPのDiscord内で行われているディスカッションの様子
また、NTPには「ギルドシステム」と呼ばれる派閥のような制度があります。これはキャラクターが身につけているパーツなどでチームが分かれる仕組みです。12種類のギルドが存在していて、Discord内に設けられたギルド毎のチャンネルでも、ストーリーだけでなくコミュニティの今後の展開などについて活発に議論されています。
NIKO24 実は、最初の構想段階ではギルドシステムは考えていなくて。東京23区に分けてチームを作ろうという話は一度出ていたのですが、リリース時点では結局ストーリーの大枠しか決めていませんでした。
ただ、ホルダーさんたちと一緒にパンクスたちがどんな生活をしているのか想像を膨らませていく中で、複数人がどこかに集まりながら活動していくだろうなと思って。そこで、ローンチ後にギルドシステムを作って、身につけている服やマスクなどでチームを振り分けました。
▼ギルドのアジトマップ(参加者の方が独自に作成されたもの)
2分完売の裏には「熱量が貯まる場所」Discordコミュニティの存在が
TOMO パブリックセールでは、ありがたいことに約2分で完売しました。僕たちとしては売れ残ることを想定していたので(笑)、本当に嬉しかったですね。
このNTPが数分で完売した背景には、Discordコミュニティの存在があったと感じています。Discordは、拡散性の高いTwitterと違って「熱量を貯める役割」があると思っていて。
元々は「THE WOLF」のホルダーさんを囲む形でコミュニティを運営していましたが、NTPを企画している間にも、世界観をどう設計しようか、NFTをどう販売するかといった議論の内容をすべて公開していました。
すると、コミュニティの方々がその制作過程を楽しんでくれて、一緒に盛り上げようという気運が高まったんです。そこからTwitterでの拡散に協力してくださる方も増えて、熱が草の根的に広がっていきました。
NIKO24 実は、最初は海外向けにプロモーションを行っていたのですが、結果として国内向けに力を入れる形になったという経緯があります。
当時、海外のNFTコレクションは、フォロワーを増やすためにコレクション同士でコラボレーションしてコラボギブアウェイ(※)を実施するという動きが多かったんです。そこで、海外のコレクションにいくつか連絡してみたのですが、返事が一つも無くて…(笑)。
※無料でNFTをプレゼントする企画のこと
やはり、海外では有名なコレクションやクリエイターでないと信用してもらえないんですよね。なので、国内のNFTクリエイター仲間や「THE WOLF」のホルダーさんなどに向けて発信するようにシフトしていきました。
結果として、NTPの購入者の割合は元々僕のことを知ってくれていた方が5割、NTPを通じて知ってくださった方やweb3関連企業の方が5割くらいの感覚です。
TOMO NTPはマーケティング的にインフルエンサーの方を起用していないのですが、正直、その方がよかったなと思っています。
Twitterの拡散力が強い方に協力していただければ認知は広がると思うのですが、そうするとホルダーさんたちが楽しむ余地がなくなってしまうんですよね。僕もそんなにフォロワーさんがいないので、「一緒に頑張ろう」と思ってもらえて、上手くPRに繋がったのではないかと思います。
NIKO24 有名な方だと、俳優の水嶋ヒロさんが販売前に応援のツイートをしてくださったりしていましたが、TOMOさんがいう通り本当に「素人集団」で草の根的に広がったという感覚の方が強いですね(笑)。
TOMO リリース後の方が、有名な方やスタートアップ企業のCEOの方々に購入いただいている気がします。NFTは「保有欲」が満たされるものだとも思うのですが、良いタイミングで購入してくださるのでNFTの価値が上がり、既存のホルダーさんたちの気持ちも満たされているのではないかなと。
伝え続けた「プロジェクトの本質」。NFT投資家との戦いも
TOMO 正直、NFTの販売前のコミュニティ運営は難しくなかったのですが、販売直後の運営が本当に大変で…(笑)。
なぜかというと、販売前は「THE WOLF」のホルダーさんが所属してくださっていたので、本当にアートが好きな人だけが集まっていたんです。ただ販売直後は、アートが好きな人とNFTを投機対象とする投資家の方々が入り混じったことによって、コミュニティ内で意見が分かれることもあって。
例えば、投資家の方々から「近いうちにNFTを転売してコミュニティを抜けたいので、フロアプライス(※)を上げるために運営で動いてほしい」という声や「もっと海外に対してマーケティングを行って、作品の価値を上げてほしい」といったリクエストがきたんです。
※「最低落札価格」のこと。それを下回る入札額ではオークションに参加できない仕組みになっている
そういった声に対して、僕たち運営メンバーは「短期で売上をあげることはNTPの目的ではありません。NTPをもって日本のサイバーパンクカルチャーを世界に広げていくことが目的です」と、本来の目的をやわらかく、ぶらさず伝えていく必要がありました。
NIKO24 正直、このような状況に飲み込まれたのは僕たちも初めてだったので、最初は結構揺さぶられましたね(笑)。
ただ、それでもブレずにこれたのはコミュニティのみなさんのおかげで、「それって、NTPらしくないよね」という声が多く上がったんです。その声にすごく救われて、やはりコミュニティって大事だなと感じた瞬間でした。
TOMO コミュニティが大事だと話すと運営についてよく質問されるのですが、正直、具体的なコツはないと思っていて。
コミュニティの立ち上げ時にNIKO24さんと議論を重ねる中で気づいたのが、NIKO24さんは純粋に絵を描くことが好きだということで、「作品を売るためのマーケティング」にはあまり興味がなかったんですよね。
なので、そのNIKO24さんのお人柄をコミュニティのカルチャーに反映させることの方が重要だなと思い、いくつか海外のDiscordサーバーに参加して運営方法を学びましたが、ほとんど参考にしていません。
ただ、強いて運営のコツを挙げるとすれば、最初に掲げたミッションやビジョンを泥臭く伝え続けることや、運営メンバーの活動をすべて開示すること、そして熱量が高めのホルダーさんをモデレーターにアサインして、コミュニティに新しく参加された方が発言しやすくなる環境を整えることです。
▼モデレーターの方が新規参加者に対し、所属ギルドを案内している様子
とはいえ、やはりNTPのコミュニティの熱狂の根源は、NIKO24さんの求心力のおかげだなと思いますね(笑)。
NIKO24 そうであればとても嬉しいですが…どうなんですかね(笑)。僕が振り返って思い出したのは、NTPのリリース前は「本当に売れるかな…」という不安がコミュニティ内にあったなと。ただ、完売した瞬間に「これは世界にいけるぞ!」と、一気に団結力が生まれた気がしていて。
国内初の完売したジェネラティブNFTとしてポジションを確立した今、このまま終わらせるわけにはいかないぞ、と。そのモチベーションが今にも繋がっているのではないかと思います。
TOMO コミュニティマネージャーとしての僕の役割は、その熱量を保つために「みんなで盛り上げる」カルチャーをつくることだと感じています。
web3の魅力は、みんなが主役になれることだと思うんです。ジェネラティブ・ストーリーにしている理由もそこにあって、すべて決め切らずに「余白」を残しておくことで、コミュニティの皆さんが能動的に動ける環境をつくることがカルチャーをつくるためのポイントかなと思いますね。
素人集団が4,000人のコミュニティに。草野球でメジャーリーグを目指す
▼NTPが目指すロードマップ
NIKO24 今後は、国内で一番有名なNFTアートコレクションとして世界に発信していくためにも、アートという形にこだわらずに様々な可能性をコミュニティの皆さんと自由に発想しながら模索したいなと思っています。
例えば、アニメやメタバース、ゲームなど他のコンテンツとコラボレーションし、NTPが広がった暁には新たな経済圏が生まれたら面白いなと考えています。
実際に、コインチェック社が製作を行うメタバース都市「Oasis TOKYO」「Oasis KYOTO」とコラボレーションすることが決まっているので、多種多様な企業さんを巻き込みながら様々な交流が生まれたら良いなと。
また7月には、銀座にあるNFT会員権制のバー「CryptoBar P2P」とコラボするなど、フィジカルな世界との接続も企画しています。今後も面白そうなことにはどんどん挑戦し、デジタルとフィジカルの両輪を回しながらNTPの価値を高めていきたいです。
TOMO 立ち上げから「素人集団」でやってきて、NTPリリース前は約400人規模だったコミュニティが、今では10倍の4,000人ほどの規模まで拡大し、ようやく日本屈指といわれるようになりました。
僕の中では、「草野球でメジャーリーグを目指す」というのを一つキーワードとしていて、それが実現できるのではないかという目前まで来たように感じます。
なので、このコミュニティの方々と一緒に世界を目指しながら「熱狂」を高めつつ、今現在、世界屈指といわれているNFTプロジェクトを追い抜ける規模にまでコミュニティを拡大していきたいですね。(了)