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【Web3対談#03】NFTプラットフォームを基点にエコシステムを形成する「TransformArt」とは

近年、NFTやDAOを活用し、Web3の領域で新規事業を展開する企業が増えています。

企業が自社サービスにWeb3の要素を取り入れる場合、手数料やロイヤリティを自由に設定でき、自社ならではのコンテンツ販売やコミュニティ形成を可能にする「独自のNFTマーケットプレイスの構築」は、事業戦略における選択肢の一つとなるでしょう。

そうした手法を選択して新たなサービスを展開しているのが、企業のDX・内製化支援に取り組む株式会社ゆめみです。同社は、2023年4月に「ART×TECH」を駆使してエコシステムを創出するNFTアートプラットフォーム「TransformArt(トランスフォーム・アート)をリリースしました。

このTransformArtは、単にNFTを売買する場としてだけではなく、アーティストやエンジニア、マーケター、キュレーターなどが「アートコレクティブ・チーム」として集い、共創型でNFTアートの価値を変換(トランスフォーム)していくスタジオのような存在として運営されています。

そこで今回は、TransformArtのファウンダーである同社取締役の吉田 理穂さんと、プロジェクトのスーパーバイザーを務めるアートプロデューサーの後藤 繁雄さんに、企業がNFTマーケットプレイスを立ち上げることの意義や可能性について、詳しくお伺いしました。

NFTは「価値を変換」し、アートの可能性を広げる新たなメディウム

──本日はよろしくお願いします。まず、お二人の自己紹介をお願いします。

吉田 私は現在、ゆめみでアート組織担当取締役を務めると共に、社内でアートオフィスの立ち上げを担当しています。昨今注目されている「アーティスティック・インターベーション(※)」をキーワードに、アート性を組織や事業に活用したいという思いで活動しています。

※組織のイノベーティブな取り組みを起こすことを目的に、アート思考やクリエイティブを取り入れる手法のこと

ゆめみでは、研究開発に対して一定の投資を行う「ゼロジュウ」という制度があり、全メンバーがチャレンジできる環境があります。その制度を活用してリリースしたのが、NFTアートプラットフォーム「TransformArt」です。このプロジェクトでは、後藤さんにスーパーバイザーとしてご協力いただいています。

後藤 私は、一言で表すなら「編集者」として長いキャリアを歩んできました。

編集の役割とは、「どのような価値を生み出せるか」を考えることです。よって、時には職種の枠を超えて、坂本龍一や荒木経惟、篠山紀信、蜷川実花などのアーティストと共に写真集やアートブックの制作を行ったり、東京で広告ディレクションを手がける会社を経営したりしてきました。

また、2008年にはギャラリースペース「G/P+abp」を開廊して展示会のキュレーションを行ったり、京都芸術大学の教授として学生たちにコンテンポラリーアート(現代アート)の指導を行ったりと、幅広く活動しています。

▼【左】後藤さん 【右】吉田さん

──お二人は、以前からお知り合いだったのでしょうか?

吉田 いえ、実は私が20代の学生の頃に後藤さんの書籍に感銘を受け、それ以来、後藤さんが手がける数々の活動に刺激を受けていました。そして、数年前に後藤さんが主催するアートイベントが偶然にも自宅近くで開催され、その時に初めてお会いしました。

私は普段からサービスデザイナーとしても活動していて、正直、ここ数年の新規事業開発はどの企業も似たり寄ったりで、コモディティ化していると感じていました。そんな中で、後藤さんが唱える「アート思考」はビジネスシーンにおいても活かせる可能性があると感じ、TransformArtの立ち上げにあたってお声がけさせていただいたんです。

後藤 私自身、これまでギャラリーを通じて若手写真家を世界に売り出してきた経験があり、どうすれば世界で通用するアーティストを生み出せるだろうかと考えていたタイミングでした。そんな折にお話をいただいて、TransformArtの構想には非常に可能性を感じました。

NFTアートに対する私の考えをお話しすると、まず「形のないものがどのように発展していくのか」に関心があります。昔なら「錬金術」と表現されるかもしれませんが、NFTが持つ唯一性が「価値を変換」し、アートの可能性を広げていると感じますね。

また、アーティストのアイデアやキャラクターがアートを通じて形となり、それが評価されると高額で取引される。つまり、アートシーンで突出するためのルールが変化していることが、昨今のNFTアートブームの土台になっていると考えています。

NFTプラットフォームは、エコシステムを形成する「プロトコル」

──改めて、「TransformArt」について教えていただけますか。

吉田 不確実性の高い現代においては、「価値」が大きく変動し続けていると感じています。例えば、昨今のChatGPTや生成AIなどのテクノロジーの台頭により、権威を保ち続けてきた巨大テックのポジションが脅かされています。そうした環境下では、「価値」を変形したり変換する、つまり、トランスフォームできる考え方や体制が重要だと考えています。

こうした背景を踏まえ、「TransformArt」はアーティストと共に、NFTやブロックチェーン技術を用いて、現代のデジタル環境における価値生成を実験的に開発していくプロジェクトです。実験にあたっては、アーティストだけでなく、エンジニアの存在やスタートアップ企業などと同時に接続し、コミュニティを形成していくことを目指しています。

将来的には、実験を通じて蓄積したナレッジを活かして、Web3に参入を検討している企業へのサービス提供や支援、コンサルティング等を行うことも計画しています。

──NFTプラットフォームの開発を決めたのには、どのような背景があったのでしょうか?

吉田 Web3やNFTの特性を考えた時に、私たちがエコシステムの中心的な存在になるべきだと考えました。

よくECサイトとNFTプラットフォームが比較されますが、その概念は全く異なると思っています。ECサイトは売り手と買い手のマッチングが主な目的ですが、NFTプラットフォームは「エコシステムを形成するプロトコル」という視点から捉えるべきだと思っていて。

つまり、NFTアートを基点に人々の間に繋がりを生み、中長期的にコミュニティの熱量を高め、一緒に世界観の構築を楽しめる点がNFTプラットフォームの魅力です。

──「BAYC」のようなNFTアートプロジェクトを立ち上げることは考えなかったのでしょうか?

吉田 そうですね。ゆめみは主に受託開発の企業なので、自社サービスの開発は基本的に行っておらず、大手プラットフォーマーのようにユーザー基盤や大型IPを持っているわけでもありません。そのため、企業としてNFTアートプロジェクトを立ち上げるのは現実的ではないと考えました。

一方で、ゆめみがゼロから仕組みを作れば知見も貯まりますし、その知見を生かした新たなビジネスも展開できるので、自社でNFTプラットフォームを作ることにしたんです。

ただ、多くのNFTアートプラットフォームが乱立している現状なので、ポジショニングを決めるのが難しかったですね。NFTは基本的に2次流通、3次流通という形で循環するので、NFTアートプラットフォームは手数料ビジネスになりがちです。その場合、多くの利用ユーザーを集める必要もありますし、大手NFTマーケットプレイスのOpenSeaなどが競合となるので、そのさじ加減が難しくて。

そこで、エンジニアやデザイナーを多く抱えるゆめみとのシナジーを考えた結果、「エコシステムを構築して、NFTアートを作りたいというアーティストに対して道具を渡すポジション」を確立し、アーティストと共に生み出した作品を、デジタルアートとして認めてくれる人々に届けることをTransforArtの目標としました。

この時プロジェクトメンバーの中では、「ゴールドラッシュの時代に、金を発掘しに行く人たちにジーンズやつるはしを提供するポジション」をイメージしていましたね。

とはいえ、最も重要なのは、社会的価値のあるものを生み出し続けていくことだと考えています。そのような状況を作ることができれば自然と様々な人や情報が集まり共有し合える、エコシステムとしての機能を果たせますからね。

多様なアーティストを集め、「どういう価値を生成するのか」を問う

後藤 さらなるTransformArtの差別化ポイントとして挙げられるのが、「NFTアートをコンテンポラリーアートの一つとして捉えている」ことです。NFTを活用すれば出来るようになることが解明されてきている一方で、その芸術性やアート性については日本ではまだ十分に認識されておらず、その点に挑戦する意義があると感じています。

──なぜ、NFTアートには「アート性」が未だ宿っていないのでしょうか。

後藤 アーティストの多くは「より良い表現をしたい」と思っている一方で、「価値あるものを作り出している」という感覚でアートを作っているわけではないというのが現状です。

アート業界も決してイノベーティブでなくて、業界の中心的な存在であるギャラリーやオークションは、アーティストをプロデュースするというよりも作品の販売機会を提供している側面が強いので、コレクターや富裕層に向けてどうしたらアートを買ってもらえるかを考えるモデルがまだまだ一般的です。

加えて、ギャラリーや美術館、評論家、批評家、アートコレクターそれぞれがバラバラに存在してしまっていることもあり、社会に対して「どのような価値を生成していくべきか」が十分に議論されてこなかったのではないかと感じています。

しかし、時代は着実に進んでいくので、これまでのスタイルを違うエコシステムに移行させる必要があります。その際に、Web3やブロックチェーン技術は大いに有用だと考えているんです。

ただし、これらの技術を使うだけでは新たな価値生成はできません。そこで、TransformArtの運営にあたって非常に重要なのが、どのような人をキュレーションするかという点です。

具体的には、「アート思考」に則した形で価値生成する人たちを中心に、「生成のタイプが違うアーティストであること」を基準の一つにしています。音楽活動しながらコミュニティを持っているアーティストや、リアルとデジタルの両軸で活動するファッションデザイナーなどですね。

アート思考は破壊的なところがあって、「内側」と「外側」を往復しながら思いもしなかったアイデアを生むことができる考え方です。この思考法は、アートを作る時だけの考え方ではなくて、個人がエコシステムに対して積極的にアクセスするマインドへと変化させていくものでもあるため、TransformArtのエコシステムに関わる方々にはアート思考が必須だと考えています。

──TransformArtの第1弾では、現代美術家・アニメーション作家である、たかくらかずきさんを選定されていますよね。

後藤 コンテンポラリーアートは「ストラテジー(戦略)」が重要で、色々な条件や要素を満たしているアーティストを見出すことが肝です。

たかくらかずきさんは、「輪廻転生」「ゲーム」「お墓と魂」というコンセプトワークをしっかりと行い、ビジョンを持って独自の世界観を構築されていたので、彼なら勝算が高いと思いました。

また、自身でもNFTアートを作成してOpenSeaで販売したりと、プログラミングのスキルも備えている多才なポテンシャルを持ち合わせていることを考えると、クリエイティブファクトリーとしてのゆめみとも相性が良いと感じ、選定させていただいたという背景があります。

▼第1弾として販売された、たかくらかずき氏のNFTアート「ハイパー神社」

多様な人が集うエコシステムで学び、繋がり、価値を生成する

──新人の発掘という観点では、優秀な才能を見出しサポートしていく「インキュベーション」も重要ですよね。

後藤 そうですね。世界的にも、ユーティリティの設計や作品の販売方法について専門性を持った集団を探しているアーティストが多いんです。ジェネラティブNFTアートのプラットフォーム「Art Blocks」が成立しているのも、そうした背景があるからですね。

ラッパーが様々なアーティストとコラボレーションしてアルバムを制作したりするように、TransformArtでも、複数のアーティストがエコシステム内に共存し、普段とは違う名義で作品を出すといった活動が生まれたらいいなと思っています。

吉田 メンバー集めの観点からも、プロジェクトに必要な全てのプレイヤーをいち企業で集めるのは難しいので、分散的に連携ができればいいと思っていますし、TransformArtを基点に人が集まり、新たな価値が生まれていく形が理想だと思っています。

現在はゆめみのメンバーを中心にTransformArtが構成されていますが、開発面ではたかくらさんのマーケティングチームと連携したり、外部のプログラマーさんに協力してもらったりしています。よって、今後も柔軟に仲間を増やしていきながら、様々な関係者と連携しつつ、アーティストを支援していきたいと思っています。

──大学との産学連携についても、構想を描かれているとお伺いしました。

吉田 現在、京都芸術大学との産学連携を構想している途中です。実験的に、後藤さんの研究室にコミュニケーションツール「Discord」を導入し、学びの仕組みをアップデートする「ART DAO」としての取り組みを始めています。Discord内には卒業生と在校生が混在していて、継続的にアート思考を学びながら実践できる環境の構築を目指しています。

後藤 DAO内では、「上手な作品を作る」というよりも「価値生成をどう行うのか」を教えています。つまり、アート思考を社会でどのように活用できるのかを学び合う場所にしたいと思っているんです。これまでの産学連携とは異なる形で、Web3の思考に基づいて、大学の枠を超えていくような取り組みにしていきたいですね。

吉田 今後は、メンバーシップNFTやガバナンストークンの実装も検討しています。このガバナンストークンをオープン化することで、TransformArtのコミュニティ、京都芸術大学のDAO、そのほかのコミュニティを繋ぐような設計も考えています。そうすることで、様々な人々がコミュニティを行き来しながら、学びや繋がり、そしてコラボレーションが生まれ、次世代型のアートコミュニティとしてのART DAOが生まれるのではないかと思っています。

TransformArtを基点とし、次世代アーティストの輩出を目指す

──お二人のお話を伺い、ブロックチェーンやNFTなどの技術がアート業界でも価値を発揮すると、改めて感じました。

後藤 そうですね。最近では、彫刻もデジタルデータから作られるようになっています。つまり、彫刻とフィギュアが用いるデータは同じで、表現方法が変わることで新しい価値が生まれている。 結局、新しいことを画策するのであれば、「考え方」と「テクノロジー」をアップデートしてアートを作る必要があるんですね。

そう考えると、必然的にNFTという新たな技術に着目してアートを作れないかという考えに至りますし、そこからは「NFTでどんなアート性を追求できるか」を考えれば良くて。その際に、NFTアートが売れるか売れないかは、あまり関係がないと考えています。

今後も表現方法としての技術は進化し続けるので、TransformArtを通じてアーティストと共にユースケースを創り上げていきたいですね。

──最後に、今後の展望をお伺いさせてください。

吉田 たかくらかずきさんとコラボしたNFTアート「ハイパー神社」は2025年までロードマップが続いており、すでにユーティリティの1つである「みんなが参拝すると進化する」仕組みを有したWeb上の神社が立ち上がっています。

また、NFTのホルダー同士がコミュニケーションを取れる2Dメタバースの準備を進めていたり、2025年に開催される瀬戸内芸術祭に合わせて、直島の旅館「ろ霞」の敷地内にリアルのハイパー神社を作る構想もあります。

後藤 世界的に有名な瀬戸内芸術祭にアンカーを作ることは、世界中のアート愛好者が訪れた際に、作品を面白いと感じてもらえるきっかけになると思います。コンテンポラリアートは、デジタル上の接点だけではなく、リアルな接点を用意して実際にアートを体感してもらうことも重要ですからね。

そうしたギミックを継続的に仕掛けていくためにも、TransformArtでエコシステムを形成し、次世代アーティストの輩出に貢献していきたいと考えています。従来の芸大では、インキュベーション機能を作って運用しているケースはあまり多くないですが、TransformArtがそのプラットフォームとして認知され、新たな才能がどんどん生まれるようにしていきたいです。

──今後の展開が非常に楽しみですね。本日は、ありがとうございました!

取材・ライター:古田島 大介
企画・編集:吉井 萌里(SELECK編集部)

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