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急拡大する「音声マーケティング」市場を知る。実践事例【5選】をご紹介
2020年1月に招待制のチャットSNSアプリ「clubhouse」が日本に上陸したことをきっかけに、「音声コンテンツ」が再び盛り上がりをみせています。
もともと海外では、日本に先駆けてスマートスピーカー(※)などの音声対応デバイスが広く普及してきました。
※スマートスピーカー…音声認識機能と検索機能をもち、対話形式によってその操作を可能とする機器のこと
とある調査では、調査対象のうち、約4割の企業がすでに音声を活用したマーケティング活動を行っていたという報告もあるほど、マーケティング手法の新たなトレンドとしてそのポジションを確立しつつあります。
この「音声マーケティング」と呼ばれる手法は、「音声対応のデジタルデバイスを活用し、ターゲットオーディエンスに到達するための一連のマーケティング戦略・戦術」のことを指します。
音声マーケティングは、視覚情報が氾濫する中で「広告が煩わしい」と感じる消費者の潜在的なニーズにも対応し、世界的にも注目を集めています。
実際、音声に関する市場はここ数年で急成長し、2023年には800億ドルに達するともいわれています。
とはいえ、日本における音声マーケティングは「コンテンツ論」止まりな部分も多く、まだまだ伸びしろがあり、今後より注目すべきマーケティング手法といえるのではないでしょうか。
そこで今回は、「音声マーケティング」の定義から注目されている背景、その実践例までをまとめてご紹介いたします。
「音声マーケティング」とはなにか?
「音声マーケティング」とは、「音声対応のデジタルデバイスを活用し、ターゲットオーディエンスに到達するための一連のマーケティング戦略・戦術」のことを指します。
音声対応のデジタルデバイスとは、スマートフォン、スマートスピーカー、スマートテレビ、そして自動車など幅広いものが対象です。
そして、ただ音声コンテンツを用いてマーケティング活動を行うだけではなく、音声検索最適化(VSO)や、ブランド認知を強化するために音を活用する「ソニックブランディング」など幅広い活動が含まれます。
実際に施策を実行する際には、以下の3つのステップに則って進めことになります。
- 音声コンテンツを制作、あるいは既存のコンテンツをオーディオ形式で利用できるようにする
- 音声コンテンツを通じて、顧客体験(CX)を向上させる
- 音声コンテンツを通じて、ブランド認知を向上させる
なぜ「音声マーケティング」に注目が集まっているのか?
そもそも、なぜ音声マーケティングが注目されているのでしょうか? その理由は大きく3つ挙げることができます。
1.音声対応デバイスの登場による、消費者行動の変化
まず挙げられるのが、音声対応デバイスに対する需要の拡大です。
音声の活用が進んでいる米国では人口の16%、つまり3,900万人が自宅にスマートスピーカーを所有し、2022年には約50%が音声を通じて買い物をすると予測しているデータもあります。
それに対し、2020年に総務省が行った調査によると、日本国内における音声対応デバイスの普及率は15.5%とされています。しかし、安価な商品などが今後普及していくことで、さらなる拡大が見込まれると考えられます。
さらにコロナ禍によって在宅時間が増えたことから、「ながら聴き」ができるポッドキャストやラジオ、音楽のストリーミングなど、様々な音声コンテンツの消費も急拡大しています。
広告を主な収入源とするポッドキャストは、その収益性の高さから「Amason Music」や「Spotify(スポティファイ)」など大手配信プラットフォームも注目しており、今後は広告の出稿を検討する企業もますます増えていくのではないかと予想されます。
2.ユーザビリティの高さ
そして2つ目は、音声コンテンツのユーザビリティ、つまり使用感の高さが挙げられます。
まず人間の特性として、文字を読む、画像や動画を見るといった行為よりも、音声の方が楽で馴染みやすいということがあります。
例えば、Webページにおいてユーザーが読むテキストの量は28%にすぎないとされているほど、文章を読む行為はまとまった時間や集中力が必要であり、発信側からしても伝えたい情報が正確に届いていない可能性が高いのです。
さらに、スマートフォンの依存性による睡眠不足やメンタルヘルス疾患などが社会問題として取り上げられつつあり、インターネットユーザーの多くはスクリーンに費やす時間を減らしたいという願望を持っているとする調査もあります。
そうした中、Apple社の「airpods」の登場によって、ハンズフリーで、いつでも誰とでも交流ができる新たなユーザー体験が生まれ、ユーザビリティの高い音声サービスの提供価値が改めて認識されているのです。
3. CXやエンゲージメント、ブランド認知の向上を期待できる
そして3つ目は、上記2つを踏まえて、CX(※)や消費者エンゲージメントの向上、そしてブランド認知の強化が期待されることが挙げられます。
※CX(Customer Experience)…消費者やユーザーが企業の商品・サービスに興味を持ったポイントから、その商品やサービスを購入・利用するまでの一連の体験のことを指す
人格や温度感を伝えやすい音声広告には、顧客のエンゲージメントを高めることが期待されています。実際、Adobe社の調査によると、消費者の39%が「他のチャネルの広告よりも興味を惹く」と回答しており、音声広告は親密性の高い関係を形成するのに有効だとわかります。また、消費者の38%は音声広告を「不快に感じづらい」と回答しています。
このような特徴から「音声広告はディスプレイ広告よりも購入意向を2倍高め、広告想起率が24%高くなる」とも言われており、エンゲージメントの向上が見込まれます。
また、ポッドキャストリスナーの約8割が「気に入った番組のすべてのエピソードを聴く」「企業SNSをフォローする可能性が高まる」といったデータもあり、リスナーとの継続的な接点によってファン化につなげることも可能です。
上記3つの理由に加えて、視覚に障害を抱える方など、これまでリーチできなかったターゲット層にコンテンツを届けられるという点や、業務の効率化が可能になるといった点も、音声マーケティングが注目されている背景として挙げることができます。
日本の音声広告市場の現状は?
では、国内における音声広告の市場は、どのような現状なのでしょうか?
「音声広告」の市場に関しては、株式会社デジタルインファクトの調査によると、2020年の市場規模は16億円で、2025年には430億円規模に達すると予測されています。
「音声広告」という広告媒体の評価ポイントは、各プラットフォーム・メディアのユーザー属性に合わせて、細かいカスタマイズを行いながら出稿できるという点です。消費者のニーズが多様化する現代において有効なマーケティングチャネルとして注目されているのです。
また「YouTuber」や企業による動画配信と比較して、音声コンテンツは顔を出す必要もなく、コストも安価で編集作業の負担も少ないというメリットがあり、コロナ禍の社会変化に伴い、市場が急速に拡大しています。
実際、国内のオーディオブック市場は2021年には140億円、2024年には260億円に達すると予測されています。例えば、コンテンツプラットフォーム「note」でも音声コンテンツの有料販売ができるようになったほか、ECサイト「Stores.jp」でも音声コンテンツを販売するクリエイターが存在するなど、その拡大の土壌が整いつつあるといえます。
日本発のボイスメディア「Voicy」を運営するVoicy社によると、日本人の「ながら視聴」が可能な時間は毎週8.9億時間と、巨大な市場開拓のポテンシャルがあるともいわれ、今後はより一層関心を集めると思われます。
【実践手法4つ】音声マーケティングはどうやって実践する?
では、音声マーケティングはどのように実践すると良いのでしょうか。今回は4つの手法をご紹介します。
1.オリジナルの音声コンテンツを制作する
まずは、オリジナルの音声コンテンツを制作する方法です。音声コンテンツを制作する手段は、一から音声コンテンツを制作する方法と、元々アップしていた動画やブログ、オウンドメディアの記事などを音声コンテンツ化するふたつの方法があります。
中でも、ポッドキャストの制作は簡単で、既存のプラットフォームを活用して手軽に配信できるという魅力があります。
例えば、The New York Timesのポッドキャスト「The Daily」は、記事を執筆した記者が内容を解説するといった内容で配信をしており、1日に200万人もの視聴者が聴取しています。
国内においても、組織イノベーションの知を耕すメディア「CULTIBASE」は、Spotify上での10分前後のポッドキャスト配信をはじめ、YouTube上でもポッドキャスト音声を公開するなど、テキスト情報にとどまらない様々なコンテンツを充実させています。
また、音声コンテンツは「人が話す」ものに限りません。例えば「聞いていて心地良い音」としておなじみのASMR(※Autonomous Sensory Meridian Response)音源を活用する方法もあります。
例えば、大正時代から続く世界的な切削工具メーカーである株式会社彌満和製作所は、音を通して新しいブランディングの形を実現するブランデッドオーディオレーベル「SOUNDS GOOD」を通じて、「ネジ穴を開ける、4つの音色。」などの異色の音声コンテンツを配信しています。
このように、自社ならではの強みやユニークさを活かした音声コンテンツは、特に若年層に向けた新たな訴求の突破口として、今後も活用が広がっていくと考えられます。
2.音声広告を活用する
2つ目は音声広告を活用する方法です。音声広告とは、インターネットラジオや「Spotify」などの音楽配信サービスの合間に配信可能な、15〜60秒程度の尺の音声広告のことを指します。
音声広告は、Web広告と比較しても訴求効果が高く、その理由には以下の4つを挙げることができます。
- スキップされづらく、完全再生率90%以上も可能
- 細かくターゲティングした広告配信が可能
- 「情緒的訴求」によってユーザーの想像力を刺激しやすい
- 「視覚の奪い合い」から脱却できる
国内においては、電通グループが2019年にインターネット広告の新たな取り組みとして、「radiko」や「Spotify」に「Premium Audio広告」の提供を開始しています。
これは、音声広告の特徴である「ブランドセーフティ(広告主のブランドを毀損しない)」、「アドフラウド(広告詐欺)のリスクを最小限にする」といった点にも注目し、展開されているそうです。
現時点では、広告を聞いたユーザーの数に応じて費用が発生する形式の音声広告が主流ですが、AI技術を活用し、スマートスピーカーから流れる音声広告に対して購買・質問などのアクションが行える広告(インタラクティブ音声広告)も普及するのではないかと言われています。
実際に、博報堂DYメディアパートナーズは米国の音声広告テクノロジー企業Instreamatic Inc.と共同開発し、2021年1月より「Radiotalk」と連携してインタラクティブ広告の配信を開始しています。その第一弾として、リクルート社が運営する不動産・住宅情報サイト「SUUMO(スーモ)」の音声広告が配信されているそうです。
3.音声を活用してCX(顧客体験)を向上
3つ目は、チャットボットや音声認証システム、スマートデバイスなどを活用してCXを改善する方法です。
重要なのは、音声を活用することで、単に綺麗な音声を出力するということではなく、音声を聞いたユーザーに新たな感情を生み出すことで、顧客との関係を構築することです。
音声を活用してCXを向上させた事例として、ドミノピザの事例があります。
ドミノピザでは、スマートスピーカーの「Google Home」に「グーグル、ドミノと話す」と伝えるだけで、新規オーダーできるというテクノロジーを導入しています。
また、SYNC®AppLink™を搭載したフォードであれば、運転中でも「PLACE MY EASY ORDER」という一言で注文できるなど、顧客に合わせた多様なチャネルで音声を活用し、利便性を提供しています。
また、江崎グリコ株式会社が販売する菓子「プリッツ」シリーズでも、対象商品のパッケージに印刷されたQRコードを読み取るとSpotifyでオリジナルのプレイリストが聴けるといった体験が期間限定で提供されていました。
4.ソニックブランディングを行う
ソニックブランディングとは、製品・サービスに関連するサウンドまたは曲でブランディングを行うことを指します。この時に使用される、企業の特徴を音にのせたものを「ソニックロゴ(サウンドロゴ)」とも呼びます。
例えば、iPhoneのデフォルトの着信音、Macの起動音などは馴染み深いのではないでしょうか。なかには、カスタマーサービスの保留音や店頭での決算時のサウンドでソニックブランディングを行っている企業もあります。
ソニックブランディングは、情緒的な想起に働きかけることにより、ブランドを印象深いものにするのに役立つのに加え、想起を高め、顧客との親和性を高めることが可能です。
クレジットカードの「Mastercard」も、ブランドの新たな発信に向けて2019年に世界共通の新たなサウンドロゴを発表し、アメリカのロックバンド、リンキンパークのマイク・シノダ氏も参加したとして話題になりました。
配信登録制ストリーミングサービス「Netflix」ユーザーの方は、こちらの音も馴染み深いものではないでしょうか。
また、国内では任天堂の例を挙げることができます。任天堂は、オーディオ体験をブランドアイデンティティの基礎に位置付けています。例えば、スーパーマリオブラザーズの「コイン」のサウンドは、長い年月の間ファンを魅了し続けてきました。
音声の活用が進むにつれて、消費者の感情を揺さぶりブランド認知を高めるソニックブランディングへの関心が高まっています。今後、企業ごとにサウンド・アイデンティティを持つ時代がくるかもしれません。
以上、音声マーケティングの定義や求められる背景、様々な手法までご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
視覚情報が飽和している現代だからこそ、情報発信を強化したい企業にとっても是非取り入れたいマーケティング手法ではないでしょうか。ぜひ参考にしてみてください。