• 株式会社ビズリーチ
  • HRMOS採用管理事業部 カスタマーサクセス部 部長
  • 鈴木 雄太

信じていないKPIは、誰も追わない。混乱状態を乗り越えた、カスタマーサクセスの軌跡

〜メンバーの「感覚」を大切に、顧客ステージを切り分け。採用管理システム「HRMOS」の、KPIに振り回されないカスタマーサクセスの活動をご紹介〜

顧客の成功をミッションとし、SaaSプロダクトを成功させる上で重要な役割を持つのが「カスタマーサクセス」だ。

株式会社ビズリーチが2016年6月にリリースした、「HRMOS(ハーモス)採用管理」。

同サービスでも、その活用度を高め、継続利用を促進するために、2016年12月にカスタマーサクセス(以下、CS)チームを立ち上げた。

リリース1年ほどで、導入社数は2.5倍へと拡大。その予想以上の急成長に対応しようと多くの施策に取り組んだ結果、チームは「追うべき指標」を見失った混乱状態にあったという。

そこで、活動をよりシンプルにするため、顧客を「Entry・Onboard・Active・Loyal」の4つのステージに区分し、それぞれの指標を定義。

この定義は、CSチームのメンバー1人ひとりが、日々顧客と向き合う中で得られた定性的な感覚と、定量的なデータを見ながら決めているそうだ。

常に顧客と接しているメンバーの「感覚」を信じ、それを指標にも反映することで、精度向上を目指したPDCAを回すCS活動を行っているという。

今回は、HRMOS採用管理のカスタマーサクセス部長を務める鈴木 雄太さんに、立ち上げ当初から顧客ステージ導入に至るまでの変遷を、詳しくお伺いした。

HRMOS採用管理の活用を促すため、カスタマーサクセスを立ち上げ

私はこれまで、営業3年、エンジニア4年、人事・採用4年といったキャリアで、転職をしながら様々な経験を積んできました。

そのキャリアを、HRMOSの事業で活かしたいと考え、2017年1月にビズリーチに入社しました。

2016年6月にリリースされた「HRMOS採用管理」は、採用業務の一元管理を通じてオペレーションを効率化するサービスで、データによる可視化・分析により戦略的な採用を実現します。

立ち上げ当初は最低限の機能しかなかったため、価格を値引きしたり、一定期間、無償で提供していました。ですが、それによって導入は進んでも、お客様には十分に活用いただけていない状況だったんです。

その課題を解決するため、ちょうど私が入社した頃に、現在のカスタマーサクセス(以下、CS)の前身となる「アクティベートチーム」を立ち上げることになりました。

今では、HRMOS採用管理のCSチームには12人が所属していますが、立ち上げ時は4人でスタートしました。

私自身、CSの立ち上げに初めて関わることもあり、最初の頃は、お客様に会いに行っては状況をお伺いする、ということを繰り返していましたね。

ですが、お客様からは厳しい意見をたくさんいただき、ひらすら打たれては帰ってきて、の連続で…。

当初、プロダクトの機能がまだ十分でなかったこともあるのですが、本来機能として備わっているにも関わらず理解されていない、ということも多くありました。CSとしても未熟で、何も武器がない状態でした。

「顧客の採用成功」をゴールに、カスタマージャーニーを作成

そうした状況の中で、「私たちは顧客のために何をするのか」ということを常に考えていました。

HRMOS採用管理は、1年契約のサービスになります。そのため、契約満期を迎えそうなお客様や、何ヶ月も使っていないお客様のチャーン(※解約)リスクを察知して、CSからアプローチしていく必要がありました。

ですが、「どこを目指すのか」という指針がないと、目の前の対応ばかりに追われてしまうため、チームのミッションを固めることにしたんです。

そこで考えたのが「顧客の採用成功」にコミットする、ということです。

「HRMOS採用管理を使うことで、採用を成功させることができる」というのがプロダクトの理想であり、カスタマーサクセスチームも含めた提供価値であると改めて考えました。

その方針を固めた後、次にカスタマージャーニーマップを作成しました。

サービス導入からフル活用いただけるまでの流れの中で、理想のユースケースと、それに対しどのようなアクションが取れるか、を皆で洗い出していきました。

「顧客の採用成功のため」であれば、何をやってもいいという共通認識のもと、CSメンバー各自で様々な施策を立てて実行してもらいましたね。

具体的には、ユーザー会やNPS、導入フローの改善など、様々な施策を試しては修正して…といった形で改善していきました。

導入社数は1年で2.5倍!施策を広げたことで、CSチームが混乱…

一方で、多くの施策に取り組もうとした結果、当時は4人のメンバーで数百社を相手にしていたので、徐々に手が回らなくなってしまって…。

CSチームの立ち上げから1年ほどで、導入社数は2.5倍にもなっていたのですが、想定外のスピードだったこともあり、体制が追いついていませんでした。

そのような中で施策を広げたことで、チーム内では「来週のユーザー会の集客どうなってるの」「今月のNPSのリマインドまだされてないよ」みたいな話が飛び交っていて。

CSメンバーがどの指標に注力すべきかがわからず、「本当にこのアクションがお客様の採用成功に繋がるのか」という部分も見えなくなってしまい、混乱を招いてしまいました。

そこで一度、基本に立ち戻ることにしたんです。

具体的には、まずはCSメンバーが顧客と向き合う中で得られた、サービス活用度や関係性といった情報を基に、担当顧客をS・A・B・Cに分類していたランク付けに注目しました。

すると、このランクと継続率が実はかなり相関があることがわかってきたんです。

この結果を見て、「データだけに基づいて分析した指標に、振り回されるのは良くない」という気づきを得ましたね。

そして改めて、CSメンバーが様々なアクションを通じて得られた「感覚的な情報」に近しい形で、よりシンプルな指標にまとめ上げることができないかと考えました。

そこで、まず初めに行ったのが全ての施策と「継続率」をかけ合わせた分析です。

もともとは必要以上に複雑な分析をしようと試みていたのですが、各施策の効果を「継続率」という軸を通して、シンプルな形に揃えて評価しようとしました。

すると、ユーザー会への参加有無や、NPSの回答有無などが、継続率に影響していることが見えてきたんです。

▼実際の分析結果

その一方で、施策ごとの相関性はある程度わかっても、追いかけるべき指標が定まりませんでした。

顧客を4つのステージに分類し、メンバーの「感覚」と突き合わせる

そこで、Entry・Onboard・Active・Loyalという4つの区分に顧客のステージを分け、すべての施策や指標を一旦整理してみることにしました。

まずは、どのような顧客であるかを「言葉」で定義した上で、各ステージを定量的な指標でも定義していきました。

このステージの定義は、後から修正する前提で、まずは「決め」で定義することを考えたんです。

▼顧客ステージの定義

これを提案した当初は、チームメンバーから「この区分と指標で上手くいくのか」というような疑いの声もありましたね。

ですが、まずは定量的な定義に基づいてこの4つの顧客ステージに分類した上で、CSのメンバーにそのデータを伏せた状態で担当顧客を分類してもらいました。

すると、データによる振り分けと、メンバーの感覚による振り分けが、85%一致する結果になったんです。

この結果によって、自分たちが日々、顧客と接している「感覚」と、この顧客ステージは合致しているという納得感が生まれて。また、顧客ステージと継続率の関係性も、相関が出ていました。

そうして、今年の5月から、顧客ステージをもとにしたCS活動を試験的に始めました。3ヶ月かけて、各ステージの定義や施策に違和感がないかを検証していきました。

その中で、アクティビティスコアの定義を見直すなどの細かい修正をしつつも、このステージが「しっくりくる」というのが今の結論です。今年の8月からは、本格運用を開始しています。

私はやはり、メンバー1人ひとりが信じていないKPIは、誰も追わないと思っています。

当初は、定量データの分析だけで進めようとしていましたが、CSメンバーが顧客と向き合う中で得た「感覚」と指標が一致していることを知るステップは、とても重要だったように思います。

新たに定義した顧客ステージをベースに、「お客様の採用成功のために、ステージアップに注力する」という目標が明確になったことで、CSの活動がシンプルになりましたね。

事業部の横連携を大切にし、開発にもCSで得た顧客の声を活かす

また事業部では、CSと開発チームとの連携も大切にしています。

創業以来ずっとワンフロアにいるので、人数が増えた今でも、ビジネス開発部もエンジニアも皆一緒になって毎日朝会を行っています。

そこでは、受注の報告や、開発から「こんな機能を作ったからデモを見せますね」といったやり取りが行われていますね。

こうした日々のコミュニケーションが取れているので、例えばCSで対応できない想定外の問い合わせが来たりすると、開発メンバーに直接聞きに行っています。

また、新しく入ってきたビジネス開発チームのメンバーにも、「CS研修」を実施しています。

ここでの顧客の質問には、「イエス」「ノー」で答えるのではなく、必ず「なぜその機能を求めているのか」という課題の深堀りをしてもらうんです。

そうすることで、「お客様がHRMOS採用管理を、どのように活用したいのか」ということを、CSを通じて学びます。

さらに、CSチームで受けたお客様の声は、開発チームにもフィードバックしています。

日々、どのお客様からどのような要望があったかを、CSチームが取り纏めているんです。それを、そのまま伝えるのではなく、「お客様の抱えている課題」に翻訳して開発側に伝えるようにしています。

そうして、開発チームに渡した後は、限られた開発リソースの中で最も効果が高いものから実装してもらっていますね。

CSの提供価値を上げ、顧客と一緒に「採用成功」を実現したい

こうした活動を通じて、昨年と比べても、継続率のパーセンテージは約15ポイント改善しました。

超多忙期もありましたが(笑)、振り返ってみると、様々な施策にチャレンジしたことは間違いではなかったと感じています。

顧客ステージは本格運用を始めたばかりなので、今後データが溜まっていくことで、「どのフェーズの、どの施策にもっとアクセルを踏むべきか」が明らかになってくると考えています。

その中で、直近の課題としては、OnboardからActiveにどのようにステップアップできるか、ということです。

まず、アクティビティスコアが低いということは、採用成功のために使っていただきたい機能を、まだお客様が活用できていない、ということなんですね。

そこを活用していただくのがCSの提供価値だと思っているので、プロダクトの良さを伝えるアプローチを考えていきたいと思っています。

また、ユーザー会は、現在も月2回ほど開催し、毎回30名前後が参加してくれているのですが、今後より活発にしていきたいと考えています。

お客様の目的は「HRMOS採用管理を活用したい」のではなくて、「採用を成功させたい」ということだと思います。

そのためのノウハウが欲しいと思っている、ユーザー同士で補完しあえる場が大事だと思うんです。

正解のない「採用成功」の実現のために、今後もお客さまと一緒になってその答えを探しつつ、プロダクトをより良いものに近づけていきたいと思います。(了)

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