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「エンジニアリングの全ての壁を無くしたい」ユーザベースが挑むPlay Engineeringで目指す未来

「エンジニアリングの全ての壁を無くしたい」ユーザベースが挑むPlay Engineeringで目指す未来

ソーシャル経済メディア「NewsPicks」や、SaaS事業のSPEEDA、FORCAS、INITIALなどを展開し、グローバルにさらなる成長を続ける株式会社ユーザベース

同社は、2022年4月に「誰もがエンジニアリングを楽しめる世界」を目指すプロジェクト「Play Engineering」を始動。その第1弾の取り組みでは、エンジニアか否かを問わず、特定の技術スキルの保有者に対して手当てを付与する「プラスエンジニアリング手当」や、全メンバーを対象としたエンジニアリング研修などを実施した。

その後は、エンジニアではないメンバーの学びを支援する「プログラミングスキル習得支援制度」「Play Engineering for Kids」、自社および経済情報領域における「ChatGPT・LLM活用推進プロジェクト」などを続々と打ち出し、その推進力を高めてきた。

こうした約1年間の取り組みを通じて、社内ではエンジニアとそうでない職種のメンバーの垣根なく、活発な交流と協働がなされるシーンが目に見えて増えているという。

そこで今回は、本プロジェクト全体を主導してきた同社代表取締役の稲垣 裕介さんと、技術広報・Play Engineeringプロジェクトマネージャーの西和田 亜由美さんに、第2弾以降のプロジェクトの具体についてお話を伺った。

※第1弾のプロジェクト詳細については、こちらの記事をご参考ください
全メンバー対象のエンジニアリング研修も!ユーザベースが描く技術とビジネスが融合する未来​​

親子でプログラミングを学べる「Play Engineering for Kids」を開催

稲垣 僕たちが全社で「Play Engineering」プロジェクトを実施している背景には、「エンジニアはもちろん、それ以外のメンバーも含めて、誰もが技術に触れ、技術を楽しんで仕事ができるようにしたい」という思いがあります。

しかし、エンジニアではないメンバーからすると、エンジニアリングに対して「まず触れてみる」「興味をもって一歩を踏み出す」という、最初のステップが難しいことも事実です。

そこで、会社がそのきっかけとなる制度を作り、みんながプログラミングに親しめるように支援することが大切ではないかと考え、2022年4月からさまざまな取り組みを進めてきました。

▼代表取締役 Co-CEO/CTO 稲垣 裕介さん

西和田 現在、Play Engineeringで打ち出している取り組みは、以下の6つです。

・プラスエンジニアリング手当制度
・技術研究所「UB Research」の設立
・Play Engineering for Kids
・プログラミングスキル習得支援制度
・Startup CTO of the year 2022 powered by AWS
・ChatGPT・LLM活用推進プロジェクト​​(2023年4月リリース)

まず、以前の取材でご紹介した第1弾の「プラスエンジニアリング手当」は、エンジニアに限らず、特定の技術スキル保有者に対して手当を付与する制度です。

ユーザベース様_SELECKまた、全メンバーを対象にしたエンジニアリング研修、コーポレートメンバーによる「業務効率化自慢コンテスト」なども実施しました。

ユーザベース様_SELECK ユーザベース様_SELECKその後、第2弾以降として実施した技術研究所「UB Research」の設立と、「Startup CTO of the year 2022」の開催は、社外にも向けた中長期的な取り組みになるため、後ほどご紹介します。

そして、エンジニアではないメンバーが最初のステップを踏み出せるように興味喚起を促す「Play Engineering for Kids」や、メンバーのプログラミング学習を支援する「プログラミングスキル習得支援制度」があります。今回はこの2つをメインにお話しできればと思います。

まずPlay Engineering for Kidsは、弊社のメンバーがお子さんと一緒に参加できるプログラミング教室です。

ビジネスポジションのメンバーの中には、「そもそもエンジニアリングって何?」「どういうことをするの?」といったように、ぼんやりとしたイメージしか持てていない方もいます。

そうしたメンバーに、家族でプログラミング教室に参加していただくことで、お子さんの好奇心を育むとともに、ご自身がエンジニアリングについて知る第一歩にもなれば、という取り組みです。

本取り組みの特徴は3つあり、1つ目はユーザベースの社内エンジニアが講師となって、プログラミングを教えてくれること。

2つ目は、家族で一緒に相談しながら楽しく学べること。家族であれば誰でも参加できるので、お子さんとおじいちゃんやおばあちゃんが一緒に学ばれるご家庭もあります。

3つ目は、プログラミングだけでなく、ITやビジネスに関するニュースも学べる場になっていることです。昨年、「News Picks for Kids」という子ども向け新聞をリリースしたのですが、そちらと連携して、環境問題や最新のIT技術に関するトピックなどについても学べるようになっています。

このような「Play Engineering for Kids」を通して、未来を担う子どもたちにエンジニアリングに興味をもってもらい、同時にエンジニアリングやプログラミングに馴染みがなかったメンバーにも興味を促すきっかけになればと考え、実施しています。

「プログラミングスキル習得支援制度」で学びの第一歩をサポート

西和田 次にご紹介するプログラミングスキル習得支援制度は、提携しているDMM WEBCAMPさんのプログラミングスキルカリキュラムを、メンバー価格で受けられる制度になっています。

この制度は「プログラミングを学びたいけれど、最初の一歩が踏み出せない」という方のサポートになればと考え、スタートさせました。

現在、提供しているカリキュラムは以下の6つです。

・はじめてのプログラミング
・Webアプリケーション
・フロントエンド
・Python
・PHP/Laravel
・Java

カリキュラムの進め方は、オンライン学習を自分で進めていき、週に2回、25分間DMM WEBCAMPさんのメンターと話して疑問点をクリアにする流れになっています。もしメンターと話すまでの間に疑問が出てきた時は、社内エンジニアに聞いて解消している受講者が多いようです。

また、プログラム受講期間は自分で選べるようになっていますが、ほとんどの方が週末に集中して勉強されていて、平均で3ヶ月程度で修了される方が多いですね。そして、カリキュラムの最後にテストを受けていただき、そちらに合格すれば修了となります。

2022年12月に本制度を開始する社内アナウンスをしたところ、すぐに5~6名の申し込みがありました。ちょうど年末年始前だったため、「長期休暇中にプログラミングを学びたい」という声もありましたし、産休・育休メンバーからの「仕事から離れている間に、オンラインで学びたい」というニーズもありましたね。

▼技術広報・Play Engineeringプロジェクトマネージャー 西和田 亜由美さん

受講者の顔ぶれとしては、「エンジニアともっとコミュニケーションを深めたい」「開発要件定義の理解を深めたい」といった理由で申し込むデザイナーやPMが多いです。

中でも印象深かったのは、「以前から、法人向けCRMのようなサービスを自分で開発してみたいと思っていたんです!」という熱い動機で受講してくださった方ですね。

その方は、弊社が展開する営業DXソリューション「FORCAS」のセールス担当なのですが、「Webアプリケーション」のコースを受講され、ちょうど先日修了されたところです。

そのような方々が意欲的に学んでくださった結果、2022年4月時点ですでにカリキュラムを修了した方が4名、受講中の方も含めると合計7名となっています。

実は、本カリキュラムの受講者は、希望すれば、社内エンジニアチームにインターンとして参加することができます。さらにその後、研修や面接を受けて技術が評価されれば、元々はエンジニアではなかったメンバーが、新たにエンジニアとしてのキャリアを積める社内ロードマップも設けています。

Slackで教え合うなど、職種間を超えるコミュニケーションが生まれた

西和田 この「プログラミングスキル習得支援制度」の大きな特徴として、社内エンジニアからのサポートや受講者同士でのコミュニケーションが活発な点が挙げられます。

例えば、受講者限定のSlackチャンネルがありますが、そこには受講者だけでなく、社内エンジニアがなんと約100名も参加してくれていて。受講者がわからないことを質問すると、すぐに誰かが教えてくれるんです。

▼Slackチャンネルでは、受講者の疑問にエンジニアが答える協力体制ができている

そのチャンネルに限らず、逆に受講者が個人の発信チャンネルで「ここがわからない…」とつぶやくと、それを見つけたエンジニアがアドバイスをしてくれたり、同じカリキュラムの受講者同士で教え合ったりと、自然とコミュニケーションが生まれています。

この制度を通じて、単に受講者のプログラミングスキルが向上するだけでなく、エンジニアとそうではないメンバーのコミュニケーションが活発になったことは、会社として非常に大きな意義があると感じています。

それも、自然発生的にエンジニア側から「何かわからないことがあったら、遠慮せず聞いてください!」とSlack投稿してくれていることが、特に素晴らしいなと思っています。

元々、「誰かに自分の知識を伝えたい、教えたい」というエンジニアが多いこともあると思いますが、会社として「プログラミングスキル習得支援制度をやるよ」と意思表示したことで、エンジニア側にも「積極的にコミュニケーションをとろう」という空気感が、これまで以上に生まれたのかもしません。

まだ制度が始まって約4ヶ月なので、インターンに参加する方は出てきていませんが、今後はそういった方も出てくると思います。それによって、さらにエンジニアとそうでないメンバーの交流が活発化していけば、と期待しています。

※受講者の体験談については、同社のPodcastもご参考ください
Meet UB Tech #35「ユーザベースの、プログラミングスキル習得支援制度を利用してスキルアップした皆さんに話を聞いてみた

エンジニアの地域格差是正のために、沖縄でテックイベントも開催

稲垣 最後に、社外に向けたPlay Engineeringの取り組みについてもご紹介します。

まず、技術研究所「UB Research」の設立です。これは「あらゆるデータを生きた経済情報として利用可能にすること」を目指して立ち上げました。

2023年1月に稼働を開始し、現在は協働パートナーを募集しています。技術研究所から、学会などを含めた世の中に対して「この技術で、こんな面白いことができますよ」というアウトプットを発信していけるようにしていきたいですね。

次に、「Startup CTO of the year 2022 powered by AWS」は、以前から開催している創業5年以内のスタートアップCTOを対象としたピッチコンテストです。技術者たちが輝いている様子をモデルとして見せることで、多くの方に「自分も技術を学んでいけば、あんな風になれるかもしれない」と思ってほしいという僕自身の想いもあって開催しています。

そして、厳密にはPlay Engineering外の取り組みですが、2022年10月に沖縄で学生向けテックイベント「Tech BASE Okinawa for Students」も開催しました。

このイベントを沖縄で開催した背景には、エンジニアの地域格差問題があります。

技術者は地方にもたくさんいますし、その中には都市部で働くエンジニアより技術力が高い方もいらっしゃいますが、基本的に受託開発になってしまっているケースも多いです。そのため、「地方のエンジニアが、東京など都市圏の仕事を安い賃金で受注する」という状況になっている場合もあるんです。

特に沖縄は、基本賃金が低いことや就職先自体が少ないことから、働くことに喜びが見出しにくい環境になってしまっていると、現地のエンジニアや学生からも聞いています。こうした地域格差を解消することは、業界全体の大きな課題だと僕は考えています。

そのような問題意識から、「能動的に技術を学び、可能性を広げていくことで、自分たちにも面白い仕事ができるんだ」という状況を生み出す一助になればと思い、このイベントを開催しました。

Play Engineeringは「誰もがエンジニアリングを楽しめる世界」を目指すプロジェクトなので、今後も社内外の取り組みに留まらず、エンジニアリング業界全体の課題についても、アクションを起こしていけたらと考えています。

成果の1つは、全社に「エンジニアリングを楽しむ」文化が生まれたこと

西和田 2022年4月にPlay Engineeringをスタートして約1年になりますが、プロジェクトの制度の対象者は現在約70名います。それを2023年12月末までに100名にすることを目指しています

先日「Play Engineeringプロジェクトを通して、職種まで変わりました!」と嬉しい報告をしてくれたメンバーもいました。

元々はNewsPicksのマーケティング担当として入社した方なのですが、社内のSQL講座などを推進したことでエンジニアリングに興味を持ち、現在はデータアルゴリズム部門で機械学習などの業務を担当しているとのことです。

※詳しくは、同社のコーポレートマガジンもご参考ください
「必要なデータをより早く。全メンバーが身につけたいデータ分析のスキルと知識──SQLを独学で学んだ新卒1年⽬メンバーが社内向け講座を開催」

プロジェクトを通して、エンジニアリングが開発組織だけのものではなく、全社・全メンバーに関わりあるものに変わってきている実感がありますね。

私が特にそれを感じたのが、「プログラミングスキル習得支援制度」の受講者がカリキュラムを修了した時です。そのことを稲垣さんが全社のSlackでアナウンスすると、プロダクトや職種を超えて、みんなが一斉に「おめでとう!」とお祝いしてくれるんです。

▼実際にカリキュラム修了をアナウンスした時のSlackの様子

また、全社的に「エンジニアリングを楽しむ」「面白いね!いいね!と言い合う」というカルチャーが更にできてきたように思います。これはユーザベースらしいところだと思いますし、非常に良い成果ではないかと感じています。

今後の展望については、「プログラミングスキル習得支援制度」の提携先のスクールを増やす、グローバルメンバーも受けられるような制度をつくるといった取り組みを計画中です。

そして、2023年4月にリリースしたPlay Engineering第6弾の「経済情報領域におけるChatGPT・LLM活用推進プロジェクト」では、AI技術に関する社内スキルの向上とともに、社外の企業と一緒にChatGPT・LLMの研究を進めていく方針です。

稲垣 元々ユーザベースはエンジニアとビジネスポジションの交流が活発な会社だとは思いますが、西和田が話してくれた通り、Play Engineeringを通してその垣根がさらに無くなっていくと良いな、と思います。

ChatGPTのような技術も出てきている現在では、ビジネスポジション・エンジニアポジションというくくりに関係なく、しっかり技術の進化をキャッチアップして、みんなで一緒に未来を創造していくことが大切になっていきます。

しかし、他の企業や経営者の話を聞いていると、経営層やビジネスポジションのメンバーが技術的なことを分からないために、ビジネスサイドと開発サイドの協業が上手くできずに苦しんでいるというケースも多いように感じます。

なので、今後もPlay Engineeringを推し進めることで、僕らがそうした協業の仕方を提示していければ、社内だけでなく、業界や社会全体に対してもインパクトがあるのではないかと考えています。

そのためにも、今後も新しい技術をキャッチアップし続け、それをどんどん施策に落とし込み、挑戦するというサイクルを続けていきたいと思います。技術が日進月歩だからこそ、僕ら自身も変化を恐れずにトライを続け、今後も社内外に良いメッセージを発信していきたいです。(了)

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