• ライター
  • SELECK編集長
  • 山本 花香

「刈り取り型」から脱却する、マーケ戦略の描き方とは? バルクオム代表に聞いてみた

〜グローバルアンバサダー起用の裏側も! ブランド広告やチャレンジ施策に対する投資の考え方から、海外展開における試行錯誤までを徹底的にお伺いしました 〜

本シリーズ「教えて!対談」は、SELECKの読者の方が、日頃の業務における課題や気になるテーマに関して、話を聞きたい相手に取材をするという企画です。

第2弾は、合同会社DMM.com(以下、DMM)でWebマーケティングを担当する大対 勇人さんから、株式会社バルクオム(以下、バルクオム)の代表取締役CEOである野口 卓也さんに取材をしていただきました!

現職でデジタル広告の運用に携わるDMMの大対さんと、2013年に事業を開始し、グローバルシェアNo.1のメンズスキンケアブランドをめざして会社を率いる、バルクオムの野口さん。

2018年に俳優の窪塚 洋介さんをブランドアンバサダーに起用し、さらに2019年には世界を代表するサッカー選手のキリアン・エムバペ選手をグローバルアンバサダーに起用するなど、ブランディングを強化するバルクオム社。

ダイレクトマーケティングを強みとしてトップラインを伸ばしてきた同社が、なぜブランド広告に注力し始めたのか。その背景から投資に対する考え方、海外プロモーション展開の方法まで、根掘り葉堀りお聞きしています!

マーケティング担当者の方、必見です。ぜひご覧ください。

▼【左】DMM 大対さん、【右】バルクオム 野口さん

ずばり聞きたい!バルクオムが「ブランド投資」に踏み切った理由

大対 本日はよろしくお願いします。まず自己紹介から…(笑)僕はいま、DMMのマーケティング本部という部署に所属しています。この本部は、DMMが展開する40を超える事業に対し、収益貢献をミッションとしてマーケティング業務を行う横断組織になります。

今回、御社にお伺いしてみたかったのが、僕らはいわゆるレスポンス広告(※)と呼ばれる、刈り取り型のWebマーケティングに強みを持っているのですが、バルクオムさんもそうかなと感じていて。

※レスポンス広告:広告接触者から購買につながるレスポンスを得ることを目的とした広告のこと。企業やサービスのブランド向上を目的とした「ブランド広告」と対になる用語

一方で、直近ではサッカー選手のエムバペ選手をグローバルアンバサダーに起用なさっていたり、かなりブランディングを目的とした投資に踏み切られた印象があるんですね。

そこでマーケティング担当としては、その背景だったり、ブランディング投資の考え方や効果の測り方などを、ぜひお伺いしたいと思っています。

野口 はい、よろしくお願いします。まぁでも正直、エムバペ選手に関しては「起用したらどうなるだろう」というトライですよね(笑)

一方で、おっしゃっていただいた通り、2018年の5月から俳優の窪塚 洋介さんをブランドアンバサダーに起用して、ブランド広告に注力してきたのは事実です。

もともと我々は、旧来の通販業界を参考にして、ダイレクトマーケティングでトラクションを作り、今までトップラインを伸ばし続けてきたんですね。

ただ、CPAを下げてCVRを上げて…といった形でずっとデジタル広告を運用してきた中で、スキンケアという商品特性上、どうしても薬機法や広告表現などの問題がネックになるなと感じていて。これは工夫に工夫を重ねても、ずっと議論として残ると思っています。

例えば、LPに表記されている化粧品成分のひとつが、アメリカではあまり良しとされないためにGoogle広告の出稿で一部制限がかかってしまったこともありまして。当然ながら害のないものを作っていますし、事実、日本では全く問題ないのですが、扱う商材ならではの難しさがあるかなと思います。

大対 なるほど…そこを乗り越えるために、レスポンス広告だけでなくブランド広告にも注力され始めたんですね。

「マルチブランド戦略」はとらず、市場全体のパイを広げていく

大対 実際、窪塚さんがブランドアンバサダーに就任されてからの変化はあったのでしょうか?

野口 それは大きかったですね。どの媒体でも、インプレッション・CTRともにかなり数値が上がりました。従来のマーケティング施策に加えて、ブランドの世界観にマッチしたアンバサダーを起用したことで、今までリーチできなかった層にもアプローチできるようになったかなと思います。

大対 その世界観だったり、バルクオムさんのブランド戦略を最初にお伺いしてもいいですか?

野口 はい。我々のブランド「BULK HOMME」は、メンズスキンケアの基準となるようなプロダクトを作るという意味を込めて「THE BASIC」というコンセプトを軸にしています。

ですが、男性のスキンケア市場って、まだまだ女性と比べるとそのパイが小さいんですね。化粧品の市場全体で2兆円以上の規模があるうち、男性でいうとまだ200億円くらいの市場なんです。

そこでベーシックな存在になることを考えると、既存ブランドからのリプレイスよりも、新たにスキンケアを始める人の「最初の入り口」となって、メンズスキンケア市場全体のパイを広げていきたい、という思いが非常に強くて。

なので、スキンケアに関心を持った男性がネットで検索したり人に聞いたりしたときに、その人の真正面に「BULK HOMME」があるような状態を作りたい、と思っている感じです。

その意味では、ブランド広告を始めたことによって、短期的なCVだけでなく中長期的なLTVを含む数値全体を改善し続けられる構造が作れたかなと思っています。

大対 実際、メンズスキンケアとしてはかなりの市場シェアを持っていらっしゃると思うのですが、一方で、市場のパイが大きい女性向けスキンケア商品に手を広げることもできるじゃないですか。そこをあえてメンズに特化しているのは、なにか理由があるのでしょうか?

野口 それについては、創業当初から「グローバルシェアNo.1のメンズスキンケアブランドになる」を会社のミッションにしていて。

弊社が取り組まない「鉄の掟」のひとつにも、「マルチブランド戦略は取らない」を定めているんです。

▼バルクオム社の「鉄の掟」

・マルチブランド戦略は取らない
・定期購入を除いて、極力ディスカウントしない

というのも、僕が最初にこんなブランドにしたいなと思ったのがエナジードリンクのレッドブルさんだったのですが、基本的にあの「レッドブル」という商品一本で世界に広まり、年に何十億本も売り上げているじゃないですか。

それを見ていると、ワンブランドで市場を突破していくところに「神は宿る」のかなってなんとなく思っているんですよね。なので、今はまだ小さいセグメントではあるのですが、その中でまず圧倒的なポジションを目指していきたいと考えています。

数値化しづらい「ブランドプロモーションの効果」をどう測る?

大対 ありがとうございます。では、そろそろ今回の本題に入っていければと思うのですが…(笑)

野口 はい、どうぞ(笑)

大対 僕たちもWebマーケティングに取り組む中で、今の時代、CTRやCVRなどの数値はなんでも計測できますし、適正なCPAを設定して広告をどんどん回していくことって比較的難しくはないのかなと思っていて。

野口 たしかに、定石みたいなものはありますよね。

大対 はい。ですが、ブランド広告については非常に数値で測りづらいと。例えば、テレビCMの制作に数千万単位のお金がかかるといったときに、ペイするかって正確にはわからないと思うんです。

なので、きっちりした効果検証はできないにしても、御社が見ている成果指標や数値などがあればお伺いしたいなと。

野口 わかりました。まず私の考えとして、ブランド広告の運用には大きく2つの観点があると思っています。

ひとつは、やはり前提として、ブランディングの効果を数値で測ることは難しいと思います。なのでそこは、会社としての意思決定だと思っていて。

弊社の場合、ブランド認知と好感度をとにかく高めていこうという方針が前提にあるので、そのための予算を年間のPLから一部策定しています。

例えば、年間売上のうち20%はブランド広告予算の枠として設けてしまう。その予算の中で、複数のアイデアを出し合って比較し、一番筋の良さそうなものに投資するという考えです。

そしてもうひとつ大事なのが、ブランドプロモーションの責任者が、PLに対する責任も負うということです。

さきほどのエムバペ選手の話でいくと、彼の起用によって結構なお金が出ていったのですが(笑)、それを意思決定した私がたとえば海外の数ヶ国で投資を上回る商談を決めたら、そのコストってもう回収できるじゃないですか。

逆に言えば、ブランドプロモーションの質だけに責任をもつ形だと、あまりワークしないかなと思っていて。しっかりビジネス側にもコミットできる人が、投資判断にGOサインを出す決裁者であるべきかなと。

「ベストな施策を実行したからには、売上予算を達成する」というのは結構大事だと思っているので、その天秤のバランスが取れる人がいないと、かけづらいコストかなとは思いますね。

広告運用コストの10%は「チャレンジ予算」として確保する

大対 すごく勉強になります。今お伺いしたようなブランドプロモーションだけでなく、個人的にはWebマーケティングの領域でも、まだまだハックされていない「挑戦的な施策」はあると思っていて。それに対する投資は、どのように考えているのでしょうか?

野口 それについても、Webマーケティングの予算内で、チャレンジ枠を設けていますね。弊社の場合、広告運用費の10%程度を目安にしています。この枠内であれば、現場の部長クラス決裁でトライできる形です。

大対 チャレンジ枠で取り組んだ施策の中で、実際に成果がでたものってありますか?

野口 はい。大きく2つありまして、ひとつは運用型広告プラットフォームのLINE Ads Platform(以下、LAP)、もうひとつはYouTuber(ユーチューバー)によるPR動画の制作です。

今となってはどちらも目新しくない施策ですが、たとえばLAPの場合、プラットフォームが開放された当時いち早く申請して、初期からごりごり運用を回してハックしていました。

またユーチューバーも同様で、プロダクトを紹介するPR動画を、他社に先駆けて制作していましたね。どちらもチャレンジ枠から始めた施策ですが、今では主力チャネルのひとつとして機能しています。

大対 すばらしいですね。そのチャレンジ施策に取り組む上での判断基準だったり、逆に施策がだめだった場合の停止基準などは定めているのでしょうか。

野口 前提として「他社に先行される前に、自社でプラットフォームを攻略する」という姿勢をすごく大事にしているので、一発もののキャンペーンには全く興味がないですね。

なぜYouTubeやLINEに着目したかというと、プラットフォームとして圧倒的な広告在庫があるので施策を打ち続けやすく、再現性を作りやすいからなんです。

どこのプラットフォームが一番CPAが低いとか、広告審査が通りやすいとかって、結構1年とか半年くらいのスパンで全然変わってくるじゃないですか。

そこに乗り遅れてしまうロスって、すごくもったいないなと。「あの媒体は安いしインプレッション取れるしめっちゃいい」みたいな評判が立っている頃って、もはやピークなので(笑)

基本的には、担当者と私が施策のアイデア出しをして、意見が割れても迷ったらやる。そしてトライしてみた結果、限界までチューニングしてみても全然CPIの水準が合わないのであれば停止しますね。

海外展開におけるプロモーション戦略と、そのハードルとは?

大対 冒頭のエムバペ選手の話に少し戻るのですが、今後、海外展開にも注力されていく中で、その戦略や国内とは違う難しさがあれば教えていただけますか?

野口 現在は中国、韓国、台湾のアジア3ヶ国で展開しているのですが、グローバルNo.1のメンズスキンケアブランドをめざして、今後さらに市場シェアを伸ばしていきたいと考えています。

そのために、まずは海外現地でプロダクトマーケットフィットさせて、サイエンスで数字が伸ばせるところまで考え得る手を尽くすと。今まさに試行錯誤しているフェーズです。

わかりやすい例でいうと、韓国ってGoogleがほぼないようなもので、代わりにNAVERという検索エンジンがあるんですね。ただ「BULK HOMME」と指名検索したときに上位表示させる方法って、実はだれもわかっていないので、SEOの仕組みを解明するところから始めないといけないんです。

他にも、広告媒体の運用なりLPの工夫なり、再現性のある仕組みをつくるため、まずは最初のプロトタイプを完成させることをテーマに動いています。

大対 たしかに、それは日本と全く違う環境ですね…!Google、Yahoo!みたいなところがNAVERだとすると、これだけだとプロモーションのチャネルとして不十分だったりするのかなと思ったりもして。

例えば国内だと、GunosyやSmartNewsといったキュレーションメディアなどもあると。そうした第二のチャネルも見つけていけないのかなと感じたのですが…?

野口 おっしゃる通りですね。国ごとに適したチャネルを見つけていくことは重要だと思っています。一方で「国内から水平移動できるチャネルがないか」という視点でも考えていますね。

例えば、韓国のインスタグラマーの方って、日本人よりもフォロワー数が多かったりするじゃないですか。InstagramやTwitterのようなSNSの海外アカウントを育てていくことで、プロモーションできるのではないか、という議論は積極的にしています。

中長期的なブランドエクイティを考え、着実なアクションを続けていく

大対 国内でも海外でも、やはり市場シェアを広げるための施策を確実に遂行されているんだなと改めて感じたのですが、その上で課題に感じているところはありますか?

野口 そうですね、結局は「習慣を足す」ということの難しさですかね。普段ぱっとシャワーを浴びて、シャンプーとボディーソープだけで済ます男性に、洗顔という習慣をプラスすることってやはり難しい。

もちろん、男性の美意識をあげたり、スキンケアに興味のない人を振り向かせるための施策を打ってはいるのですが、そこはもう本当にじわじわとしか増やせなくて。

はじめの一歩におけるハードルの高さが歯痒いところではありますが、とはいえ確実に広がってきているので、地道な努力を続けていくしかないですね。

大対 そのためには、今後もブランディングへの投資には注力されるのでしょうか。

野口 そうですね。ブランド広告などによって「BULK HOMME」の認知や好感度をより高めていきながら、そのブランドを毀損せずにCVが最大限とれるような施策を、バランスをみてやっていきたいと思っています。

言い換えるなら、最終的に売上シェアにつながらないプロモーション施策は一切やらない。一方で、ただの焼畑のような刈り取り施策も、中長期的なブランドエクイティにならないのでやりません。

どちらが欠けても、我々がめざすグローバルNo.1ブランドにはなれないと思っています。

今後もWebマーケティングを徹底的にハックしながら、まずは国内シェアナンバーワンを取りにいきます。それが実現したら、次は海外。エムバペ選手をグローバルアンバサダーに起用したことで、その動きは加速していますし、海外企業に対するブランドのプレゼンスは確実に上がってきていると感じています。

実際に動きはじめている海外案件を決めきると同時に、各国のWebマーケティングもハックしていきながら、それぞれのチームを自走させていく。

今取り組んでいることを着実にコツコツと広げていくことで、グローバルシェアNo.1をめざしていきたいと思います。

大対 今後の展開もすごく楽しみですね。今日はとても勉強になりました、ありがとうございました!(了)

編集後記

読者がもつ自らの課題や関心ごとを、話を聞きたい人に直接お伺いできたら現場のナレッジシェアがもっと進むのではないか…そんな考えから生まれた本企画。

第2弾は、バルクオム代表取締役CEOの野口さんに回答者となっていただき、読者であるDMMの大対さんから、マーケターとして気になる「ブランド投資の考え方」についてインタビューしていただきました。

ブランド広告への投資をどう判断すればよいのか、予算をどう確保するのか、施策の停止判断をどうすべきのか、といった疑問は、多くのWebマーケターに共通する悩みではないでしょうか。

それに対し、バルクオム野口さんが話していた「会社の方針と意思決定」「ブランドプロモーションの責任者がPLの責任も負う」という2つの観点は、正解のない問いに対するひとつの思考法として、とても参考になるものだと感じました。

実務者の目線から話を深掘っていただいたDMMの大対さん、自社の取り組みやご自身の考えをオープンにお話くださったバルクオムの野口さん、本当にありがとうございました!(了)

※同企画・第1弾の記事は、以下リンクよりご覧ください。

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