- 株式会社奇兵隊
- 代表取締役 CEO
- 阿部 遼介
社会貢献×Web3を組み合わせたクラファン「OpenTown」で国際支援を目指す奇兵隊
「NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)」を販売し、その販売益を社会貢献活動の予算に充てる資金調達の方法が広がっている。
その多くはプロジェクトを象徴するようなアートや会員権などをNFT化し、目指すビジョンや世界観に共感する人々がそれを購入する。そこからさらに、NFTホルダーによってコミュニティを形成しプロジェクトを進めるという形だ。
しかしこの仕組みが、インターネットを通じて不特定多数の人から寄付金を募る従来の「クラウドファンディング」と似ていると感じる人も多いのではないだろうか。新たな技術を活用することで、一体どのような違いが生まれるのだろう。
「公共性の高い課題に、革新性の高い技術で挑む」をミッションに掲げ、Webサービスを駆使して様々な国際開発支援事業を展開する株式会社奇兵隊。
同社は2011年より、新興国の個人向けクラウドファンディング事業「Airfunding」を展開している。それと並行する形で、2021年からスタートさせたのが、DAO(※)的に国際協力支援を行う社会貢献 × Web3型のクラウドファンディングサービス「Open Town」だ。
※DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)とは、同じ志をもつ人々が地理的に分散しながら、個人が自律的に活動することにより、特定の所有者(株主)や管理者(経営者)が存在せずとも、事業やプロジェクトを推進できる組織形態を指す
その背景には、従来のクラウドファンディングサービス「Airfunding」におけるいくつかの課題があった。例えば、海外送金に時間と手数料のコストがかかることや、宗教観や善意によって寄付額が左右されてしまい、知人以外からの寄付金を募ることが難しかったことなどが挙げられるという。
奇兵隊の代表取締役を務める阿部 遼介さんは「NFTを活用しDAO的にプロジェクトを進めることで、これまで寄付するだけだった人々をプロジェクトに巻き込みながら経済的リターンをも返せる可能性があり、従来の中央集権的な国際支援のオルタナティブ形を実現できる」と語る。
今回は阿部さんに、Open Townの全容からNFT活用による従来のサービスとの比較まで詳しくお話を伺った。
クラウドファンディングにおける課題解決の糸口が見えたWeb3の波
私は、2007年から3年ほど大手コンサルティングファームで新規事業の立ち上げや業務改革などを行ったのち、2011年に奇兵隊を創業しました。
弊社は、Webサービスを活用した国際開発支援事業を複数展開しています。メンバーは東南アジアやラテンアメリカ、東欧などの3つのエリアを中心に、世界11カ国にまたがる非常にグローバルな会社です。
これまでのメインの事業は、新興国の個人や団体に対して支援を行う寄付型のクラウドファンディングサービス「Airfunding」です。5分ほどあれば立ち上げできるような簡単な仕組みになっていて、これまで約40万件以上のプロジェクトが作られています。
その多くは、個人の病気の治療費や留学費用、動物保護に必要な資金を集める目的のもので、友人や知人、職場の同僚などが「お見舞い金」を渡すような感覚です。1プロジェクトあたりの寄付金の平均は200〜300ドルほどですね。
▼Airfundingで公開されているプロジェクトの一部
プロジェクトが立ち上げられると、SNSや個人チャットなどを通して広まっていくため「知り合いからお金を集める」という点ではうまくワークしていました。ただ、そこからより波及して国外からの支援を集めるところまでなかなか辿り着かなくて。
というのも、クラウドファンディングは宗教観に左右され国によって集まる金額が大きく異なるという課題があります。例えば、キリスト教圏のブラジルやフィリピンなどは資金が集まる傾向にありますが、日本を含めた東アジアは寄付をする人が相対的に少ないことがわかっています。
また、Airfundingで発生する海外送金の手数料が高く、個人単位での送金が難しいという課題もありました。そこで4、5年ほど前から目をつけていたのが、ブロックチェーン技術や暗号資産です。
ブロックチェーン技術を活用すれば銀行を介さずに海外送金を行えるため、手数料のコストを大幅に下げることができ、加えて送金にかかっていた時間も短縮することができます。
さらに、NFTを販売すれば二次流通のマーケットで売却益を得られる可能性もありますし、プロジェクトに参加できるような体制を構築することで寄付側もリターンを得られる仕組みを実現できれば、より多くの人に寄付に参加してもらえるのではないかと考えていました。
そんな中、2021年頃から日本国内においてもNFTやWeb3といったワードが話題になってきて。この波に乗って新しい支援の形を模索できないかと、2021年11月にスタートさせたプロジェクトが「Open Town」です。
NFTを活用した新たな国際支援「Open Town」とは
「Open Town」とは、「社会貢献」と「Web3」の技術を組み合わせて、世界各地で自律したまちづくりを実現するためのクラウドファンディングサービスです。具体的には、ジェネラティブのNFTアートを販売し、その売上を元にホルダーさんとグローバル各地の現地住民の方々が一緒になってまちづくりを行います。
つまり、いわゆるDAO的に国際支援を行うもので、コミュニティ内に意思決定権を分散させながら、プロジェクトをグローバルに展開していくことを目指しています。
NFTはガバナンストークンとしても機能し、ホルダーさんにはコミュニティ内での議論やプロジェクトの方向性を決める投票に参加してもらいます。また、今後まちづくりが進めば、現地のゲストハウスに滞在したり、現地の人しか知らない隠れスポットに遊びに行けるなど様々なユーティリティを付与していくことも検討しています。
プロジェクトの第一弾は「Savanna Kidz NFTプロジェクト」と題し、2022年2月よりウガンダのカルング村で開始しました。この地域は電気がほとんど通っておらず、水のアクセスも悪くて毎日子供たちが片道6kmほどかけて水を汲みに行っているような環境で、生活に必要なインフラが不足しています。
▼ウガンダのカルング村の様子
カルング村を選んだ理由として、私たちが現地のNGOとすでに関係性があったことが一つ挙げられますが、加えてアフリカは他の地域に比べて規制が極めて少なく、NFTを活用するにあたって自由にチャレンジできる土壌があったこともあります。
例えば、決められたエリア内であれば、病院や小学校さらには銀行まで作っても良いとされているほどで、これを先進国で行う場合は免許などを取得する必要があります。
プロジェクトの推進は、運営主体である私たちとウガンダ現地のNGO、そしてNFTホルダーの方々で形成されたコミュニティの3レイヤーで行われ、実際に現地で活動を行う際にはNGO団体のサポートを受けながら住民主導で進める形になります。
▼「Open Town」の仕組み
今回販売したNFTは、100個ほどのジェネラティブNFTのアート作品です。2022年の2月に最初のプレセールを行い、107個を購入していただき200万円ほどの売上になりました。この売上の半分がカルング村のNGOに寄付され、活動資金として利用されました。
▼「Savanna Kidz NFTプロジェクト」で販売されたNFTアート
販売にあたっては、JICA(国際協力機構)でメルマガを出させてもらったり、説明会を実施させていただくなどして草の根的にプロモーションを行いました。なので、購入してくださった方の特徴でいうと元々海外支援に関心を寄せていた方が多く、NFTの購入は初めてという人がほとんどでしたね。国籍でいうと日本人が全体の7~8割で、国際協力関係者が多数です。
投票から工事完了まで3ヶ月。DAOだからこそ実現できたスピード感
また、プロジェクトについての議論や進捗報告などを行うためにDiscordコミュニティを立ち上げていて、現在は1000名を超える規模まで拡大しました。NFTホルダーの方に限らず世界中の方々が参加してくださっていて、日々コミュニケーションが行われています。
▼Discordの様子
第一回目の投票は2022年2月に、「snapshot(スナップショット)」と呼ばれるツールを活用して行いました。
プロジェクト案は、現地のNGOメンバーと住民の方々で話し合って決めてもらい、一度弊社に内容を共有してもらった後、村の議会で承認されたものが選定されます。第一回目は「雨水貯水タンクの設置」「コミュニティ内バスの導入」「銀行システムの開発」の3つが案として挙がりました。
カルング村を知らない方もいらっしゃるので、投票前に住民の方々のインタビュー動画や写真などを共有しました。また、ホームページ的な役割としてNotionも活用し、現地の方との会議の議事録や計画決定プロセスなども公開しています。
結果、「雨水貯水タンクの設置」が選ばれて1ヶ月後の3月に工事が開始され、5月中旬には15基の雨水貯水タンクの建設が完了しました。投票からプロジェクト完了までかかった時間は約3ヶ月ですが、同じプロジェクトを例えばJICAが行う場合は最低でも2年はかかります。そう思うと、すごいスピード感ですよね。
▼ウガンダにて貯水タンクを納品した際の様子をまとめた動画
実際、国際支援って本当に難しいんですよ。基本的な国際支援の流れは、例えばウガンダ政府が日本政府に依頼し、さらに日本政府がJICAに依頼して支援が行われるという流れなので、どうしても実行までに時間がかかってしまうんです。
また、国の予算、要は税金を使っているので、予算委員会で事前に「何に使うのか」を明確にする必要があります。そのため、承認された金額の利用用途に柔軟性がないんですね。
過去に、パレスチナ難民キャンプの改善プロジェクトをJICAと一緒に行ったことがあって。現地に行ってみると、糖尿病の子供たちが多く存在していたのですが治療に必要な血糖センサーが全くなかったんです。値段は20万円ほどなのですが、国の予算が使えずすぐ購入できないという事態に陥ったことがありました。
結局、当時は弊社のクラウドファンディング事業を通じて資金集めを行ったのですが、こうした「ちょっとした」資金をすぐ集められるという点で民間で実施する意義がありますし、より多くの人を巻き込んでスピード感をもって実行できる点においてはWeb3の可能性を感じています。
私としては、オープンタウンプロジェクトは今ある中央集権的な国際協力に取って代わるものではなくて、オルタナティブになればいいと思っていて。
実際、億単位を集めないとできないプロジェクトも多く存在するので、そこの予算から漏れてしまった部分を補完したり、小中規模のプロジェクトの実行に活かせたらいいのではないかと思いますね。
DAO=Discordではない。事業のフェーズに合わせたツール選びを
ただし、投票を実施するにあたって一つ問題になったのが「情報共有の体制」です。
Web3.0に馴染みある方であればDiscordは使い慣れていると思うのですが、ホルダーさんの多くが馴染みのない方だったため、Twitterやメルマガでの情報発信を好まれる傾向にあったんです。
つまり、議論を活性化させるためのDiscordコミュニティではあったのですが国際協力系の方々の参加者数が少なく、「どのプロジェクトに投票したらいいんだろうね」という空気感も一部あったりして。
現状、DAOのコミュニケーションツールとしてはDiscordが最も利用されていると思うのですが、うちの場合は違うツールの方がいいのかもしれないと試行錯誤しているところです。代替案として、Facebookページなどの案も出ていますね。
また、プロジェクトのフェーズによって巻き込むべき人は変化していくため、その変化に伴って適切なツールを選定する必要があると思っていて。
現在はプロジェクトの立ち上げ期なので、まずは国際協力の知見や経験がある方、そして熱量の高い方に参加していただくのがベストではあります。その後は、これまで繋がりのなかった日本国外の国際協力機構の方々にも参加していただきたいですし、それこそNFTアーティストの方やエンジニアの方、広報PRやマーケターの方々にも集まっていただいて、最終的には自律的にチームが組まれてプロジェクトが実行されていく姿が理想的ですね。
これはコミュニケーションツールだけに限った話ではなくて、例えばNFTアートの購入方法も暗号資産に限定してしまっては不便なのではないかという話が出たこともあります。
最近はクレジットカードがあれば購入できるような設計も可能になので、Web3が黎明期といわれる昨今においては「Web3初心者の方が簡単に参加できる設計にする」ことが重要だと思いますね。
2024年までに100地域でのオープンタウンプロジェクトを目指す
2022年6月には第二回の投票が行われ、次はカルング村の小学校・孤児院施設を改善する工事の実施が決定しました。工事は2022年10月までに完了を予定しています。
今回は投票機能を持ったNFT18個を住民の方に無償で付与し、オンラインだけでなく現地で対面式の投票も実施しました。
▼投票の様子(右)、投票に集まった住民の方々(左)
参加した住民は現地のNGOによって性別、年齢、宗教に偏りが出ない形で選定され、14歳の生徒会長から57歳の宗教指導者までが参加しています。なかには村長さんもいらっしゃいますね。
地域主導という点を大事にしていることももちろんありますが、貯水タンクや小学校など村のインフラに関わるプロジェクトはある程度公平性を意識する必要があるため、村の中で影響力をもつ方に事前に話を通す意味で村長さんのような方に参加してもらっているという背景があります。
実際に、支援の結果、不公平感が生じてコミュニティが分裂してしまうケースは昔から国際協力の文脈では課題として挙げられることも多いので、現地の方をどんどん巻き込みながら議論ができると理想的ですね。
▼現地のNFTホルダーの方々のプロフィールも公開されている(Notion)
今後は、Web3領域での社会貢献活動の幅を広げていきたいと思っています。ウガンダのような途上国支援を継続していくことはもちろん、ウクライナの復興支援やパレスチナ自治区の難民キャンプ改善、さらには過疎化した村の村おこしや離島などの観光開発も行っていきたいです。
直近の目標は、2024年までに100地域でOpen Townを実行することです。さらに今後10年から20年かけて数百万、数千万人を貧困から解放することを目指したいですね。
今年中には、自律的な動きを加速できるように独自のスマートコントラクトを実装する予定もあります。なので、巻き込むべき人を巻き込みながらコミュニティを拡大し、世界中で同時多発的にプロジェクトを進めていきたいです。(了)