• 株式会社UPBOND
  • 代表取締役社長
  • 水岡 駿

Web3事業に必須の「ウォレット」をどう選ぶ? 新たに参入する企業が検討すべきポイントとは

暗号資産やNFTといった、ブロックチェーン上のデジタルアセットを管理できる「ウォレット」。

企業がWeb3事業を立ち上げる際は、「どのブロックチェーンを利用するか」と同様に、ウォレットの選定もビジネスの方向性や成長を決定づける重要な要素となる。

しかし、ウォレットの選定にあたっては汎用性、互換性、セキュリティ、ユーザビリティ…など様々な観点が存在し、その選定基準や活用方法に悩む企業も少なくない。

そうした中、2019年11月にウォレットサービス「UPBOND Wallet」を立ち上げ、企業向けの新規事業ローンチ支援などを手がけているのが、株式会社UPBONDだ。

同社は、CAセガジョイポリスや電通デジタル、三菱UFJ銀行などの大手企業とWeb3領域での事業連携を行い、ブロックチェーン技術の社会実装を目指している。

そこで今回は、同社の代表取締役社長を務める水岡 駿さんに、Web3事業の鍵を握るウォレット選定の勘所や、Web3領域に参入する上での重要なポイントについて詳しく伺った。

個人が主体的にデータを管理できる世界を目指し、UPBONDを設立

僕は、「失われた20年」と言われていた日本の将来性に不安を抱いて、「人生かけて何かやるのであれば社会にインパクトを残したい」と思い、18歳の時に身一つで渡米しました。

そして、20歳で中国上海へ移住してデジタル広告やソーシャル系の企業を立ち上げた後、2017年にカスタマイズ腕時計メーカー「UNDONE」の日本支社を共同創業する形で帰国。その後、2019年に設立したのがUPBONDでした。

当時は、ちょうど欧州で「GDPR(EU一般データ保護規則)」が施行された後で、世界的にも個人データの利用に関する取り扱いが問題になっていました。そうした中、中国ではすでに「ソーシャルCRM」という概念が普及しつつあったんです。

これは、個人がデータを自ら管理し、データの公開範囲を選択できる世界観で、この世界観を日本でも実現したいと思い、UPBONDを立ち上げたという背景があります。

UPBONDは消費者を尊重し、企業と顧客の関係性をアップデートすることをミッションに掲げています。よって、元々はWeb3のブームは関係なく、両者のユーザビリティを良くしたいという思いがありました。

そこで、設立当初に展開していたのが、「アイデンティティ」というIDaaS領域のサービスです。これは、個人がIDを持ち、そのIDを通じて様々なインターネットサービスにアクセスできるログイン基盤を企業に提供するビジネスモデルでした。

しかし、この事業には大きな課題がありました。というのも、企業が有する顧客基盤の要となる部分をすべて弊社のサービスにリプレイスするのはかなりハードルが高く、企業側の反応も今ひとつだったんです。

そうした中、転機になった出来事が2021年頃のNFTブームの到来でした。ブームに伴ってWeb3領域で事業を立ち上げる企業が増えたので、僕たちも新たに「Web3トランスフォメーション事業」を立ち上げました。

そのタイミングで、企業の「ログイン基盤をアップデートする」のではなく、まずWeb2からWeb3へのトランスフォメーションを支援し、その先に企業のログイン基盤をWeb3型にアップデートしていく方針へと転換しました。

この方針で1年ほど注力し、最近は一定の評価をいただけるようになったと実感しています。そうした方々に今提供し始めているのが、「UPBOND Wallet」です。

ウォレット乱立時代。Web3ウォレットが抱えるいくつもの課題

「UPBOND Wallet」についてお話しする前に、前提となるWeb3の基本的な考え方をお伝えできればと思います。

まず、Web3の本質は、個人が国家や企業といった中央集権的な組織に依存しない形で個人情報を管理できる点にあります。つまり、個人が「データ管理の主体者」になれるということです。

そして、その実現に欠かせない存在が「ウォレット」です。

ウォレットとは、ブロックチェーン上で発行される暗号資産やNFTなどのデジタル資産を管理する「お財布」のようなもので、NFTマーケットプレイス「OpenSea」をはじめとするDApps(分散型アプリケーション)のログイン時に必要とされ、インフラ的な役割を担っています。

このウォレットには、「カストディアル」と「ノンカストディアル」の2種類が存在していて、前者は暗号資産取引所などの第三者が管理するウォレット、後者は個人が自ら秘密鍵を管理するウォレットを指します。

現在、世界で最もユーザー数が多いウォレットは、ノンカストディアルの「MetaMask(メタマスク)」です。MetaMaskを利用するメリットとしては、利用者数が多いため有名なDAppsのほとんどが対応している点や、ユーザーが利用用途に合わせて複数ウォレットを作成できるといった点が挙げられます。

しかし、このようなノンカストディアルウォレットには、いくつかの課題があります。

まず、秘密鍵を自己管理しなければならないので、秘密鍵やリカバリーフレーズ(シードフレーズ)を忘れてしまうと二度とウォレットにアクセスできなくなり、大切なデジタル資産を失う可能性があります。こうした背景から、積極的に個人で管理したいと考えるユーザーさんはまだまだ少ないと思いますね。

また、悪意を持って作成されたアプリケーションにウォレットを接続すると、資産を抜き取られる詐欺被害に遭う可能性もあり、初心者にとっては取り扱いが難しいウォレットとも言えるでしょう。

さらに、作成時の手順が複雑だったり、Web3に関する一定の知識がないと分かりづらい機能もあったりするので、一般ユーザーや企業にとって利用までのハードルが高いウォレットが多いのが現状です。

こうした課題があるにもかかわらず、国内外問わず多くの事業者がウォレットを開発し、個人が10個、20個もウォレットを持つということは、利便性の観点から考えると理想的とは言えません。

「今まで通り」をWeb3で実現する、UPBOND Walletとは

これらの課題に対応すべく、僕たちが開発を進めているのが「UPBOND Wallet」です。

UPOND Walletは、企業およびユーザーの双方の観点から「今まで通り」をWeb3で実現することを目標として、誰でも簡単にWeb3へアクセスできるウォレットを目指して開発しています。

まずユーザー観点で言うと、UPBOND Walletはノンカストディアルウォレットでありながら、LINEやGoogleアカウントでのソーシャルログインが可能で、初心者でも使いやすいUXになっています。

一方、企業観点ではUPBOND Walletをログイン基盤として導入すると、ウォレットを持っていないユーザーに対してもスムーズにウォレットを作成し、ログインしてもらうことが可能です。その後は「ログインボタン」のような形でアプリケーションにウォレットの接続口を設けることもできます。そのため、企業にとっては「従来の顧客基盤を変えずにWeb3ビジネスへ挑戦できる」というメリットがあります。

しかし、こうした双方の「使いやすさ」の追求だけでウォレットの課題が解決するかというと、そうではありません。

先ほど、Web3では個人が情報を管理できるようになるとお伝えしましたが、ベースとして「匿名」の世界でもあるので、国や企業からすると個人情報を取得することが難しくなります。

通常は、企業がサービスやプロダクトを使うユーザーの情報を取得し、LTV向上の施策やデジタルマーケティングなどの販促活動に生かしていると思いますが、それらの活動を行えなくなるんですね。

そこで重要となる考え方が、ユーザーに事前に許可を求める「オプトイン」です。

UPBOND Walletでは、それらを加味して、通常のWeb3ウォレットのように匿名でありながら、個人が必要最低限の情報のみを自らの意思を持って企業に提供でき、一方で、企業もほしい情報を入手できるというコンセプトにしました。これによって、両者の間で健全な関係性を保ちながら、これまでのデジタルマーケティングやCRMを実現できるようになっています。

個人が情報を開示する「インセンティブ設計」が事業の成否を分ける

オプトインを設けることを前提とした場合に、企業が忘れてはならないのが、個人が企業へ情報開示する際の「インセンティブ設計」です。

個人が所有するデータにはどんな権利があって、誰がどのようなインセンティブを享受できるかまでを考えることが、企業がWeb3に参入するにあたって非常に重要なポイントとなります。

僕たち自身、様々な企業や業界においてWeb3の本質的な活用を支援してきた中で、具体的なユースケースをいくつか創出することができたので、一例としてご紹介できればと思います。

1つ目は、ユーザーのボディデータをオンラインで活用することで、個人と企業の双方でメリットを創出する「The Body Camp」です。

ユーザーは、個人が保有するボディデータから一部を企業に開示することで、ECサイトで自分にピッタリとサイズが合う服を購入できたり、より精密なボディデータがあれば、乳がんなどの病気の早期発見に役立てたりできるようになります。

また、企業はそのデータを元に、商品の開発や販売促進に繋げたり、新たなサービスを設計したりすることができます。

2つ目は、建設現場に従事する労働者の情報をデジタル化し、アプリ上での出退勤や日報記入などに応じてトークン(ポイント)を得られる仕組みを取り入れた事例です。

元々、建設業界は労働者の高齢化と人材不足が課題とされており、政府主導で若い労働者が適切なキャリアアップを目指せるシステムの構築を目指していました。しかし、データを入力するインセンティブ設計が不十分であったことから、普及が進んでいないそうです。

そこで、労働者のデータ入力に対するインセンティブとして、UPBOND Walletを通じてトークンが支払われる設計を行い、建設業界のデジタル化を推進しています。さらに、職人の保有する資格や経験、技術などの情報も紐付け、色々な建築会社がこれを利用できる仕組みを作ることで、「キャリアウォレット」としての展開も見据えています。

また最近では、電通デジタル社の2023年度入社式にて「NFT社員証明書」を配布しました。これは、「個人の評価や成果を、絶対に消えないデータベースであるブロックチェーン上に刻んでいくと面白いのではないか」という発想から生まれた企画でしたね。

ウォレット選定における軸は、「Web3を通じて何をやりたいか」

これまで創出した複数の事例を振り返ると、個人から企業までシームレスに繋がる可能性があることがWeb3の面白い点だと思います。そして、それらが繋がった先に、新たなコミュニティやトークノミクスを作れることがWeb3の本質だと思いますね。

最後に、企業がWeb3事業の立ち上げを検討し、ウォレットの選定を行う際に大切なのは「Web3で何を実現したいか」に尽きると思っています。

例えば、Web3ネイティブ層にリーチしたいのか、既存のWeb2ユーザーに対してサービスを提供したいかで選ぶべきウォレットの特性は変わりますし、秘密鍵を個人ではなく企業が管理する場合は、暗号資産交換業の登録が必要になってきます。

そうした点を踏まえつつ、最終的にはセキュリティ面や利便性、UI/UXの面で何を選ぶかを決める流れが適切だと感じています。

近い将来、Web3が発展してウォレットが普及した頃には、個人が用途別に数個のウォレットを持つという状況がスタンダードになると思います。その際には、個人はもちろん、企業のエンゲージメントを高めるという文脈で、僕たちのUPBOND Walletを選定いただけるように尽力していきたいですね。

今後も、UPBOND Walletの展開を通じて、Web2とWeb3の良さや強みを併せ持った仕組みを構築し、企業のWeb3領域への取り組みを促進させ、日本企業の競争力向上に貢献していきたいです。(了)

取材・ライター:古田島 大介
企画・編集:吉井 萌里(SELECK編集部)

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