- trevary株式会社
- 代表取締役 CEO
- 金城 辰一郎
多くのDAOが抱える課題とは。人材採用から見るDAO運営の難しさとAKINDO誕生の裏側
近年、「分散型自律組織」と訳される「DAO(Decentralized Autonomous Organization)」は、理想的な組織形態として語られることが多い。
事実、仕事内容や場所、時間に縛られず、プロジェクトベースで誰でも簡単に仕事を始めることができる組織として、「働く」ことの概念を大きく変える可能性を秘めている。
しかし、DAOの運営には多くの課題があると語るのが、DAOの人材マッチングサービス「YoursDAO」、そしてWeb3のハッカソンプラットフォーム「AKINDO(アキンド)」の創業者である金城 辰一郎さんだ。
その課題の一つとして、多くのDAOではバウンティジョブ(※)という形で、所属するDAO上で求人情報を公開しているが、それらをお小遣い稼ぎとしてこなす人が多く、コアメンバーの採用や良質なコミュニティ形成に繋がっていない現状があるという。そのため、従来と同様に有料の採用プラットフォームや掲示板で人材を募集するDAOが多いそうだ。
※エコシステムのステークホルダーがトークンを獲得するために行うアクションのことを「Bounty(バウンティ:報酬)」と呼び、DAOの世界ではそれらを「バウンティジョブ」ということが多い
そこで、バウンティジョブに代わるソリューションとして「ハッカソン」に可能性を見出し、デベロッパーコミュニティの形成を通じてプロジェクトの分散化やエコシステムの拡大に繋げることを目的に立ち上げられたのが、ハッカソンプラットフォーム「AKINDO」だ。
その理由として、金城さんは「ハッカソンに参加する人の動機は、技術への純粋な興味に加えて、仲間作りや実績作りである場合が多く、バウンティジョブをこなす人以上に情緒的な繋がりを築きながら採用に繋げることができる」と話す。
今回は金城さんと、共同創業メンバーである高良 築さんに、海外のDAOへのヒアリングを通じて判明したDAO運営の難しさから、これまで開発してきたWeb3プロダクトの変遷まで、詳しくお話を伺った。
SNSやモバイル登場期を超える熱量を感じ、Web3へ方向転換
金城 僕は、沖縄で生まれて大学進学時に上京しました。卒業後はBASE株式会社の初期メンバーとして働くなどしていましたが、やはり自らの手で事業を作りたいという思いから地元沖縄に戻り、2016年に設立したのがtrevary株式会社です。
▼【左】金城さん【右】高良さん
当時は旅行マーケットを狙って様々なプロダクトを検討していましたが、そのタイミングで暗号資産バブルがきて、ブロックチェーン技術の世界観にハマってしまったんです(笑)。
そこで2017年当時、仮想通貨に関する記事を書いたのをきっかけに、サッカーチームのFC琉球から声をかけていただき、団体として新たな仮想通貨を発行し、それを購入してもらうことで資金調達を行うプロジェクトに携わりました。
ただ、その後に「冬の時代」が来てしまったので暗号資産から一度離れた後、2020年に東京に拠点を戻して色々なプロダクトを作ってはピボットしてを繰り返していたタイミングで、Web3が話題になり始めました。
ここ数年は、toCプロダクトでは売上が立ちづらい状況が続いていると思っていて、どうビジネスを作っていくべきか正直行き詰まっていた中で、このWeb3の登場はゲームチェンジングというか、完全に新しい大陸が出てきているような感覚でしたね。
特にDAOの仕組みが本当に面白くて。あらゆる人が、生まれた国や肌の色、宗教や年齢に関係なく、好きなことで生きていける世界を実現できる可能性を秘めていると感じたんです。
世界には戸籍や口座を持っていない人も数多くいますが、ブロックチェーン技術を使えば口座を持たない人にもトークンとして対価を支払うことができます。
それによって、これまで上手く才能を活かすことが難しかった人たちが一気に活躍できるようになって、世界中でイノベーションが加速していくのではないかと。
実際に、世界では「アフリカ在住の10代デザイナーがアメリカのメタバースプロジェクトに貢献する」「南米在住の50代クリエイターが日本のゲームの音楽を制作する」といったことも起きていて、ワクワクしますよね。
最近では、国内の若い人たちも参入していて、SNSやモバイルが登場した時以上の熱量を感じたのもあって、「ここで勝負するしかない」と昨年の10月からWeb3領域に舵を切りました。そのタイミングで出会ったのが高良君です。
高良 僕も同じく沖縄出身で、大学在学中からECサイトの運営や飲食の立ち上げなどを行ってきました。そして、2021年に金城さんに出会い、現在はtrevaryで海外の情報リサーチをメインに担当しています。
採用マッチングの課題を解決すべく立ち上げた「Yours DAO」
金城 まず最初に着手したのは「Yours DAO」というサービスです。いわばWeb3版のクラウドワークスのようなもので、DAOで働きたい人と、優秀な人材を採用したいDAOとのマッチングを促すプラットフォームとして、2022年2月にローンチしました。
▼Yours DAOのWebサイト
このサービスを作ったのは、Web3においてビジネスモデルがある程度確立されているNFTやDeFiなどと比べて、DAOはうまくワークしているものが少なく、めちゃくちゃ課題があるなと感じたからです。
例えば、DAOの世界ではワンショットで働けるタスクを「バウンティジョブ」と呼びます。これはプロダクトをブログやYouTubeで紹介したり、ソースコードのバグを発見したりするようなタスクを指しますが、その募集情報が分散し、ブラックボックス化しているDAOが多かったんです。
なので、実際に仕事を得るためには、Discordなどのコミュニティに入って過去の会話の履歴を遡りながら、自分ができそうな仕事を提案しなければならないという煩わしさがあったんですね。
そういった課題を解決したいと思ったのと同時に、既存の組織に置き換わるDAOは永続的に続く仕組みになり得るので、Web3プロダクトのインフラになる最適なソリューションを提供したいという思いもありました。
そこで、世の中にどんなDAOが存在しているのか、彼らのミッションは何か、どんな仕事があるのかといった情報をまとめて開示することで、DAOで働く人が増えたらいいなという思いから立ち上げたのがYours DAOでした。
また、キャリア形成の観点で考えても、実際に色々な仕事に携わることで、自分が夢中になれるものや人生の目的を見つけられる確率が高まるのではないかと思っていて。
一つの仕事を深掘りすることで得られる気づきもありますが、Yours DAOを通じて、もう少しカジュアルに仕事をつまみ食いできるような世界観を作れたらと思っていましたね。
海外のDAOへのヒアリングを通じて実感した「DAO運営の難しさ」
金城 そうした思いからYours DAOを立ち上げたものの、海外のDAOにヒアリングを行う中で「DAOってそんなに甘くないな」と感じましたね(笑)。
DAOの運営における課題は大きく二つあって、一つは「最初からボトムアップ型でDAOをつくるのは難しい」ということと、もう一つは「バウンティジョブではDAO化に必須である、熱量の高い貢献者を集めづらい」ということです。
現状、多くのDAOはミッションを策定して、それに共感してくれる人たちでコミュニティを形成し、投票権を持つメンバーで運営方針を決めるというボトムアップ型の運営を行うケースが多いのですが、それでDAOとしてうまく機能しているところはほぼ無くて。
結局は、人を集めてボトムアップ型で拡大していくのではなく、「最初は中央集権的なコアチームがいて、プロトコル(※)またはプロダクトがあり、それらに価値を感じて集まるユーザーに対して、コアチームが徐々に権限を譲渡することでDAO化する」というのが、基本的な流れになると考えています。
※ここではDAOの運営において、あるルールや、やりとりが実行されるために定められた手順や規定のことを指す
その上で、最終的には運営のプロセスにおいて極限まで人的リソースを排除することが重要だと思っています。仕事の切り分けから評価、報酬の支払いまで、すべてプロトコルを元に「自動化された仕組み」にするのが最適解かなと。
例えば、理想的なDAOの一つとされているのがビットコインです。そこではすべてのプロセスがプログラムで自動化されていて、貢献した人がきちんと報われる世界線が出来上がっていますね。
高良 二つ目の採用課題については、バウンティジョブではお金を稼ぐことを第一目的にタスクをこなす人がほとんどで、ミッション共感などの情緒的な繋がりがなく、コアメンバーとして採用しづらいという声が多くて。
では、コアメンバーを採用するためにどうしているかというと、多くの企業と同様にお金を払って採用プラットフォームや掲示板に求人情報を掲載していて、結局Web2と手法が変わっていないんです。
たとえバウンティジョブとして情報を公開して人材が集まってきても、Excelでタスク管理をして、世界中の人からの報酬請求に対応することで手一杯になるというのもよくある話で。
所属しているコアメンバーとしても、プロダクト開発に集中したいのに優先度の低い細かいタスクをやってる暇はないよ、というのが現状なのだそうです。
つまり、バウンティジョブで関わる人を多く獲得することはできても、そこから優秀な人をスクリーニングすることは難しいですし、継続的に関わってくれる熱量の高い人を見つけづらいということが大きな課題だと分かりましたね。
目指すはインフラ。デベロッパーの関与で自律的に価値が高まる世界へ
金城 同時に、海外のDAOへのヒアリングを通じて分かったのが、基本的にはどのWeb3プロジェクトも、半永久的に自律的に動く「インフラになる」ことを目指しているという点です。
これを説明する上で前提としてお伝えしたいのが、Web3における重要な概念である「コンポーザビリティ」についてです。
この言葉は、複数の要素を組み合わせられる性質を意味しています。そして、Web3においてはプロジェクトはいわば「コンポーネント(部品)」的なものであって、他のものにも転用できる仕様が好ましいという考え方があります。
この概念はよくレゴブロックに例えられるのですが、世界中の誰もがブロックを組み合わせて自由に道路や商業施設を作れるように、Web3ではブロックチェーン上に公開されているソースコードを組み合わせて、誰でも新たな価値を生み出すことができるイメージです。
その対比として、Web2の世界では、営利企業として利益最大化を目指すという前提から、基本的にプロダクトのソースコードやユーザー情報は非公開にされていて、オープンソースとして切り出されるものはほとんどありません。
つまり、多くのWeb3プロジェクトが目指す「インフラになる」とは、運営側としてコンポーザビリティなプロダクトを作ることで、デベロッパーに様々なアプリケーションを生んでもらって関与する人を増やし、エコシステムの価値拡大を目指しているということです。
自分たちの取り分を増やす「独占」ではなく、「全体の富の最大化」ともよく表現されますね。
これは、不動産系のデベロッパーの方々が都市開発を行うことで、その土地の価値が上昇していく仕組みと似ています。インフラが整って、色々な人が集まってまちづくりが進めば進むほど、資本や人の流動性が加速して経済が発展していくという感覚です。
この都市や経済のような価値を、ブロックチェーンの仕組みでも同じように構築できると思うと面白い世界ですよね。それは今、Web3時代になって初めてチャレンジできる領域だとも思います。
情緒的な繋がりをもってコミュニティを形成するハッカソン
金城 このようなヒアリングによって、今多くのDAOが求めているのは、エコシステムの拡大に貢献してくれる「デベロッパーコミュニティ」の形成だということが分かりました。
そして、どのようにデベロッパーコミュニティを形成するかという手段を考えた時に、バウンティジョブに代わるものとしてとられている手法が「ハッカソン」でした。海外のweb3プロジェクトにおいては、すでにこれがマストなソリューションになっています。
そういった背景から、僕たちもYours DAOから方向転換し、ハッカソンを通じたWeb3プロジェクトのコミュニティ形成、つまり分散化を促進させるプラットフォームとして、現在「AKINDO」の開発を進めています。
高良 AKINDOの仕組みは、出題されたテーマを元にデベロッパーの方々がアウトプットを提出して、運営側がそれを評価して報酬を支払う形なので、現状はバウンティジョブの仕組みと大きく変わりません。
ただ、ハッカソンにはバウンティジョブと違って「テーマの範囲であれば何を作ってもいいよ」という自由さがあるので、デベロッパーのクリエイティブセンスによって面白いものがどんどん生まれるという特徴があります。
また、ハッカソンへの参加者は金銭的なモチベーション以上に、技術への純粋な興味や仲間作り、実績作りをモチベーションに参加する人が多いのも特徴です。
金城 そういった彼らの気持ちに報いるという点でも、今後は参加者の実績を証明するものとしてNFTや「SBT(Soulbound Token ※)」のような技術を活用して、彼らが次の雇用機会やリターンを得られる仕組みも構築していきたいと考えています。
※「譲渡不可能なNFT(非代替性トークン)」のことで、イーサリアム(ETH)の共同創設者ヴィタリック・ブテリン氏が、暗号資産の次のテーマとして提唱している
そして、デベロッパーコミュニティを形成して、プロジェクトをDAO化した次に重要なのは、いかに「金銭的なリターン以上に、情緒的な価値が上回っている状態」にもっていけるか、かなと。
例えばビットコインには「最初の世界通貨を作る」という思想がありましたし、イーサリアムには「ワールドコンピューターを作る」という思想があって、そこに共感した人が集まったわけですよね。
なので、最初は金銭的なインセンティブを目的に人が集まってもよくて、気づいたらビジョンにも共感していてコミュニティが拡大していく、そして運営が存在しなくてもそのプロトコルがいわばグローバルな公共財として永続的に継続していく、というのが理想的だなと思います。
AKINDOをプロトコル化し、Web3エコシステムの発展を目指す
金城 現状、AKINDOのハッカソン運営の仕組みはWeb2的なものになっていますが、僕たちは将来的にはそれをプロトコル化していきたいと考えています。
ハッカソンの仕組みは、視点を変えるとブロックチェーンのPoW(※)の仕組みに近いと思うんですね。
※PoW(プルーフ・オブ・ワーク)は、ビットコインをはじめとした暗号資産のマイニングのことを指し、ビットコインでは10分に一度ブロックをマイニングしたマイナーに報酬が割り当てられる
その観点から、中長期的にはAKINDOプロトコルとして、あらゆる人がハッカソンをフックに独自のプロトコルを作れるような仕組み、いわばプロトコルのためのプロトコルというようなものを実現できたら良いなと思っています。
また、直近では「Tokyo web3 Hackathon」と銘打って、国内におけるweb3ハッカソンを企画しています。
「Trasition from web2 to web3」をコンセプトにしたハッカソンで、実績や経験のあるWeb2エンジニアさんにWeb3の世界へどんどん来ていただきたいなという思いも込めています。
現時点で2022年10月下旬頃の開催を見込んでいるので、ぜひいろんな方に参加していただけると嬉しいです。
高良 僕は、DAO全体としては、目的によって様々な形があって正解はない世界なので、今後も模索していくべきフェーズだと思っています。
また、個人としてはWeb3領域での活動を通じて、今まで評価の対象となり得なかったことを可視化し、人々の選択肢を増やす仕組み作りに携わっていきたいなと思います。
ただ、そう思う一方で、すべての物事が評価の対象になり得ると、人に対する順位づけがこれまで以上に行われてしまい、活躍できていなかった人がより活躍できないという世界線にもなりかねないと思うので、そうした人々のセーフティネットも同時に考えていきたいと思いますね。(了)