- 株式会社JUBILEE WORKS
- 取締役 Engineer Co-Founder
- 松田 駿一
13ヵ国語700万ユーザーが使うカレンダーシェアアプリ「TimeTree」成長の裏側
〜「妻のツイート」が広告代わりに!?家族を中心に支持を集めるカレンダーシェアアプリの定量&定性情報に基づいたプロダクト改善をご紹介〜
「予定には相手が存在するのに、個人で管理されているのはなぜだろう?」という疑問から2015年にリリースされ、現在では13ヵ国語で約700万ユーザーに利用されるカレンダーシェアアプリ「TimeTree(タイムツリー)」。
プレスリリースを打っても、どこにも取り上げられない…という初期の状態から、「テンプレを使わないCS対応」「利用データとユーザーインタビューを踏まえたプロダクト改善」を通して、ユーザーを獲得。
2018年1月には、関東にてCM放送も開始するまでのサービスへと成長した。
今回は、株式会社JUBILEE WORKSにて、取締役を務める松田 駿一さんと、開発ディレクションとマーケティングを担当する吉本 安寿さんに、TimeTreeの開発経緯についてお話を伺った。
▼働くママの目線で、TimeTreeを通して家族の絆が深まる様子を描いたCM
[youtube https://www.youtube.com/watch?v=eovzxOQ4gvQ]
壁掛けカレンダーのスマホ版サービス「TimeTree」
松田 「TimeTree」は、2015年3月にリリースした、家族・恋人・友人などのグループでカレンダーを共有できるアプリです。僕は取締役として開発、企画、組織運営を担っています。
TimeTreeの基本的なユーザー体験としては、「家族カレンダー」「いつめんカレンダー」といった特定のグループ向けのカレンダーを作り、LINE等を使って招待し合うというものになります。
▼共有したカレンダー上で予定を作って招待
それらの更新履歴はフィード上で確認でき、また予定ごとに「誰がどのお店を予約するか?」などの詳細をチャットでやりとりできます。
吉本 僕は、開発ディレクションとマーケティングを担当しています。
リリース当初は細かくターゲットを定めていた訳ではなかったのですが、小さなお子さんがいる家族を筆頭に、恋人同士、会社、お子様の習い事のグループなどで使われるケースが多いですね。
例えば、奥さんが晩ごはんを作っていたのに、旦那さんが勝手に飲み会に行ってしまって、喧嘩になる…という話はよくありますよね(笑)。
お子さんがいる家庭だと、両親がダブルブッキングしてしまって、「どっちがお迎えにいくの?」ということにもなりがちです。
そういったすれ違いのトラブルを解消するために、奥さん主導で導入されるケースが多いですね。いわゆる、壁掛けカレンダーのスマホ版です。
テンプレは使わないCS対応と「奥様ツイート事件」で認知を獲得
吉本 リリース初期のマーケティング施策はFacebook広告のみで、主には口コミでジワジワと広がっていきました。
当初は特に、CS対応でユーザーの期待を超えることをとても意識していて。返信用のテンプレートは使わず、問い合わせの雰囲気に合わせて、絵文字なども使いながら返信していました。
また、TwitterとFacebookでいただいたコメントや、Google Play StoreとApp Storeのレビューにもひとつひとつ返信していったことで「対応がとても丁寧だ」という口コミが広がりました。
リリースして半年くらいのタイミングで、App Storeのベスト新着Appに選ばれて、インストールが伸びましたね。
松田 また、とあるきっかけで一気に認知されたという事件もありました。
代表は元々ヤフーで働いていたのですが、その時と比較すると、やはり無名のスタートアップがプレスリリースを打っても、全然取り上げてもらえないんですよ。
それでものすごくがっくりしていた様子を奥さんがツイートした所、それがバズって、一気に認知度があがるという謎の状況が生まれまして(笑)。同情票をいっぱいもらえた、という感じでしたね。
▼実際のツイート
「カレンダーの共有率」「予定の作成数」が初回体験のポイント
松田 このように地道なCS対応に偶然のできごとも重なって、少しずつユーザーを獲得していきました。
プロダクト自体の改善としては、アクティブユーザーの行動を分析して、リテンションを高めるために必要な初回体験は何か? を見極めていきました。
その結果、「カレンダーの共有率」と「予定の作成数」が重要になることがわかりました。
やはり「予定を作成して誰かと共有する」という瞬間が、一番価値を感じていただけるポイントなんですよね。
なので、まずはできるだけ簡単に予定を作成して共有してもらうために、初回体験のフローを変えました。
当初は「カレンダーの種類の選択(家族・恋人・友だちなどから選択)→カレンダーの設定(TOP画像やカラーテーマの設定)→カレンダーへの招待」というフローだったんですね。
ただ、カレンダーの種類を選択するところで少しユーザーが脱落しており、これはユーザーにとって必須の体験という訳でもなかったので、スキップできるようにしました。
▼カレンダーの種類の選択がスキップできるように
また、アカウント登録なしで使えるようにしたり、予定タイトルの入力時に、過去に入力した履歴が出るようにするなど、とにかく「カレンダーを共有して、予定を作成する」という体験に至るまでのハードルを省いていきました。
Facebook Analyticsを活用して、ユーザー行動を細かく分析
吉本 また、弊社ではユーザーの利用状況を分析するために「Facebook Analytics」を活用しています。
DAUやMAUはもちろん、滞在時間、利用頻度、Facebookのデータに基づいたデモグラフィックデータなどを確認することができます。
以前はFlurry Analyticsというツールと併用していましたが、Facebook Analyticsの方が、ユーザーの行動状況に合わせた細かい分析をすることが可能です。
例えば、「予定の作成数やコメント数の多い上位10%」に絞ってユーザーを抽出することができます。
そして、それらのアクティブユーザーがよく使っている機能が何かを把握して、より多くのユーザーに同じ体験をしてもらえるようなUXを設計しています。
▼ユーザーの離脱率を調査するファネル分析画面
松田 また、サービスの健康状態をチェックするイメージで、何かの数値が落ちていれば、その原因に仮説を立てて、改善策を打っています。
例えば、カレンダー単位の共有ではなく、予定単位で様々な友だちとスケジュールを共有できる機能を追加した時に、リテンションが下がったことがありました。
具体的には、この機能に関連する「受信箱」「友だち」といった機能を、メニューのファーストビューに配置したんですね。
▼実際の画面
ですが、初めてサービスを利用するユーザーにとっては、これらの機能をどういうシーンで使えば良いのかイメージしづらく、結果としてユーザーを迷わせることになってしまいました。
そこで、これらの機能をファーストビューから外すことにより、リテンションを改善しました。
▼「受信箱」「友だち」の機能表示を変更(右が改善後)
オフィスパーティーを通して、定期的にユーザーと交流
吉本 また、サービス改善のヒントを得るために、定期的にユーザーの声を集めるアンケートをアプリ上で実施しています。
更に、アンケートの回答者の中からご協力いただける方にお願いして、毎月ユーザーインタビューを行っています。「誰と使っていますか?」「わかりにくい部分はないですか?」と、使っている肌感をお伺いするものです。
その中で、「日程は決まっていないけれど、情報をストックしておきたい」というニーズがあることがわかったので、「キープ」という機能を追加しました。「Today’s ToDo」「買い物リスト」などを作って保存しておいてもらう機能です。
▼日程未定の予定をメモに残せる「キープ」機能
松田 さらに、インタビューという形式だけではなく、初期の頃からオフィスパーティーを定期的に開催して、ユーザーとの交流を図ってきました。
▼オフィスパーティーの様子
来てくださった方々に、サービスの運営者である僕らの顔を見てもらって安心していただくことや、「こんな会社だったよ」と周りに伝えていただけるきっかけになればと思い、今でも続けています。
世の中の予定管理を、根本的に変えていきたい
吉本 このような取り組みを通して、今では多くのユーザーに使っていただけるようになりましたが、まだまだチャレンジしていきたいことがたくさんあります。
まず、カレンダーを公開して誰でもフォローできる「公開カレンダー」のようなものを作りたいと考えています。
実際、好きな芸能人が出演するテレビの番組表を作って、Twitter上で「みんなで更新していきましょう」とシェアする面白い使い方をされている人がいるんですね。
なので、地域のイベント情報など、パブリックな予定が集まるカレンダーを作って、関心のある人がフォローできる仕組みを作りたいと考えています。
また、APIを作って、外部サイト上で「TimeTreeに追加」というボタンを設置してもらうことで、サービスの認知も拡大させていきたいです。
さらに、マネタイズへ向け、昨年末に「TimeTree Ads」という広告サービスをリリースしました。
僕たちはユーザーのスケジュール情報を持っているので、「旅行の予定があれば日焼け止めのクリームが紹介される」というような広告を配信するサービスです。
Facebookがやっているような興味・関心に基づいた広告ではなく、実際の行動予定に基づいた広告サービスを提供できればと考えています。
松田 弊社には、世の中の予定管理を根本的に変えたいという想いがあります。
例えば、誰かと約束していた予定をリスケする時、「連絡をしあって、お互いが個人で使っている手帳やカレンダーを書き換える」といった無駄なことをなくしたいんです。
こういった、予定管理の課題は世界共通のものですよね。なので、リリース当初からクラウド翻訳サービスを使って外国語にも対応させたことによって、今では、様々な国のユーザーに使っていただけるサービスになりました。
これからも、より多くの人にTimeTreeを使っていただいて、「昔はみんな紙の手帳で予定を管理していたんだよ」と言ったら驚かれるような未来を作っていきたいですね。
そのような世界を実現するために、今後もどんどんプロダクトを改善していくことができればと思います。(了)