- 株式会社リクルートジョブズ
- デジタルマーケティング室 マーケティング部
- 古舘 涼介
「エクストリームユーザー」分析で、CVRが130%増!リクナビ派遣の、メルマガ配信術
〜たった4ヶ月で、応募数が5倍に!ニッチな行動を取る「エクストリームユーザー」を分析し、施策の飽和状態から脱却した、リクナビ派遣のメールマーケティング術〜
One to Oneマーケティングの重要性が叫ばれている中で、マーケティングオートメーション(以下、MA)ツールを駆使したメールマーケに取り組む企業は多い。
株式会社リクルートジョブズが展開する、派遣求人の検索サービス「リクナビ派遣」では、応募者の大部分が「メルマガ」を経由しているのだという。
▼派遣求人の検索サービス「リクナビ派遣」TOPページ
そのチャネルをより強化するため、約4年前からMAツールを導入し、パーソナライズしたメルマガ施策を次々に実行。一方で、いわゆる「鉄板」施策が尽きた後は、これ以上何をすれば良いのかわからない状況だったという。
そこで目をつけたのが、ニッチな行動特性を取る「エクストリームユーザー」の存在だ。
エクストリームユーザーを分析し、従来の施策にはなかったコンテンツを作成することで、CVRは130%増加。さらに、細かい改善を約20回重ねた結果、4ヶ月ほどで応募数が5倍になったそうだ。
また、数々の施策の良し悪しをきちんと判断するため、目的・KPI・効果の測り方などを記入する「テスト仕様書」を使用し、A/Bテストを繰り返して日々の改善を重ねている。
今回は、同社のマーケティング部でメルマガを担当する古舘 涼介さんに、リクナビ派遣の改善を通じた詳しいノウハウをお伺いした。
MAツールを導入し、主要チャネルである「メルマガ」に注力
2015年4月にリクルートホールディングスに新卒で入社し、リクルートジョブズに配属となりました。以来、集客やメディア改善、CRMやMAツールの導入など、マーケティング領域にずっと携わってきました。
現在は、派遣求人の検索サービス「リクナビ派遣」のメールマーケティングを主に担当しています。
マーケティング部には、約20名の社員が所属しており、大きく分けて有料集客、SEO、CRM、ブランド、オウンドメディア運営のチームがあります。
リクナビ派遣は登録制のサービスなので、初回応募の時に会員登録される方が多いですね。KPIとしては、求人への応募数を追っています。
2004年にリリースされ、以来順調に応募数を伸ばしてきました。集客チャネルの内訳は、広告などの有料集客、SEOによる自然流入、メールマガジンの3つですが、中でもメルマガの比重が大きいんです。
というのもサービス特性上、派遣という雇用形態になるので、リピーターになる方が多いんですね。なので、「一度使ったら終わり」ではなくて、何回も戻ってきやすいサービスになります。
そこで受動的に受け取ったメルマガから、サイトにアクセスする方が多くて。なので、わりとマス向けの人気求人などをコンテンツにし、本数を増やすことで、CV数が右肩上がりで伸びていました。
一方で、インパクトの大きいメルマガをよりパーソナライズできたら、もっと伸びるんじゃないかという考えがありまして。そこで、今から4年ほど前に、MAツールのSalesforce Marketing Cloudを導入しました。
導入当初はあまり機能していませんでしたが、半年後くらいから徐々に軌道に乗り始めて。
これまで、数多くの失敗と改善を積み重ねてきましたね。中でも効果のあったメール施策では、たった4ヶ月でCV数を5倍にすることができました。
「鉄板」施策に限界を感じ、ユーザーインタビューから情報収集
最初は、集客からCVまでのカスタマージャーニーを作って、いわゆる「鉄板」の施策に取り組みました。
例えば、「お気に入り求人に登録したけれど、応募しなかった人」に対して、リマインドメールを送る、といった感じですね。
こうした世の中に出ているような施策は、どんどん取り入れていったので、かなりの本数をリリースしていました。ですが、本当に大変だったのは、この鉄板ネタが尽きた後だったんです。
新たなネタを仕入れるため、海外のカンファレンスに行って、ウェルカムメールの施策を取り入れたりもしたのですが、またアイデアが枯渇してきて…。
これ以上本数を増やすと配信拒否につながる可能性もありますし、次に何をしたら良いのかが見えない状況でした。
そこで、Web上で集めた定量データや、過去実施したユーザーインタビューなどの定性データを、改めて見返すことにしたんです。
すると、ある傾向が見えてきて。それは「仕事選びの際に、周りの意見を重視する」という傾向でした。
そこから、自分が働きたいと思える求人は他にもあるのに、周囲の人の希望条件に検索対象を狭めてしまっているのではないか、という仮説を立てました。
「エクストリームユーザー」の行動分析から、CVRが130%増に!
このように、ユーザーが検索の対象範囲を「自ら狭めている」のであれば、より幅が広い求人を、こちらからお届けすることができれば良いと考えました。
もともと、ユーザーの行動履歴に基づいた「協調フィルタリング」による最適化は行っていました。しかしそれだけですと、ユーザー自身の行動にもニーズが現れていない求人には、出会ってもらうことができていなかったんです。
そこで着目したのが、少数ながら傾向とは違う行動をする「エクストリームユーザー」のデータです。
実はこれが、平均的なユーザーのニーズも満たすものとして、お届け機能に活かせるのではないかと考えたんですね。
ですが、何百万ログとあるデータの中から、エクストリームユーザーを見つけに行くことは困難です。そこで、過去のアンケート調査の情報などを参考に、定性的なインプットから切り口を考えました。
例えば、「20代の派遣の人が働きたい駅ランキング」みたいなアンケート調査がありまして。それによると、渋谷や新宿、丸の内といったターミナル駅で働きたい人が多かったんですね。
であれば、渋谷に通いやすい路線上に居住する人で、割と遠方からも求人を探している人がいそうだという仮説を立て、探しました。すると、居住エリアが横浜でも、渋谷の求人に応募しているエクストリームユーザーを発見したんです。
これを切り口に、「その人が検索している周辺からアクセスの良いターミナル駅」という形で条件を作り、それをお届けするコンテンツを作りました。
そして、配信対象者についても科学し、結果的にCVRは従来の130%増となりました。
数多くの施策は「共通テンプレート」で目的・施策・効果を可視化
実は、このエクストリームユーザー分析からのコンテンツ作りは、とあるメール施策の中のひとつの改善で。
メルマガのCVを上げるには、本当に細かい改善の積み重ねなんです。他にも、アイコンの変更やリンク先のLP改修など、4ヶ月で約20回の改善を通じて、応募数は5倍に増加しました。
こうした施策を並行して走らせる際には、「何をもって良し悪しを判断するか」を予め明確にしておくことが重要です。
そこで弊社では、何を目的にして、どの指標をモニタリングし、どう評価するのか、を施策の実行前に明確にするため、共通の「テスト仕様書テンプレート」を使用しています。
▼実際の、「テスト仕様書」テンプレート(一部加工)
各メンバーは、施策をリリースする前に必ずこのフォーマットの項目を記入することになっています。
共通のテンプレに記入することで、施策を考える時の思考の抜け漏れを防げますし、良し悪しを判断をする際にも立ち戻ることができます。
また、Googleドライブでフォーマットを共有しているので、他の人とテストが被りそうであればやらない、といった判断も可能です。
改善系の施策であればA/Bテストで比較ができますが、新規系の施策だと比較対象があまりありません。そうなると、「これが良いのか悪いのかよくわからない」みたいなことが結構あるじゃないですか。
その指標を決めずに始めてしまうと、数字を見た後にバイアスがかかってしまうんですよね。なので、リリース前は必ずこのステップを通るようにしています。
また、テストリリースの実装部分も内製なので、このフォーマットで仕様書を設計することによって、後の実装まで認識のズレがなくなる、という点でも役立っていますね。
本当のOne to Oneマーケティングを実現したい
ここ数年、One to Oneという言葉をよく耳にするじゃないですか。ですが、実態は「セグメントの最適化」を頑張っている最中で、本当のOne to Oneを実現している企業ってまだあまりないんじゃないかな、と思うんです。
この「真のOne to One」を、僕はリクナビ派遣を通じて目指していきたいと考えています。
そのためには、カスタマー属性や行動履歴から求人情報をお届けするだけでは不十分で。
「たぶんこの人はこうだろうな」というのを察知して、それに合わせたコンテンツを作り、求人情報を届けたいと思っています。
また直近の課題としては、セグメント・コンテンツ・タイミングという3つの要素の組み合わせを、いかに最適化するか、ということですね。
現在はAのセグメントに対するこのシナリオは、このコンテンツとタイミングで送る、といった定型の組み合わせになっています。
ですが、Aのカスタマーの中でも色んな組み合わせがあると思うんですね。その組み合わせと配分を最適化するような仕組みを作り、One to Oneの実現に向けて一歩ずつ改善していきたいと思います。(了)