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【Web3対談#07】NFTのデータ、どう活用する?SBINFTとガイエが仕掛ける、最先端の広告手法
デジタル広告の成果を最大化させるには、広告運用におけるデータを分析し、ユーザーに対して適切かつ効果的なアプローチを行うことが重要です。
しかし近年では、Cookieの使用が制限されるデジタル環境やデータ保護の観点なども考慮した上で、マーケティング戦略を立案する必要があります。加えて、デジタル広告が多様化した今、「集客の頭打ち」や「施策のマンネリ化」に直面する企業も多いでしょう。
このような問題に対する解決策の一つとして注目されているのが、映像作品内に広告や商品の情報を入れ込み、認知度やブランドバリューの向上を図る「デジタル・プレイスメント広告」です。
海外ではすでに、米Amazonが米国を中心として試験的にこの手法を取り入れたことで、新たなブランディング手法としての認知が広がっています。
同様に日本でも、ABEMAやフジテレビなどの大手メディアが、デジタル・プレイスメント広告のテスト運用を進めています。しかし、それらの広告は一過性のキャンペーンとして実施されるケースが多いため、企業は広告を見たユーザーと継続的に接点を持つことが非常に重要です。
そこで、近年IT業界を賑わせているNFT(非代替性トークン)を活用し、「Web3時代の広告商品」を共同開発したのが、デジタルを中心とした広告事業を営む株式会社ガイエと、NFTを中心としたWeb3事業を推進するSBINFT株式会社です。
両社は、「NFTを活用することでユーザーの熱量を可視化し、これまで以上に密なコミュニケーションを取れる一方で、広告業界において長年の課題であった『生活者に煩わしいと思われない広告』を実現できる」と語ります。
そこで今回は、ガイエ社のソリューション営業部にてゼネラルマネージャーを務める里見 明彦さんと、SBINFT社 営業部 一課リーダーの福地 由美子さんに、両社が取り組む最先端の広告手法や今後の可能性について詳しくお話を伺いました。
映像内に商品や広告を後付けできる「デジタル・プレイスメント広告」
──本日はよろしくお願いいたします。まず、お二人の自己紹介をお願いします。
里見 私は現在、ガイエのソリューション営業部にて、ゼネラルマネージャーを務めています。弊社は、2023年8月に東宝グループに参画した会社で、映画作品のデジタルを中心とした広告宣伝やプロモーションを手がけています。
また、映画宣伝以外にも一般企業様の広告なども取り扱っており、その他にも、新規事業や動画などクリエイティブ制作支援なども行っています。
福地 SBINFTは、2021年9月にSBIグループに参画した会社です。
事業領域は主に3つで、ロイヤルカスタマーの可視化から獲得までをワンストップで実現するマーケティングプラットフォーム「SBINFT Mits(以下、Mits)」、NFTを活用した事業収益の拡大やマーケティングの課題解決を図る「NFTコンサルティングサービス」、そしてNFTマーケットプレイス「SBINFT Market」を展開しています。
私はこれら3つの事業を軸に、営業部 一課のリーダーを務めながら、事業者様の目的達成や課題解決に尽力しています。
──今回、共同開発されたサービスは、ガイエ社様が提供されている「デジタル・プレイスメント広告」にNFTを活用したものとお伺いしています。まず前提として、「デジタル・プレイスメント広告」について詳細を教えてください。
里見 「デジタル・プレスメント広告(Virtual In-Content ads)」とは、映像作品内に広告や商品の情報を入れ込み、認知度やブランドバリューの向上を図る広告手法です。海外ではすでに広く採用され、数多くの運用実績があります。
この手法を活用する最大のメリットは、ユーザーが広告に煩わされることなく映像コンテンツを視聴できる点にあります。一方で、広告主にとっては、自社の商品情報を自然な流れで露出でき、認知度やブランドイメージの向上が期待できます。
さらに、Web上のCookie規制やメディアが用意できる広告枠の限界といった業界の課題に対する解決策や、有料動画配信サービスや映像制作における新たなマネタイズ方法としても注目されていますね。
具体的な活用例として、海外では映画やドラマに加えて、音楽アーティストがミュージックビデオを制作する際にもこの手法が用いられています。
また、日本には未上陸ですが、米Amazonも「バーチャルプロダクトプレイスメント(VPP)」という商品を米国を中心に試験的に運用しています。VPPとはAmazonプライム・ビデオやFreeveeで展開している映像コンテンツに画像合成の技術を使い、自然な形で商品広告を忍び込ませられる技術です。同社は、この枠をプレイスメント広告として販売しています。
この広告事業は、Amazonの持つファーストパーティデータ(自社で収集したデータ)を使って、年齢や性別、過去の閲覧作品の傾向などを分析できるからこそ展開できるわけですね。
実際に、VPPの効果は実証されていて、とあるブランドのキャンペーンでは、ブランドの好感度が6.9%上昇し、購買意欲が14.7%上昇したとする調査結果もあるそうです。
そして、私たちガイエが企画する広告は、映像を撮影した際のカメラの動きや背景、露出時間などをAIが自動で解析し、検出された最適な場所に、後付けで広告画像を挿入できるという特徴を持ちます。
映画における活用だと、讀賣テレビ放送様ご協力のもと、2022年から何度かトライアル運用を実施していて、「さよなら、バンドアパート」「メイへムガールズ」「Single8」などの作品で、デジタル・プレイスメント広告を活用してきました。
例えば「Single8」では、視聴者の視線の動きや映像の背景に合わせて自然に目に入るように、建物の壁に広告画像を配置しています。
▼「Single8」における、プレイスメント前【左】、プレイスメント後【右】
※出典:平成ウルトラマンシリーズを手がけてきた小中和哉監督の自伝的青春映画「Single8」にて、AI技術を用いたデジタル・プレイスメント広告のトライアル運用第三弾を実施 – PR TIMES
他にも、交通広告(OOH)やポスター広告などの実績があるほか、テレQのSDGs特別番組である「山之内すずのイキなSDGs旅」の配信用映像でも、デジタル・プレイスメント広告を実施しました。
※出典:「山之内すずのイキなSDGs旅」番組にて、AI技術を用いたデジタル・プレイスメント広告(Virtual In-Content ads)を実施 – PR TIMES
作品を邪魔せず、「生活者に煩わしいと思われない」広告を実現
──海外ではすでに主流とのことですが、ガイエ社様が日本国内で「デジタル・プレイスメント広告」に取り組まれている理由についてお伺いさせてください。
里見 私たちは、約2年前からデジタル・プレイスメント広告の事業に取り組んでいますが、その背景には大きく2つの理由があります。
まず1つ目は、日本の広告業界に根強く残る古い慣習を変えていきたいという思いがあるからです。というのも、ドラマの中に商品を出すにはいくつかの条件を満たす必要があるなど、未だ業界内での制約が存在します。
また、広告業界の動向として、1997年頃までは日本製のツールでなんとかしようという雰囲気だったのですが、2000年に入るとGoogleが台頭し、リーマンショック後にはアドネットワークのほとんどが海外製に移行しました。
その結果、広告技術も含めて、日本は基本的に海外製のツールを活用してマーケティングに取り組んでいて、感覚としては4、5年ほど海外に遅れをとっているのが現状です。
このような背景の中で、自社のファーストパーティデータをいかに活用するかが見直されてきていて、そのいち手段としてデジタル・プレイスメント広告が有効ではないかと考えました。
そして2つ目は、ユーザーの広告に対する嫌悪感を払拭したいという思いからです。従来のデジタル広告は、収集されたデータを基にその人に最適化された広告を配信できるのがメリットである一方で、ユーザーに「見られている」「監視されている」と感じさせてしまう懸念があって。
この問題に対処するため、デジタル・プレイスメント広告に焦点を当て、実際に何度かテスト運用を行った上で、2022年に視聴者調査を実施しました。
すると、約5割がプレイスメント化された動画を「不快に感じない」と回答していて、具体的に「動画内に広告が含まれるので、動画を中断する広告が少なくなる」「商品・商材が自然に取り扱われていてストーリーを邪魔しない」といった声もあり、「生活者に煩わしいと思われない」広告としての実現可能性があると確信しましたね。
▼テレビCM、Web・インターネット広告など5つの広告についての印象調査結果
※出典:【調査レポート】動画コンテンツ本編内に付された広告を、視聴者の5割は「不快に感じない」。ガイエがプロダクトプレイスメント広告に関する視聴者調査を実施。 – PR TIMES
NFTにより、ユーザーのプライバシーを保護しながらアプローチが可能に
──今回、「デジタル・プレイスメント広告」におけるNFT活用に至った背景をお伺いさせてください。
里見 一般的に、デジタル広告の効果測定は、どれだけSNSやメディアでの露出が増加したかという観点で行われます。しかし、これでは一過性のキャンペーンとして広告が運用されがちで、「点」でのユーザー満足度は高くとも、その後まで満足度が続かないことが往々にして起こり得ます。
さらに、広告主側からしても、広告効果がブランディングの向上だけだとあまり魅力的ではなくて。結局、検索や実際の商品購入、リアルな場への集客といった具体的な効果を求めていて、そのためには長期的にユーザーと関係を築いていく必要があります。
これらに対する解決策を考えていた時にNFTが一案として上がり、SBINFTさんと話し合いを重ねながら、今年の1月に正式にサービスをローンチしました。
福地 今回のプロジェクトで共同開発した「NFTキャンペーン広告パッケージ」は、ガイエさんが企画する広告に併せてNFTを景品として配付し、その後、弊社が提供する「Mits」を通じて、広告主とユーザーの双方向コミュニケーションを実現する広告商品です。
「Mits」の主な機能には、NFTの発行はもちろん、「アンケート機能」「実物商品の配送機能」「キャンペーン開催機能」といったファンコミュニティーを活性化させる11種類の機能が含まれており、これらの活動を通じてNFTホルダーとの関係性を構築できるのが特徴です。
▼NFTを配布したりキャンペーンを実施できる
私たち自身、ガイエさんとご一緒させていただく前から、NFTを広告分野で活用することに興味がありました。
Web3の思想では、ユーザーが自身の匿名性を担保しながら、自己主権的に自身の好む「モノ」を選び、所有できる世界を目指す風潮があります。しかし、従来の広告はその逆で、広告主側からユーザーに働きかけることで、継続的に接点を持とうとする構造になっています。
これは、経済活動を行う企業からすると、単に広告を打って終わりではなくマーケティング活動に繋げる必要があるため当然の構造です。しかし、ユーザーからすると、広告主側から強制的に広告を見せられ、興味を抱くよう仕向けられていると感じることで嫌悪感に繋がってしまう点が課題だと考えていました。
そうした中、ガイエさんから「ユーザーのコンテンツ視聴体験に溶け込むような、自然な形で広告を出稿できるデジタル・プレイスメント広告」のお話をいただきました。
そこで、同広告でNFTを活用すれば、ユーザー自身が主体となり、欲しい・欲しくないを判断した上で広告商品とリンクするNFTを取得する流れを構築できるため、強制力の働かない広告体験が可能になるのではないかと考えました。
また、「Mits」では、デジタル・プレイスメント広告からNFTを取得したユーザーに対して、ユーザーの匿名性を担保しながら、広告主による抽選やアンケートの実施、イベントの開催など、様々な形でアプローチが可能です。
▼アンケート機能
他にも、広告主が個人情報を直接扱うことなく、NFTホルダーに対して物品を配送できる機能もあります。具体的には、広告主が「Mits」から商品配送の案内を送るとNFTホルダーに通知が届き、記入された名前や住所などがヤマト運輸に共有されて商品が配送される仕組みです。
私たちとしては、NFTホルダーのロイヤルカスタマー化が得意領域の一つであったため、広告を見たユーザーとの関係構築の部分で知見を共有できるかもしれないと思い、今回のプロジェクトに参画したという背景です。
生活者の熱量を可視化し、適切なアプローチで行動変容を起こす
──従来のデジタル広告や、マーケティング活動との違いはどのような点にあるのでしょうか?
福地 従来、ユーザーの熱量を可視化するには、購買データを参考にしていたと思います。例えば、「購入額や、購入頻度が高い方ほど自社商品に対する熱量の高いファンであろう」という形ですね。
一方で、「唯一性」という特性をもつNFTを活用すれば、ユーザーの匿名性を担保した形で、イベントやキャンペーンへの参加、アンケートの回答などが全て「証明」されたデータとして蓄積されます。
▼データは匿名で記録される
つまり、購買データだけに依存せず、イベントや投票への参加回数によってロイヤリティを可視化し、熱量の高いユーザーに対して継続的な顧客接点を持てる点が、従来のデジタル広告やマーケティング活動とは異なる部分です。
また、熱量を可視化できるため、イベントに複数回参加してくれている生活者に対してアンケートを配り、リアルな声を収集することで、商品開発や改善に繋げることも可能になるでしょう。
例えば、ドラマ番組にデジタル・プレイスメント広告を入れ込み、ドラマを見るたびにNFTが1つもらえる仕組みを設計する場合、全12話のドラマであれば、12個のNFTを持っている人を「コアなファン」だと認識できます。
そのホルダーに対し、「Mits」のNFT認証機能を用いた限定のWebサイトを公開したり、プレゼント企画を実施したりすることが可能です。また、続編を作る際に優先的にアナウンスするといった施策も考えられます。
里見 弊社の場合だと、NFTを持つ方がスーパーやドラッグストア、映画館、イベント会場などのリアルな場所へ訪れた際に、新たなグッズやクーポンを提供する仕組みを考えていますね。
「広告を実施して終わり」と同様に、「NFTを配って終わり」というケースもよくあると思うのですが、生活者の行動変容を起こすには、NFTの配付後に継続的にアプローチすることが鍵だと思っていて。
そのアプローチを設計する際に、NFTホルダーの熱量を高めるためには「NFTにどのようなユーティリティを付帯させるか」をよく考える必要があります。
ただし、企業ごとに取り扱うサービスや商材が異なるので、割引クーポンが効果的なのか、それとも自社コンテンツに絡めたRWA(現実資産)を制作するのかといった点は、まだまだ私たちも最適解を探っている状況ですね。
AIやNFTといった最先端技術を活用し、新たな広告手法の確立を目指す
福地 これまで広告へのNFT活用のメリットをお伝えしてきましたが、今後、企業がユーザーとコミュニケーションをとる上では、コミュニティの形成が重要な鍵を握ると思っています。
ただし、コミュニティを形成するためには、そもそもの前提として熱量の高いユーザーを一定数抱えていることや、良質なプロダクトやサービスを提供していることが条件になると考えています。
そしてコミュニティの基盤が整えば、企業は「Mits」を通じてNFTホルダーとコミュニケーションをとり、ロイヤリティ向上に繋がる施策を継続的に実施し、そこで得たユーザーの声を元に、商品やサービスを改善する。そのようなサイクルを回すことで、コミュニティ自体も盛り上がっていくと思います。
このような点を踏まえると、アイドルやアニメ、映画といったエンタメ領域の企業や、それら以外にも、一定のファンを抱えたプロダクトやサービスを提供する企業は、「NFTキャンペーン広告パッケージ」との親和性が高いと思っています。
そのため、まずはそういった領域でユースケースを作りながら、NFTがマーケティングにどう役立つのかを見定め、企業の課題解決により良いソリューションとして提供できるよう努めていきたいですね。
里見 冒頭でもお伝えした通り、広告業界は数多くの課題を抱えています。エンドユーザーのリテラシーや感度が鋭くなるにつれ、より信頼性の高い情報を求める傾向が強くなり、その結果としてインフルエンサーマーケティングも以前のような効果が期待できなくなっています。
そうした中で、今回SBINFTさんと開発した「NFTキャンペーン広告パッケージ」を用いて、新たな形で生活者の情報を可視化していけば、彼らの趣味嗜好、熱量に合わせたアプローチが可能になり、より強固な関係性を築けるのではないかと思っていますね。
今後も引き続き、新たな技術を積極的に活用しながら、様々なエンターテイメントと人をつなぎ、新しい広告領域を開発していきたいです。
──今後の展開も楽しみですね。本日は貴重なお話をありがとうございました!(了)
取材・ライター:古田島 大介
企画・編集:吉井 萌里(SELECK編集部)