- 株式会社フィナンシェ
- 執行役員 エンタメ事業責任者
- 山田 智也
Web3時代のトークンプラットフォームFiNANCiEが目指す、ファン共創型コミュニティ
ブロックチェーンや生成AIといったデジタル技術の革新によって「価値創造の民主化」が加速し、クリエイターエコノミーが急拡大している。
この新たな経済圏においてクリエイターや創業者が持続可能なビジネスを確立するためには、支援者とのコミュニケーションや市場ニーズに合ったコンテンツの提供、そして安定した収入源の確保が必要だ。
そこで重視されるのが、ファンと共創できるコミュニティの存在だ。強固なコミュニティは、長期的な事業の安定性を提供するだけでなく、新たなアイデアの源泉となり、さらには資金調達の基盤ともなりうる。
このようなコミュニティを育成・支援するサービスとして注目を集めているのが、ブロックチェーンを活用したトークン発行型クラウドファンディングプラットフォーム「FiNANCiE(フィナンシェ)」だ。これまでに300以上のプロジェクトが参入しており、累計トークン流通総額は約38億円に上っている。
FiNANCiEでは、プロジェクト起案者のオーナーがトークンを発行することで、ファン(サポーター)からの資金調達を可能にし、継続的なコミュニティ運営と成長を支援する。従来のクラウドファンディングの枠を超えたWeb3時代のトークンプラットフォームとして、NFTプロジェクトはもちろん、最近では飲食店や整体院などのリアルビジネスの領域からも注目を浴びているのだ。
そこで今回は、コミュニティの継続的な成長に必要なことや、FiNANCiEが見据えるトークンエコノミーの未来について、株式会社フィナンシェにて執行役員兼エンタメ事業責任者を務める、山田 智也さんにお話を伺った。
中長期的に応援してくれる人を大切にできるトークンの魅力
私は2022年1月にFiNANCiEにジョインし、現在は執行役員として、プロジェクトオーナーへの営業やトークン設計をサポートするチームを統括しています。
これまでのキャリアでは、一貫してコミュニティに関する仕事に携わってきました。新卒で入社したゲーム会社のドリコムではマーケティングやプロダクト戦略の立案に携わり、その後は、ライブ配信プラットフォームにおけるコミュニティ運営やライバー(配信者)のマネジメント業務に従事してきました。
このような経験を積む中で、コミュニティが形成された後にも「応援してくれている人や参加者になかなか還元されない」という点に私個人として課題を感じていました。
一方、FiNANCiEの「トークン×コミュニティ」という組み合わせは、コミュニティを応援する側・される側の双方にメリットをもたらす可能性があります。その魅力に強く惹かれ、参画を決めたという背景があります。
改めて、FiNANCiEはトークンを活用したエコシステムやコミュニティの形成を支援するトークンプラットフォームです。
▼FiNANCiEの仕組み
従来型のクラウドファンディングと比較して、支援の形態がトークンであることのメリットは大きく3つあります。
まずは、トークンを保有していることが「応援の証」となり、ファンとしては自身の熱量を数量で積み上げていける点です。プロジェクト側としても、ロイヤリティの高い参加者を把握しやすくなりますし、コアなファンは初期のトークン価格が安いタイミングで参加することで、後々、価値が上がるかもしれないという面白さもあるでしょう。
2つ目は、プロジェクト側がインセンティブをユーザーに提供しやすくなる点です。コミュニティの持続性はユーザーの「感情」や「愛」で成り立っている側面がありますが、彼らへのインセンティブとしてNFTでは元々の発行数が少なかったり、高単価だったりと手段が限られているのが課題でした。
一方、トークンは比較的単価が低く、量の担保も可能であるため、イベント運営や告知をサポートしてくれるような貢献者にインセンティブとして渡しやすいという特徴があります。
最後は、トークンを活用したマーケティングの可能性です。例えば、Web3時代のゲームコミュニティ「CryptoNinja Games」では、ゲームをダウンロードしてタスクを達成すると1トークンを付与するという動線を設計しています。通常、スマホアプリは1ユーザーあたり500円ほどの広告費がかかるとされていますが、費用を抑えながらユーザー数の増加を実現している事例です。
これらのメリットを通じて、FiNANCiEは中長期的にプロジェクトを応援してくれる人を大切にする仕組みを提供しています。既存のコミュニティにトークンを導入する場合でも、長期的な貢献者にストックオプションのようにトークンを分配できる点は、FiNANCiEならではの付加価値ですね。
トークン発行の目的は「資金調達」から「コミュニティ構築」へ
今でこそ、FiNANCiEの利用者層はスポーツから飲食店、NFTプロジェクトまで広がり、様々な方に「コミュニティ形成」を目的として利用いただいています。しかし2019年のサービス開始以降、利用者層やその目的には大きな変遷がありました。ここからは、4つのフェーズに分けてそれをお伝えしていければと思います。
まずフェーズ1は、トークンを用いたクラウドファンディングによる資金調達のニーズが顕在化した2021年頃です。この時はコロナ禍ということもあり、スポーツチームからの需要が高まったタイミングでした。
なかでも、プロサッカーチーム「湘南ベルマーレ」の資金調達事例を皮切りに多くのユースケースが生まれ、累計100以上のスポーツ関連プロジェクトが資金調達を実施しています。
2022年になると、エンタメや地域活性にまでジャンルが拡大し、大型調達の実績も出てきました。例えば、映画監督と共創する日本初のエンタメDAO「SUPER SAPIENSS」は、総額で4,580万円の資金調達に成功しています。
さらに、「トークンの保有量に応じて権利がもらえる」という形が広がり始め、静岡県三島市発の「三島ウイスキープロジェクト」は数年後にウイスキーの購入権が付与されるというユーティリティで注目を集めました。
そして、2023年頃にはブロックチェーン技術の普及に伴い、数多くのNFTプロジェクトにもFiNANCiEを活用いただけるようになりました。ここまでがフェーズ1です。
2024年頃からが転換期となったフェーズ2で、トークン発行の目的が単なる「資金調達」から、より包括的な「コミュニティ構築」へと拡大しました。
例えば、「CryptoNinja Games」では200万円を調達し、1人1,000円という小口に分けることで、より多くの人にトークンを保有してもらう試みを実施しました。完売後の需要も高まり続け、2次流通市場ではトークン価格が1000倍近くまで上昇し、「小さく始めて、2次流通で盛り上げる」という新たなモデルを作るきっかけとなりましたね。この成功を受けて、他のNFTプロジェクトの参入が増えました。
現在進行形のフェーズ3では、弊社代表の國光が注目する「ミームトークン」の活用に焦点を当てています。これは、ミームコインの世界観をFiNANCiE上で表現する実験的プロジェクトとして位置づけていて、ロードマップや保有特典などを敢えて設けずにスタートする点が特徴です。この取り組みの第一弾として、今年の6月14日に「DaoCorn(ダオコーン)」を販売しました。
ミームトークンに着目している背景として、フェーズ2では、トークンの長期保有を通じて「コミュニティをみんなで成長させる」というアプローチが主流だったのですが、これでは「トークンを売買できる」という側面を楽しみにくいという課題があったんですね。
そこで、「トークンを安く買い、高く売る」という取引自体の楽しさに焦点を当てたのがフェーズ3で、これによりコミュニティ形成と投機的側面のバランスが取れたユースケースの創出に向けて取り組んでいるところです。
「リアルビジネス×トークン」で実現するファンコミュニティ
フェーズ4は、少し先の未来を見据えた検証段階のものではありますが、「リアルビジネス×トークン」のユースケースを生み出していこうと考えています。
リアルビジネスに着目した背景には、トークン価値の裏付けを強化する狙いがあります。従来のプロジェクトではトークン価値がコミュニティメンバーの気持ちで支えられていたのが、リアルビジネスでは収益の一部を使って、様々な形でサポーターに還元することでプロジェクトを盛り上げ、価値を高めるアプローチが可能になります。
最近の事例としては、人気YouTubeチャンネル「令和の虎」の林社長が「FCトークン」を発行しました。このトークンは、ネイルサロンや飲食店などのフランチャイズ事業の軍資金確保を目的としていて、将来的に、店舗で出た収益の一部を使ってサポーターやコミュニティに還元していく試みは、世界的にも新しい取り組みです。
今年7月に初回のトークン販売が実施されましたが、一般サポート及び法人コース全てが完売し、総額1億円の調達に成功しています。
▼FCトークンが活用される加盟候補と収益予想
昨今、飲食やサロンは非常に多様化が進んでおり、リピーターの獲得には「コミュニティの形成」と「ファンの育成」がこれまで以上に重要になってくると思います。
このような状況下で実店舗がFiNANCiEを活用するメリットは、開業資金の調達に留まらず、オープン前から見込み顧客を増やせる点にあると思っていて。例えば、トークン投票で店舗の看板やメニューを決めるなどして、お店作りに参加する機会を提供することで、潜在顧客のファン化を促せます。
オープン後も、来店時に1トークンを付与するなど、いわゆる「ポイ活」のような施策を展開することも考えられます。トークンを持つと自然とその価値の変動を意識するようになりますし、トークンにキャンペーンの参加権を付与するなどして、コミュニティへの参加を促す動機付けにも活かせるでしょう。
このように、お礼としてトークンを手軽に配布できる点が大きな魅力で、これまで以上にコミュニティを立ち上げやすいですし、ホルダーとしても既存の会員権と比べて比較的容易に売買できるため、コミュニティへの出入りがしやすいのもポイントだといえます。
プロジェクト成功の鍵は「参加者への還元」と「将来性の提示」
このような4つのフェーズを経て成長してきたFiNANCiEですが、全てのプロジェクトに対して共通して言えるのは、トークン単価を上げるためには、「トークンを買いたいと思う人を増やす」のが大前提として必要ということです。そうすれば、自ずとコミュニティの持続性も高まっていきます。
このような人々を増やすためには、ユーザーごとに異なるコミュニティ参加の目的を考慮しつつ、「トークンを持つことでプロジェクトへの参加が楽しくなる」と感じてもらうことが重要です。
例えば、一定量のトークン保有者に特典を設けたり、プロジェクトのコアな部分に関われる投票権の付与など、多くのプロジェクトが既に実施している施策があります。ファンがコミュニティに留まりたくなるような多様な価値を創出し、継続的に提供していくことが効果的でしょう。
さらに、コミュニティマネージャーへの還元も非常に大切です。有志で役割を全うする人が多い中で、継続的な取り組みを支えるためにも、トークンをギフトしたり、プロジェクトの公式スタッフに採用するといった特典を設けているプロジェクトも多いです。
とはいえ、結局のところ、応援する側にとっての最大の関心ごとは「そのプロジェクトに将来性があるのか」という点なんですよね。ここで重要になるのが、オーナーによる情報発信です。これが不足すると応援する気持ちが薄れますし、トークンを売却する人が現れ、結果的にトークン価値も下がってしまいます。
したがって、今どういう思いで、何を目指して動いているのか。そして未来をどう描いていて、これからどう向き合っていくのかを、SNS等を活用してコミュニティにしっかり伝えていくことで、安心感を育むことができるのではないでしょうか。
他にも、上場企業がIR資料で中長期の事業戦略を示すように、プロジェクトのビジョンや目標を明確にしたロードマップを作成したり、月次で進捗レポートを公開するのも、コミュニティメンバーとの信頼関係強化に効果があると思いますね。
オーナーの成功と共に、FiNANCiEのエコシステム拡大を目指す
私たちは各プロジェクトのオーナーに寄り添いながら、コミュニティの立ち上げからトークンの販売までを一貫してサポートさせていただいていますが、それと同時に、FiNANCiEの持続的な成長と価値創造のために、個々のプロジェクトの成功とプラットフォーム全体のエコシステム活性化を両輪として推進する必要があります。
このエコシステムの循環を促進するため、FiNANCiEは「アクティブコミュニティランキング(ACR)」と「コミュニティトークンホールディング(CTH)」という2つの機能を導入しています。
ACRは、コミュニティの新規ユーザー増加数やトークン単価の上昇率など、複数の尺度に基づいてプロジェクトをランク付けします。そして、ランキング上位のプロジェクトには「フィナンシェトークン(FNCT)」が配布される仕組みです。さらに、コミュニティの上位ランクインに貢献した個人にもFNCTが付与されます。
一方、CTH機能はわかりやすくいうと定期預金みたいなもので、自身が参加するプロジェクトのコミュニティトークンを6か月間ホールドしておくと、トークン数に応じて、FNCTがもらえる仕組みです。
補足として、FNCTは、FiNANCiEのプラットフォームを活性化させるための暗号資産で、イーサリアム上で発行されているため、他の暗号資産と同様に取引所で売買できます。また、FNCTを使うとコミュニティトークンの購入に必要なFiNANCiEポイントをお得に購入できるため、ユーザーは自身が参加しているコミュニティのトークンに交換し、エコシステム内で循環させる使い方ができます。
現在、FiNANCiEの累計ユーザー登録数は13万人ほどですが、さらなるユーザー基盤の拡大が不可欠だと考えています。ユーザー数の増加は、プロジェクトのトークン購入に直結し、エコシステム全体の活性化につながるからです。そのため、まずは新規オーナーと新規ユーザーのさらなる増加を目指していきたいと思っています。
すでにWeb3ネイティブ層やリテラシーの高い層へのリーチは成功しており、ここからのターゲット層は暗号資産やトークンに馴染みのない一般層だと考えています。そこで、直近ではYouTubeチャンネルを開設し、様々なプロジェクトやインフルエンサーとのコラボレーションを予定していて、より広いマス層に向けてFiNANCiEの価値を伝えていけたらと思っていますね。
これらの取り組みを通じて、ユーザー基盤の拡大や新規プロジェクトの参加、プラットフォームの認知度向上が相乗効果を生み出し、FiNANCiEエコシステム全体の持続的な発展を実現していきたいです。(了)
取材・ライター:古田島 大介
編集:吉井 萌里(SELECK編集部)