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コミュニティの熱量、どう担保する?12事例から学ぶ、Web3プロジェクト運営術【後編】
新年あけましておめでとうございます。昨年は多くの皆様にSELECKをご愛読いただき、心より感謝申し上げます。
2025年もSELECK編集部一同、AIをはじめとした最新のテクノロジートレンドや、DX事例など実務に役立つ情報をお届けしてまいりますので、本年も変わらぬご愛顧を賜りますよう、よろしくお願いいたします!
さて、本記事では、昨年末に公開した前編に続き、2024年に取材したWeb3プロジェクトから得られた実践的なノウハウを、テーマ別にまとめてお届けします。ぜひ最後までご覧いただけますと幸いです。
<目次>
4. コミュニティの熱量を維持するには?
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- 参加動機を醸成する
- 「関わりしろ」を残す
- 継続的に情報を発信する
5. Web3技術の導入タイミング、どう見極める?
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- そもそも導入すべきかの見極め
- 段階的に実装する
6. 持続可能な経済圏を構築するには?
※編集部より:本記事の執筆にあたり参考にしている情報は、各取材記事の公開時点のものとなります。プロジェクトのアップデートにより、施策の内容が現在とは異なる可能性がございますので、予めご了承ください。また、記事の内容についてご意見や修正のご提案がございましたらこちらまでお願いします。
4.コミュニティの熱量を維持するには?
1. 参加動機を醸成する
プロジェクトの持続的な発展には、メンバーが継続的に参加したくなるような動機付けが必要です。この動機付けは、金銭的・情緒的の両面からアプローチするとより効果的でしょう。以下、具体的な施策をそれぞれご紹介します。
<金銭的価値>
金銭的価値を提供する機会として、BONSAI NFT CLUBでは以下のような施策を展開しています。
過去の事例としては、立ち上げ当初に実施した「スポンサーミント」という企画があります。これは、盆栽をホルダーさんにお届けする際の段ボールにチラシを封入することで、ターゲティング広告ができるという内容です。
100体のNFT購入を条件にしたことで、フロアプライスよりも高い価格だったにも関わらず、計500体以上を追加でご購入いただきました。
NFTの単純な値上がりを期待するだけでなく、ビジネス機会を提供することでコミュニティに所属しているメリットを提供しています。
「盆栽好き」「NFTに興味がある」といった明確な属性を持つメンバーで構成されたコミュニティの特性を、広告プラットフォームとして効果的に活用した事例です。
▼【左】スポンサーミント権【右】盆栽が送られる際に利用される段ボール
ほかにも、クリスマスにはNFTや暗号資産を山分けする企画を実施したり、お正月には福袋を販売するなど、時流に合わせたキャンペーンも行っているそうです。
<情緒的価値>
また、コミュニティならではの体験価値を創出することも重要です。取材したプロジェクトの多くが、オフラインでの交流促進・イベントを行っていました。
例えば、SHIBUYA Q DAOでは家族と一緒に参加できるイベントを開催しています。
コミュニティ内の交流を促す仕掛けとして、運営主体で月に一度のペースでリアルイベントを開催しています。特に、ひとりではなく、家族で一緒に楽しめたら嬉しいという声が目立ちました。
これを受けて、お子さんも参加できるアートワークショップを休日に開催したところ、大変好評でしたね。今月もCrypto Cafe & BarでSQDメンバー限定の交流会を開催しましたし、直近ではBBQを開催する予定です。
Crypto Beer Punksでは、イベント出展時にコミュニティメンバーにサポートしてもらうことで、メンバーとの交流の機会を設けているとのこと。メンバー主体での熱量高い発信を通じて新たなファンをつくることができますし、メンバーからしてもファウンダーの方と密に話せる環境は嬉しいですよね。
リアルで話せる距離感を設けられる「イベント」への協賛を積極的に行ってきました。昨年だけでも合計30件以上のイベントに出展し、多い時は月に5回ほど参加していたと思います。
また、イベントに出ることでCBPの運営メンバーと近い距離で話せますし、一緒に同じものを売る体験を共有できます。これが、とても楽しいんですよね(笑)。
▼実際のイベント出店時の様子
また、国内外の多くの人が参加するプロジェクトであれば、オフライン施策は参加者が限られてしまいます。そのため、オンラインコミュニケーションが活発になるような仕組みも必要です。
カバードピープルでは、NFT自体に会話の機会になるような工夫を行っているとのこと。イベントや企画の際にも、保有するNFTの番号でグループ分けしたりといった形で、会話を促すことができそうです。
また、プロジェクトの公式サイトで購入したNFTの番号を検索できる仕組みも導入しています。これは単に、自分が購入したNFTが建物のどこに使われるかを可視化したサイトにすぎないわけですが、数字が近い人同士で交流が生まれたりと、新たなコミュニケーションのきっかけになっているのも面白い点です。
さらに、ビール工房の建設地に24時間カメラを設置し、その映像をYouTubeで配信しています。改築工事はまだ始まっていませんが、配信の様子を見に来てくれる方から「宅急便が来ましたよ」といった声をもらうこともあって。着工前からある種の期待感の醸成につながり、プロジェクトの盛り上がりを作る一つの要素になっていると感じています。
(語り手:カバードピープル ファウンダー ヒオキンさん)
2.「関わりしろ」を残す
Web3コミュニティの多くは、国内外から多くの人が参画し、規模が大きくなる傾向にあります。しかし、規模の拡大に伴い、「もっとコミュニティに関わりたいけど、どう関わったらいいかわからない…」という声も増えてくると思います。
そこで、運営側が意識しておきたいのが「関わりしろ」です。この「関わりしろ」という言葉は、地域おこし協力隊DAOの事業責任者、たーなーさんの言葉です。
DAOをオープンする前に「コミュニティの目的」と「参加者の関わり方」を明確にしておくことがポイントです。
例えば、ゲストハウスを作る場合に、利用していない古民家をもっている人や現地で働ける人を探しているといった具体的な情報を発信しておくことで、誰かが名乗りをあげてくれるかもしれないし、地元の方をつなげてくれるかもしれないですよね。そういった形で、「弱い紐帯」といいますか、様々な方が関われる余白を用意しておくことも大切です。
(語り手:地域おこし協力隊DAO 事業責任者 たーなーさん)
過去に取材したプロジェクトの中には、NotionページやWebサイト等を活用して、どうコミュニティに関わると楽しめるのかを明確に提示しているケースもありました。参加方法を明示しておくことで、新規参加者のオンボーディングもスムーズになりますね。
さらに、ファウンダーのスタンスも重要です。カバードピープルのヒオキンさんは意図的に表に出過ぎないようにすることで、メンバーが主体的に動きやすい雰囲気を醸成しているそうです。
このプロジェクトに関しても、僕は基本的にサポート役に徹するようにしていて、プロジェクトの全体設計と広報活動を主に担当しています。
一般的に、コミュニティの熱量や結束力を高めていく方法として、リーダーが「この指とまれ」で人を巻き込んでいく形もあると思います。けれども、そのアプローチでは「自分には関係ない」と思ってしまう人が生まれる可能性があると思っていて。(中略)
また、自然発生的に何かを生み出していくために、「形から入らない」ことも意識していることの一つです。
例えばカバードでは、約30人の規模になり、集まる場所が必要だと感じたタイミングでDiscordコミュニティの運用を始めました。各人の役割に関しても、運営の役割を果たす人が暗黙の了解で決まっているだけで、具体的な役職は設けていません。
(語り手:カバードピープル ファインダー ヒオキンさん)
3. 継続的に情報を発信する
情報発信は、コミュニティの求心力を維持する上で重要な要素です。最初にロードマップを敷いておくケースが多いNFTプロジェクトは、運営が定期的に情報を伝えながら適切な期待値調整を行うことが求められます。
応援する側にとっての最大の関心ごとは「そのプロジェクトに将来性があるのか」という点なんですよね。ここで重要になるのが、オーナーによる情報発信です。これが不足すると応援する気持ちが薄れますし、トークンを売却する人が現れ、結果的にトークン価値も下がってしまいます。
したがって、今どういう思いで、何を目指して動いているのか。そして未来をどう描いていて、これからどう向き合っていくのかを、SNS等を活用してコミュニティにしっかり伝えていくことで、安心感を育むことができるのではないでしょうか。
(語り手:FiNANCiE 執行役員 山田 智也さん)
良い面だけを伝えるのではなく、課題や問題点も共有していくことで、先ほどお伝えした「関わりしろ」も生まれてくると思います。一方的な発信ではなく、「みんなでプロジェクトを作り上げていく」という機運を高められると良いですね。
地域おこし協力隊DAOでは、運営だけでなく、コミュニティメンバーも巻き込んだ情報発信を行なっています。
弊社が運用しているSNSアカウントやプレスリリースなど、既存のアセットをフルに活用しながら隊員の情報発信をサポートしています。
なかでも力を入れているのはVoicyでの発信で、「少し未来の地方創生」をお届けする番組「NFTからはじまる地方創生ラジオ」で、毎週火曜日と木曜日の16時からは隊員に話してもらう枠を設けていますね。
(語り手:地域おこし協力隊DAO 事業責任者 たーなーさん)
このように、プロジェクトの進捗や達成状況をこまめに共有することでコミュニティの活気を維持し、「盛り上がっている」という雰囲気を醸成できます。
また、コミュニティ運営において、運営が継続的にコンテンツを提供し、メンバーを飽きさせない工夫が必要だとよくいわれますが、メンバーを巻き込むことでコンテンツ作成の負担を分散することもできますし、より多様な視点からプロジェクトの魅力を発信できるといったメリットもあります。
5.Web3技術の導入タイミング、どう見極める?
1. そもそも導入すべきかの見極め
「流行りだから」という理由でWeb3技術を導入してしまうと、既存ユーザーが置き去りになったり、技術をうまく使いこなせずにプロジェクトが失敗したりするリスクがあります。そのため、導入以前にまずは、自社のプロジェクトにWeb3を活用する必要が本当にあるのかどうかの見極めが重要です。
SARAHでは、Web3技術を活用することでサービスの提供価値を最大化できると判断したため導入に至ったといいます。
まずは、自分たちの提供するサービスの価値を明確にし、その中で法定通貨で計測できない価値が何かを見極めた上で、Web3の活用を検討するのが良いと考えています。(中略)
ブロックチェーン技術を活用することで各ステークホルダーの自律的な動きを促進でき、それらをデータとして蓄積・可視化することで、提供価値を最大化できると思った点が意思決定のポイントです。
(語り手:SARAH 代表取締役CEO 酒井 勇也さん)
見極めにおいては、Yay!の事例も参考になります。
そうした中で、プロダクトをWeb3に寄せていく際によく議論されるのが、「何をオンチェーンに書き込むか」という点だと思います。
ただ、この議論は「サービスが無くなってもデータを残しておきたい」という脱中央集権構造を目指す文脈の話であって、そもそも、そのサービスには残すべきデータが存在しているのかがポイントです。
新興のSNSではユーザー同士の繋がりがまだ形成されていない段階なので、そこには消されては困る思い出や人間関係が存在しておらず、ブロックチェーン技術の良さを活用できる段階に達していないと言えます。
(語り手:ナナメウエ 代表取締役 石濵 嵩博さん)
2. 段階的に実装する
Web3技術の導入を決めた後は、すぐに技術を導入するのではなく、まずはコミュニティを温めきってからなど、段階的なアプローチで慎重に進めていくと良いでしょう。
Web3化を目指す場合は、まずはコミュニティを形成し、その後、プロダクトにWeb3の機能を足していくと良いのではないでしょうか。
その際に、すべての機能を自社で開発せずとも外部のサービスと組み合わせることも可能ですし、NFTやウォレットなどを最初に作り込みすぎないことも重要です。
(語り手:SARAH 代表取締役CEO 酒井 勇也さん)
コミュニティを形成する際には0→1で立ち上げる場合と、既存のファンを囲い込むパターンの2つがあります。基本的には後者の方が実施しやすいとされていますが、どちらの場合であっても「良質なサービス・プロダクト」を提供していることが前提条件です。
ただし、コミュニティを形成するためには、そもそもの前提として熱量の高いユーザーを一定数抱えていることや、良質なプロダクトやサービスを提供していることが条件になると考えています。
そしてコミュニティの基盤が整えば、企業は「Mits」を通じてNFTホルダーとコミュニケーションをとり、ロイヤリティ向上に繋がる施策を継続的に実施し、そこで得たユーザーの声を元に、商品やサービスを改善する。そのようなサイクルを回すことで、コミュニティ自体も盛り上がっていくと思います。
このような点を踏まえると、アイドルやアニメ、映画といったエンタメ領域の企業や、それら以外にも、一定のファンを抱えたプロダクトやサービスを提供する企業は、「NFTキャンペーン広告パッケージ」との親和性が高いと思っています。
技術選定においては前編でもお伝えした通り、Web3に馴染みのない方々でも参加しやすいような環境構築が必須です。そのため、まずは誰もが使いやすい既存のツールを使いつつ、コミュニティが成熟してきたら段階的にWeb3技術を実装していくと良いでしょう。
6.持続可能な経済圏を構築するには?
Web3プロジェクトは、運営がNFTを販売するだけでは経済が回りません。長期的な成功のためには持続可能な経済圏、つまりトークノミクスの確立が必要不可欠です。
その設計においては、NFTの一次販売による収益だけでなく、二次流通による取引手数料、イベントやグッズ販売といった付随サービスからの収入、そしてメンバーシップ(会費)による継続的な収入など、複数の収益源を確保することが重要です。
なかでも二次流通の設計は、プロジェクトの持続可能性に直結する重要な要素です。
SARAHでは、二次流通を促すためのインセンティブ設計に加えて、ステークホルダーである店舗側にも一部売上を還元する仕組みにより、三者にとって利益のある構造を生み出しています。
SARAHでは「本当においしいお店を世の中に広げていく」ことを目標に掲げているため、出来るだけ口コミをたくさん書いてほしいという思いがあります。そこで考えられるのが、予約が殺到するほどの人気店になった暁には、「NOREN NFTのホルダーは優先的に予約が取れる」という特典を付ければ、先ほどのような課題は解決できると思っていて。
こうした流れが加速していけば、お店に優先的に入りたい人や、海外の旅行客が日本に来るタイミングでNOREN NFTを二次流通で購入するといった可能性もあり、NFTの流動性を担保できます。
また、一次流通での売上はもちろん、二次流通においても売上の10%をすべて飲食店に還元されるようにしているので、人気店になればなるほどNFTの価値が上がって還元される量も増えますし、応援する人だけではなく飲食店も報われるような仕組みにしています。
(語り手:SARAH 代表取締役CEO 酒井 勇也さん)
さらに、BONSAI NFT CLUBでは、NFTの二次流通の際に「イラストを変えて再販する」というユニークな取り組みを行なっています。
NFTプロジェクトでは二次流通を促し、運営費用を継続的に稼ぐ必要があります。そこで実施しているのが、「NFTを市場から回収して再販する」という試みです。運営の手元に戻ってきたNFTのイラストを変えることで、新たに「BONSAI NFT FARMⅡ」として追加販売しています。
新規メンバーの参加機会を提供しながら、既存メンバーの購入意欲を高めるということを同時に実現することで、コミュニティ全体の活性化に繋げている事例です。
おわりに
いかがでしたでしょうか。今回は、前編・後編と2本立てで、2024年に取材したNFTプロジェクトのノウハウをまとめてお伝えしてきました。すでにコミュニティを立ち上げている方も、これから立ち上げようと思われている方にも参考になる事例ばかりだと思います。
より詳しい内容については、本記事で紹介した各プロジェクトの取材記事もぜひご覧いただけますと幸いです。(了)
▼前編はこちらから
コミュニティ、どう設計する?12事例から学ぶ、Web3プロジェクト運営術【前編】 – SELECK
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