• 株式会社FABRIC TOKYO
  • 代表取締役社長
  • 森 雄一郎

D2Cにおけるニーズ検証プロセスとは? FABRIC TOKYOに学ぶ、新規事業の作り方

〜アンケートとインタビューを重ね、仮説検証の精度を高める。FABRIC TOKYOの立ち上げ、そして新規事業づくりのプロセスを紹介〜

メーカーやブランドが消費者と直接つながり、商品を販売する「D2C(Direct to Consumer)」モデルが盛り上がりを見せている。

その日本国内における先駆者と呼べるのが、2014年にスタートしたビジネスウェアのカスタムオーダーサービス「FABRIC TOKYO」だ。

FABRIC TOKYOのユーザーは、まず国内に展開する12店舗で採寸を行い、自分のサイズデータを登録する。すると、いつでも欲しい時に自分に合ったシャツやスーツをオンライン注文することが可能になる。

2期連続で350%の売上成長率を誇るなど、飛ぶ鳥を落とす勢いで拡大を続けている同社。代表である森 雄一郎さんは、「D2Cにおいては、Webサービスだけではなくて、ものづくりが必要。従って、オペレーションの構築やニーズのより深い検証が非常に大事」と話す。

2019年5月にリリースした完全受注生産型のビジネスポロシャツ「FABRIC TOKYO POLO SHIRT2019」の開発にあたっては、Webアンケート→デプスインタビュー→Instagramを使ったアンケートというプロセスを経ることで、消費者のニーズの深掘りを行ったそうだ。

今回は森さんに、FABRIC TOKYO立ち上げ時のストーリーや、新サービスの開発における仮説検証プロセスについて、詳しくお話いただいた。

D2Cならではの難しさも。創業期には「足を使って」事業を検証

私はもともと、ファッションが好きなんですね。大学生のときにはファッションメディアを自分で運営していたり、ファッションショーの演出家のアシスタントをしていた経験もありました。

一方でスタートアップの立ち上げにも興味があり、不動産ベンチャーとフリマアプリ「メルカリ」の創業期への参画を経て、2012年に創業、2014年にFABRIC TOKYOを立ち上げました。

FABRIC TOKYOは、オーダーメイドのスーツとシャツを提供している、いわゆるDirect to Consumer(D2C)のブランドになります。

私自身、腕が長くて既製品の洋服のサイズが合わない、という悩みをずっと抱えていたのですが、初めてオーダーメイドのスーツとシャツを作ったときに感動して。これがもっと流行ったらいいのに、と思ったことが原体験になっています。

最初は、特に資金調達をせずに、いわゆるMVP(※)をまずリリースして、限られた資金の中で仮説検証を行いました

※MVP(Minimum Viable Product):実用最小限の機能をもつプロダクト

具体的には、まずリスティング広告を使ってニーズ検証を行い、次に無料モニターを集めて、実際にMVPを使ってみてもらいました。そして最後に、クラウドファンディングを実施しました

無料モニターに関しては、最初は知り合いに声をかけて、あとは街中でナンパしました(笑)。当時は渋谷にオフィスがあったので、ヒカリエの前でビジネスマンを見つけたら「インタビューにお答えいただけませんか」と声をかけて、無料モニターをご案内していました。

大体100人ほどに路上インタビューを行って、その中から20人ほどに実際にお使いいただくことができましたね。

今は生地だけで500種類くらいから選ぶことができるのですが、MVPのときはそれが5種類くらいしかなくて。ただ我々のコアバリューである「自分のリアルな体のサイズのデータをクラウド上に登録して、カスタマイズしたスーツを作れる」という機能は最低限持たせていました。

MVPをリリースしたのは、開発のスタートから2ヶ月くらいのタイミングです。その2ヶ月の間に、製造の仕組みなども整えました。

今では数十の工場さんと提携していますが、MVPのときには1社だけでしたね。最初はやはり実績がないので、取引してくれる会社を探すのも大変で。タウンページを開いて、商工会議所に行って、工場のリストをいただいて、上から電話していって…みたいな感じで、足を使って探していました。

D2Cの場合、「Webサービスを作って終わり」というわけにはいかないんです。商品を作る必要がありますし、そのユニークさやクオリティ、利便性も揃っていなければならない。そのためには、オペレーションもしっかり整える必要があります。

実際にものが動いて、人が動いて、オペレーションが動く。私は1人創業だったこともあり、その構築には非常に苦労しました。

欧米のD2Cの企業を見ていると、複数人で創業しているケースが多いですね。プロダクトを作る人、サプライチェーンを作る人、ブランディングする人…みたいなイメージです。しっかり役割分担することは、すごく大事なんじゃないかなと思います。

クラウドファンディングを通じて「最初の100人」の顧客を獲得

こうしてモニターの方に使っていただく過程で、我々のコアバリューに関しては、ある程度のニーズ検証ができました。

スタートアップでよく言われている話なのですが、「最初の100人の、お金を払っていただける顧客を獲得する」ことがサービスのひとつのマイルストーンだと思うんですよね。そこで我々の場合は、100人を目指すための次の手段として、クラウドファンディングを実施し、80人ほどの支援者を集めました。

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我々の場合、それなりに金額を払っていただかないといけないサービスなので、クラウドファンディングを始める前にある程度ニーズの検証ができていたことは良かったですね。オーダーメイドのようなコストがかかるサービスであれば、この方法は割といい成功体験だったんじゃないかと思っています。

一方で、どのサービスでも共通しているかなと思うのは、実際に100人のお客さんに使っていただくと、「意外な発見」があるということです

うちの場合は、お客様に「オフィスに採寸しに行っていいですか」ということをすごく聞かれたのが、ひとつ新しかったですね

当時のサービス内容としては、インターネット上で自分でサイズを入力することで、オンライン上での購買が完結するという仕組みになっていました。でも「近くに住んでるから、御社の渋谷のオフィスで採寸してもらえませんか」みたいな声があったので、その後、「オフィス採寸」という機能をスタートさせました。

FABRIC TOKYOでは今、採寸は店舗で行うという形になっているのですが、そのスタートとなったのがこれです。

もともと何らかのかたちでリアル店舗を運営していくことは事業計画の中に置いていましたが、アーリーアダプターにサービスを提供する時点で、そのニーズを強く感じた出来事でした。

「リピーター」の発生が、サービスのニーズを確信するきっかけに

検証とサービス開発を進めていく中で、資金が尽きかけたり、事業計画を全然達成しなかったり、何度も落ち込んだ時期はありましたね。しかしその一方で、明確に「これはいける」という手応えを感じたタイミングがあって。

それは、リピートが発生し始めたことです。スタートして6ヶ月くらいたったときに、初めて2回目の購入をしていただける方が出てきて。

そのときは、もうすごく嬉しかったです。もちろん1回買っていただけるだけでもすごく嬉しいのですが、2回目、3回目を買っていただけるということは、やはりこのサービスを作った意味があったなと。

そして1年後くらいにはリピーターの数も増えてきて、自信を持って「よし、いこう」と思えるようになりましたね。実はそれまでは、正社員も雇わずに自分1人でやっていたんですよ。

その後、2016年1月に、初めて渋谷のオフィスの下に店舗を構えました。すごく狭くて、8坪くらいしかなかったんですけどね。

今はその店舗はもうないのですが、社内では「ゼロ号店」と呼んでいます。ここで初めて、リアル店舗を持つオンラインから生まれたD2Cブランドという、今の形ができあがりました。

アンケート→インタビュー→アンケートを経て、新商品を開発

FABRIC TOKYOの事業課題をひとつ挙げると、商品がスーツやシャツなので、購入頻度が少ないんですね。多くても、年に4回くらい。これは裏を返すと、お客様とのタッチポイントが年に4回しかないということなんです。

もう少し購入のフリークエンシーを増やしていくためには、商品の横展開をしていく必要があります。その中で登場した新商品のひとつが、自動のサイズマッチング ✕ 完全受注生産型のビジネスポロシャツ「FABRIC TOKYO POLO SHIRT2019」です。

このプロジェクトは、1,000名を超えるビジネスパーソンの声を集めて生まれたものです。具体的には、3回に分けてお客様と一緒に作っていきました。

まず行ったのは、Webアンケートです。これは弊社が持っている顧客データを使って、実際のお客様に「ポロシャツ買いたいですか」「どんな商品だったらほしいと思いますか」といった内容をお聞きしました。

次に行ったのが、いわゆるデプスインタビューによるニーズの深掘りです。それを通じて、「自分のサイズに合ったポロシャツを見つけるのに時間がかかる」「ビジネスで使えるポロシャツがなかなか見つからない」「洗濯をしたあとにシワが寄ってしまう」といった具体的な課題が見えてきました。

こうした声を反映する形で、実際の生地や、カラー展開を決めていきました。

そして最後に行ったのが、Instagramを使ったアンケート調査です。公式Instagramから、ストーリーズのアンケート機能を使って、フォロワーさんにアンケートを行いました。

最初にやったWebアンケートは、そもそもFABRIC TOKYOの既存顧客にしかヒアリングができていなかったんですよね。なので、潜在顧客がどんなニーズを持っているのかを、もう少しカジュアルに聞ける場として、Instagramを活用しました。

最初に網羅的なアンケートを行い、デプスインタビューを通じてぐっと仮説を前進させて、最後にまた確認した、という形です。D2Cではものを作るので、ここまでしなければ無駄なものを作ってしまう可能性が高まってしまう。なので、仮説をかなりしっかり立てる必要があるんです

「ずっと利用され続ける」サービスを目指し、進化を続けていく

このポロシャツは非常にうまくいっておりまして、想定を超えるペースで受注をいただいています。特にリピーターの方は、すでにサイズ情報が登録されており、ボタンを押すだけで気軽に購入できるので、好評いただいていますね。

今後は、ポロシャツ以外の商品のカテゴリーも、どんどん増やしていきたいなと考えています。

今もちょうど新規事業の検証中なのですが、そこで最近、すごく「やってよかったな」と思ったのが「FGI(フォーカスグループインタビュー)」です。

FGIでは、マジックミラーで中が見えるようになっている部屋の中で、グループインタビューを行います。今回は、3回に分けて実施しました。

まずは、FABRIC TOKYOを利用していない、既製品のスーツを買っている層。次に、FABRIC TOKYOを利用していない、オーダースーツを利用している層。最後に、FABRIC TOKYOのユーザー層です。それぞれ5、6名で、2時間ずつのインタビューを行いました。

そこで気が付いたのが、やはり「段階」ってあるなということです。我々はできるだけ多くのお客様に使っていただきたい、最も身近なオーダースーツのブランドを目指していますが、最初からすべてのお客様に満足いただけるプロダクトは作れませんよね。

いきなり最終的なゴールにたどり着くことはできないので、そこから逆算して段階を作ることが大事。そのためには、「今年はこんなことをやっていこう」というマイルストーンを作るということが必要だなとリアルに気がつけたことが、非常に良かったですね。

今後は「FABRIC TOKYOの洋服を買う」だけではなくて、「FABRIC TOKYOをずっと利用し続ける」ブランドサービスになれるように、周辺の付加価値を提供できるようなサービスも強化していきたいと考えています。(了)

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