- ヤフー株式会社
- コーポレートPD本部 働き方改革推進室 室長
- 古藤 遼
上司と「登る山」を握れていれば、働く場所はどこでもOK。ヤフー流・働き方改革の実態
〜5,000人超が「固定席ナシ」で働く!「1on1ミーティング」と「独自の社内システム」に支えられた、ヤフーの働き方改革とは〜
メンバーが自分の固定席を持たずに、オフィスの中の空いている席で自由に仕事をする「フリーアドレス」を導入する企業が増えている。
しかし、「チームが一緒に座らない」ことで、組織のマネジメントやコミュニケーションに問題は起こらないのだろうか?
ヤフー株式会社では、2016年10月の本社オフィス移転に伴い、社内を原則フリーアドレス化した。また、月に5回まで、自宅やカフェなどオフィス以外の場所での勤務を認める「どこでもオフィス」という制度も設けている。
同社で働き方改革を推進する古藤 遼さんは、「ヤフーでは『1on1ミーティング』や目標管理制度によって、上司と部下が『登る山』を常に握り合えているため、目の前に座っていなくても大丈夫」と語る。
また、メンバー1人ひとりがオフィス内のどこにいるかがわかる「pozzy」といった独自の社内システムを用意することで、自由な働き方をバックアップしている。
今回は古藤さんと、情報システム本部の本部長を務める廣瀬 正則さんに、ヤフーの働き方改革とそれを支える仕組みについて、お話を伺った。
▼同社オフィス内の執務スペースの様子
1人ひとりに「選択肢」を提供するのが、ヤフーの働き方改革
古藤 2014年に、移転プロジェクトを推進する役割として、ヤフーに入社しました。
そこでファシリティ部門に入り、副社長の直下に置かれた部署で、現場のエンジニアやデザイナーと組んで移転を進めたのが最初の仕事です。
移転後は、「新オフィスで働くことにはみんな慣れてきたけれど、次は働き方をより良くし続けなければならない」ということで、それを促し続ける役割として、働き方改革推進チームに入りました。
廣瀬 私はもともと2006年から3年間ヤフーにいたのですが、一度辞めて、2015年に戻ってきました。戻ってきた当初は、移転周りのシステムを古藤と同じプロジェクトで担当していました。
今の「情報システム本部長」という肩書は、1年ほど前からです。
基本的には社内のあらゆるシステムやITファシリティ、それに付随するノートPCやネットワークといったものを担当しています。私の部署だけで、100名ほどのエンジニアがいますね。
▼左:古藤さん 右:廣瀬さん
古藤 世の中で「働き方改革」と言うと、時間削減や女性活躍といった話のみにフォーカスされがちですよね。
しかしヤフーはそうではなく、1人ひとり働き方やライフステージが違う中で、それぞれのパフォーマンスを最大化したいと考えています。その実現のための「選択肢」を、人事としては提供したいんです。
例えば、「どこでもオフィス」という「どこで働いても良い」という制度を作った背景にも、こうした思想があります。
ただ組織としては、自由だけ提供してみんなが遊んでしまってはダメですし、会社や事業の方針に対して、全員が成果を出して貢献できていることが重要です。
ですので、働く場所や時間に関してはとにかく自由を提供する一方で、評価制度などは明確になるように整えています。
フリーアドレスは、本当に「コミュニケーションを増やす」のか
古藤 今ヤフーには、拠点も含めると6,000名強が在籍していますが、こちらのオフィスにいるのは5,000名半ばです。
原則、固定席が必要ないメンバーは全員フリーアドレス、という環境になっています。
電話やディスプレイといった設備が必要な人のみ指定席はありますが、残りのメンバーは、働く場所を毎日選択できる環境です
そうしたメンバーが実務をする場所としては、全部で14フロアを同じ環境で用意しています。それに加えて、受付や来客スペース、食堂やコワーキングスペースを設置している形です。
チームが一緒だと同じ場所に集まることが多いので、ある程度働く場所は決まってくるのですが、基本的には本当に自由です。私は社内でも常に鞄を持ち歩いて、好きな場所で仕事をしています。
▼社内でも常に鞄を持ち歩く
実は移転前のビルで、パイロットオフィスを設けて同じような環境を作り、実験を行ったんですよ。
具体的には、「日本野鳥の会」みたいな感じで、観察者がそこで働いている人たちの行動を計測する、というものです。
そして誰かと誰かが「ねぇ」と会話を始めたら、「コミュニケーションが1個生まれました」というのを手元でカチャっとカウントしていました。
すると、元々のオフィスとパイロットオフィスを比較した時に、コミュニケーション量が倍違ったんです。
実際に移転後にもアンケートをとったのですが、8割ほどの人間が働き方の方向性やフリーアドレス導入の目的に対してポジティブな回答をくれました。
また、「環境が変わったことでコミュニケーション増えた」と答えた人も5割ほどいたんですね。
元々このオフィスは「みんながオープンコラボレーションできるように」という思想で作ったオフィスなので、それはきちんと実現できていると考えています。
また、ただフリーアドレスにしただけではなく、オフィス内の席配置を「歩く間に出会う人の数が最大化する」ように設計しています。
更に、各フロアにカフェコーナーのようなマグネットスペース、オープンMTGのエリアを設置することで、コミュニケーションが起こりやすいように工夫を凝らしています。
▼各所にオープンMTGのスペースを設置
「1on1」があるから、目の前に座っている必要はない
古藤 また、フリーアドレスが非常にうまくいった背景のひとつとして、マネージャーと部下の「1on1ミーティング」が仕組みとしてしっかり根付いているのは大きいですね。
これは2012年から始めた取り組みで、一週間に1回、上長と部下が30分話す、というものです。
今はもう制度というより、みんな当たり前にやっていますね。それこそ、違う部門のリーダー同士で1on1をする企画があったり、違う組織同士でも行われていたります。
1on1で話す内容の基本は仕事の振り返りによる内省ですが、進めている仕事の相談や進捗の確認であったり、プライベートの悩みであったり、様々です。
これがあることで、「登る山」を常に上司と握り合っている状態ができます。
そもそも、目の前に座っていれば出勤していることは管理できますが、仕事や本人の状況はコミュニケーションをとらないと把握できないものですよね。
ただ、この仕組みはマネージャー側にスキルが求められるので、そこはしっかりと研修を行っています。新任のリーダーになると、まずヤフーの1on1の型を教える研修が2、3ヶ月程度であるんですね。
廣瀬 私がリーダーになったのは2015年ですが、当時は半年間、週に一度、朝7時に集合して2時間ほど研修を受けていました。
研修では、ミーティングの30分間をどのように使うかであったり、傾聴する姿勢やコーチング、ティーチング、フィードバックの仕方、といったことを学びます。
それぞれの手法をツールとしてきちんと使えるように理論を教わってから、それを元にリーダー同士でロープレをやったり、聞いている人にフィードバックをもらったり、という形です。
古藤 そもそも1on1は、仕事を振り返り、そこから教訓を引き出す、つまり「内省」を促すためのものなんです。
本人が「あれってこういうことだったから、次回はこうすると良くなるかもしれない」という答えを自分自身で導き出せるのが一番良くて。ですのでマネージャーは、あんまり喋っちゃいけないんですよ。
それぞれ人によってやり方も感じ方も変わるので、一律にデータを集めて管理するということはしていません。ログも、各自で残す形になっています。
社内システムを開発し、フリーアドレスによる「課題」を解消
廣瀬 フリーアドレス化にあたっては、システム面でも様々なバックアップを行っています。
以前のオフィスでは、いわゆる座席表的な社内システムがあって、誰がどの位置にいるかわかっていました。しかしフリーアドレスとなると、座席表は作れません。
そこで用意したのが、誰がどこにいるかがわかる社内の位置情報システム「pozzy(ポジー)」です。
システムとしては、社内のWi-Fiネットワークを利用しています。ヤフーでは全員にモバイルノートパソコンとiPhoneを配布しているのですが、Wi-Fiを使ってその位置情報を3点観測する仕組みです。
全体で見ると、いわゆるヒートマップのような形になっていて、各フロアの混雑状況がひと目でわかるようになっています。食堂の混み具合なんかもわかりますね。
▼pozzyの画面スクリーンショット
フリーアドレスなので、人を探すにはこれしかないんですよね。実際、よく使われています。
また、場所を共有できる「ピン」機能は、社内での評判が良いです。社内の特定の場所にピンを立てて、その位置情報をURLで送れるのですが、「ちょっとここで打ち合わせしたい」といった場合に重宝されています。
他にも、誰でも空調を設定できるシステム「Air-con(エアコン)」も社内で開発しました。自分が今座っているエリアの空調を、パソコンから設定できる仕組みです。
もともとは引っ越した当初から「寒い暑い戦争」が起きていて、その対策として用意したのですが、開発は結構大変でしたね。エアコン自体はビルの管理なので、私たちの持っているネットワークとそれをつなぐ必要があったんです。
これは、導入したことで電気代が非常に高くなってしまったり、空調の温度を変えられても自動的に元に戻す人とかが現れて、良い面も悪い面もあるのですが(笑)。みんな面白がってくれています。
古藤 このようにシステム面からバックアップをしつつ、現場では日々色々な工夫もなされていて。
例えば空調に関しては、フロアで寒いエリアを自主的に決めているところもあります。
また以前は、部署によっては固定席の配置がうまくいかず動きづらかったり、集中して作業をしたい人が良い場所を見つけにくかったり、といった課題もありました。
そこで、固定席の配置を変えたり、集中したい人はコワーキングスペースに行ったりという形で、毎週誰かしらが何かしらを変えている、という感じなんです。
ただ環境を与えられるのではなく、自分たちが「こう使いたいな」と思うことに合わせて、各自が自ら変化を作ってくれています。
今後はより一層「データ」を活用した働き方改革を
古藤 今度のチャレンジでいうと、昨年から種まきを始めたのが「行動センシング」です
これは働いている人にパッチをつけて、ビーコンによって「誰と話しているか」といった行動を可視化するものです。
背景としては、アンケートだけですとどうしても主観が入ってしまって、ファクトが計測できないんですね。
そこで行動を計測することで、この環境の中でより良い働き方を実現するための課題を明確に表現したいという狙いがあります。
この環境は本当に良かったのか、この施策はどんなことに影響しているのか、といったことがしっかりと数値で提供できると、社内の納得感も高まるかなと。
他にも、私たちが持っている色々な社内ツールの中に持っている情報もあるので、付け合わせたら色々な分析ができるのではないか、と思っています。
廣瀬 システム側としても、社内システム上のデータをもっと活かしていけると考えています。
例えば「pozzy」の中にも、行動に関するたくさんのデータが蓄積されているんですね。こういったデータをもっと有効的に活用していきましょう、という話は色々と考え始めているところです。(了)
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