• 株式会社Nagisa
  • 執行役員 プラットフォーム事業部長
  • 樋田 顕

継続率1.5倍!ABCDEテストで「ハマる」動線を発見、マンガアプリのグロースハック

〜「ASO対策」「初回セッションにおける体験の最適化」「課金率の向上施策」など、マンガアプリのグロースハックノウハウをご紹介〜

アプリ運営において最も重要な指標のひとつが、獲得したユーザーの「継続率」だ。

多くのプレーヤーが参入するマンガアプリ市場において、「MANGA ZERO(マンガゼロ)」を展開する株式会社Nagisa。同社では、ユーザーの継続率に加え、「ダウンロード数」「ARPU(※)」を向上させるために、多くの施策を行ってきたという。

※ARPU(アープ):ユーザーひとりあたりから得られる収益

同社でMANGA ZEROの事業部長を務める樋田 顕(とよだ けん)さんは、継続率を向上させるには、ユーザーがアプリに定着するまでの行動を分析し、それと同じ行動に全ユーザーを誘導するUX設計が重要だと話す。

今回は樋田さんに「初回セッションにおけるUX設計」「アプリアイコンのクリエイティブ、コイン購入画面のA/Bテスト」など、様々なグロースハック事例を、生々しい失敗談も含めてお伺いした。

ユーザー獲得のために、泥臭いASO施策、SNS施策を行う

MANGA ZEROは、1枚でマンガ1話分を読めるチケットが、毎日無料で8枚ずつ配布されるマンガアプリです。

ダウンロード数は累計で約550万、MAUは150万〜180万になります。KPIとしては「ダウンロード数」「継続率」「ARPU」を追っています。

まず、ユーザー獲得については、App StoreとGoogle Play Storeにおけるオーガニックのダウンロード数を伸ばすためのASO(※)対策を行っています。

※ASO:アプリストア内で上位表示させるための施策

キャッチコピーを「1,000作品が自由に読める」「550万ダウンロード突破」という風に1〜2週間単位で変えてみたり、試せることは泥臭くABCDEテスト位やっていますね(笑)。

▼国内最大級の人気マンガサービス「MANGA ZERO」

これまでですと、アイコンを季節にあわせたクリエイティブに変えた際に、最もインパクトがありました。春なら桜、夏は花火、秋は紅葉、冬は雪というイメージです。

▼季節にあわせてアイコンのクリエイティブを運用

通常、ストア内でのCVRの改善率は5%ほどなのですが、時々35%くらい改善することもあって。その時はめちゃくちゃ気持ちがいいですね。

また、ユーザーを獲得するには、ストア内での施策だけではなくサービスの知名度を高めることも必要です。

そのため、「友達にシェアして先読み」「リツイートしてコインGET!」などの形で、アプリ内からTwitter等でのシェアを生む設計をとても意識しています。

▼アプリ内でシェアを生む仕掛けを設置

シェア時の投稿文はこちら側で設定しているのですが、広告っぽいメッセージだと、広告慣れしているユーザーの目に止まらないので、その人がいかにもつぶやいていそうな文言を設定していますね。

また、スパム判定されないよう、ツイート文も合計15パターン準備して、ランダムに投稿されるようにしています。

▼実際にシェアされている様子

そういった施策を地道に進めていくことで、MANGA ZEROの知名度が向上し、Googleのトレンドワードに登場したりもします。

継続率を高めるために、アプリにハマるまでの動線を分析する

ただ、いくらダウンロードされても、離脱されてしまっては仕方がないので、アプリ運営においては継続率が最も重要です。

継続率を高めるためには、ユーザーがアプリにハマるまでの動線を分析して、どのような体験をすれば継続率が高まるのか? を考える必要があります。

アプリに限らずキックボクシングやダイエット、マラソンといった趣味の領域でも、それにハマる動線が必ずあるはずなんですよね。こういうことがあったから、だんだんハマっていくみたいな。

マンガアプリの場合だと、結局落ち着くところは「マンガと出会って、読んでみて面白かったらアプリにハマる」というところなんです。

ですので、その「ハマる動線」が何かを発見するために、実際に「ハマった」と言える継続率の高いユーザーの行動を分析して、何回この動作をしたらハマったといえるのか? というような議論をしていきます。

継続率を見る際に、よく陥りがちなのが、継続率を全体でまるっと見てしまうことです。

ですが、継続率って細かく分解すると、とても高い人ととても低い人がいるんです。ですので、高い人と同じ行動を、低い人たちにどうやって行ってもらうかを考えるべきだと思っています。

「多読体験」を促すべく、雑誌形式でコンテンツを提供

そして、継続率の高いユーザーの行動を分析していくと、初回セッションにおける、「ビューワー起動数」「最終ページ到達回数」「チケット消費回数」がカギになることがわかりました。

「何回以上であれば」というマジックナンバーはちょっと言えないのですが、そこを超えると継続率が一気に上がります。この分岐点を発見する作業が大変でもあり、面白いところでもありますね。

マジックナンバーを発見したら、次はどのようにすれば、そのような行動をとってもらえるのか? という施策を考えていきます。

僕たちの場合は、初回セッションにおける「多読体験」をいかにもたらすか? を重要視しています。具体的には、こちらで選んだ各作品の1話をひとつにまとめて、雑誌のように続けて読めるように提供しています。

▼多読体験を提供するために、雑誌形式で作品を紹介


というのも、無料でチケットを配布しても、意外と消費されないんですよね。僕らが思っている以上に「チケットを消費してマンガを読む」という行動を習慣化させるハードルは高いんです。

選択の自由が与えられると、ユーザーって面倒に感じてしまうことがあったりするので、難しいんですよね。

アプリを開いて、読んだことのない作品を見た時、「このマンガは知らないし、無料だからあとで読もうかな」という感情になりやすいのかなと思います。

ただ、雑誌形式にして複数のマンガをおすすめすると、「読んでみようかな」という感情になりやすいと思いますし、何かしら興味の持てる作品に出会える確率が上がると思うんです。

この施策によって、初回セッションのビューワー起動回数が約115〜125%改善しました。

失敗した施策も!「動画での作品紹介」「編集部おすすめ」は不発

このように色々と施策を試してみたのですが、当然上手くいかないこともありました。例えば、動画での作品紹介は、もう全く効果がなかったですね(笑)。

30秒の動画だったのですが、単純にリッチ過ぎましたね。5秒だったら良かったのかもしれませんが、ユーザーはスマホアプリ内で30秒も待ってはくれませんでした。あと、単純に動画広告と思われてしまったのかなとも思います。

▼思うような成果のあがらなかった、動画での作品紹介

他にも「編集部おすすめ」という形で作品を紹介する施策も失敗しました。

ジャンプ読者に対しての「ジャンプ編集部おすすめ」であれば響くかもしれません。

ただ、「MANGA ZEROの編集部おすすめ」といっても、そもそも自社のブランドが浸透していないので、プラットフォームに対する「箔」がなく、響かなかったんだと思います。

一方で、おすすめする作品が全く同じであったとしても、「あなたにおすすめ」という表現に変えると、それだけでクリック率が変わります。

あるいは、「◯◯が面白かった」「全然つまらなかった」というような、読者のリアルなコメントがついてると、めちゃくちゃ読まれやすいんです。

▼読者コメントとあわせて作品を紹介

「編集部おすすめ」のような、よくわからないものに対しては、ユーザーは全く感情移入しないんだな、という学びになりましたね。

コイン購入画面のA/Bテストで課金率をグロースハック

「ダウンロード数」「継続率」を高めたら、最後に重要となる指標が「ARPU」です。

まさに今、課金率を高める施策を実施していて、例えば、コイン購入画面で表示している「120円」「480円」といった購入プランの表示数を変えてみたりしました。

あるいは、「120円」のコインに「ちょこっと一息」みたいな一言をいれて、テーマをつけてあげたり、ソシャゲ風に宝箱をじゃらじゃらさせて、インフレ感を出すようなグラフィックテストも試しました。

▼コイン購入画面でもA/Bテストを実施

また、継続率を高める施策を考える場合と同様に、課金ユーザーの行動傾向を分析して、課金されやすい動線を分析しています。

例えば、ダウンロードした初日に無料チケットをN枚使っているユーザーのN%は初日〜翌日までに課金をするといった定量的なデータもみえていて、そこを改善すれば課金率はあがります。

あるいは、読んでいる作品ごとにも課金率が違って、シンプルに「もっと読みたい!」となる衝動が強い作品だと、当然、課金率も高まります。

ですので、細かい機能の改善だけではなく、大元の作品の仕入れも、課金率のグロースハックを進める上では重要だと考えています。

コンテンツ戦争の到来を見据え、オリジナル作品の制作を視野に

このように、様々な施策を泥臭く実行した結果、継続率を約130〜150%改善させることに成功しました。

今後も改善を続けて、常にDAUは100万、MAUは500万以上あるような、国内有数のプラットフォームになることを、あと2年位で実現したいです。

また、自社で強力なオリジナルコンテンツを制作することも考えています。

今、Amazonがプラットフォーマーとして揺るぎないポジションを築いているように、マンガアプリ市場においても、おそらく、3〜4年後にはプラットフォームやマーケティングによる戦いが収束していくと考えています。

そして、コンテンツ(作品)の独自性やクオリティを持つプレイヤーの優位性がより一層増していくのだと思っています。

ですので、それまでに単行本で時間軸など現実的な点も加味して、1巻10〜50万部を超えていくような作品を2〜3作品以上は生み出したいですね。

そのためにも、マンガの歴史を創ってきた出版社にあるようなしっかりとした編集部をつくり、優秀な編集者や作家がのびのびとマンガを制作できるような場を整えていければと考えています。
(了)

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