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- 成田 一生
エンジニア評価のズレと育成課題を解消!クックパッドがテックリード制を導入した理由
〜「マネジメントが必要ない組織」が理想。エンジニア1人ひとりと抜け漏れなく向き合う体制を構築した、クックパッドの組織づくりを紹介〜
「組織で成果を出す」エンジニアは、どうすれば育成できるのだろうか?
月間約6,000万人が利用する、料理レシピ投稿・検索サービス「クックパッド」を運営する、クックパッド株式会社。
今やそのエンジニア組織は100名を超える規模となり、また若手の割合が増えたことで、「組織で成果を出すことをどうやって教えるのか」という課題が出てきたのだという。
そこで同社では2017年7月より、「テックリード」と呼ばれる、いわば「ミニCTO」のようなポジションを新設。
各テックリードが、所属するチームのエンジニアのマネジメントに責任を持ち、エンジニア全員がエンジニアによって評価される体制を作ることで、よりチームとしての力を最大化することが狙いだ。
「テックリード制を導入したことで、以前はもやがかかっていたエンジニア100人の様子が手に取るようにわかるようになった」と語るのは同社CTOの成田 一生さんだ。
今回は成田さんと、テックリードを経て現在はメディアプロダクト開発部の部長を務める渡辺 慎也さんに、テックリード制の導入背景から、1on1の運用を始めとする実態、目指す組織像についてまで、幅広くお話を伺った。
組織の拡大で「働き方やチームでの開発力の育成」が課題に
成田 僕はCTOとして、クックパッドのエンジニアの全体の技術や採用、組織づくりといった部分に責任を負っています。
エンジニアの育成という部分で言うと、実はクックパッドは課題を抱えていました。
そもそも「育成が必要ない人を採るぞ」というスタンスで採用をしてきていたのですが、この数年で新たな課題を感じていて。
背景としては、数年前から正式にエンジニアの新卒採用を始めて、今では全体で100人ほどのうち、約4割が新卒ということがあります。若手が増えたことで育成に力を入れる必要が出てきたんです。
とは言っても、クックパッドに入ってくるエンジニアの新卒は、コード自体は書ける人がほとんどです。技術的な部分は、基本的には教える必要がないんですね。
ですが、組織で成果を出せるようになるには、それなりに経験やトレーニングが必要です。それをどうやって現場で教えていくか、という課題感がずっとありました。
また同時に抱えていたのが、エンジニアの評価です。クックパッドの場合、エンジニアの評価者である上長がエンジニアではないケースがあって。
そうすると結局、書いているコードの質が正しく評価できないわけです。それは健全ではないし、若手の成長のためには、エンジニアとしてのキャリア形成を見越した技術観点のフィードバックが必要なんですね。
そこで、僕自身が1年かけて全員と1on1をやってみたりしたのですが、それでは足りないんですよ。「面接以来、全然喋ってなかった」みたいな人もどうしても出てきてしまって。
そこで2017年の夏から各部署に「テックリード」を選出し、周りのエンジニアのスキルアップ、キャリアや評価に関わってもらうことにしたんです。
マネジメントが「現場の面倒見の良いシニア」頼みだった
成田 テックリード制が導入される以前は、なんとなく各部署に面倒見の良いシニアの存在がいて、評価に関わったり、若手の相談を受けたりしている状態でした。
例えば隣にいる渡辺も、テックリードになる以前はまさにそういった存在だったんですね。
ですが制度ナシで現場に任せている状態では、全員をカバーできないんです。面倒見の良い人がいない部署もありますし、誰の目もかけられていない人が生まれてしまうこともあります。
渡辺 私がクックパッドに入社したのは、2015年の12月です。前職でマネージャー的な立場をしていたので、もう一度ちゃんとコードを書きたいと思い、クックパッドに入りました。
現在はメディアプロダクト開発部で部長をしていますが、こちらに異動してきたのは2017年の1月です。異動を経験した中で、評価に対する部署間の違いはたしかに感じていました。
違う部のメンバーとコミュニケーションを取った時に、「こういうズレがあるよね」みたいな話が若干出ていたのは事実ですね。
成田 そういったことをなくすために、テックリード選出の際にはまんべんなく全員をカバーできるようにしました。
部署の違いだけではなく、専門性の違いも考慮して「エンジニアはエンジニアが評価出来るように」意識して組織しました。当時は渡辺を始め、10名弱をテックリードに任命しましたね。
今は、エンジニアが部長を務めているところもあわせると、テックリードと合わせて15名弱がエンジニアのマネジメントの責任を負っている形です。
1on1を通じて、エンジニアの成長を助ける「テックリード」
成田 テックリードの役割を明確に言語化しているわけではないのですが、いわば「ミニCTO」みたいな感じですね。大きく「技術」と「マネジメント」の2つの領域に責任を負っています。
技術で言うと、担当している人がちゃんとコードを書けているのか、正しい設計が出来ているのか、といったことを見ています。
一方でマネジメントは、どちらかと言うと「メンタリング」に近いものです。
具体的には、部署のメンバーと1on1ミーティングをしてもらって、その人がエンジニアとしてどうなりたいのか、開発で問題を抱えていないか、成長のために勉強しているのか、といったことを話してもらいます。
渡辺 1on1の頻度や内容はテックリードによって違っていて、今は進め方などもフォーマット化されていません。
ただ1on1って、「やり方」だけを気にしていても、多分うまくいかないんですよね。それより重要なのは、1人ひとりに合わせた引き出しを持って、メンバーに接することだと思っています。
そもそも私は、1on1は無くなった方が正しい姿だと思っているんです。「ちゃんとセッティングしないとコミュニケーションが取れない状態」というのは不健康ですし、「ちょっとランチ行きましょうよ」って気軽に誘えるような関係でありたいですね。
ただ、いきなり最初からそのような関係は持てないですよね。ですので、まずは1人ひとりとの関係性を築くことからスタートします。
実際に一番最初は、全員と毎週実施していました。徐々に感覚や考えが擦り合ってきたら、2週間に1回にしようか、という感じで減らしていきましたね。
関係性が築けていくと、「この人がどうしてこういう行動を取っているのか」「なぜこの壁を壊せないのか」という理由が徐々に見えてきますし、それがコミュニケーションのヒントになります。
また、その人の今の状況によって、短いスパンでフィードバックをあげた方がいい場合と、細かく指示はしないでどんどん任せた方が良い場合もあります。
中堅になってくると、しょっちゅうフィードバックしても意味がなくて、3ヶ月くらいあけた方が良かったりするんですね。ですので人によって、間隔は変えるようにしています。
スローガンを通じて、「チームで働くこと」の意義を伝える
渡辺 また私の場合は、部署の「スローガン」を作っています。
今年は部署のスローガンとして、「チームの成果を最大化させることは、個人の成果を最大化させることに繋がる」ということを掲げています。
と言うのも、個人でがむしゃらに動くのではなく、チームの成果を最大化させるように動くと、結果的に自分の成果も最大になるんですね。
それは何故かと言うと、自分ひとりで動いてできる範囲って限られているじゃないですか。実は自分ができないことを他の人は得意だったりするのですが、自分のことばかりだと、それになかなか気が付けないこともあります。
自分が不得意なことは得意なメンバーに助けてもらえた方が成果を出せますが、give and take の「take」ばかりでは誰も助けてくれなくなりますよね。
そこで自分が「give」をするためには、「この領域では他のメンバーには負けない」という強みを持ち、その強みで互いを補完し合いながら成果を最大化していくことが必要です。
ですがその伝え方も、単純に「チームとして働け、チームのために尽くせ」と言うだけじゃ、絶対変わらないじゃないですか。
なので、チームの方針として「チームで働くことは自分のためになる」ということをスローガンにして、きちんと伝えたかったんです。
私は基本的に無理矢理やらせるのは好きではなくて、自律して欲しいと思っているんですね。マネジメントもやることはやるのですが、やっぱりそれが不要になる組織が理想だと思っていて。
ですのでこうしたスローガンなどを通じて、自分で自分が働きやすい環境を作っていってくれるのが一番良いと思っています。
テックリードという「ラベル」により、曖昧だった役割がクリアに
成田 渡辺がテックリードになった前後で、やっぱりチームの成長の仕方が全然違いましたね。
それまでエンジニアとして伸び悩んでいた人が良くなってきたり、ということがあったので、やっぱりかなり効果があるんだと思います。
CTOの立場からすると、テックリード制を導入して一番良かったのは、エンジニア100人の様子が手に取るようにわかるようになったことです。
以前は「あの辺はよくわかるけれど、あっちはちょっと…」みたいな感じで、もやがかかっている感じだったんですよ。
今はSlackのチャンネルでテックリードとコミュニケーションしているのですが、テックリードの人達はやっぱり優秀なエンジニアなので、自主性が非常に高いんです。
社内のエンジニアが抱えている問題であったり、今がんばっている人であったり、そういった情報をどんどん共有してくれるので、もやがかかっている所がかなり少なくなりました。
また、以前は会社として曖昧だった制度や役割が、テックリードという「ラベル」によってクリアになったことは大きいと感じています。
テックリード本人にも意味があるし、「あの人テックリードだよね」って周りからわかることも重要だったかなと。
ある人が「テックリードになって他部署からも質問を受ける回数がすごく増えた」と言っていて。それは、テックリードというラベルがあったことによって起こっていることだと思います。
他にも1on1をしている時に、「僕もテックリードみたいになりたいです」という発言をしている若手もいて。目指す像としてもわかりやすいので、メンバーのキャリアパスにも良い影響があったのではないでしょうか。
社員1人ひとりが「自考自動」できる組織を実現したい
成田 今は、テックリードの負担が高いことを問題意識として持っています。技術面を見ながら育成や採用もやって、しかも開発は通常通りやっている(笑)。
この部分はもう少し、技術とマネジメントを分業するといったことを行って、仕組みで解決していきたいと思っています。
そしてクックパッドとしては、社員1人ひとりが「自考自動」できる状態を実現したいと思っています。
自分が何をすることで会社に貢献できて、さらに自分の成長にもつながるのか、ということを自分で考えて、そうなるように自分を動かしていく、ということです。
皆がこれができるのが望ましい姿ですし、それが実現できると、組織として人数以上の力が発揮できるだろうと考えています。
例えばチームに10人いるとして、10人がそれぞれバラバラに、言われたことだけやっていたら組み合わせの力っていうのは出せないんですよ。
10人いるからこそ、20人分の成果を出せる状況にしないといけないですし、そのためには1人ひとりが自分で考えて自分で動いて、周りと協調し合いながら成果を増やし合う必要があります。
その状態が、マネジメントがなくても勝手に実現されるのが理想ですよね。ここに向かっていくために、今後も組織として1人ひとりの自主性を伸ばしていきたいですね。(了)
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