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マインドフルネスって効果あるの? ヤフー社の、累計800人以上が参加した取り組みとは

〜「生産性低下によるパフォーマンス損失コスト」を可視化!ヤフー社員800人以上が参加した、マインドフルネスの取り組みをご紹介〜

近年、ビジネスの領域でも注目を集めている「マインドフルネス(※)」。

日本でも、Google発のマインドフルネス研修「Search Inside Yourself(以下、SIY)」を導入したり、独自のプログラムを展開する企業や組織、プロジェクトが確実に増えてきている。

※マインドフルネスについての詳細記事はこちら

しかし、その仕事に対する効果を、一体どのように測ればいいのだろうか。

ヤフー株式会社では、今から約2年前に、同社の企業内大学Yahoo!アカデミアの任意参加プログラムとして、メタ認知(※)トレーニングを展開。

※自己の認知活動(知覚、情動、記憶、思考など)を客観的に認知し、評価した上で制御すること。マインドフルネスを通じて、その能力を高めることができると言われる。

有志のメンバーから成るマインドフルネス・メッセンジャーズが運営する同プログラムを通じて、これまで800名以上がマインドフルネスを経験したのだという。

▼マインドフルネス・メッセンジャーズの皆さん

また開始から丸2年経ち、これまでの参加者に対して、実態把握・経過観察を目的としたアンケート調査を実施。

その結果、マインドフルネス実践の有無や実践頻度によって、生産性低下による損失コストの指標「プレゼンティズム」に、明らかな差が見られたそうだ。

今回は、ヤフーにマインドフルネスを展開した中村 悟さんと、マインドフルネス・メッセンジャーズのひとりである麻生 健さんに、具体的な活動内容その効果について、詳しくお伺いした。

Yahoo!アカデミアで、次世代リーダーの「メタ認知」を養成

中村 僕は、2005年2月にヤフーに入社しました。当初は、Yahoo!ニュースやYahoo!スポーツ、GYAO!などのサービス企画を担当していましたが、2012年に会社の経営体制が変わるタイミングで人事へ異動しました。

当時、人材育成の担当になったものの、今までと全く違う仕事だったのでどこから手をつければいいかわからない状態で…。

そこで本屋に行った際に、たまたまGoogleのマインドフルネス実践法を記した「Search Inside Yourself(以下、SIY)」に出会ったんです。

SIYは、Google社が最新の脳科学に基づいて開発した、リーダーシップ・パフォーマンス向上のプログラムです。当時の僕にとっては「こんな育成研修があるのか」という驚きがありました。

2014年10月に、それが日本で初めて開催されるという話を聞き、個人で参加を申し込みました。そこで実際に体感したことで、もっとSIYやマインドフルネスを深めたいと思うようになってきて。

そして、日本にSIYを持ち込んだマインドフルリーダーシップインスティテュート(以下、MiLI)の方々との出会いを経て、2015年にマインドフルコーチングの試験的なプログラムをMiLIと共同で始めました。

MiLIからはコンテンツを、ヤフーからは参加者と開催場所を提供する形で、瞑想などのマインドフルネスの基本からマインドフルコーチングの実習まで、13週間に亘るプログラムを実施しました。

朝活のような感じで社内コーチである社員13名が参加してくれて、フィードバックをもらいながら、ひとつの型にしていきましたね。

その後は、「マインドフルネス・ベースド・コーチ・キャンプ(以下、MBCC)」というプログラムに昇華して、現在はMiLIで提供されています。

一方で弊社として、もう少し何かやりたいな…ともやもやしていた部分があって。そこで継続する場として選んだのが、当時、僕が事務局として企画運営に携わっていた次世代リーダー育成の企業内大学「Yahoo!アカデミア(以下、アカデミア)」でした。

アカデミア学長の伊藤羊一がよく話すことのひとつに、「氷山モデル」というものがあるんですね。

▼氷山モデルの図

それは、パフォーマンスにつながる行動の水面下には、スキルとマインドがある。アカデミアを、リーダーとしてのスキルとマインドを鍛える場所にしたい、と。

そのためには、自分の価値観や在り方を認知することが重要だよね、という話から、自己認識力、つまり「メタ認知」を継続的にトレーニングするプログラムとして、取り入れることにしました。

開始2年で800名以上が参加!ヤフーの実践する、マインドフルネス

中村 このプログラムは、2016年7月に開始し、今年の10月で10期目を迎えました。これまでに、約200名が継続プログラムを履修し、体験会を含めると800名以上の社員が参加しています。

各回の参加者は10〜15名ほどで、呼吸に注意を向けるマインドフル・ワーク、ボディスキャン、マインドフル・リスニングなど、週1回60分×7週間かけて、少しずつ味見していくようなプログラム構成になっています。

▼実際の、メタ認知トレーニングのプログラム内容

第1期はプロトタイプとして、MiLIに監修いただき、10名くらいの参加者でスタートしました。そこである程度の型ができたので、2期目以降は僕がリードして運営してきました。

当初はアカデミア受講者の限定プログラムだったのですが、2017年以降は外部の希望者も参加できるようオープンプログラムにしました。

さらには、テレビや雑誌などでもマインドフルネスが取り上げられたことが追い風となって、全社に活動が広まっていった形ですね。

しばらくは僕ひとりで運営していたのですが、やはり自分の体と時間だけではちょっと辛いな、という感じがありまして。

そこで、マインドフルネスを継続的に実践していて、周りを巻き込みたくてうずうずしていそうな人に声をかけて。現在では7名から成る「マインドフルネス・メッセンジャーズ」というチームを結成しました。

メンバーは、営業やエンジニアなど、部署も職種、役職もバラバラです。マインドフルネスの実践者として、「この体験をお裾分けしたい」という気持ちから有志で集まっています。

▼編集部も、ヤフー社でメタ認知トレーニングを体験させていただきました

実際のプログラムでは、各回1〜3名のメッセンジャーズのメンバーが、参加者にワークの実践法をお伝えしています。

このファシリテーションを複数のメンバーで行うことで、個々人の知識や経験に基づくエピソードが重なり合ったりして、まるでジャズのセッションみたいになるんですよ(笑)。

同じコンテンツであっても、その時々の場面や参加者に応じて、各人がアレンジを加えていくんです。ここでは、参加者とフラットな関係を築きながら、柔軟に進めていくことを意識しています。

「管理職の仮面」を外す?コーチングにおけるメタ認知の重要性

麻生 私はマインドフルネス・メッセンジャーズのひとりとして、2017年からプログラムの運営に携わっています。普段は購買部でバイヤー業務を務めながら、マインドフルネスを実践しています。

元々のきっかけは、2015年に開催された、マインドフルコーチングプログラムへの参加でした。

それ以前にも、コーチングについては社内外で学んでいて、高い関心を持っていました。そしてこのプログラムを通じて、コーチングにおいても「メタ認知」が重要である、ということを実感したんです。

マインドフルネスというと、個人のコンディショニングを想像しがちですが、実はこれを実践することで、自分だけでなく相手にも変化が起きるんですね。

例えば、上司と部下で対話する際に、どうしても上司は「管理職の仮面」を被ってしまい、部下が本音を話せなかったりするじゃないですか。

それを外すためには、「この瞬間に自分自身がどういう状態であるか」を認識して、行動変化を起こす必要があるんです。

実際にマインドフルネスを実践するようになって、この瞬間に起きていることに対し、意識的にどうすべきかを考え、行動できるようになりました。

また私は、さらに実践を高めるため、MBCCの基礎から応用までの全コースを受講しました。こうして外部で学んだことを、また社内の活動に生かしていきたいと考えています。

140名にアンケート調査!トレーニングを継続する人の特徴とは?

中村 2018年7月、プログラム開始からちょうど2年が経ち、10期目を迎えるにあたって、過去参加者の実態把握と経過観察のためのアンケート調査を実施しました。

まず初めに知りたかったのは、7週間のメタ認知トレーニングを終えた人が、その後も継続できているのか? ということでした。

そこで回答を見てみると、週1回以上で今も実践していると回答した人は、内心は50%を超えていてほしかったのですが、それをやや下回る43%でした。

その理由を聞いてみると、継続のポイントが改めて見えてきて。その大きな境目となるのは、「マインドフルな状態が自分にとって必要だ」と腹落ちしているかどうかだったんです。

▼アンケートから得た、マインドフルネス実践者の声

腹落ち感がないと、時間があればやりたい、でも時間がないので結局やらない、と。逆にこれを必要だと思う人は、「日常生活の中に組み込む」ということを実践していました。

また、ダイエットやランニングでも誰かと一緒に取り組む人がいると継続しやすいように、実践頻度の高い人ほど、周囲にも経験者が多いことがデータからわかっています。

「プレゼンティズム」から測るマインドフルネスの効果とは

中村 次に、マインドフルネスの実践の有無や、その実践度合いが、仕事にどのような影響を与えているか? を計測しました。

そこで取り入れたのが、プレゼンティズム」という概念です。プレゼンティズムとは、出勤していても健康問題によってパフォーマンスが落ちている状態、つまり「生産性低下によるパフォーマンス損失コスト」を測る指標です。

これは健康経営の文脈で近年注目されてきており、WHO提唱のアンケート項目で、その数値を測ることができます。

2017年10月に、僕がアカデミアからグッドコンディション推進室へ異動して色々と取り組む中で、プレゼンティズムの概念を知りまして。

この概念を使えばメタ認知トレーニングの効果も定量的に可視化できるかもしれないと考え、早速WHO-HPQという指標を用いたアンケートを実施しました。

その結果、マインドフルネスの実践の有無により、明らかな差があることがわかったんです。

具体的には、プレゼンティズムの数値を見てみると、未経験者と経験者を比較した場合は約20%、さらに週3回以上の実践者と未経験者を比較した場合には、およそ40%の差がありました。

このデータは、集計後に僕自身もびっくりするくらい、インパクトがあるものでして。実践頻度が高い人ほど、自身のパフォーマンスを発揮しやすくなる、ということがわかりましたね。

一方で、マインドフルネスは外部から必要性を説いて強制的に押し付けるものではなく、実践するかどうかの判断は、最終的にその人自身に委ねられていると思っていて。

こうした定量データを開示することで、まだマインドフルネスを体験したことのない人や、体験したけど継続できていない人に、実践のきっかけを与えられたらいいな、と考えています。

マインドフルネスを「習慣的に実践する」ことを目指して

中村 これまでの活動を通じて、確実に手応えは感じているのですが、まだまだこのプログラムが完成形だとは思っていなくて。

というのも、アンケート調査などをする中で、「メタ認知すること」と「それを習慣的に実践すること」には、少し違う種類のトレーニングが必要だということに気付いたんですね。

これは基礎体力と一緒のようなものだと考えているので、より習慣化に重きをおくようなトレーニングプログラムを、現在企画している最中です。

マインドフルネスの効果って、よく世間では生産性向上やストレス低減とかって言われていると思うのですが、僕自身はもっと奥深いものだと感じていて。

自分の状態を把握することで、ものの見方の解像度がぐっと上がるんです。そうすると、周りのメンバーやチームに対してもいい働きかけができますし、結果として良い仕事ができるんですよね。

こうしたヤフーでの取り組みやデータなどについては、今後社外にもどんどん発信していきたいです。

そして、いろいろな企業や組織、プロジェクトでも展開されて、より多くの人にマインドフルネスに触れるきっかけや実践の意義を届けていきたいと思います。(了)

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